最後の力

AAとエターナルは第一中継ステーションを叩きに向かう。


「まず我々で中継ステーションをおとします。次にオーブ艦隊の主力がレクイエム本体を破壊…」


マリューの言葉に冷汗をかき苦笑しながらネオが口を開いた。


「たったこれだけの戦力死にに行くようなもんだな…」


ネオの言葉にクリスが真剣な表情で口を開いた。


「問題は数ではないです。問題は…」


この状況は確かにクリス達が圧倒的に不利である。

勝敗のカギを握るのは『スピード』だ。


「キラ達だけじゃ時間がかかる。俺達も出よう」


クリスの言葉にブリッジにいたミゲル達が頷いた。

レクイエムを使わせないためにも出来る限りの戦力で向かうしかない。

出し惜しみなどしている暇などない。


「先に行ってますよ」

「遅れたら……」

「許さないからな」


ニコルやミゲルやラスティがどこかニヤニヤしながらブリッジから出ていく。

アイツラ変な気を使いやがって。


「ラクス、俺も行ってくる」


クリスはブリッジを先に出た三人に呆れつつも、ラクスにそう告げてブリッジを出ていこうとしたが、


「クリス!」


あのヤキンの時にエターナルのブリッジを去っていったクリスを追うようにラクスもまたブリッジを出ていく。


「どうしたラクス?」


そういえばあの時もラクスに見つめられてたっけ。

泣きそうな顔を我慢して必死に送り出そうとしてくれたラクス。

今もまたラクスの顔は不安気に曇らせている。


「…帰ってきて下さい」

「…えっ?」

「クリス、私は待っています。今度こそ必ず帰ってくる事を」


クリスはラクスの言葉に優しく微笑んだ。


「必ず帰ってくるよ。今度こそラクスのところに」

「……クリス」


ラクスを心配させないように微笑みながらクリスはラクスを強く抱き締めた。

信じていますクリス。

今度こそアナタが私の所に帰ってくると。

愛するアナタが無事に帰ってきますように。

クリスとラクスはしばらく見つめ合っていたがお互い何も語らずゆっくりと口づけを交わす。

深く深くお互いの無事を祈るように。


「ラクスも気をつけてくれ」

「はい…」


お互い離れてクリスはラクスの頬を優しく包み微笑むとゆっくり離れて格納庫に向かうと、ラクスはクリスの後ろ姿が見えなくなるまで見つめてブリッジに戻っていった。



ミゲル達はクリスやキラやアスランよりも先に出撃したようで、格納庫にはクルサードやフリーダムやジャスティスにカオスにアビスにガイアが残っていた。

クリスがクルサードに乗り込みカオスやアビスやガイアを見つめ呟く。


「お前達も戦うんだな」


オーブに残る選択肢もあったのにスティングもアウルもステラも戦うことを決めていた。

スティングやアウルは助けてもらった恩を返すために、ステラはシンにもう一度会いたかったかららしい。


『クリス、俺やアウルやステラはお前に助けてもらった。そしてネオは俺達に言ってくれた。自分のやりたいようにやれってな。だから戦うと決めたんだ』

『そうだぜクリス!僕達はもう地球軍じゃない。僕達は僕達の意思で戦うんだ』


スティングとアウルはそうクリスに告げてカオスやアビスに乗り込む。

前まで軍の命令でただ戦っていたが今は違う。

自分達には信じられる仲間がいる。

まさかあの日カオスやアビスを強奪した日からこんな事になるなんて思いもしなかったな。


『先に行くぜクリス!スティング・オークレ!カオス発進する』


僕はずっとゲーム感覚で戦場で戦っていた。

だけどあの日合体野郎にやられて死を覚悟していた。

でも僕はこうして生きている。

ならこれから先も死ぬつもりはない!

これからもスティングやステラやネオのやつといっしょにいるんだからさ!


『アウル・ニーダ、アビス出るよ』


スティングとアウルが出撃してステラは通信を繋げた状態でジーッとクリスを見つめていた。


『…ステラ?』

『クリス、ステラね明日をもらったの。クリスだけじゃない、皆から!だから皆とずっといたいから戦う!その中にシンもいてほしいの!』


私はクリスにいつも助けてもらった。

温かくてお兄ちゃんみたいな人。

クリスのおかげでステラは明日を生きたいと思えたの。

そしてステラの明日に皆もだけど何より苦しんでいたステラを助けてくれたシンといたい!

シンといたら胸がぽかぽかしたの!

シンに会いたい。


『ステラ・ルーシェ、ガイア行く!』


かつてステラが乗りいつの間にかバルトフェルドが乗っていたが再びステラの元に戻ってきたガイア。

かつての愛機に乗り込んだステラもまたカオスやアビスに続くように戦場へと出撃していく。

三人の出撃をコックピットで確認しつつクリスは発進準備を開始してラクスに通信を繫げる。


「ラクス!!発進する。いいね!!」

『はい!!』

「キラ!!アスラン!!」


「うん」

「あぁ!行こう」


自分達の未来を掴むために。

最後の戦いが始まる。


「キラ・ヤマト、フリーダム行きます!」

「アスラン・ザラ、ジャスティス出る!」

「クリス・アルフィード、クルサード出る!」


今戦場に自由と正義と聖戦が降臨する。

クリス達が発進したと同時にラクスが通信を開きザフト兵に呼び掛ける。


『私達は、これよりその大量破壊兵器の排除を開始します!!それは人が守らねばならない物でも、戦うために必要な物でもありません!!平和のために、纏った軍服に誇りがあるのならば……道を開けなさい!』


ラクスの声に動揺したのかザフト兵の動きが止まりクルサードを含む三機のMSは第一中継ステーションへと急いだ。

しかしそのザフト兵の動揺もすぐに消え去り、第一中継ステーションを守るようにザフトの守備軍が攻撃を開始してきた。

予想していた事だったが数が多いな。

ラクスの声を聞いてもなお向かってくるって事は今のザフトはギルを信じている人しかいないのだろう。

分かってはいたがやりづらい。


「散れ…」


クリスはクルサードの翼を広げてドラグーンを展開しながらキラ達を援護しながらMSを倒していた。

さらにトゥルース三機の援護により一応は前に進めているようだった。














一方議長に呼ばれ、シンとレイとナツメはメサイアへと来ていた。

そんな中でシンはメサイアに向かう途中でも迷っていた。

俺はなんの為に戦えばいい?

議長の作るデスティニープランのため?

本当に俺が望んだのはそんな世界だったか?

俺はただ平和な世界を目指していただけなのに。

そしてメサイアに着いてからも困惑した表情を浮かべていたシンはレイから伝えられた言葉がずっと頭に残り続けていた。

自分はキラ・ヤマトやクリス・アルフィードという最高のコーディネータを作るために生み出された実験体の一つであると。

その弊害でもう未来はあまり永くないと。

もしこの戦いで勝ってもレイは生きられない?

そんな事あっていいのか?

レイの未来はレイ自身が望んじゃだめなのか?

三人が案内された場所には議長がいた。


「やぁ、レイにシンもナツメもよく来てくれたね」


三人が敬礼すると議長は笑顔で返した。


「ギル、いいのこんな事していて?今第一中継点がAAとエターナルに攻撃されているんでしょ?」

「えぇ!!」


シンはナツメの言葉に驚いて目を見開く。

クリスやアスランやメイリン達が戦場に――

シンはその言葉に再び困惑した。

レクイエムを使ったらオーブは終わってしまう――――

でも本当にそれでいいのだろうか?

オーブが消える事が俺の望んでいる世界だったか?


「ナツメ、君は私の創る世界と彼らの目指す世界、どちらが正しいと思えるのかね?」


シンが困惑する状況でも話は進んでいた。

ナツメは苦笑すると当たり前のように口を開いて答えた。


「私が正しいと思えるのは―――ギルの創る世界よ」

「俺もナツメと同じです」

「……そうか」


レイもナツメもの二人は議長の意志こそが正義だと肯定する。

その二人の答えに満足しているのか議長は優しく微笑む。


「レイ、ナツメ」


シンは気づいていた。

レイとナツメの議長への信頼心は普通じゃないと。

レイはクローンがゆえに、生み出したこの世界を変えるために一一一

ナツメはもう二度と争いのない世界を創るために一一


「ギルが言ってくれたプランは、絶対に実行しないといけない」


「…そうだな」


自分達の意志に偽りはない――――


ナツメの言葉にギルバートは頷いてシンへと目線を向けた。


「キミはどうかね…シン?」

「えっ…」


シンは思わず顔を曇らせる。

俺は俺はどうなんだ?

あの二人のように答えられるのか?


「やはり…キミも同じ思いか?」

「お…おれは……」



シンは頭の中では今までの事が蘇っていく。

オーブで失った家族の命一一一

自分では止めることができなかったステラ一一一

ザフトを裏切ったクリスやアスランやメイリンやハイネ一一一

レイの言葉一一一

ナツメの言葉一一一


「…くっ!」



シンには何が正しいのか分からなくなっていた。

自分が望んだ世界一一一

それはもう二度と争いがなく、誰もが幸福に暮らせる世界一一一

きっとそれが自分の望んだ世界一一一

だったらそれはレイやナツメや議長の創る世界と同じなんだ。

俺はもうそれで構わない。


「はい。…俺もレイやナツメと同じ想いです」


だから俺は迷わない。

議長の創る世界を守るんだ。

レイやナツメと一緒に。

これでいいんだよな?

マユ、ステラ一一一

シンの言葉にレイとナツメは微かに笑みを浮かべた。
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