宇宙へ

「私と同じ顔同じ声同じ名の方が、デュランダル議長と共にいる事は知っています」


急に現れたラクスにミーアは驚き戸惑っていた。


「ですが私…シーゲル・クラインの娘で、あの先の戦いでAAと共に戦いました私は今もあの時と同じ艦とアスハ代表のところにいます」


ラクスの言葉に人々は混乱している。


「私は先ほどの彼女とは違う者であり、その想いも違います。そして私は…デュランダル議長の言葉と行動を支持しておりません」

「えっ!!」


それを聞いたザフト兵やプラントの評議会のメンバー達はざわめきだした。



「ちいっ…!!」


デュランダルは予定外の出来事に焦りが生まれている。


「悪いのはナチュラルでもないコーディネイターでもない。悪いのは彼ら世界貴方ではないのだと語られる言葉の罠にどうか陥らないで下さい。そして…私はジブリール氏を支持してもいません」


ラクスの言葉を近くで聞いていたクリスは静かに目を閉じながらラクスの言葉を真剣に聞く。

俺達は誰の味方?

ギルでもジブリールでもない。

俺達は自分達の守りたいものの為に戦っているんだ。



「私達は知らねばなりません。デュランダル議長の………真の目的を」


凛とした態度でそう言ったラクスは一度モニターから消えてしまい次に何が起こるのかと、皆がモニターに集中していると次に姿を現した人物に皆はさらに驚いた。

何故ならラクス・クラインが連れてきて隣に立ったのはザフト兵なら知っているだろうし、地球軍でもその人物は有名人なのだから。


「今私の隣にいらっしゃる方は私やアスハ代表の大切な存在の方ですわ。でわクリス」


ラクスの微笑みと言葉にクリスは小さく頷いて口を開いた。


「皆様初めまして。俺はクリス・アルフィードです。ザフト兵士なら俺の事はしっているでしょう?」


クリス・アルフィード一一一

ザフトでは血濡れた死神と呼ばれていたが、先のダーダネルス戦で死亡扱いとなっていた。

しかし今本人はモニターの前にいる。

ラクス・クラインと名乗る少女やオーブの代表カガリ・ユラ・アスハと一緒に。

そしてクリスの出現に一番驚いている人物がいた。


「クリス、やっぱり生きていたのね」


ギル本人から聞いたが実際目にして思う。

私は躊躇ってたんだ。

クリスを殺す事に。

あの子を殺せたかもしれないチャンスだったのに。


「俺はここでギルバート・デュランダル議長に言いたいことがあります」


クリスは真剣な表情になって再び口を開いた。


「俺はアナタに助けてもらった。そして命の恩人であるアナタを信頼して尊敬もしていました。アナタの創ろうとした平和な世界を一緒に創ろうとも考えていた。だけどアナタは俺に本当の事を話してはくれなかった」


姉さんと会った事も一一一

ラクスの命を狙った事も一一一

ギルは俺に何も話してはくれなかった。


「それにアナタは今までの出来事を事前に知っていたはずです。あのユニウス事件から…」


クリスの言葉にザフト兵士は驚きギルバートは焦りからか表情に余裕が消えている。


「なにより俺が一番気に入らなかったのは…」


オーブで命を狙い宇宙ではエターナルを襲撃した。

エターナル襲撃がギルの命令なのかそうじゃないのかは分からないが、それでもラクスを狙った事が何よりも許せなかった。

だから一一一


「ラクスを俺の大切な人を狙ったことだ」

『なっ!!』


クリスの言葉にザフト兵士は驚きのあまり目を見開いていた。


「どうしてラクスを狙ったのか今でもわからない」


いや本当はわかっている。

おそらくギルの目指す平和にラクスの存在は危険なのだろう。

それにミーア・キャンベルの件もある。

ラクスを消して彼女を本当のラクス・クラインにしようとしたのだろう。


「だけどもうラクスを守る剣はここにいます」


チラリとラクスの方に視線を向けると、ラクスはクリスの視線に気づいて優しく微笑んでいた。


「さて俺の話はここで終りです……あっ!!」


クリスは何かを思い出して声を出すとその声に皆は耳を傾けた。


「イザークにディアッカ、お前達にも迷惑かけちまったな。あとお前達が俺の敵でも構わない。でもこれだけは言わせてもらう…『道を誤るな…自分達が今やっている事は本当に正しいのかもう一度考えてみろ』…以上だ」


それだけ言うとクリスはモニターから消えていき、その言葉を聞いていたイザークとディアッカは隊員達に見つめられながら固まっていた。

「なぁ、あんな事言ってるぜ」

「………分かってる」

「もう一度考えろだってよ…」

「今さら過ちだとしても引き返せない。だが…クリスが俺達に手を差しのべたらそれを取るか取らないかだ……」


ダーダネルスで戦死したと聞いた時は俺もディアッカもあまりの衝撃に落ち込んでしまった。

泣くものかと我慢していたが、涙は俺の意志を無視して勝手に流れる始末。

だけどアイツは生きていた。

今はそれだけでいい。

だが一一一


「それよりピンクのお姫様もようやく王子様と一緒になれてよかったと思わないかイザーク」

「フンッ!ラクス嬢を悲しませたのに変わりはない。次に会ったときは…」


ヤキンの時にラクス・クラインを泣かせた事は今でも許してはないからな。

もし会ったら一発殴るとするか。






ラクスとクリスの言葉に世界中が混乱していた。

どちらが正しいのか?

議長なのか?

それともオーブの代表と一緒にいたラクス・クラインとクリス・アルフィードなのか?

だが世界中の殆んどの人々は議長を信じているようだ。

そしてミネルバでも同じような混乱が生じていた。

「どちらが正しいなんて議長に決まってるじゃない」


ナツメは混乱しているシンに告げると、それに付け加えるようにレイも口を開いた。


「ナツメの言う通りだ。クリスがあんな事を言ったとしても正しいのは議長なんだ」


アイツはもうザフトを抜けた裏切り者なんだからな、とレイは付け加えながらとあるデータを調べていく。

そんな中でシンの脳裏によぎるのはオーブでの戦闘。

黄金のMSを守るように現れたスピリットに似た機体。

あれはもうクリスで間違いない。

それにアスランから言われた事が忘れようにも忘れられない。


『思い出せシン!!お前は本当は……何がほしかったんだ!!』


死んだと思っていたアスランの出現と言葉は自分の決意を揺るがしていた。

俺は何が欲しかった?

戦う力だったか?

向かってくる敵を薙ぎ払う力?

俺は一体なんの為に戦っていた。


「くっ……!」


シンは頭を抱えて俯いてしまう。

いつもならクリスがいてどうすべきか教えてくれたのに、どうしてなんだよクリス!

何でザフトを裏切ったんだよ。

俯くシンにルナマリアが声を掛けようとしたが、先にとある人物が声をかけてきた。


「シン君、大丈夫?」


シンに声を掛けたのはアスランやメイリンやハイネが脱走した時にミネルバに配属してきた人物でありクリスをダーダネルスで倒した張本人。

ナツメ・アルフィードだった。


「あっ…!大丈夫です」


シンは微かに笑みを浮かべつつもその心が晴れることはなかったのだ。


「そんな事より、俺達には考えておかねばならない事があるだろ」


「えっ?」

「フリーダムにジャスティス、そして…スピリットに似た機体」

「「!?」」


レイの言葉にシンとルナマリアは目を見開いて驚いた。


「フリーダムとジャスティスと見られるMSと恐らくクリスの搭乗しているMSは今あの艦と一緒にいる。戦うとなると明らかにこちらが不利だ…」

「レイ、でも俺はクリスと……」


戦うのを躊躇ってしまう。

いつだって一緒に戦ってきた仲間。

オーブで戦った時も本気で戦えなかった。

クリスを撃とうとした時俺は身体が全く動かなかった。

戦うことに躊躇っているシンに対してナツメが口を開いて迷いを消すように口を開く。


「シン君、クリスは敵なのよ。私だってクリスとは戦いたくないわ。でもクリスが議長と戦うつもりなら私達は戦うしかないわ…」


「………」


シンはナツメの言葉に納得するしかなかった。
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