お話の日

京とのデートを終えて総也は今一人で、近藤や土方がいる和風の屋敷に帰ってきていた。

本当なら京は総也について行こうとしたが、今日は金曜日で秘密基地に風間ファミリーが集まる大事な日だ。

京は総也と離れるときに心底残念そうに苦渋の決断をするような顔をしていたが、総也が京にちょっとしたアイスクリームのお返しをしたらとても嬉しそうに喜んで総也と別れていった。

ただし去り際に、『次こそは!夫婦の営みを!』と呟いていて総也はそれをしっかり聞いて小さく笑っていた。


「……さてと」


ガラガラと扉を開けて総也が最初に目にしたのは、鬼のような形相をして腕を組んでいる土方円と真っ黒な笑みを浮かべて円の横に並んでいる松永燕の姿だった。

その二人の姿に総也は頬を掻く。

二人ともいつから立っていたのかな?

もしかして学校が終わってから?


「…プッ。二人ともどうしたの?」

「今何で笑った。いや、それよりもよくも学校をサボったな総也!」

「そうやく~ん。おねえさんとおはなしだよ。きょうのことをそうやくんにちゃんときかないといけないからね。だいじょうぶだよそうやくん。やさしくじっくりきくだけだから。あはははははははははは!」


この時総也は本気でヤバイと思ってしまった。

土方さんはまだなんとかなるレベルだからいい。

実際京都にいた時も土方さんの怒りを何事もなく流していたから。

しかし燕ちゃんは本気でヤバイ気がする。

今日のうちになんとかしないと僕の命に関わる。

どうして京ちゃんや燕ちゃんはこんな真っ黒に笑うような女の子になったのかな?

僕には全く分からない。


「待て松永。総也は先に近藤さんと話さなくちゃいけねぇ。京都での事を聞かなきゃいけないからな」

「じゃあ、それが終わったらいいよね円くん。まさかダメなんて言わないよね。総也君も私と話したいに決まってるよ。これは決定事項だからね」

「………わかった。…ったく総也!」

「何ですか土方さん?早く近藤さんのところにって……あいたっ!」


玄関で話している円と燕の二人を放置してさっさと行こうとした総也に円は総也を呼び止めてその頭に思い切り拳骨を落とすと総也は頭を抑えていた。

「とりあえずよく戻ってきた。俺も近藤さんもお前が帰ってくるのは待っていたからな」

「まぁ、僕は近藤さんに強くなるまでは戻らないって言ったからね。あっ、そういえば土方さん」

「なんだ?」

「今日武神の川神百代さんに会いましたよ」


総也は今日の河原での事を円に説明していく。

その説明を聞きながら円は心底めんどくさそうに頭を掻いて、燕は河原での一部始終を見ていたせいか総也の説明を聞きながら笑っていた。


「…百代に目をつけられちまったか」

「多分土方さんに聞いてくると思いますよ。どうするんです?」

「確かに。百代ちゃんは強い人には積極的にアプローチするからね~。これはピンチだよ総也くん」


私も川神学園に来てから毎日のように百代ちゃんと手合わせしているからねーと、燕はクスクス笑いながら総也に伝えると総也はため息を吐く。


「百代に関しては俺の方でなんとかする。ただ総也…」

「何ですか?」

「川神学園には決闘というものがある。もし挑まれたら戦え」

「嫌ですよ。僕は明日から京ちゃんと遊ぶ…」

「みやこちゃんか~。どんなこかおしえてねそうやくん。おねえさん、きになってねむれないや」


しまった。

さっきの燕ちゃんじゃないから普通に口にしたのに、また真っ黒な燕ちゃんが降臨しちゃった。


「これは近藤さんが決めた事だ。それにお前は拒否しないと近藤さんには言ってるからな。だから挑まれたら断らず戦えよ総也」

「……やってくれますね土方さん」


この時鬼の副長土方円に総也は復讐する事を決めた。

土方円が昔書いていた日記をコピーして川神学園にばらまいてやると。


「さて着いたか。とりあえず京都での事は全部話してもらうからな」

「はいはい」


こうして新選組の副長に一番組組長に八番組組長は局
長の元に集まるのだった。

そして―――

沖田総也が語る新選組の過去の負の遺産を知る事になるのである。





風間ファミリーが集まる秘密基地。

ここで一週間に一度皆が集まって一緒にわいわい過ごしており、今日はその日で秘密基地には風間ファミリーが全員集合していた。

そこで今日自分達の前に現れた##NAME2##の事を、一緒にいた京に聞こうと大和が京と話をしていた。

しかし総也についてはファミリー全員が知りたいようで全員が耳を傾けている。


「早速だが教えてくれないか京。今日姉さんと戦った男の事を」

「まぁ、別に隠しておく必要はないし。聞きたい事は答えるよ大和」

「じゃあ最初にアイツの名前からだ」


京は胸に手を当ててまるで大切な事を教えるようにそっと話し始める。


「今日モモ先輩と戦った人は沖田総也。私の恋人で将来を誓い合った仲だよ」

「ブッ!!」


京の言葉にジュースを飲んでいた一子が吹き出しそれは綺麗な放物線を描いてクリスに襲い掛かるが、クリスは近くにある雑誌でそれをガードしてホッと息を吐く。

ただしその雑誌が――


「ぎゃああああ!俺様が買ったグラビア雑誌がぁぁぁぁぁ!!」


ガクトがなけなしのお小遣いで買ったものらしく、ガクトは血の涙を流しながら膝をついていた。


「待て京。その言い方だと昔からの知り合いに聞こえるんだが…。もしそうならいつから知り合っていた?少なくとも俺達はアイツと会った事は…」

「総也は私がこの川神で一番最初に仲良くなった人。覚えてる大和?私が昔小学生の時にいじめられていた事…」

「それは…」


大和の顔が一瞬歪む。

あの京のいじめの時、自分はそれを黙認して見てみぬふりをしていた。

それがいつしか我慢できなくなって、先輩である土方さんに相談して京を助けようと自分は動いた。

同級生が京をいじめている姿を見てあの瞬間そいつらを殴り飛ばしたのは今でも覚えている。


「あのときね、実は総也もいたの」

「えっ…」

「ほら土方先輩をどさくさに紛れて蹴ってた男の子がいたよね。あれが総也だよ」

「……あぁ」


そういえばあの時土方先輩の近くに一人男の子がいたな。

いじめっ子を蹴り飛ばして、土方先輩に蹴り入れていつの間にか消えていた男の子が。

もしかしてそれが沖田総也だったのか。


「次は私だ。いいな大和」

「姉さんも?」

「あぁ…。いいよな京?」

「はい。モモ先輩」


大和の次に京に聞いてきたのは、今日総也と一瞬だけやり合った百代だった。

あの一瞬で総也が何者か気になったのか、百代はどこか楽し気に笑いながら口を開く。


「あの男の強さはどれぐらいだ。あの一瞬で私なりに考えたが、アイツはまゆまゆや燕よりも強いはずだ」


ここにいる風間ファミリーの黛由紀江は武神である百代を楽しませる一人であり、最近川神学園に転校してきた松永燕もまた退屈な日を刺激してくれる百代の友人だった。

しかし――

今日自分が対峙した男は何かが違う。

あの男は私を相手にしていなかったのだ。

武神である私を。


「総也の実力は私も詳しくは…。ただ土方先輩は総也とは戦いたくないって言ってた」

「やっぱり円に聞くしかないか。あの男は絶対に私を楽しませてくれるに違いないからな。絶対に戦ってやる」


本気で戦う事が最近出来ていなかった百代にとって今日自分の前に現れた総也は百代の胸をワクワクさせていた。

百代はうずうずと楽しそうに笑い大和はそれがどことなく複雑なのか顔を歪ませてしまう。


「それにしても面白いやつだよなー!なぁ、京!アイツ川神学園に来るんだよな!」

「本当なら今日からだったけど総也は、私との時間が大切って言ってくれて学校を……ぽっ」


風間翔一の言葉に答えてから頬を赤く染める京は、くねくねと体を揺らして妄想の世界に旅立ってしまう。

まだまだ聞きたい事がある大和だが、ふと一人だけ顔を俯かせている人物に気付いてどうしたのかと声を掛けた。


「どうしたんだまゆっち。何か気になる事でも…」

「……ふぇ!?ちっ、違うんですよ大和さん!ただ私は沖田さんがあの場にいた事に驚いたとか、土方先輩が仰ってた人が沖田さんだとは知らなくって!」

「待てまゆっち!何かいろいろと口にしてるぞ。あの男があの場にいた?土方先輩が言ってたって…」

「あわわわ!!どうしましょう松風!私ったらまたやってしまいました」

『諦めろまゆっち。もう言ってしまえ』


相変わらずまゆっちは早口だったが、それでも聞き逃せない単語がいくつも出てきた。

まゆっちも沖田の事を知っている。

もしかしてまゆっちは沖田と戦った事がある?

それとも京のように昔会った事があるのか?


「…コホン!あのですね、あの人は近藤さんや土方先輩と同じ新選組の方なんです」

「新選組ってちょっと前に近藤さんが発足した組織だよな。確か総理大臣も公認してるって」

「はい。その新選組の中でも沖田さんの実力はずば抜けています。実際私も一度だけ手合わせした事がありまして…」


そう語りながらまゆっちの顔がどんより沈む。

姉さんが言ってた言葉が本当なら沖田はかなり強い。

おそらくまゆっちは沖田に負けたのだろう。

あのまゆっちでも勝てないってやばすぎる。


「その人が川神学園に来たら私が最初に挑むわ!」

「本気なのワンコ?その人かなり強いって話だけど」

「強い人と戦うのはいい事だもん!お姉さまと同じ場所を目指す私にとってこれは譲れないもの!」


話を聞いて興奮している一子にファミリー達は苦笑していたが、トリップしている京以外にもう一人何か真剣な顔をして考え事をしている人物がいた。


「……クリス?」

「あんな男が近藤さんや土方先輩と同じ新選組だと。あの男が正義の武士だと…」


この時大和はクリスの言葉を聞き流していた。

まさかそれがあんな事になるなんてこの時、大和はもちろんファミリーの誰一人想像できなかっただろう。

クリスが筋金入りの正義主義で義理や人情に誰よりも熱かった事を。







△▼△▼△▼

「よく帰ってきたな総也」

「お久しぶりです近藤さん。やっと近藤さんの所に戻ってこれましたよ」


近藤がいる和室にやって来た総也は正座をして深々と頭を下げていた。

あの自由奔放で飄々としている総也が唯一尊敬しているのが近藤であり、そんな総也の姿に円や燕は内心驚いている。


「それで総也、お前に頼んでいた事だが」

「土方さんに言われてかなり調べましたよ。昔の資料や書物といった過去のものも全て。そして――僕は一人の男に辿り着きました」


近藤の横に座る円に総也はいつの間にか、いつもの総也に戻り報告をしていた。

総也が語る一人の男に円は怪訝な表情を浮かべる。


「総也、そいつの名は?」

「風間千景…。あの男はおそらく僕以上に新選組を知っています」


あの男とは一度しか会わなかったが、それでもハッキリとわかった。

あの男はおそらく強い。

今の僕でも厳しいかもしれない。

それにあの男は、『また俺の前に現れたか。忌々しい新選組が』と口にしていた。

あの言い方は新選組の事を知らなければ言えない。

けど僕達新選組はつい最近発足した組織だ。

そう考えたらあの男は昔の新選組を言ったのではないか。

しかしどこでその事を。


「それで総也君はその人と会ってどうしたの?」

「戦おうと思ったんだけどね。風間千景はいずれとしか言わなかったから。それと…」


総也はそう言いながらポケットから、一本の小さな瓶を取り出してそれを三人が見えるように床に置いた。


「これは?」


赤い液体が入って不気味な雰囲気を漂わす瓶を見ながら円は目を細める。

この瓶から感じる不穏な感覚は何だ?

俺はこれを初めて見るのに何故これが危険なものだと分かる。


「これは風間千景からもらった新選組の負の遺産です」

「これが負の遺産だと…」

「はい。風間千景が言うには新選組はこれを使って紛い物になっていたそうです」

「紛い物とはいったい…」


近藤は総也の言葉に頭を悩ませる。

まだ総也が京都にいた時に新選組の負の遺産の事を聞いていたが、それがまさかこの世に残っていてこの液体が負の遺産とは想像出来ないのだ。

紛い物とは何なのだ、と近藤が首を傾げる中で総也はその液体の名前を口にする。


「この負の遺産の名前は『変若水(おちみず)』です」


新選組のいた過去の時代からかなりの年月を過ぎて、今ここに再び恐ろしいものが表舞台に現れた。



真剣で武士に恋しなさい!
第四話
END
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