自由と正義と聖戦

「やっかいな事になったな」


バルトフェルドのハッキリした口調にその言葉の意味がわかるクリスは顔を歪めた。


「ジブリールがオーブにいる事がザフトにも知れたんですね。そして…ザフト軍はオーブの傍まで来ている」


クリスの言葉にバルトフェルドとラクスとアイシャも苦い表情を浮かべた。


「これでデュランダルはオーブを撃つ事ができる」

「えぇ…上手くいけばオーブとジブリールを一気に消せますわ」

「オーブを狙われるのは困るわね…」

「オーブへ行こう。このまま見てる事はできない」


クリスの真剣な表情にバルトフェルドとアイシャは苦笑してラクスは頷いた。

ギルの思い通りにさせる訳にはいかない。

なんとしてもオーブを守る。

たとえ相手にミネルバがいてシン達が戦場に出てきたとしても。



クリス達が動き出した頃一一一

ザフトとオーブは開戦する事になってしまい、オーブに身をひそめていたAAもオーブを守るために出撃準備をしていた。

その中でミゲル達はトゥルースに乗り込んで、怪我人のハイネが無理に頼んでクリスの乗っていたトゥルースに乗り込んだ。

相手がザフトとわかっていてもハイネは戦うことを選んだ。

そして…エクステンデットの三人も自分達の決意をマリューに告げた。

スティングとアウルはカオスとアビスの最終チェックを終えていたため戦場に出ると。

マリューは最初アウル達の体を心配したのだがアウル達は『大丈夫』だと言って、『今自分達がやらなきゃいけない』と伝えると、マリューとミリアリアは困惑した表情だったが、アウルの服の袖を掴んでいたステラが口を開いて言った。


「ステラも…みんなの…役に立ちたい……」

「ステ…ラ」

「ステラ…みんなの力になりない…!みんな…ステラ達を…守ってくれた…今度はステラ達がみんなを……守る!!」


三人の決意にマリューは観念して整備班に連絡した。

「アビスとカオスの出撃準備を始めて。AA発進後にミゲル君達と同じく二機を出撃させて」

「えっ…?」

「それって…?」


アウルとスティングはマリューの言葉に驚いた。


「あなた達も急いで準備をしなさい。すぐにあなた達の出番が来るわ」


マリューの言葉にアウルは嬉しそうに笑ってスティングは真剣な表情でブリッジを出ていった。


「ステラは、私のお手伝いでいい?」


「うん…ステラ…頑張る!!」


ステラの微笑みにミリアリアとマリューも笑った。





その頃…エターナルの格納庫でクリスが二機のMSの最終作業をしていた。

それはかつてキラとアスランが乗っていた相棒と似ているMS。

フリーダムとジャスティスの後継機は主を持つようにエターナルの格納庫で佇んでいる。


「キラとアスランの新しい剣を早く渡してあげないと…」


作業をハイスピードで進めるクリスはラクスとアイシャに指示をしていた。


「ラクスとアイシャさんはパイロットスーツに着替えて機体に乗ってください」


クリスが指示をすると同時にバルトフェルドから通信が入った。


「急いだ方がいいぞクリス。オーブのバカ共のせいでザフトが攻撃を開始した」


つまりオーブはすでに戦場になっている事になる。

頼むから間に合ってくれ。

アイツにシンにオーブを撃たせる訳にはいかない。

バルトフェルドの言葉にクリスは顔を歪めたまま作業をしていく。


「クリス、急ぎましょう。オーブを失う訳にはいきませんわ」


クリスが振り向くとピンクと黄色のパイロットスーツに身をつつんでいるラクスとアイシャがいた。


「本当にいいんですか?アイシャさん」

「えぇ、人手も不足しているしアンディも許可してくれたわ」


確かにあの二機を確実に渡すなら人手はほしい。

絶対にラクスだけじゃなくアイシャさんも守らなければならない。

バルトフェルドさんの大切な人を危険な目に合わせる訳にもいかないしな。

作業を終えたクリスはコックピットから出て己の相棒をジッと見つめた。

オーブに行けばそこは戦場だ。

絶対にザフトを止めなければならない。

ギル、俺はもうアナタだけの戦士じゃない。


「クリスもう大丈夫ですか?」


クルサードを見つめていたクリスにラクスが不安気な表情を浮かべクリスの手を握って口を開く。


「あぁ。ラクスのおかげで大丈夫だよ。俺はもう迷わない。だって一一一」


今の俺にはラクスがいる。

キミがこうして隣にいてくれる。

それだけでこうして戦えるんだから。

クリスが優しく微笑むとラクスも同じように微笑んで軽くクリスの唇に口付けると、ラクスはジャスティスにアイシャはフリーダムに乗り込んで二人が乗ったのを確認したクリスはクルサードに乗り込んだ。


「行くよ二人供…!!」


ハッチが開きフリーダムとジャスティスが発進すると、それに続いてクルサードも飛び出してすぐに二機の手を掴み地球へと降下した。






△▼△▼△▼

クリス達が降下している頃オーブではカガリの乗るMSアカツキがシンの乗るデスティニーと戦闘していた。

デスティニーに乗っているシンはアロンダイトを手にカガリを撃とうと突っ込んでいく。

最初は互角に思えた戦闘だったが徐々にシンがカガリを追い詰めていき、AAのブリッジでその状況を見ていたアスランは声を上げる。


「デスティニー……シン!!」


アカツキの左腕が落とされトドメを刺すようにアカツキの両側からブーメランが目の前に迫っていく。

一本のブーメランを破壊してももう一本が残りアカツキはかなりのダメージを負う。

カガリが迎撃しようとしたがブーメランはすでに眼前に迫り、


「……カガリ!」


アスランがカガリの名を叫びアカツキが堕ちようとした瞬間だった、上空から二筋の閃光がブーメランを的確に撃ち抜いたのだ。



「なにっ!!」


デスティニーのブーメランが破壊されその光景にシンは目を見開いて、助かったカガリはデスティニーから離れていく。


一体何が起こったのかと皆が空を見上げると、


「間に合ったか」


上空から物凄い速さでクルサードが現れてクルサードはフリーダムとジャスティスの手を離しサーベルを抜いてデスティニーに切りかかったのだ。

その速さに一瞬驚くもデスティニーはそれを後方へ下げて回避する。

デスティニーの前に現れたMSはアカツキを守るように立ち塞がり両手にサーベルを握っている。

そのMSの姿にシンは呼吸が止まりそうになった。

何故なら目の前のMSはあのMSに酷似している。

そうクリスの乗っていたスピリットに。

つまり今目の前にいるのはあの日ザフトを裏切った男クリスなのか?

困惑して動きが止まったデスティニーを尻目にそのMSは白き翼を広げるとその周りに羽が舞う。


「クリス……?クリスか!?」


カガリがそのMSに通信を入れると、


「マリューさん!!ラクスとアイシャさんを頼みます!ここは俺が引き受ける…カガリは国防本部へ!」

「わかった!!」


カガリはこの場をクリスに任せアカツキですぐに国防本部へと向かう。

見送ることしかできないアカツキにシンは顔を歪めたままレバーを強く握ると、


「くっそぉぉぉぉ!!」


たとえ相手がクリスだとしても関係ない。

俺は誰が相手でもこのデスティニーで戦うと決めたんだ!

デスティニーがクルサードに切りかかってくると、クルサードもサーベルを構えてデスティニーに向かっていく。

剣と剣がぶつかり合いその隙にフリーダムとジャスティスはAAに収容された。




「くそっ…なんで当たらないんだよ!!」


デスティニーはライフルを乱射していたがクルサードにはカスリもしなかった。

なかなか決まらない攻撃に苛立つシンに対してクリスは勝負を決めるように動き、


「決める!」


クリスはSEEDを発動させてデスティニーの長刀をビームシールド片手で受け止め至近距離から足のサーベルで片足を切り裂き、一瞬隙が出来たデスティニーに対してすれ違いざまに片手を切り裂いたのだ。


「なっ!?」


たった一瞬の攻防で負傷したデスティニーは体勢を崩して下に落下していくと、


「シン君!!一度ミネルバに戻りなさい」

「えっ…だけど!!」

「いいから!!一度補給と整備に戻りなさい。今のままじゃそいつには勝てないわよ!!」

「分かりました………ナツメさん」


通信の声にシンは頷いてミネルバに戻っていった。

ミネルバに戻る際にシンはちらりとクルサードに視線を向ける。

あれはクリスだったのか?

もしそうなら俺はクリス相手に戦えるだろうか?

俺は今でもどこかでクリスと戦うことに躊躇っているのかもしれない。

だってクリスは一一一


『お前なら大丈夫だシン』


いつだって俺を信じて戦っていたから。

デスティニーが去っていく光景を見届けるとクリスはオーブの戦場へクルサードで向かう。

これ以上オーブに被害を与える訳にはいかない。






クリスがクルサードでザフト相手に戦っている頃、AAの格納庫ではラクスの話をキラとアスランは真剣に聞いていた。


「キミも俺やキラやクリスはただの戦士でしかないと――そう言いたいのか?」


アスランの瞳には微かに怒りが含まれていた。

デュランダルにとって自分やクリスがそうであったように。

ラクスもまた同じように思っているのかと。



「それを決めるのも……貴方ですわ」


アスランはラクスの言葉に困惑した表情へと変わったが、ラクスは柔らかな笑みを浮かべアスランを見つめながら口を開いた。


「怖いのは閉ざされてしまうこと。こうなのだ、ここまでだと終えてしまうことです。今のお二人にこれは残酷かもしれません。でもクリスは一一一」


ラクスはエターナルでクリスと話した事を2人に話していく。

クリスは言った。

自分はギルにとって都合の良い戦士だったかもしれないと。

最初はそれでも良かったと思っていた自分もいた。

だけど自分はクリス・アルフィードとして戦うと決めたのだと。

所詮自分は戦うことしか出来ない。

だけど一一一


『力がなければ…何もできない』

『自分がやりたいことをやれなくなるのって一番辛いだろ?』

『キラやアスランだって望む世界があるんだからさ』

『……そして俺にもな』


クリスの言葉にアスランとキラは顔を歪めた。


「力はただ力です。そしてお二人は確かに戦士なのかもしれません。ですが……アスランとキラでしょう?」

自分は自分なのだと一一一

アスランもキラも一一一

たった一人の人間一一一

確かに戦うことはできるから自分達は戦うかもしれない。

でもそれを選ぶことができるのは一一一

剣を手に取る事ができるのは一一一

自分自身だと一一一

クリスも皆も戦うのだから乗っているんじゃない。

自分の心が決めた事だから乗っている。


「きっと…そういうことなのです」



ラクスはそう言って目線をキラに変えた。


「そしてキラ。貴方にはこれから辛い人との戦いになります。でも迷わないでください」

「えっ…」

「…アナタはアナタの心のままに戦ってください」


クリスに教えてもらった事。

キラの愛した女性が敵として現れるだろうと。

それでもキラなら戦うだろう。

今度こそ一緒にいるためにも。


「行こう…キラ!!」


「うん…!クリスが待ってる!」


そしてキラとアスランは自分達の剣に乗り込んだ。


「俺は―――――アスラン・ザラ…!ジャスティス出る!!」


「キラ・ヤマト、フリーダム行きます!!」


大切な友の所へ。

もう自分達の意思も覚悟も決めたのだから。
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