インド洋の戦い
―ザフト軍・カーペンタリア基地―
買い物袋と飲料水を持ってミネルバに戻ろうとしたシンは上空から紅いMSがミネルバに着艦するのに気付いた。
「ん?あれは…」
MAはMS形態になってミネルバに入っていく姿を目にしてシンはすぐにミネルバに向かって走り出した。
「ねぇさっきの!あっ…あんた!」
ヴィーノへと駆け寄ったシンはパイロットスーツを身に付けているアスランに驚いた。
「何だよ、これは一体。どういうことだ!!」
そんなシンを見てルナマリアが慌てて口を開いて言った。
「ちょっと!口のききかたに気をつけなさい。彼はクリスと同じフェイスよ!」
「…えぇ!?」
フェイスという言葉と胸のバッチを見てシンは思わずアスランに聞いた。
「なんで…あんたが!?」
「シン!!」
ルナマリアが小声でシンを注意するがとりあえずシンは手に持っていた荷物をメイリンに押し付けて軍服を正してアスランに敬礼するとそれを見たアスランは小さく笑って同じように敬礼する。
「艦長は…艦橋ですか?」
アスランの疑問に整備士の一人が答えるとメイリンが案内すると立候補したがすかさずルナマリアがアスランの前に出た。
「確認して、ご案内します」
「んっ?…あぁ…ありがとう」
そう言ってアスランはルナマリアの後についていった。
「ザフトに戻ったんですか?」
シンの言葉にアスランは振り返って答えた。
「…そういうことになるな」
「何でです?」
アスランはその問いに何も言わずその場を去っていった。
エレベーターの中でアスランはルナマリアに色々と質問されている。
「あっ…いや…」
そして…ルナマリアはアスランがオーブに行ったことを聞かされて目を見開き驚いた。
「オーブへ行かれたんですか!?」
「…あぁ」
「大丈夫でしたか?あの国…今はもう…」
アスランはその言葉に溜め息をついて口を開いた。
「スクランブルかけられたよ」
「…何だかシンが怒るのわかる気がします。目茶苦茶ですよあの国。オーブ出るとき私達がどんな目に遭ったと思います?地球軍の艦隊に待ち伏せされてほんと死ぬとこだったわ!!シンとクリスが頑張ってくれなきゃ、間違いなく沈んでました。ミネルバ」
「…けど…カガリがそんな!」
アスランは信じられなかった。
自分達を守ってくれたミネルバを罠にはめるようなことをするわけがないと。
しかし…ルナマリアの言葉と様子からして事実だった。
「そういえばクリスはどこに?」
アスランが話題を変えるようにルナマリアに聞いた。
「クリスだったら艦長の所ですよ…(あれ以来クリスとちゃんと話していないかも)」
ルナマリアはクリスの名を聞いた途端に顔を歪ませて答えるが、その表情にアスランは気付かずにルナマリアを見つめた。
「あなたをフェイスに戻しザフトの最新機の機体を与えてこの艦に寄越し私までフェイスに…?」
タリアが話している間ずっとアスランを睨んでいるアーサー。
「一体なにを考えているのかしらね?議長は………それにあなたも」
「申し訳ありません」
「なんで謝る?」
謝るアスランにクリスがツッコむ。
「別に謝ることじゃないけど…」
タリアも苦笑しながら口を開いた。
「それでこの命令内容は、あなた知ってる?」
「いえっ!自分はなにも聞かされていません」
タリアはその書類をクリスに渡して読ませた。
「ミネルバは出撃可能次第、ジブラルタルに向かい現在スエズ攻略をおこなっている中流軍の支援」
「スエズの中流軍支援ですか……我々が!?」
信じられないとアーサーが驚きながらも口を開く。
「確かそこはユーラシア西側で一番ゴタゴタしてる所でしたっけ?」
クリスがタリアに聞くとタリアは小さく頷いた。
「とりあえず命令だからしょうがないわね」
「あの…艦長はオーブの事を」
アスランが顔を俯かせて落ち着きのない表情でタリアに聞いた。
「代表の事ね…」
アスランはその言葉に拳を握り締めて顔を歪ませた。
「オーブは隠したがっているけど、代表を誘拐したのはAAとフリーダムだそうよ」
「えっ…キラ(何故キラが…)」
答えの分からないままアスランはそのまま顔をこわばらせながら部屋を出ていった。
「アスラン、結局ザフトに戻ってきたんだな」
「…あぁ」
クリスの問い掛けにアスランは少し間をあけて答える。
「まぁ、アスランが決めた事だから俺は追求しないけどカガリは大丈夫だと思う?」
「あぁ心配しなくても…キラやラクスがいるから大丈夫だよ」
アスランの表情は先程よりも柔らんでいる。
そして二人はそのまま格納庫に向かった。
格納庫につくとセイバーの前にはルナマリアがいた。
アスランは気づいたのか気づかなかったのかは謎だったが、黙って素通りするとルナマリアに捕まって二人でセイバーのコックピットに向かっていくと、クリスは二人の様子を苦笑しながら眺めていたが頭の中ではAAの事を考えていた。
AAが動いたということはラクスの身にも何かが起こった可能性がある。
キラがいるなら大丈夫だと思うが一一一
「……ラクス」
そんな考えを頭に浮かばせながらもクリスは自分の機体に向かっていった。
カーペンタリアを出たミネルバはジブラルタルに向かっていた。
すると一一一
『コンディションレッド発令!!パイロットは搭乗機で待機せよ』
「早いな。このタイミングでくるなんて」
「クリス…」
アスランとクリスはパイロットスーツに着替えて搭乗機に向かった。
『クリス』
「タリアさんどうしました?通信を入れるなんて」
『発進後の指揮をお願いできないかしら?』
タリアの頼みをクリスは暫く考えて答えた。
「俺なんかよりアスランの方が」
そう答えてアスランに通信を繋ごうとしたが先に通信が入ってきた。
『グラディス艦長の言う通りだぞクリス』
「けど…実戦経験ならアスランの方が」
クリスが反論するが、
『俺に従ってくれない奴が約一名いるんだしクリスがやってくれないか?』
「……わかった。じゃあ俺とシンとアスランで仕掛ける。ルナマリアとレイは待機でいいですか?」
『…了解、皆にもそう伝えておくわ』
そう言ってタリアは通信を切り、クリスは発進前にシンに通信を入れる。
「シン、発進後の指揮は俺が執る事になったがいいな?」
『クリスだったら構わないぜ。あのアスラン・ザラより信頼できるし』
シンはとことんアスランの事が苦手なんだな。
「発進後はミネルバからあんまり離れるなよ」
『…OK!!』
そう言ってシンとの通信を切ると同時にメイリンから発進準備の通信が入ってくると、シンとアスランが発進した後にクリスも続いて発進する。
「クリス・アルフィード、スピリット行きます!!」
スピリットの目の前には大量のウィンダムが飛んでおり、その他にも紫色のウィンダムとカオスもいるようだがそこにアビスやガイアはいない。
カオスはアスランの乗るセイバーにビームライフルを放ち先制攻撃をするとセイバーはそのままカオスと戦闘を始めてシンは紫色のウィンダムと交戦を始めていた。
スピリットは自分の方に向かってくる大量のウィンダムをサーベルで切り裂いていた。
「時間を掛けるわけにはいかない…(嫌な予感がする)」
クリスはペダルを踏んでフルスピードでウィンダムの大群に向かっていくと、ウィンダムの動きを遥かに越えた動きでスピリットは全てのウィンダムを破壊していく。
「前に出すぎだシン!とりあえずシンのフォローをしないと」
クリスがシンの援護に向かおうとしたがメイリンから通信が入ってきて動きを止めた。
「どうした?」
『敵の母艦と思われる艦から未確認の機体がそっちに向かっているわ』
「…ウィンダムじゃないのか?」
『待って…!今モニターに映すから』
メイリンがモニターに映したMSは、
「スピリット?…いや…違う…似ているのか?」
クリスの乗るスピリットによく似ているMSだった。
「似ているだけかもしれない。先にあいつを倒す」
内心驚きつつもクリスはスピリットに似た敵のMSに向かい、スピリットがサーベルを振り降ろした瞬間にクリスは勝利を確信した。
「…破壊する」
ガキィィィン!!
「なっ…!」
スピリットの攻撃が同じサーベルで受けてとめら、敵のMSは腰に装備していたビームライフルをすぐにスピリットに対し発射させてきた。
「くっ…!」
なんとかビームを避けたが敵のMSは次々とビームを発射していく。
「この敵…一体誰が…」
その時だった一一一
『その疑問に答えてあげましょうか?』
「!!」
突然コックピット内に声が聞こえてきた。
『久しぶり…かな?』
「この声は…まさか…(いや…あり得ない。だって…だって…)」
クリスはその相手の声に聞き覚えがあった。
だがそれは絶対にありえない。
だってあの人は一一一
ラウに撃たれたはずだ。
『久しぶりね…クリス』
「何で…生きているんだ。姉さんが…何で!?」
クリスの瞳が激しく揺れて動揺しているのがハッキリと出ていた。
「嬉しいわね。覚えていてくれてたなんて」
声の主クリスの姉のナツメ・アルフィードだったのだ。
「どうして姉さんがここにいる!?」
「再会した姉に対して酷いのね」
ナツメはニッコリと笑って昔と同じように愛くるしい顔をしている。
「姉さんはあの時ヤキンの戦いでラウに撃たれて俺の目の前で爆破したはずだ!?」
クリスの言う通りだった。
ナツメはヤキンの戦いでラウの乗るMSにコックピットを貫かれて死んだはず。
それなのに今自分の目の前にいるのは紛れもなく姉であるナツメだ。
「残念だけど私は本物よ」
そう答えた瞬間ナツメは両手にサーベルを構えて接近するとクリスもサーベルを抜いて接近した。
「くっ…!」
「びっくりでしょう?私の愛機ファントム・スピリットの力は」
「ファントム…スピリット…」
「そうよ…!クリスの機体のデータを元に私が開発した機体よ」
「なにっ…!?」
クリスは姉の言葉に心が揺れて一瞬の隙をつくってしまうと、ナツメはその一瞬の隙を見逃すはずもなくビームライフルで攻撃してきた。
「駄目じゃない…隙だらけよ」
「はっ…!」
クリスの機体スピリットの右腕が爆発した。
一瞬の隙を敵に攻撃されてしまったクリス一一一
それ程までにナツメの出現がクリスに隙を与えていたのだった。
その瞬間にアスランから、通信が入った…
『クリス!!』
「大丈夫だ。それより今の状況を」
『ルナマリアとレイが水中でアビスと交戦している。俺は地球軍のMSとカオスと交戦中だがシンが前に出すぎている!!』
「アスラン、悪いがシンを頼んだ」
アスランは強く頷いて答えた。
『あぁ!気をつけろよクリス!』
アスランとの通信が切れた瞬間だった、
「クリス!よそみしていると死ぬわよ!」
敵の圧倒的な攻撃を受け止めているスピリットは苦戦している状況だ。
そんなクリスの状況にミネルバクルーは驚いていた。
「クリスが!まずいですよ艦長!」
「分かっているわよ!!でもこちらからでは援護できないのよ」
クリスの実力を知っているクルー達はなにもできない自分達に唇を噛み締めていた。
「どうしたのクリス?貴方の力はそんなものじゃないはずよ…!私に見せてよ!ユニウスセブンの時に見せた力を!」
「なっ…どうしてそれを!?」
クリスは驚いていた。
あの場にいなかった筈のナツメがユニウスセブンの一件を知っていたからだ。
「貴方だって知っている筈よ。その機体の隠された能力を貴方はラクスとの約束とかで封印しているようだけど…」
その瞬間…ナツメのファントム・スピリットの翼が大きく広がった。
「貴方の機体の場合は隠し機能がいくつかあったわよね?」
「…ッ!…ミラージュコロイドの事か…」
「正解よ♪」
ナツメは口笛を吹いてニコニコしている。
「姉さん…ならなぜ、俺と一緒に落下を止めてくれなかったんだ!?姉さんは戦争が一番嫌いだったじゃないか!?」
クリスはナツメに必死に話しかけていたがナツメは黙っていた。
「だから貴方は甘いのよ………クリス!!」
ナツメは声を上げて叫んだ。
「昔と今は違うのよクリス!私は生まれ変わったのよ…あの時からね!(そうラウに撃たれてからずっと…)」
ファントム・スピリットが翼をスピリットに構えるとスピリットも迎え撃つ為に翼を構えた。
「「いけぇぇぇ~!!」」
二人の言葉と同時に翼から高エネルギー砲が発射されるとその攻撃は二人の機体に直撃した。
「姉さん…」
「クリス…」
光が弱まって二人の機体が見えてくるとスピリットは両腕が無くなり装甲が落ちて、ファントム・スピリットは頭部が無くなり装甲が落ちていた。
「楽しかったわよクリス。この勝負は引き分けね」
「待て…姉さん!姉さんには聞きたいことが沢山あるんだ!」
クリスは去りゆくナツメに呼び掛けていた。
ピピピピッピピ!!
すると…コックピット内に電子音が聞こえた。
「ごめんねクリス。これ以上は話せないから、そのデータを見て。会えて嬉しかったよ」
そう言ってナツメは母艦に帰っていくと、クリスは去りゆくナツメの後ろ姿を見つめているだけだった。
△▼△▼△▼
クリスはミネルバに帰還してスピリットから降りた。
「くそっ…!」
クリスは拳を握り締めるとおもいっきりスピリットを殴りつける。
「おいクリス!?」
クリスの行動にクルー達は驚いたがクルー達が驚いたのはそれだけではなかった。
アスランがシンをビンタしたからだ。
理由はシンが命令を無視して勝手な行動をとったからだった。
アスランがもう一度シンをぶとうとしたがクリスがそれを止めた。
「そのぐらいにしておけアスラン」
「クリス、だがお前だって分かっているだろ!戦争はヒーローごっごじゃない事くらい。自分の勝手な判断で行動することは命とりになるんだぞ!!」
アスランは鋭い目つきと真剣な雰囲気でクリスを見つめながら言う。
クリスにはアスランのその瞳の真意を理解する事が出来る。
クリスは一度シンを見てアスランの問いに答えた。
「シンだって今日のことは、反省しているはずだ。俺やアスランがこれ以上言っても意味がない」
そう言ってクリスは格納庫から出ていくとアスランもそれに続くように出ていった。
パイロットスーツから赤服に着替えたクリスとアスランは休憩室で話していた。
「クリス、大丈夫なのか?さっきの戦闘であんなに機体を大破されていたが」
アスランはクリスの愛機であるスピリットがボロボロになっていたのを心配している。
「スピリットは大丈夫だよ。ただ修理が大変みたいだな」
「クリス程の実力をもっていても苦戦するなんて正直驚いたよ」
アスランはクリスを心配ているのか不安気な表情をしている。
「…相手が相手だったから」
「知っているのか?敵のパイロットの正体を」
アスランはクリスが敵のパイロットを知っているような言い方に驚いて聞き返した。
「今はまだ話せない。でも時が来たら必ず話すから…待っててくれ」
アスランはクリスの言葉を信じると言って休憩室を去っていくと、休憩室に残ったクリスは首に架けていた指輪を拳で握り締めていた。
「ラクス…キミの声が聞きたいよ」
そう呟いてクリスもまた休憩室から去っていった。
――
~AA内~
「クリス…?」
まるでクリスの声が聞こえてきたかのようにラクスは展望台で景色を見ながら呟いた。
「貴方の心がいつでも安らげますように…」
祈るようにラクスは手を合わせて目を閉じる事にした。
買い物袋と飲料水を持ってミネルバに戻ろうとしたシンは上空から紅いMSがミネルバに着艦するのに気付いた。
「ん?あれは…」
MAはMS形態になってミネルバに入っていく姿を目にしてシンはすぐにミネルバに向かって走り出した。
「ねぇさっきの!あっ…あんた!」
ヴィーノへと駆け寄ったシンはパイロットスーツを身に付けているアスランに驚いた。
「何だよ、これは一体。どういうことだ!!」
そんなシンを見てルナマリアが慌てて口を開いて言った。
「ちょっと!口のききかたに気をつけなさい。彼はクリスと同じフェイスよ!」
「…えぇ!?」
フェイスという言葉と胸のバッチを見てシンは思わずアスランに聞いた。
「なんで…あんたが!?」
「シン!!」
ルナマリアが小声でシンを注意するがとりあえずシンは手に持っていた荷物をメイリンに押し付けて軍服を正してアスランに敬礼するとそれを見たアスランは小さく笑って同じように敬礼する。
「艦長は…艦橋ですか?」
アスランの疑問に整備士の一人が答えるとメイリンが案内すると立候補したがすかさずルナマリアがアスランの前に出た。
「確認して、ご案内します」
「んっ?…あぁ…ありがとう」
そう言ってアスランはルナマリアの後についていった。
「ザフトに戻ったんですか?」
シンの言葉にアスランは振り返って答えた。
「…そういうことになるな」
「何でです?」
アスランはその問いに何も言わずその場を去っていった。
エレベーターの中でアスランはルナマリアに色々と質問されている。
「あっ…いや…」
そして…ルナマリアはアスランがオーブに行ったことを聞かされて目を見開き驚いた。
「オーブへ行かれたんですか!?」
「…あぁ」
「大丈夫でしたか?あの国…今はもう…」
アスランはその言葉に溜め息をついて口を開いた。
「スクランブルかけられたよ」
「…何だかシンが怒るのわかる気がします。目茶苦茶ですよあの国。オーブ出るとき私達がどんな目に遭ったと思います?地球軍の艦隊に待ち伏せされてほんと死ぬとこだったわ!!シンとクリスが頑張ってくれなきゃ、間違いなく沈んでました。ミネルバ」
「…けど…カガリがそんな!」
アスランは信じられなかった。
自分達を守ってくれたミネルバを罠にはめるようなことをするわけがないと。
しかし…ルナマリアの言葉と様子からして事実だった。
「そういえばクリスはどこに?」
アスランが話題を変えるようにルナマリアに聞いた。
「クリスだったら艦長の所ですよ…(あれ以来クリスとちゃんと話していないかも)」
ルナマリアはクリスの名を聞いた途端に顔を歪ませて答えるが、その表情にアスランは気付かずにルナマリアを見つめた。
「あなたをフェイスに戻しザフトの最新機の機体を与えてこの艦に寄越し私までフェイスに…?」
タリアが話している間ずっとアスランを睨んでいるアーサー。
「一体なにを考えているのかしらね?議長は………それにあなたも」
「申し訳ありません」
「なんで謝る?」
謝るアスランにクリスがツッコむ。
「別に謝ることじゃないけど…」
タリアも苦笑しながら口を開いた。
「それでこの命令内容は、あなた知ってる?」
「いえっ!自分はなにも聞かされていません」
タリアはその書類をクリスに渡して読ませた。
「ミネルバは出撃可能次第、ジブラルタルに向かい現在スエズ攻略をおこなっている中流軍の支援」
「スエズの中流軍支援ですか……我々が!?」
信じられないとアーサーが驚きながらも口を開く。
「確かそこはユーラシア西側で一番ゴタゴタしてる所でしたっけ?」
クリスがタリアに聞くとタリアは小さく頷いた。
「とりあえず命令だからしょうがないわね」
「あの…艦長はオーブの事を」
アスランが顔を俯かせて落ち着きのない表情でタリアに聞いた。
「代表の事ね…」
アスランはその言葉に拳を握り締めて顔を歪ませた。
「オーブは隠したがっているけど、代表を誘拐したのはAAとフリーダムだそうよ」
「えっ…キラ(何故キラが…)」
答えの分からないままアスランはそのまま顔をこわばらせながら部屋を出ていった。
「アスラン、結局ザフトに戻ってきたんだな」
「…あぁ」
クリスの問い掛けにアスランは少し間をあけて答える。
「まぁ、アスランが決めた事だから俺は追求しないけどカガリは大丈夫だと思う?」
「あぁ心配しなくても…キラやラクスがいるから大丈夫だよ」
アスランの表情は先程よりも柔らんでいる。
そして二人はそのまま格納庫に向かった。
格納庫につくとセイバーの前にはルナマリアがいた。
アスランは気づいたのか気づかなかったのかは謎だったが、黙って素通りするとルナマリアに捕まって二人でセイバーのコックピットに向かっていくと、クリスは二人の様子を苦笑しながら眺めていたが頭の中ではAAの事を考えていた。
AAが動いたということはラクスの身にも何かが起こった可能性がある。
キラがいるなら大丈夫だと思うが一一一
「……ラクス」
そんな考えを頭に浮かばせながらもクリスは自分の機体に向かっていった。
カーペンタリアを出たミネルバはジブラルタルに向かっていた。
すると一一一
『コンディションレッド発令!!パイロットは搭乗機で待機せよ』
「早いな。このタイミングでくるなんて」
「クリス…」
アスランとクリスはパイロットスーツに着替えて搭乗機に向かった。
『クリス』
「タリアさんどうしました?通信を入れるなんて」
『発進後の指揮をお願いできないかしら?』
タリアの頼みをクリスは暫く考えて答えた。
「俺なんかよりアスランの方が」
そう答えてアスランに通信を繋ごうとしたが先に通信が入ってきた。
『グラディス艦長の言う通りだぞクリス』
「けど…実戦経験ならアスランの方が」
クリスが反論するが、
『俺に従ってくれない奴が約一名いるんだしクリスがやってくれないか?』
「……わかった。じゃあ俺とシンとアスランで仕掛ける。ルナマリアとレイは待機でいいですか?」
『…了解、皆にもそう伝えておくわ』
そう言ってタリアは通信を切り、クリスは発進前にシンに通信を入れる。
「シン、発進後の指揮は俺が執る事になったがいいな?」
『クリスだったら構わないぜ。あのアスラン・ザラより信頼できるし』
シンはとことんアスランの事が苦手なんだな。
「発進後はミネルバからあんまり離れるなよ」
『…OK!!』
そう言ってシンとの通信を切ると同時にメイリンから発進準備の通信が入ってくると、シンとアスランが発進した後にクリスも続いて発進する。
「クリス・アルフィード、スピリット行きます!!」
スピリットの目の前には大量のウィンダムが飛んでおり、その他にも紫色のウィンダムとカオスもいるようだがそこにアビスやガイアはいない。
カオスはアスランの乗るセイバーにビームライフルを放ち先制攻撃をするとセイバーはそのままカオスと戦闘を始めてシンは紫色のウィンダムと交戦を始めていた。
スピリットは自分の方に向かってくる大量のウィンダムをサーベルで切り裂いていた。
「時間を掛けるわけにはいかない…(嫌な予感がする)」
クリスはペダルを踏んでフルスピードでウィンダムの大群に向かっていくと、ウィンダムの動きを遥かに越えた動きでスピリットは全てのウィンダムを破壊していく。
「前に出すぎだシン!とりあえずシンのフォローをしないと」
クリスがシンの援護に向かおうとしたがメイリンから通信が入ってきて動きを止めた。
「どうした?」
『敵の母艦と思われる艦から未確認の機体がそっちに向かっているわ』
「…ウィンダムじゃないのか?」
『待って…!今モニターに映すから』
メイリンがモニターに映したMSは、
「スピリット?…いや…違う…似ているのか?」
クリスの乗るスピリットによく似ているMSだった。
「似ているだけかもしれない。先にあいつを倒す」
内心驚きつつもクリスはスピリットに似た敵のMSに向かい、スピリットがサーベルを振り降ろした瞬間にクリスは勝利を確信した。
「…破壊する」
ガキィィィン!!
「なっ…!」
スピリットの攻撃が同じサーベルで受けてとめら、敵のMSは腰に装備していたビームライフルをすぐにスピリットに対し発射させてきた。
「くっ…!」
なんとかビームを避けたが敵のMSは次々とビームを発射していく。
「この敵…一体誰が…」
その時だった一一一
『その疑問に答えてあげましょうか?』
「!!」
突然コックピット内に声が聞こえてきた。
『久しぶり…かな?』
「この声は…まさか…(いや…あり得ない。だって…だって…)」
クリスはその相手の声に聞き覚えがあった。
だがそれは絶対にありえない。
だってあの人は一一一
ラウに撃たれたはずだ。
『久しぶりね…クリス』
「何で…生きているんだ。姉さんが…何で!?」
クリスの瞳が激しく揺れて動揺しているのがハッキリと出ていた。
「嬉しいわね。覚えていてくれてたなんて」
声の主クリスの姉のナツメ・アルフィードだったのだ。
「どうして姉さんがここにいる!?」
「再会した姉に対して酷いのね」
ナツメはニッコリと笑って昔と同じように愛くるしい顔をしている。
「姉さんはあの時ヤキンの戦いでラウに撃たれて俺の目の前で爆破したはずだ!?」
クリスの言う通りだった。
ナツメはヤキンの戦いでラウの乗るMSにコックピットを貫かれて死んだはず。
それなのに今自分の目の前にいるのは紛れもなく姉であるナツメだ。
「残念だけど私は本物よ」
そう答えた瞬間ナツメは両手にサーベルを構えて接近するとクリスもサーベルを抜いて接近した。
「くっ…!」
「びっくりでしょう?私の愛機ファントム・スピリットの力は」
「ファントム…スピリット…」
「そうよ…!クリスの機体のデータを元に私が開発した機体よ」
「なにっ…!?」
クリスは姉の言葉に心が揺れて一瞬の隙をつくってしまうと、ナツメはその一瞬の隙を見逃すはずもなくビームライフルで攻撃してきた。
「駄目じゃない…隙だらけよ」
「はっ…!」
クリスの機体スピリットの右腕が爆発した。
一瞬の隙を敵に攻撃されてしまったクリス一一一
それ程までにナツメの出現がクリスに隙を与えていたのだった。
その瞬間にアスランから、通信が入った…
『クリス!!』
「大丈夫だ。それより今の状況を」
『ルナマリアとレイが水中でアビスと交戦している。俺は地球軍のMSとカオスと交戦中だがシンが前に出すぎている!!』
「アスラン、悪いがシンを頼んだ」
アスランは強く頷いて答えた。
『あぁ!気をつけろよクリス!』
アスランとの通信が切れた瞬間だった、
「クリス!よそみしていると死ぬわよ!」
敵の圧倒的な攻撃を受け止めているスピリットは苦戦している状況だ。
そんなクリスの状況にミネルバクルーは驚いていた。
「クリスが!まずいですよ艦長!」
「分かっているわよ!!でもこちらからでは援護できないのよ」
クリスの実力を知っているクルー達はなにもできない自分達に唇を噛み締めていた。
「どうしたのクリス?貴方の力はそんなものじゃないはずよ…!私に見せてよ!ユニウスセブンの時に見せた力を!」
「なっ…どうしてそれを!?」
クリスは驚いていた。
あの場にいなかった筈のナツメがユニウスセブンの一件を知っていたからだ。
「貴方だって知っている筈よ。その機体の隠された能力を貴方はラクスとの約束とかで封印しているようだけど…」
その瞬間…ナツメのファントム・スピリットの翼が大きく広がった。
「貴方の機体の場合は隠し機能がいくつかあったわよね?」
「…ッ!…ミラージュコロイドの事か…」
「正解よ♪」
ナツメは口笛を吹いてニコニコしている。
「姉さん…ならなぜ、俺と一緒に落下を止めてくれなかったんだ!?姉さんは戦争が一番嫌いだったじゃないか!?」
クリスはナツメに必死に話しかけていたがナツメは黙っていた。
「だから貴方は甘いのよ………クリス!!」
ナツメは声を上げて叫んだ。
「昔と今は違うのよクリス!私は生まれ変わったのよ…あの時からね!(そうラウに撃たれてからずっと…)」
ファントム・スピリットが翼をスピリットに構えるとスピリットも迎え撃つ為に翼を構えた。
「「いけぇぇぇ~!!」」
二人の言葉と同時に翼から高エネルギー砲が発射されるとその攻撃は二人の機体に直撃した。
「姉さん…」
「クリス…」
光が弱まって二人の機体が見えてくるとスピリットは両腕が無くなり装甲が落ちて、ファントム・スピリットは頭部が無くなり装甲が落ちていた。
「楽しかったわよクリス。この勝負は引き分けね」
「待て…姉さん!姉さんには聞きたいことが沢山あるんだ!」
クリスは去りゆくナツメに呼び掛けていた。
ピピピピッピピ!!
すると…コックピット内に電子音が聞こえた。
「ごめんねクリス。これ以上は話せないから、そのデータを見て。会えて嬉しかったよ」
そう言ってナツメは母艦に帰っていくと、クリスは去りゆくナツメの後ろ姿を見つめているだけだった。
△▼△▼△▼
クリスはミネルバに帰還してスピリットから降りた。
「くそっ…!」
クリスは拳を握り締めるとおもいっきりスピリットを殴りつける。
「おいクリス!?」
クリスの行動にクルー達は驚いたがクルー達が驚いたのはそれだけではなかった。
アスランがシンをビンタしたからだ。
理由はシンが命令を無視して勝手な行動をとったからだった。
アスランがもう一度シンをぶとうとしたがクリスがそれを止めた。
「そのぐらいにしておけアスラン」
「クリス、だがお前だって分かっているだろ!戦争はヒーローごっごじゃない事くらい。自分の勝手な判断で行動することは命とりになるんだぞ!!」
アスランは鋭い目つきと真剣な雰囲気でクリスを見つめながら言う。
クリスにはアスランのその瞳の真意を理解する事が出来る。
クリスは一度シンを見てアスランの問いに答えた。
「シンだって今日のことは、反省しているはずだ。俺やアスランがこれ以上言っても意味がない」
そう言ってクリスは格納庫から出ていくとアスランもそれに続くように出ていった。
パイロットスーツから赤服に着替えたクリスとアスランは休憩室で話していた。
「クリス、大丈夫なのか?さっきの戦闘であんなに機体を大破されていたが」
アスランはクリスの愛機であるスピリットがボロボロになっていたのを心配している。
「スピリットは大丈夫だよ。ただ修理が大変みたいだな」
「クリス程の実力をもっていても苦戦するなんて正直驚いたよ」
アスランはクリスを心配ているのか不安気な表情をしている。
「…相手が相手だったから」
「知っているのか?敵のパイロットの正体を」
アスランはクリスが敵のパイロットを知っているような言い方に驚いて聞き返した。
「今はまだ話せない。でも時が来たら必ず話すから…待っててくれ」
アスランはクリスの言葉を信じると言って休憩室を去っていくと、休憩室に残ったクリスは首に架けていた指輪を拳で握り締めていた。
「ラクス…キミの声が聞きたいよ」
そう呟いてクリスもまた休憩室から去っていった。
――
~AA内~
「クリス…?」
まるでクリスの声が聞こえてきたかのようにラクスは展望台で景色を見ながら呟いた。
「貴方の心がいつでも安らげますように…」
祈るようにラクスは手を合わせて目を閉じる事にした。