未来へ

オーブの慰霊碑にアスランやメイリンやルナマリアやステラやシンの姿があった。

スティングやアウルはムウの所にいて今回この場にはいない。

シンは辺りを見回して顔を悲しげに歪めている。

慰霊碑の周りは枯れた花や崩れた崖でそこが慰霊碑とはどうしても思えなかった。


「ずっと…ここ嫌で、でも…ずっと気になってて…」


冷たい潮風が吹き彼らの髪をなびかせシンは悲しげな表情のまま言葉を続けた。


「こんな風じゃなかった。こんなところじゃ…」


過去にこの場所でオーブで家族を失った場面が思い浮かんだシンは胸や目頭が熱くなる。

今回慰霊碑やオーブが荒れたのは俺達ザフトが攻め込んで戦ったからだ。

ジブリールを捕まえるためとはいえザフトのせいでこうなってしまった。

あんなに美しくていい故郷だったのに。

俺とマユや父さん母さんが暮らしていた故郷だったのに。

俺は一一一


「でも…こんなのは…もっと嫌だ…っ!!」

「……シン」


顔を俯かせ身体を震わせるシンにステラはそっと寄り添うとルナマリアもまたシンに寄り添う。

ここには何も無い。

美しく咲いていた花も慰霊碑に眠る人達の為のオブジェすらも。

こんな荒んだ所に家族が眠っている。


家族が愛していた故郷を自分達が壊そうとしていた。

シンの瞳が潤み慰霊碑をジッと見つめると、どこからか微かにだが聞き覚えのある鳴き声が聞こえた。


『トリィ―――!!』

「キラ…」


アスランが振り返って口を開くとメイリン達も振り返りシンもゆっくりと振り返った。

皆が振り返った先にはクリスとラクスにキラとナツメそしてレイがいて五人は急ぎながらも慰霊碑に向かい、クリスとラクスが花束を慰霊碑に供えると皆はそれを静かに見ていた。


「来てたんだ…」


「あぁ」


キラとアスランが軽く会話を交している間シンはキラを見ていた。

この人は誰だろう?

アスランの知り合い?

ナツメがぴったりくっついているからナツメの大切な人?

困惑しているシンの視線に気付いたキラはシンに体を向ける。

今ここに戦場で何度も戦った二人が見つめ合うように対峙した。

「シン、彼がキラだ」

「えっ…!?」

「キラ・ヤマト。フリーダムのパイロットで俺達の大切な仲間だよ」


クリスの言葉にシンとルナマリアは驚愕した。

自分が今まで宿敵にして、何度も倒そうとして、レイが恨んでいた人物がこんな青年だったとは思わなかった。

どう見てもクリスやアスランとは違う。

とても穏やかで優しげな雰囲気なのにこんな人がフリーダムのパイロットで俺と何度も戦っていた?

本当に?

シンが信じられないような眼でキラを見つめていると、レイがシンの方に視線を向けゆっくりと口を開いた。


「シン、クリスの言っている事は本当だ。今お前の目の前にいる人物が、キラ・ヤマトだ。俺が倒そうとした男だ」


レイはそう言いながら視線をシンからクリスとキラに向けどこか穏やかな表情を浮かべる。


「シン、俺はこの二人に感謝している。二人は俺の命の恩人なんだ。二人は俺が少しでも長生きできるように頑張ってくれたんだ」

ギル一一一

ラウ一一一

俺は今もこうして生きています。

クリスとキラ・ヤマトは言ってくれた。

未来を生きていいと。

俺にも幸せになる時間がまだまだ残っていると。

シンはレイの言葉にクリスとキラに視線を向ける。


二人はレイの命の恩人一一一

クリスに至ってはステラだけじゃなくステラの仲間も助けていた。

二人がいなければこの場にレイもステラもいなかったのだ。

それなのに俺は今までこの二人の強さを越えようとし倒そうとし殺そうとしていた。

どこか顔を曇らせるシンにキラは何の躊躇もなく右手を差し出すと、キラから差し出された手にシンが戸惑う。

「ダメかな…?」


キラがシンに尋ねるとシンは真っ直ぐとキラを見つめキラの手をしっかりと握った。


「あ…あの…俺」


シンは今まで自分がキラに対してやった事をどうすればいいか分からず、口ごもっていると、キラが優しくハッキリ口を開く。


「いくら吹き飛ばされても僕らはまた華を植えるよ………きっと」

「……ッ!?」

以前、自分がここで言った言葉。

その言葉が頭の中で蘇る。


「一緒に戦おう…」



その言葉を聞いた瞬間シンはここであった青年がキラだと気付いてシンは再び熱いものが込み上げてきてキラの熱い想いに耐えきれず、瞳からボロボロと涙を流し両手でしっかりとキラの手を握り締めた。


「はい…っ!!」


未来を一緒に作っていく。

俺には一緒に戦ってくれる仲間がいる。

俺はもう迷わない。

俺は大切な人を世界を今度こそ守ってみせる!






そして慰霊碑を背に皆がそれぞれの道を歩き始める。

レイとメイリンの二人が、シンとステラとルナマリアが、キラとナツメとアスランが。


「……アスラン」

「…んっ?どうかしたか?」

「そういうところだよ」


この三人に関しては去り際にこんな会話をしていたようだが、クリスは皆のその後ろ姿を見ながら小さく呟いた。


「皆がそれぞれの道を歩き出した……か」


レイはこれからメイリンが支えてくれるだろう。

シンに関してはステラとルナマリアに振り回されそうだがアイツなら大丈夫だろう。

キラと姉さんはこれからお互いの時間を作っていくに違いない。

キラ、姉さんを頼んだ。

アスランもカガリを支えるために本格的にオーブに入るはずだろう。

クリスは一度慰霊碑を見ると傍にいたラクスを見つめると、ラクスもそれに気づきクリスを見つめる。


「「………」」


お互い口を開く事なく沈黙が続いていたが、


「ラクス」

「…はい」

「俺はラクスにずっと伝えたい事があったんだ」


クリスはそう言いながら微かに頬を赤くさせる。

あの時は言えなかった想い。

ヤキンの時に伝えられなかったラクスに対する想い。

それを今キミに伝える。


「俺はこれからもラクスの傍にいることを誓うよ。どんな事があっても俺はラクスを愛してる」


そう言ってクリスは頬を赤くしたままラクスを抱き締めると、ラクスはクリスの言葉に胸が熱くなって涙が流れだした。


「クリス、私もずっと貴方の傍にいつまでもいますわ。そして私もアナタを愛しています」


お互いの想いを口にするとクリスとラクスはお互いを愛おしそうに見つめ合うとゆっくりと口付けを交した。

今度こそ離れない。

もう誰にも邪魔はさせない。


そして二人はお互いが満足すると慰霊碑を背に歩き出した。


明日に続く道を一一一

そして戦いのない世界を創るために一一一

たとえ長い時間を掛けても一一一





機動戦士ガンダムSEEDDestiny完結

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後書き
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