再会と約束

マルキオ導師に別れを告げたクリスはバイクに乗ってミネルバに戻ると、クリスは何かを振り払うかのようにメットを脱いでバイクを格納庫に戻してゆっくりした足取りで自室を目指していく。


「クリス!!休暇はもういいの?」


自室に向かう途中でクリスはルナマリアと鉢合わしてしまう。


「少しだけ休めたから帰ってきた」


「私も休暇ほしかったなー!あっ、クリス!おかえりなさい」


ルナマリアの無邪気な笑顔にクリスは、


「ルナマリア、ちょっとでいいから我が儘を聞いてくれないか」


クリスの顔にはどこか寂しさと切なさがみえていた。


「えっ?いいけど」


クリスはルナマリアに近づいてそっと抱き締めるとルナマリアは驚いて目を丸くして、どうしたのかと口を開こうとしたがクリスの肩は微かに震えている事に気付き心配そうに口を開いた。


「クリス…(何かあったのかしら)」


ルナマリアはクリスの背中に腕を回して抱き締め返していた。










「えー!!クリスとルナが抱き合ってた!?」


クリスとルナマリアの一件を見ていたヨウランがメイリンとヴィーノに話していた。


「本当なのヨウラン?」


メイリンが睨みながらヨウランに言った。


(お姉ちゃんばっかりずるいよ!)

状況を話しているヨウランを見ながらメイリンは苛ついていた。

「成程なぁ。でもクリスってフリーだっけ?」


三人は思い出していたが思い当たる人物がいない。


「じゃあ、ルナが優位って事かな?」


「いや…!ここは艦長ってのもあるかもよ」


(ハァ…バッカみたい)

三人はそんなやり取りをしながら時間を潰していた。







「すまなかったルナマリア」


少しだけだが抱き合っていた二人はゆっくり離れた。


「クリス、一人で抱えこむのだけは止めなさいよ(柄にもなくドキドキしちゃった)」


ルナマリアは頬を赤くしてその場を去っていくとその場に残ったクリスは、


「何やってんだよ俺は!ルナマリアにあんな事を…」


頭を抱えて壁に寄りかかり座り込んだ。

自分が情けなくて一一一

こんなにも弱いなんて一一一

馬鹿みたいだと一一一





△▼△▼△▼


「えっ…?艦長が上陸許可を?」


クリスの自室には私服のルナマリアがいた。


「そうよ!クリスも許可するんだって」


クリスは微かに笑みを浮かべてルナマリアを見るとルナマリアも同じように笑っていた。


「それでわざわざ艦長の所まで行ったのか?」


「えぇ。折角だし一緒に行かない?」


クリスは少し考える。

ルナマリアには俺のわがままをきいてもらったしな。


「OK!!着替えるからちょっと出てな」


ルナマリアが部屋から去りクリスは着替ながら昨日の事を思い出していた。


「寂しいからって甘えちゃいけないのにな」


今のクリスはルナマリアに対する罪悪感で頭が一杯だった。


「今は素直に上陸許可を喜ぶか」


愚痴をこぼしながらクリスは部屋を出ていった。




△▼△▼△▼


「クリス、これなんてどう?」


オーブの街を歩いていた二人は雑貨屋に来ていた。


「それもいいけどこっちはどうだ?」


クリスの手には赤色のクリスタルが握られていた。


「うわぁ…!綺麗じゃない。これにするわ!!」


ルナマリアはそのままレジに向かうとクリスはあるものに気付く。


「………これは」


クリスはもう一つ自分の瞳と同じクリスタルを見つけて同じように買っているとその様子をルナマリアはじっとみていた。








「さすがに疲れたな」


クリスの手には何個も袋がぶらさがっていた。


「男のくせにだらしないわね…」


ルナマリアは苦笑しながらクリスを見ていた。


「もうこんな時間か…」


時計をみるとすでに時間がギリギリだった。


「すまないルナマリア。最後に一人で行きたい場所があるから先に戻っててくれないか」


「私も行きたいな…」


「悪い。あそこには一人で行きたいから」


ルナマリアを説得させてクリスは一人慰霊碑に向かった。






△▼△▼△▼

「ここで多くの人が死んだのか」


先の大戦でオーブでの戦いでクリスは救えない命を思い出して悔しくなっていた。


「シンも家族をここで失った…」


クリスはこれ以上この場所にはいずらくなり去ろうとした。


しかし…ちらりと慰霊碑を見ると誰かがいることに気付いた。


「あれは……」


その人物はクリスに気付いていないがクリスはそこにいるのが誰かすぐに分かった。


その人物は一一一


「キラ…」


かつての戦友…キラ・ヤマトだった。


「気付いてないよな…」


後ろを向いて歩き出した瞬間、


「クリス…!!」


キラに名前を呼ばれクリスはゆっくりとそちらを振り返ると、


「やっぱりクリスなんだね」

声の主であるキラが安心したような表情でクリスを見つめていた。


「…キラ」


互いに沈黙している。


「トリィー!!」


その時キラの肩に止まっていたトリィーがクリスの肩に乗った。


「トリィー!!トリィー!!」


首を傾げてトリィーはクリスの顔を覗いている。


(キラ、俺はお前に会わせる顔はなかったのにな…)

(クリス、僕には分かるよ。今にもこの場を去りたいキミの気持ちが…)


二人は何も言わずその場に沈黙の空気が流れている。


「あれ…クリス?」


すると不意に背後から声が聞こえてクリスが振り向くと、


「シン?」


そこには今にも泣きそうな表情させながら瞳を揺らしているシンがいた。


「クリス、どうしてここに?」

「慰霊碑を見に来ただけだよ」


クリスは柔らかな笑みでシンに告げると、シンは不思議そうな顔をしながらも視線を慰霊碑に向けた。


「慰霊碑…ですか?」


「うん、そうみたい。よくは知らないんだ。僕もここへちゃんとこれたのは初めてだから」


そう口にしながらもキラは慰霊碑へと目線を向けていた。


「…せっかく咲いたのに波を被ったからまた枯れちゃうね」


キラの言葉にシンは顔を少し歪めた。


「誤魔化せないってことかも。いくら綺麗に華が咲いても人はまた吹き飛ばす…」


「キミ…?」


キラは少し驚いてシンを見つめている。

すると…海岸からラクスが歌いながら慰霊碑にやって来てそこにいたキラとシン一一一

そして…クリスの顔を見た瞬間、今にも駆け出しそうな表情を浮かべた。


「すみません…変なこと言って…」


シンはそのまま立ち去りミネルバに戻っていくと、シンが去ってからクリスは慰霊碑の方に歩き出して、キラは目線を慰霊碑に向けラクスはクリスをただ見つめている。


「行かなくていいの?」


クリスの気配に気付いてキラは声を掛けた。


「あぁ、時間はまだあるから」


クリスが苦笑しながら答えるとキラも苦笑して口を開いた。


「ラクス、今ならクリスと話せるよ。言いたい事や話したい事があるでしょ?僕は先に戻ってるから帰りには気をつけて」

「ありがとうございます、キラ」


キラは一度だけ視線をクリスに向けて微かに笑みを浮かべてそのまま慰霊碑から去っていく。


そしてクリスとラクスはお互いに見つめ合い一言も言葉を交さなかったのだがゆっくりとクリスが沈黙をやぶるように口を開く。


「ラクスすまなかった。俺はあの時必ずラクスのところに帰ってくるって言ったのに約束を破ってしまって………」

ラクスに会ったら絶対に謝りたかった。

たとえラクスに嫌われるとわかっていても俺はラクスに言わなければならなかったのだ。

だけどあの時俺は姉さんを失って、さらに自分の手でラウを撃った事で自暴自棄になってしまった。

何も考えれなくてただ逃げたとも言えるな。


ラクスに対し深く頭を下げるクリスをみつめていたラクスがゆっくり喋りだした。


「私はクリスが必ず帰ってくるっておっしゃった時アナタを信じていました。ですが…クリスは帰ってきてくださらなかった。私は信じていましたのに」

「………ラクス」


顔を上げたクリスの視界には大粒の涙を流すラクスがいた。

今のラクスの心はいろんな感情が混ざりぐちゃぐちゃになっていた。

クリスに会えたから。

約束を破って帰ってこなかった時は本当に悲しかった。

それなのに今の自分はそれでもクリスを誰よりも愛しているから。


「ラクス、俺は君との約束を裏切ったわけじゃない。あの時俺はもう何も考えられないほど自暴自棄になっていた。だからあのまま帰るとラクスを傷つけていたかもしれない。だから俺はラクスから逃げてしまったんだ…」

クリスの言っている事に嘘はなかった。

ラクスを愛しているからこそ傷つけたくなかった。

だけど俺は結局ラクスを傷つけてしまったな。


顔を苦しげに歪めるクリスにラクスは涙を流したままクリスを見つめているとクリスは不安気な瞳でラクスを見つめた。


「クリスは今も戦っているんですね?」


「あぁ、俺は今もザフトの軍人でミネルバのパイロットとして戦っている」


ラクスはクリスにゆっくり近付いてそっと優しく抱きついた。


「ラクス…」


ラクスの温もりにクリスは愛おしそうに抱き締め返した。

俺は自分からこの温もりを離した。

もうラクスに触れることも出来ないと思っていたのにこうして俺はラクスを抱きしめている。

ただそれだけで曇りもモヤモヤも消えていく。


「…クリス」

「ラクス…」

二人は強く抱き締め合って互いの温もりを確かめ合っている。


クリス一一一

私にはやはり貴方の温もりが一番です。

私はアナタがいないとだめなのです。


ラクスはそんな事を思いながらもギュッと抱き締めていたがしばらくして二人は離れて再びお互いを見つめていた。


「ラクス、俺は必ず帰ってくる。戦いが終わって今度こそ必ずキミの元に。だから一一一」


クリスはそう口にしてラクスと約束を交わす。

今度こそ帰ってくると。


「クリス、私は待ってますわ。クリスが今度こそ私の元に帰ってくるのを必ず。だからその日まで生きてください」


ラクスも再び約束を交わした。


愛する人の言葉を信じて。


「そうだ…!ラクスこれをあげる」


クリスの手には雑貨屋で買ったクリスタルが握られていた。


「これは…」

「約束の印だ。俺がラクスから返してもらう時が、約束を守ったときだから」


クリスはクリスタルをラクスに渡すとラクスの手を握った。


「ラクス、さよならは言わないよ。きっとまた会える
から。それに離れていても俺の想いはずっとラクスだけだから」

「………はい。私の想いもアナタと同じです。だからクリス一一一一」


ラクスは潤んだ瞳でそっとクリスに口付けると、小さくだが『待ってます』と、呟くとクリスに背を向けて慰霊碑から去っていきクリスもそれを見届けると慰霊碑から去っていった。

悲しみは確かにある。

けどまた会えると約束したから振り返らない。

会えるその日まで戦い続けていく。

だからラクス――

待っててくれ。
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