桜舞う刻

満開の桜が咲き誇る学園『天神館』。

西の川神学園とも言われているこの学園に通う青年、沖田総也は桜の木に寄り掛かりみたらし団子を口にしながら寛いでいた。

本人にこの時間は安らぎでありみたらし団子を食べる姿はかなり楽しそうだったりする。


(いつ見ても総也君のあれは絵になるよねー。なんか仕草とかもサマになってる)


そんな総也の姿を少し離れた場所で見ていた女性はその光景を見て一人小さく頷いていた。

あの桜の木は総也のお気に入りスポットであり、春夏秋冬いつも彼はあそこで寛いでいた。

桜と総也というセットはこの天神館でも有名で、天神館の生徒の中には写真まで撮っている人達がいるほど総也と桜の木は人気なのだ。


「…っと、早く行かないと」


もう少しだけ見ていたかった女性だったが、ハッとした表情になり自分が総也に用がある事を思い出してその足を総也の方に進めた。


「おーい!総也くーーん!」


手を振り元気な声を上げ笑顔で走る女性に声を掛けられた総也は顔をそちらに向けて首を傾げて口を開く。


「どうかした燕ちゃん?」


燕の神経を狂わせるような甘い声と優しげな雰囲気を持つ総也に燕は笑顔のまま総也の隣に座り、総也が食べていたみたらし団子をひょいと手に持ちパクりと一口口にした。


「今日の団子はみたらしかー」

「今日はそれがオススメだったからね。あとそのまま動かないでね」

「んっ?」


首を傾げ燕はキョトンとした表情をするが、総也は燕の口元に指を動かし燕の口元に付着したみたらしを拭う。


「総也君、そういうのは言ってくれると嬉しいかな」

「アハハ。燕ちゃんの事だからこっちの方が好きかと思ってね」


クスクス笑う総也に燕はため息を吐くが内心ではドキドキしていたりする。

総也とは付き合いが長くこんな事は少なくはない。

ハッキリ言えば一日一回総也の行動にドキッとしていた。


「ところでどうしたの?」


ひとしきり笑った総也は燕の顔を見つめ問い掛ける。

綺麗な黄緑色の瞳に見つめられ燕の頬が若干赤く染まるが、燕はコホンッ!と咳をして答えた。


「鍋島学長から聞いたよ。総也君、今回の東西交流戦が終わったら川神学園に行っちゃうって」

「流石燕ちゃん。情報が早いね」


口笛を吹き楽しそうに笑う総也に対し燕はどこか不機嫌な表情をしていた。

燕としてはどうして教えてくれなかったのかと目が語っており、総也はその目に苦笑してしまう。

燕としてはこの天神館で誰よりも総也と仲が良く、西方十勇士のメンバーより総也の事を理解していると自覚しているほどだ。


「もしかしてあっち絡み?」

「まぁね。近藤さんからも言われてたし今回がいい機会だと思ったから。燕ちゃんに話さなかったのは悪かったと思ってるよ。でもね燕ちゃん」

「なに?」

「僕が燕ちゃんを残して川神学園に行くと思う?」

「……っ!」


本当にこの男は無自覚で爆弾を投下している。

実のところ燕もとある事情で川神学園に通うことになるのだが学長である鍋島に、


『あ~松永』

『はい?』

『総也に言っとけ。勝手に編入手続きすんなって』

『へっ?どういう意味ですか?』


鍋島から伝えられた総也の川神学園編入と松永燕の川神学園編入。

本人の許可なくやったのかと思った燕だが、総也は燕の親である久信に許可をもらっていたらしく燕の知らぬ間にやったようだ。

それを知り燕はどうしようもない気持ちに襲われたりする。


「総也君の行動にお姉さんはハラハラドキドキだよ」

「楽しくていいでしょ。それに忘れたの燕ちゃん?」


総也はゆっくり立ち上がり数歩だけ前に進んで燕に背を向けた状態で舞い散る桜を見つめつつ口を開いた。


「僕は新選組一番組組長沖田総也だよ。燕ちゃんだって同じ新選組なんだから僕と行こうよ」


振り返りニッコリ笑う総也に燕は小さく笑い立ち上がり、総也の手を取りやれやれと呟きそれでも笑みを崩さないまま総也の言葉に返す。


「仕方ないね。総也君一人じゃ不安だからついていくよ。お姉さんに任せなさい」


そう口にして総也の手を取ったまま歩き出す燕。

これが全ての始まりでもある。

沖田総也の―――

そして新選組の―――


真剣で武士に恋しなさい
一話END
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