再会と約束

クリスが降下している間に先に地球に降下していたミネルバは一足早く着水していた。


シン達ミネルバクルーにカガリやアスランは甲板で目の前の景色を見ていた。




「アスラン、クリスの奴大丈夫かな?」


心配そうな表情でカガリがアスランに聞いた。


「クリスなら大丈夫。アイツは無茶はするが死んだりしないさ」


信頼しているからこそ言える言葉。

やはり仲間だった絆がそう思わせているのだろう。


「大した自信ですね」


ふと声がした方を振り向くとそこにはシンがいて皮肉そうにアスランに言った。


「クリスとは長いこと仲間だったからな。俺はアイツを信じているんだよ」



アスランはシンの問いに遠い目で答えた。


「それにしても貴方はよく平然とできますね」


「なにがだ?」


アスランは気付いてはいたが知らない振りをしていた。


「貴方だって聞いたはずです!自爆した奴が言った言葉が!」


シンの言葉に海を見ていた者達が二人を一斉にみた。


「我等コーディネータにとってパトリック・ザラのとった道こそが唯一正しきものって言葉の事ですよ」


『!!!!』


アスランはその言葉に顔を伏せて拳を握り締めた。


「アスラン…」


カガリは心配になってアスランの手を握る。


「代表は何も分かっていないんですね!!それと…同情ならそんな事はしない方がいいですよ」


シンはカガリの行動に呆れた口調で言ってその言葉にカガリはハッと我に返って握っていた手を離そうとしたがアスランが、


「ありがとう…」

カガリに聞こえるだけの小さな声で礼を言った。


すると―ーー


「おいっ!クリスが帰ってきたぞ!」


兵の言葉に皆の視線が空に向けられた。


そこにはクリスの機体スピリットがミネルバに降下していた。





△▼△▼△▼

「やっと着いた…」


クリスは格納庫に機体を置いて下を見ると、スピリットの下ではクルー達が大勢集まっていた。

クリスは直ぐにスピリットから降りてメットを外す。


「クリス!お疲れ!」


「機体は任せて休んでろよ!」



クリスはヴィーノやヨウランの言葉に『任せた』と告げて機体を任せると格納庫から出ていくとクリスは直ぐに着替えて艦長室に向かった。



「艦長、只今戻りました」


艦長室に着いたクリスはユニウスセブンでの出来事を艦長に報告した。


「お疲れ様。よく頑張ってくれたわねクリス」


「いえ、結果的にはユニウスセブンを落としてしまい地球に被害がでてしまった」


クリスは表情を俯かせてやるせない気持ちになっていた。


「いいのよ。それよりクリスはこのユニウスセブンの件どう考える?」


「この計画には必ず黒幕がいる気がします。今はまだ予想ができないですけど」


クリスの言葉にタリアは首を傾げながら口を開いた。


「どうしてそう思うの?」


「今回の事件もしかすると何かを始めようとしている者がいるはずなんですが、ですが何故こんな方法だったのかがどうしても分からないんです」


クリスはそう言って一度溜め息を吐いた。



「とりあえず俺は部屋に戻ります。いいですか?」


「構わないわ。オーブに着きしだい連絡するから休みなさい」


クリスは一礼すると艦長室から出ていくと自室に戻る途中でどこからか銃声が聞こえたのでそっちに向かった。







「相変わらず銃の腕は落ちていないな」


皆が振り向くとそこにはクリスが壁に寄りかかっていた。



「クリス!いつからいたのよ!?」


ルナマリアは驚きながらクリスに問い掛けると、


「アスランの銃撃が終わったとき」


柔らかな笑みでクリスは答えた。


「そうだ!クリスもやってみたら?」


ルナマリアから銃を受けとりクリスは一度息を整えてゆっくり構える。


バァン!!
バァン!!
バァン!!


クリスは一度もミスをする事もなく先程のアスランと同じように最高難易度をクリアしていく。

ただ動くだけの的。

銃を手にしただ撃つだけの作業のようなもの。

本当にこれも戦場での戦いも何一つ変わらない。


「お前も腕は落ちていないな」


アスランは安心しながらクリスを見ていたがクリスは一瞬だが遠い目をしていた。


「当たり前だろ。俺は軍人なんだから…」


クリスは視線をそらしてどこか迷いがあるかのような口調でアスランに返してしまう。


「それにこんな事ばかりうまくても仕方がないしな」


「そんなことありませんよ!!敵から味方を守れるんですから」


ルナマリアの言葉にアスランは、


「敵って………誰だよ」


鋭い目付きで睨みながら答えた。


「自分を殺すから敵、死にたくないから撃つ。これじゃあ戦いは終わらないだろうな…」


クリスもアスランに付け加えて苦笑しながら口を開いてルナマリアに銃を返した。


「敵とか味方とか…軍人の俺は割りきらないな」


クリスの呟きは誰にも聞こえなかった。






△▼△▼△▼

オーブのオノゴロ沖にミネルバが到着した。


「オーブか…」


ブリッジでオーブを眺めているクリスの目は遠くを見ていた。


「クリス、ちょっといいかしら?」


クリスが振り向くと椅子から立ち上がっているタリアがいた。


「どうしました艦長?」


「オーブに着いてから私達はどうするかよ?」


「そうですね。代表をオーブに送った後は、少なからず修理はしてくれるでしょうね。でも今のオーブは地球軍寄りですから…」

クリスはユニウスセブンの一件でおそらく地球軍が動く事、それによりオーブがどう対応するかを考える。

今は中立のオーブだが今回の一件で大西洋連邦がどう動くか。

もしかしたらオーブの中立が崩れる可能性だって視野に入れないとマズイかもな。



「オーブにも修理は頼むけど、アナタにも頼めないないかしら?」


「内部のコンピュータだけなら。外はさすがにオーブの整備士にやってもらいましょう。エーブスもいますしね」


クリスは苦笑いを浮かべてタリアに答える。

一人でコンピュータをやるとなると簡易的な事しか出来ないだろうが………


「それと…議長から伝言よ」


クリスは一度だけ視線をタリアに向けつつ、次の瞬間にはパソコンに目を向け一応聞くことにした。


「オーブに着いたら休暇をとるんだ。…らしいわよ」


「まぁそれは嬉しいですけど一体なに考えてんだか?」


クリスは整備や修理のため一度部屋に戻ることにした。






「堅っ苦しいだろうな…」


赤服にフェイスのバッチを付けてクリスは部屋を出ていった。






「ようこそオーブへ」


外に出るとクリスの目の前には艦長と話しているオーブのメンツにカガリに抱きついている男と複雑な顔のアスランがいた。

クリスはカガリに抱きついているセイラン家の跡継ぎをみて溜め息を吐く。


(あれが跡取りか。オーブ未来は不安だな。まぁアスランとカガリが結婚したら問題は解決なんだけど…)


「遅くなってすいません」


クリスは艦長の所に走りオーブのメンツに敬礼した。


「初めまして!!ザフト軍特務隊クリス・アルフィードです!!」


クリスという名に周りが騒ぎだした。


「おいっ…もしかしてあの『血濡れた死神』で有名な」


「行方不明は嘘だったみたいだな」


オーブのメンツは聞こえないように呟いていた。


「オーブ連合市長国宰相…ウナト・エマ・セイランです。この度は代表の帰国に力をつくし頂き感謝する」


何か裏があるような笑みでウナトが口にすると、その喋り方や雰囲気がどことなくクリスには合わないようで表情が固くなる。

そんな状況でカガリの肩を抱き移動するユウナがアスランに嫌味を一言、


「君もご苦労だったね…アレックス」


「いえ…」


「君もゆっくり休んでくれたまえ。彼らのパイプ役も後で任せるよ」


最後まで嫌味を言ってユウナを先頭にオーブのメンツが去っていくと、クリスはアスランに近付いてポンッと肩に手を置き、


「あんな紫モミアゲには負けるなよ…ってかカガリは俺の女だ!って言えばいいのに」


「言えるか!状況を考えろ状況を!」

いつものアスランに戻ったのを確認してクリス柔らかな笑みを浮かべてミネルバに戻っていった。






△▼△▼△▼

クリスはブリッジに着くとすぐにコンピューターを起動させた。


「別にバグはない。けど通信が使えないだけでコンピューターには問題ないか」


艦長に言われた通りにキーボードを操作している。


「やはり問題は外か。進水式からここまでバタバタだったからな。火器はボロボロだし外装もやられまくってるし…」


艦長の椅子に座りクリスは呆れた表情で外を見ていると、まるで見計らったかのようにタイミングよくブリッジのドアが開いた。


「あらクリス、作業はやってくれたのかしら?」

「えぇ…艦長。バッチリですよ。やるだけのことはやりました。それより外の方は?」


「まぁ…問題はないでしょうね。今はオーブに任せましょう」


クリスは椅子から立ち上がりタリアの横まで歩いた。


「クルー達に上陸許可の事は言わないんですか?」


「ええ…さすがに今は無理ね。貴方はよくても他は駄目よ」


「ですよね…」


クリスはそのままブリッジを出ていくとクリスが出ていってからアーサーとタリアが、クリスの雰囲気に今だに慣れないと話していたとはクリスは知る由もなかった。





「折角だからたぬ…じゃなかった議長から貰った休暇を使わせてもらおうかな」


クリスは自室に戻り私服に着替えた。


「オーブ………か(会っていいのか…俺は)」


オーブにいるであろう彼女の事を思って悩むクリス。


ラクスはもしかしたら今でも俺の事を待っているのだろうか。

俺は一一一一


「なるようにしかならないのにな…」


そんな事を呟いて扉を開くと扉の前にはシン達が何やら真剣な表情で立っていた。


「どうした皆集まって?」


「クリスは上陸許可を貰ったのか?」


色黒の整備士ヨウランが代表でクリスに聞いてきた。


「あぁ議長から強制的に言われてな…」


クリスは皆に背を向けて呆れた口調で説明する。


「ってことは…俺達ももらえんのかな?上陸許可」


もう一人の整備士ヴィーノが目を輝かせながら皆に言った。


「もらえると思う。ミネルバの修理はまだかかりそうだし」


クルー達は喜んでいたがシンだけは顔が喜んでいなかった。

そんなシンにクリスは近づくと、


「シン、上陸許可がもらっても行きたくないなら行くなよ。シンにとってオーブは辛いだろうから」


クリスは昔シンから聞いたオーブの出来事を覚えていたためシンに言った。


「俺は………」


「無理してオーブに行ってもお前には辛いだけだ。本当に行く気がある時にでも行けばいいから」


「分かった…」


そう言い残してシンは自室に戻っていきクルー達もつられて去っていくと、クリスは自分のバイクを取りにいくため格納庫に向かった。







△▼△▼△▼


「……行くか」


バイクに乗ってクリスは一度息を吐きミネルバから出ていくとバイクを走らせてとある場所にやってきた。


「海は綺麗なままだな」


そのまま砂浜に寝転んで空を見上げる。


「ここはこんなに綺麗なのにな…」










クリスが海に来ている頃一一一


アスランはキラとラクスの元にやって来て、ラクスは子供達一緒に砂浜を歩きアスランとキラは車に乗り屋敷を目指す。


「落下の真相はもう皆知ってるんだろ?」


キラは小さく頷いた。


「連中の一人が言ったよ。撃たれた者達の嘆きを忘れてなぜ撃った者達と偽りの世界で笑うんだお前らはって」


「戦ったの?」


キラは顔を曇らせてアスランに聞いた。


「ユニウスセブンの破砕作業にでたら彼らがいたんだ。そして………あいつも」


「…あいつって?」


キラが聞き返すとアスランは一度海を見てどこか曇りのある表情で答える。


「クリスだよ…」


「えっ…!クリスが!?」


キラは驚いてアスランに聞き返した。


「今アイツはミネルバのパイロットとして戦っている」


「でも…##NAME1##がどうして!?」


キラはラクスの事もあり少し興奮気味になっている。


「ヤキンの戦いのあとプラントの混乱に乗じて戻ったそうだ。その後は議長に世話してもらいながらな」


「クリスが言ったの?」


「ああ…。話したいことは色々あったんだが時間がなかったんだ」


「クリスは今もMSに乗ってるんだね」


キラは顔を曇らせていた。
友が再び剣を握っている事に衝撃を受けている。


「今ミネルバはオーブにいる。だからクリスをラクスに会わせてやりたいが……」


「ねぇ、アスラン。ラクスとクリスは会わせていいのかな?」


キラの言葉にアスランにはその言葉の意味が分かった。


「生きているって信じていてもやっぱり不安になることだってあるよ」


キラはラクスの看病をしていたため誰よりもその気持ちが分かっていた。


「クリスにも言われたよ…『もし俺と会って苦しめたらいけない』ってな」


アスランもその気持ちが分かり顔を歪めていた。


「俺聞いたよな?やっぱりこのオーブで。俺達は本当は何とどう戦えばよかったんだ?そしたら、お前…言ったよな。それも皆で一緒に探せばいいって」


アスランはハンドル強く握り締め顔は今にも壊れそうなほど苦しんでいる。


「でも…やっぱりまだ…見つからない!!」


「…アスラン」


「クリスだって同じだ!!パイロットとして戦場を駆け巡り敵を倒して新たな憎しみを作り続けてクリスにとってマイナスでしかない筈なのに!!」


キラはハンドルを握り締めて叫ぶアスランの肩に優しく触ながら赤くなる空を見上げてキラはの事を考えていた。


クリス―ーー

キミはまたラクスを悲しませるの?

キミの事をいつも思っているラクスを一一一

キミにとってラクスはなんなの?


キラの問いに答える者はこの場には誰もいなかった。







その頃一一一

砂浜で眠っているクリスに数人の影が近寄ってきた。


「このお兄ちゃん寝てるのかな?」


「風邪引いちゃうよ!!」


「マルキオ様に言いに行こう!!」


その影とは孤児院に住んでいる子供達だった。


「じゃあ、私が見張ってるから貴方達で行ってきてよ!!」


少女が指示すると子供達はマルキオ導師の元に走り、残された少女はクリスの寝顔をじっと見ていると離れた所からなにかの声がした。


少女は気になりみつめると一一一


「ハロ!!ハロ!!」

ハロが飛びはねて向かってきた。

少女はハロをキャッチするとキャッチされたハロは勢いよくクリスの腹にアタックした。


「グハッ…!なんだ!?」

クリスは起き上がり辺りをみると見覚えのある物体に気付いた。


「これは…ラクスのハロ!」


アタックしたハロはクリスの目の前で飛びはねている。


「クリス!クリス!元気かぁ!?」


「なんでハロが…」


クリスがは後ろを振り向くと一人の少女が立っていた。


「このハロはキミのかな?」


少女はその問いに首を横に振った。


「それ…ラクスさんの…」


クリスは苦笑して視線をハロに戻した。


「これ以上ここにいても迷惑だろうな」


クリスは立ち上がり去ろうとするが…


「待ってください、マルキオ様が来るまでは!!」


少女に腕を強く握り締められ動きを止められてしまいクリスと少女の沈黙が続いていたがようやくマルキオ導師がやって来た。


クリスはマルキオ導師の姿に気づくとゆっくり立ち上がりマルキオ導師の所まで足を進めるとマルキオ導師はクリスに気付いたのか微かに笑った。


「お久しぶりです。……マルキオ導師」


「お久しぶりですね。クリス君」


「マルキオ様がここにいるってことは彼らもいますよね?」


「そうですね…。キミの考えている通りですよ。彼もですが彼女もここにいます」


クリスは視線を海に向けて少しだけ目を閉じたあとゆっくり歩き出した。


「どちらに?」


「帰ります。今自分が帰らなければ行けない場所に」


「そうですか。彼女にはお会いしないのですね」


マルキオの言葉にクリスは顔を俯かせる。


本当なら一言だけでもラクスと話したかった。


でも今の自分に話す権利はあるのか?


ラクスを悲しませた俺にそんな資格が。


「今は話せません。こんな俺をみられたくないから」


クリスはマルキオ導師に別れをつげてバイクに乗りその場からいなくなった。


「マルキオ様、あの人と知り合いなんですか?」


一人の少女の問いにマルキオは去りゆくクリスの背中を見つめて答えた。


「彼は大切なものを手放して今は必死に悲しみを抑えている戦士ですよ」


そう言ったマルキオの表情は悲しげであった。

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