最後の力

キラとレイ一一一

アスランとシン一一一

この二組の決着がついた頃一一一


クリスはメサイアから少し離れた場所でナツメと戦っていた。

互いに想いと言葉を交しながら。

「姉さん!!もう姉さんも、これ以上自分を追い詰めるな!!」

クルサードのドラグーンがビトゥレイの片脚を破壊した。


「…やってくれるじゃない!!」


ビトゥレイはライフルで応戦するがクルサードはビームシールドで受け止めると、サーベルを抜いてビトゥレイに接近するとクルサードとビトゥレイは互いにシールドでサーベルを受け止めぶつかり合う。


「姉さんは、そうやって自分の本当の気持ちにも嘘をつくのか!!」


私の気持ち――?

私はただ争いのない世界を創ろうとしただけ。

その先に彼とキラと一緒にいられると思ったから。


「私はこの道を間違いだと思わないわ!!だからこれで終りにするのよ!!」


ビトゥレイは二本のブーメランをクルサードに投げそれを回避していたクルサードの先に現れサーベルを抜いてクルサードに切りかかってきた。


「違う!!姉さんのやっている事は間違っている!!ギルが創ろうとしている世界は確かに正しいのかもしれない!!だがギルにとって人とはただの役割、目的のための道具にすぎないんだ!」


そんな事私は最初から知っていたわ。

所詮私もあの人にとって都合の良い人間でしかない。

だけどそれでも私はギルの味方になったのよ!


「たとえ切り捨てられても争いがなくなれば誰もが幸福になれるならいいじゃない!」


本当の私の願いは一つしかなかった。

人々の幸せ?

争いのない世界?

違う!違うのよ。

私の願いは最初から一一一

『……ナツメ』


キラがもう戦わなくていい世界にしたかっただけ。

だからギルに利用され私もギルを利用した。

なのに!どうしてアナタは邪魔するのよクリス!



「もしギルの世界が実現してもそこに幸福なんてありはしない!!ギルの望む世界は俺やキラやラクスや皆の自由を奪う!そこに人の意志はなくなるんだぞ!」



クリスはそう言いながらドラグーンでビトゥレイを追い詰めていた。


「私はもう引き返せないのよ!!私は皆を…………キラを裏切った………キラ……ごめんね!」


ナツメはもう涙が止まらなかった。

ただキラの為に戦っていただけだ。

あのヘリオポリスの時からずっとキラを守るために戦ってきた。

キラに傷ついて欲しくなかったから。

キラに泣いてほしくなかったから。

モニター越しから伝わる声や涙にクリスは顔を歪めた。


泣いている。

あんなに強かった姉さんが。

ただ一人の男の事を想いながら。


「だから私はここで………クリスを撃つ!!」


もう相打ち覚悟でクルサードに迫るビトゥレイにクルサードに乗るクリスは真剣な表情になり、


「………姉さん。キラはずっと姉さんが帰って来る事だけを願っていたんだよ」


クリスはSEEDを発動させクルサードのドラグーンでビトゥレイの周りを囲んだ。


「しまった…!」

「…キラの所へ帰ろう。姉さん」


その瞬間、四方八方からのドラグーン攻撃をビトゥレイはまともに喰らってしまう。


「きゃぁぁぁぁ~!!」


ビトゥレイはレジェンドと同じように殆どの機能を失いそのままメサイアに流されるように消えていった。


戦闘が終わりクルサードがメサイアに向かおうとした時だった、


「いるんでしょう?ラウ」


クリスの声と同時に後ろから一機のMSが現れた。


「気付いていたとは」


やはりキミ相手では隠れきれないか。

キラ・ヤマトやレイやムウ・ラ・フラガには気づかれていなかったのに。


「しかしナツメが負けるとはな。成長したようだなクリス」


ラウの言葉にクリスはゆっくりと口を開いた。


「皆が、ラクスがいてくれたから俺はここまでこれたんです。そして俺の心を強くしてくれた」

「分かりあえる仲間か。いや、愛する者との未来を望んだからかな?」


ラウはそう言ってクルサードにライフルを向けるとクリスは警戒したがラウはライフルを放つことはしなかった。


「クリス、キミは今ここでギルバートを倒してどうするつもりだ?」

「えっ…?」

「例えギルバートを倒しても世界は再び闇になるというのに」


そうかもしれない。

ギルを倒すという事はこの世界が混迷の闇になってしまう事にもなる。

何せギルが目指すデスティニープランを否定する事になるのだから。


「それでも決められた未来より、自分の手で創る事のできる未来の方がいいに決まっている!!」


人の未来を決めるのは運命でも遺伝子でもない!

人は自分自身で未来を掴むことだってできるのだから。




その頃…メサイアにいたデュランダルは兵士に状況を聞いていた。


「レジェンドにデスティニーにビトゥレイにクルエールは!!」

「レジェンドとデスティニーとビトゥレイはシグナルロスト!!クルエールは……クルサードと戦闘中です!!」

「……くっ!」


ギルバートは兵士の言葉に顔を微かに歪めている。

レイとシンとナツメがやられるとは。

ラウ………あとは君が頼りだ。

それにしても一一一

クリス・アルフィード。

利用価値があったのだがな。

私の計画の邪魔をするというならここで!


「全く厄介な存在だな……ラクス・クラインにキラ・ヤマト。まぁ…いい奴らの始末は後だ」


デュランダルはそう言って動き出した。


「発射口の敵を掃討後オーブを撃ってこの戦闘を終わらせる!!全軍に通達!!」


メサイアからの攻撃をすぐにイザークがエターナルに知らせる。

その直後だった直線上に高エネルギーの光線が放たれる。

メサイアから放たれたネオ・ジェネシスによりオーブ艦隊もだが味方のザフト艦隊も焼き払ってしまう。


「クリス、これがギルバートのやり方だ。そしてこの先が望もうとしている世界だよ。キミにはわかるだろう?」


ラウはクルサードにライフルを向けながら聞くと、クリスは発射されているジェネシスの閃光を見ながら真剣な表情で答えた。

「それでも未来は人の手で選べる。ラウだってそうだっただろ?」


未来は誰にだって選べる。

人の数だけ未来があるのだ。

だから決められた未来より自由な未来を俺は選んだんだ。


「…そうだったな」


ラウは笑みを浮かべてそう呟くとハッキリした口調で言った。


「クリス、私についてきたまえ。ギルバートの所に案内してあげよう」

「えっ…!?」

「キミの覚悟を見せてもらう」


本当に強くなったなクリス。

かつては私の右腕として私を支えてくれていたのに今のキミを見てると見てみたくなったよ。

キミの望む未来をね。

だが悔しくもある。

キミを変えたのが私ではなくラクス・クラインという一人の女性だったからね。



クリスとラウがメサイアに向かっている頃一一一



「間に合え!!」


レクイエムが発射されようとしていた。

アスランとムウはレクイエムのシールドを突破し本体に突入すると、ジャスティスとアカツキはレクイエムにありったけの攻撃を喰らわせるとレクイエムは炎を上げて破壊されるのであった。


「バ…バカな…何故!!」


自分の作戦は完璧だった。

それなのに何故レクイエムは破壊された?

こんな事がありえるのか!

デュランダルはレクイエムが破壊された光景を見ながら唖然とするしかなかった。

さらにメサイアに対しミーティアを装備したフリーダムが現れてミーティアの武装を思い切り叩き込みメサイアから爆発が生まれる。

キラは崩れいくメサイアの内部へと突入しキラはフリーダムのコックピットを出て銃を握り締め入っていく。

奥にいるはずの人物の所へ――

メサイアの中に人は殆どいなかった。

おそらく避難したのだろう。

キラは不安を抱いて足を進めて目的の場所に着き目の前のドアがスライドすると、そこが開いて自分の目に入った人物達にキラは目を見開いた。


「ナツメ!!」


そしてそこにはキラの捜していた人物がゆっくりと姿を現しこちらを向いた。


「キミがここへ来るとは正直思っていなかったよ。キラ・ヤマト君…」


デュランダル議長はそう言ってキラに視線を向けるとキラはゆっくりと手に持っていた銃を議長へと向けた。


「なるほど。だがいいのかな、本当にそれで」


低い声でそう言って、デュランダルは横にいたナツメの頭に銃口を向けた。


「…ギル…何を…?」


ナツメはデュランダルの行動に驚いているがデュランダルは冷静な表情でハッキリと言った。


「利用価値がなくなったものはそれで終りなんだよナツメ」

「そっ、そんな…!」


あのギルがクリスだけじゃなく私まで切り捨てたの?

今まで必死に戦っていたのに。

私はなんの為にクリスと戦ったのよ。

デュランダルの言葉にナツメは顔を俯かせて微かに震える。

するとキラの後ろにあったドアが開いて誰かが入ってきた。


「クリス!!」


クリスは入ってくるとデュランダルを見て横にいたナツメを見た。


「そうやってギルは自分の目的のために人の人生をまで奪うつもり?」


クリスはそう言いながらデュランダルに銃口を向けると、デュランダルはナツメとから銃口をクリスに変える。


「新しい世界を創るためだよ。人はそれぞれ己の役目に従って生きればいい。そう運命が定めている」


デュランダルの言葉を聞いてもなおクリスもキラも銃を降ろさない。

役目や役割など決められた未来など選ぶつもりはない。

たとえ運命に決められても従うつもりはない。


「止めたまえ。やっとここまできたんだ。そんな事をしたら、また世界は混迷の闇に逆戻りだ。私の言ってる事は本当だよ」


確かにそうかもしれない。

ここでギルがいなくなればまた新たな戦いが始まるかもしれない。

実際にデスティニープランを支持している人達がいたのも事実ではある。

だとしても俺は俺達は一一一

デュランダルの言葉にクリスはゆっくりと口を開いた。


「そうかもしれない。だけど俺達はそうならない道を選ぶ事だって出来る。それが許される世界なら」

「フン…!だが誰も選ばない。人は忘れ、再び繰り返す。もうこんな事はしないと誰が言えるのだね?」

「…っ!!」

「誰にも言えはしないさ。無論キミ達にも…!彼女にも!!やはり何もわかりはしないのだから…」


確にわからないと思う。

だって選ぶのは人だから。


「でも僕達はそれを知っている!!わかっていける事も変わっていける事も!!」

「!!」


キラの言葉にいつの間にか後ろの影に隠れていたレイが目を丸くして驚いていた。

レイは気づいたのだ。

自分が変われることも。

シンやルナマリア達と歩いていく未来を俺は選んでいいんだ。


「だから明日が欲しいんだ!!どんなに苦しくても、変わらない明日は嫌なんだ!!」


「傲慢だね。さすがは最高のコーディネイター達だ」


そう言いつつ一瞬デュランダルの視線がクリスに向き、いや違うなと誰にも聞こえないように呟く。

その言葉はクリスに届いていなかったのかクリスは真剣な表情で口を開く。


「傲慢なのはギルだ!!俺はただの一人の人間だ!!どこも皆と変わらない。キラも!!姉さんも!!ラクスも!!」


更にクリスの言葉に続くようにキラも口を開いた。

「そうだ!僕達はこの世でたった一人の人間なんだ!!でも、だから貴方を撃たなきゃならない!!それを知っているから」


レイは、ハッと我に返ってキラに銃口を向けると、再びドアが開く音と同時にタリアが三人を見て目を見開く。


「キミ達の言う世界と私の示す世界、皆が望むのはどちらかな?ここで私を撃って、再び混迷する世界をキミ達はどうしようというのだね?」


議長の問いにクリスとキラは力強く銃を握りハッキリと答えた。


「「覚悟はある…!!」」

「俺は…」

「僕は…」

「「戦う!!」」
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