新しき剣

エターナルから出撃したクルサードにザフト兵は目を丸くしている。

それもそのはずだ。

クルサードはスピリットに似ている。

そしてザフト内ではスピリットは撃墜した事になっているのだ。

それなのに今自分達の前に現れたMSは間違いなくスピリットに酷似している。

つまり一一一


「…まさかスピリット!?」

「バカな!あれは破壊されたはずだ!」


動揺するグフやザクのパイロットを尻目にクルサードはビームサーベルを抜いて頭部をすれ違いざまに切り裂いていく。


「なんだこいつ!?」

「速いぞ!!」


さらにクルサードはライフルを手にし周りにいたグフを次々と撃ち抜きながら、もう一つの高エネルギー出力砲を放ちザクを戦闘不能に追い込んでいく。


さらに一一一


「散れ…」


クリスはクルサードの白き翼を広げて大量のドラグーンを四方八方に解き放ち残りのMSだけじゃなくエターナルを狙っていたMSやミサイルを全て破壊していた。


圧倒的な実力。

たった一機のMSによりエターナルを襲撃していた部隊は壊滅状態に追い込まれている。


「ばっ…馬鹿な!!」


クルサードに落とされたMSのパイロット達は動揺している。

たった一瞬の出来事だった。

自分達は確かにエターナルを追い詰めていた。

それなのに今は壊滅状態になっていた。

一体何が起こったんだ?

俺達は一体何と戦っているんだ!


もはや戦える状態じゃないザクやグフを無視してクルサードは敵の母艦が集まっている場所に向かった。



「なにをやっている!!早くあのMSを撃ち落とさんか!!」


敵の母艦から放たれる攻撃をクルサードは翻弄しながらライフルで火器を攻撃していく。

そして一一一

クルサードは再び翼を広げてドラグーンを発動させて、

「いけぇぇぇぇぇ!!」


クリスの声と同時に散らばった白きドラグーンからビームが放たれて敵の母艦及び護衛艦を戦闘不能にしたのである。


「バッ…バカな!?たった三分で我が部隊が全滅だと!?」

「………あれが人間の力だと言うのか!」


こうしてラクスを狙っていた部隊はクルサードにより撤退するしかなかった。

たった一機のMSによって壊滅した部隊。

これがギルバート・デュランダルがアスランに口にしていたクリス・アルフィードの力なのかもしれない。


「帰艦する」


クルサードのドラグーンをしまいクリスはザフト軍の残骸を背にエターナルに戻っていった。








「クリス!!」


クリスがエターナルに戻ってくるとラクスが思い切り抱きついた。

クリスを抱きしめるラクスの表情は本当に嬉しそうであり、クリスの温もりを確かめるように強く抱きしめている。

そんなラクスに答えるようにクリスもまた、


「ただいま、ラクス」


クリスもまたラクスを愛おしそうに抱き締めていた。


「おいおい。こんな所で見せつけないでくれるかな」


そんな二人に対しバルトフェルドが溜め息まじりに口を開くと、クリスは苦笑してラクスから離れた。


「ラクス今の状況を教えてほしい」


クリスの言葉にラクスは頷いてどこか古びたノートをクリスに渡す。


「これを…」

「……これは?」


ラクスがクリスに渡した物は何かが書かれたノートであり、そのノートを見ながらクリスは怪訝な表情を浮かべとある文字に気づいてその手を止めた。

そこに書かれていたのは、


「デスティニープラン…?」


そのノートにはこう書かれていた。

デュランダルの目指す『デスティニープラン』は
一見今の時代有益に思える。

だが我々は忘れてはならない。

人は世界の為に生きるのでない。

人が生きる場所。

それが世界だということを。

ノートを読んだクリスは一つの結論が出た。

「まさか…!ギルは自分の世界を創るために事態が悪化することを放置していたってことか?」

「ユニウスセブンの落下や地球軍の宣戦布告は事前に情報を知り得る立場にいたことは事実です。それは…クリスも気づいていましたでしょう?」

だとしたらギルはこうなる事がわかっていて動いてたのか?

待て、だとしたらラクスを狙ったりキラやAAを狙ったりアスランを始末しようとしたのも自分に対抗する力をなくすため?

姉さんはこれらを知っててもギルが創ろうとしている世界を手伝うつもりなのか?

急に黙りこんだクリスにラクスは心配になって顔を覗きこんだ。


「クリス、どうしました?」


ラクスがクリスに話し掛けるとクリスは微笑んで口を開いた。

「なんでもないよ。ちょっと考え事してただけだから」


クリスの言葉にラクスはクリスを見つめ不安気な表情を浮かべその手をギュッと強く握った。


「無理はしないでください。私はいつだってクリスの味方です。私はアナタの力になりたい。ですから話せるなら話してください」

そうだよな。

今俺の傍にはキミがいる。

誰よりも大切で頼りになるキミが。

なら俺は一一一

ラクスの言葉にクリスは微かに笑みを浮かべながら口を開いた。


「まだ皆には言えない。でも今はラクスになら言える…だから」


クリスが視線をバルトフェルドに向けるとバルトフェルドはニヤリと笑って口を開いた。


「ラクス、クリスも疲れているみたいだ。部屋にでも戻るといい。しばらくは二人でゆっくりするといい」


バルトフェルドの言葉にラクスは微笑んでクリスの手をひきながらブリッジを出ていった。

「青春だね~」

「私達にもあんな時があっわね…アンディ」

「そうだったな…アイシャ」

ブリッジでバルトフェルドとアイシャが見つめあっているのを見たダコスタは溜め息をついていた。






△▼△▼△▼


部屋についた二人はベットに腰かけて話を始めた。


「ラクスは覚えてる?ナツメ姉さんの事」


クリスの言葉にラクスは表情を曇らせながら頷いた。


「…えぇ。とても強い方でしたわ。いつも皆を励ましたり元気づけて明るい方でした………でもナツメは」


ラクスも知っている。

姉さんがラウに討たれた事を。

でも姉さんが生きている事はまだ知らない。


「今から話すことはまだ誰にも話さないでほしい。もし話したら皆が、キラが辛くなると思うから」


クリスは一度間を開けてながら言うとラクスはクリスの言葉に小さく頷いた。


「姉さんは…………死んではいなかった」


「えっ……!?」


クリスの言葉にラクスは驚いて目を丸くした。


「俺は姉さんと何度も戦場で戦った。そして…ラクスも知ってる通り。俺は一度ダーダネルスでスピリットを破壊された…」


ラクスはクリスの言葉にスピリットが貫かれたのを思い出して顔を曇らせた。

思い出したくない光景。

今こうしてクリスは自分のそばにいるがあの時死んでいてもおかしくはなかった。

それがまさかナツメによるものだったなんて。


「あの時俺は姉さんに撃たれるのを覚悟していた。でもこうして生きてる。もし…また姉さんと戦う事になったら俺は戦えるのかな?」

「クリスはもう決めたのでしょう?誰もが傷つけあわない世界を目指すと。でしたら大丈夫ですわ」

アナタには私がいます。

アナタが不安なら私が支えます。

アナタが私を守ってくれたように。

だからクリス一一一


「もしお辛くなっても私がいます。私はいつでもクリスと共にいます」

「ラクス…」


まるで霧が晴れるような言葉。

ラクスがいてくれるだけで俺は戦える。

だからもう俺は彼女を悲しませない。

俺もラクスもお互いが必要だから。

クリスはラクスを優しく抱き締めると、ラクスもクリスを抱き締めかえした。

お互いが見つめ合いその視線はどちらも愛おしい人を見つめるように交わっている。


「今はこうやってラクスといる時間が俺にとって幸せだ」

「私もです。こうしてクリスが傍にいてくれるだけで私の心を幸せで満たしてくれていますわ」


クリスはラクスの腰に手を回して目を閉じると、ラクスも目を閉じてクリスに身をまかせる。

二人の影が重なり合い二人の身体はベッドへと沈んでいく。


今だけは二人に安息の時間を一一一

これからまた戦いを止めるために戦わなければならない。

だから今この時をできるだけ長く。
3/3ページ
スキ