ディオキアで過ごした日

黒海沿岸都市【ディオキア】のザフト軍基地にミネルバがつく。

その時何故かザフト軍基地が盛り上がっていて、ミネルバクルーは周りのお祭り騒ぎに驚いていた。


「なんとも、騒がしい事で」


クリスは休憩室の壁に寄りかかりながら呟いていると休憩室のモニターにとある光景が映る。

そこには上空からピンク色のザクが降りてきて愉快な音楽が流れ始めた。


「…あれがミーア・キャンベルか」

ラクスの代役として活躍している少女。

ラクスと違いその雰囲気は活発で太陽のような明るさを見せていた。

ラクスが月なら彼女は太陽なんだろうな。

そしてプラントの人やザフト軍が求めているのは今のラクスだ。


「やっぱり同じには見えないよな」


クリスが休憩室から出ていこうとした時不意にアスランに肩を掴まれた。


「クリス……」

「別に彼女を否定するつもりはないさ。プラントの為なら仕方ないしな。ただ………」


たとえもう一人のラクスが現れたとしても俺にとってのラクス・クラインは一人しかいない。


『…クリス』


月のように儚い雰囲気で優しく微笑む彼女。

俺が大切なのは彼女だけだ。


「彼女は彼女、ラクスはラクスだ。だから彼女のやっている事を否定するつもりはないさ」

「………お前はすぐに割り切れて羨ましいよ」


俺は戸惑ったのになと、アスランは苦笑するとクリスは手を振りながら休憩室から去っていった。



△▼△▼△▼

「ギル、これも計算の内か」


クリスはライブを少し離れた場所で溜め息を吐きながら目にしていた。


「会食か…」


今のクリスはギルに会いたくなかった。

ナツメの件もだがミーア・キャンベルの件も実際に知らなかった。

ギルは俺とラクスの事を知っていたはずなのに。

だからこそ会ってしまったら問い詰めるだろう。

そしてギルはちゃんと答えてはくれない。

そう思うと会食には行きたくないが、クリスはフェイスという立場により出席するしかなかった。

クリスはため息を吐きながらチラリと視線を変えると、金網越しにカメラを構えている一人のカメラマンに気づいた。


「…まさかね」


一応確認のためにクリスはカメラマンに近づいた。





「予想通りか…」


カメラマンは声に気づいてそちらに視線を向けた。


「クリス・アルフィードじゃない!!生きていたのね」


「久しぶりだな、ミリアリア。ヤキンの戦い以来か。ディアッカから聞いたが別れたんだって?」


クリスの言葉にミリアリアの眉がピクリと反応した。


「本人が言ったの?」


「…はい」


ミリアリアの気迫にクリスは強く頷いた。

恐るべし…ミリアリア。

そして許せディアッカ。





二人が暫く話しているとクリスの頭上からバスケットボールが飛んできた。


「スティングのバカ!!何やってんだよ」


車から一人の少年が降りてきてこちらに向かってきた。


「すまん…つい」


スティングと呼ばれた少年は笑っていた。



「君のかい?」


クリスはバスケットボールを拾って少年に渡した。


「あっ、うん」


少年が返事をした時だった、


「クリス!!」


「えっ…」


クリスが視線を向けるとそこにはこちらに向かってくる金髪の少女がいた。


「ステラ!!」


「クリス!!」


ステラは嬉しそうにクリスの名を呼ぶとクリスは笑みを浮かべてステラを見つめていた。



「もしかして…ステラが言ってた人って」


アウルは何かを思い出してクリスを見つめた。


「ステラ!!アウル!!何やってんだ」


スティングが慌てながらこちらに向かってきた。


「スティング!!クリスを見つけたの!」


ステラの言葉にスティングは視線をクリスに向けた。


「貴方がクリスですか?」


「そうですよ、初めましてになるのかな?」


クリスの言葉にスティングは首を傾げた。



「大変そうですね…」



「そう思う?」


スティングの問いにクリスは溜め息まじりで答えた。


「クリスさんは行かなくていいんですか?」


「いいよ別に、それより敬語はやめてくれないか。もう少しフランクに話してくれ」


スティングはクリスの言葉に苦笑して頷いた。


「君達に話したい事があるんだけどいいかな?」


三人は顔を見合わせて頷き合うとクリスは金網を登ってスティング達の方にきた。


「うわっ!!すっげぇぇ~!!」


アウルとステラはなぜか目を輝かせているとスティングは苦笑していた。



「それで、話というのは」


クリスは三人を車に乗せ自分は車に寄りかかっていた。


「ファントムペインは、この後どう動くつもりだ?」


「「!!」」


クリスの言葉に二人は驚き警戒したがクリスは苦笑して両手を上げていた。

今のクリスに戦う意思はない。

ただ話したいだけなのだ。


「警戒しなくていいよ、俺は君達を助けたい側の人間だから」


「僕達を救いたい?」


アウルは首を傾げてクリスに聞き返した。


「エクステンデットは何かを使って戦闘能力を上げてるんだろ?」


クリスの言った事にスティングは頷いた。


「俺は君達みたいな人が戦うのは嫌いなんだ、手を血で染めるのは俺達のような軍人だけで充分だから」


クリスは拳を握り締め真剣な表情で話していく。



「でも…僕達を救うたって何か考えでもあるわけ?」


「今はまだ考えていない。でも結果は必ず出すよ」


クリスはステラの頭を優しく撫でて三人に柔らかな笑みを浮かべながら答える。


「貴方は…クリスはどうしてザフトの軍人なのに俺達にそこまで…」


「命は生きるために存在しているから。その命を散らすのは嫌いだからかな?」

軍人なのにらしくないな俺は。

本当にとことん甘いな。


クリスの答えにスティングは驚いて納得したように目を丸くして、アウルはクリスの一言一言に温もりを感じていステラは笑顔でクリスを見つめていた。


「じゃあ俺は戻るよ。上の人間が煩いし」


クリスは三人に手を振って基地に戻っていくと、三人はクリスの後ろ姿をジッと見ていた。


その眼差しはクリスの希望を信じるかのように。








△▼△▼△▼

一人遅れてホテルに着いたクリスはフェイスのバッチをつけた人物に気づいて声を掛けた。


「ハイネ!!」


「こらクリス!!遅いぞ」


ハイネはクリスにデコピンをして言った。


「オレンジの機体がいたから誰だと思ってたら、オデコのハイネだったなんて」


「オデコは余計だ!!それより来いよ、議長が待ってるぜ」


クリスはハイネに案内されてテラスにやって来るとそこにはクリス以外のメンバーが全員いた。


「議長!!特務隊のクリス・アルフィードを連れてきました」


「ハイネ、ご苦労だったね」


ハイネはさがって議長に敬礼した。


「久し振りだねクリス。君の活躍は私の耳にも届いているよ」


握手を求めるギルにクリスはため息を吐きつつもその手を握った。


「フェイスとしてやったことです」


そう言ってクリスは椅子に座る。

あくまでも事務的でいつもの柔らかな雰囲気を見せなかったクリスにミネルバクルーば首を傾げていたが、ギルバートだけはどこか楽しげに笑みを浮かべていた。





そして議長が話してくれた事一一一


戦争の本当の意味一一一


本当に自分達が戦うべき相手一一一


戦争の裏にいる組織一一一


『ロゴス』

クリスはその単語に聞き覚えがあったが一切口を開く事もなく何も言わなかった。



「それよりクリスにアスラン、君達に聞きたい事があるのだがいいかな?」


「…なんでしょう議長?」










「キミ達はAAの行方について何か知らないかな?」


デュランダルの言葉にシンやルナマリア達は驚いていた。


「何故その事をこの場で聞くんですか議長?」


俺やアスランしかいない時に聞くなら気にはならなかった。

だが今ここにはシンたちがいる。

それなのに何故一一一


「何、オーブの代表がAAとフリーダムに連れて行かれたと報告があってね。キミたち二人がかつてあの船と共に戦っていた事は私や一部の者達は知っている。だからこそ聞いたのだよ」


だとしてもギル。

この場で聞くことではないはずだ。

現にシンやルナマリアは目を丸くしている。


「AAとフリーダムがどこに姿を消したか知りません。ただ………動かなければならない状況になった可能性はあるかもしれませんね」


もしかしたらの可能性が浮かんでしまう。

今ディオキアにはミーア・キャンベルがいる。

ラクスの代わりでもある偽のラクス。

彼女が表舞台に現れたという事はもしかしたらラクスが狙われたかもしれないという可能性がある。



「可能性というのは?」


「…例えば誰かの命が狙われたとか」


頼むギル。

俺を助けてくれたアナタを疑いたくない。

だから教えてくれ。

自分は関係ないと。

何も知らないと言ってくれ。


「………成程。もしそうだとしたら確かに動くしかないか。しかし、そうなると少し調べてみるべきかな?アスランにクリス、いきなり変な質問をしてしまってすまなかったね」

「いえっ!!私もAAの行方は気になっていましたから」


アスランはチラチラとクリスを見ながら言ったが、クリスは椅子から立ち上がりデュランダルを見て口を開く。


「後で貴方に話があります、いいですか?」


「あぁ……構わんよ」


クリスは一応敬礼してテラスから去っていくと残されたクルー達は驚いて議長は微かに笑っていた。







△▼△▼△▼


「それで、話しとはなんだね?」


辺りが暗くなった頃にクリスと議長は先程のテラスで話していた。


「議長はナツメ・アルフィードという名を知っていますか?」


ナツメの名が出た瞬間に、ギルバートが一瞬驚いたがすぐに笑った。


「確かキミの姉君だったかな?しかしヤキンの時に戦死したとキミが言ったと思うが?」


何でそんな嘘をつくんだギル。


「じゃあ二つ目です」











「ラクスの行方を知ってどうするつもりですか?」


今までの柔らかな雰囲気から一気に変わってどこか鋭さを見せクリスはギルに尋ねる。


「彼女の力を借りたいだけだよ、他に理由はない」


「ラクスがギルに協力したらミーアはどうするつもりです?」


「その時に考えるさ」


ギルバートは笑いながら答えたがクリスは鋭い目つきでギルバートを見つめていた。


「クリス、君とラクス・クラインの関係は私も知っている。君が彼女の代役を見るのが嫌かもしれないが、それも仕方のないことだ」

「何故教えてくれなかったんですか?彼女の存在を教えてくださっても」

「キミにとってのラクス・クラインはミーア・キャンベルではないだろう?だから不必要だと思ったのだよ」


あくまでも笑みを浮かべて答えるギルバートに対しクリスは目を丸くしていた。

何を言ってるんだギル?

ラクスはラクスで彼女は彼女だ。

彼女がラクス・クラインの代役として動こうと俺は目をつむるつもりだった。

なのに何故そんな冷たく考えるんだ。


クリスは戸惑いながらも最後に一つ質問を聞いた。


「レイは救えないんですか?」


「レイの事を心配するなんて何を考えているんだい?」


レイの名に反応したギルバートは先程の笑みから真剣な表情に変わる。


「レイも貴方にとって駒なんですか?」


「そうだと言ったらどうするね?」


「レイをあの男から、そして貴方から救います」


そう言ってクリスはテラスから去っていくとテラスに残ったギルバートは一言呟いた。


「君の力では何も救えないのだよ…クリス・アルフィード」



そんな呟きをハイネが聞いていたとはデュランダルは気付いていなかった。





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