新しき剣
クリスが戦闘機に乗ってミネルバを去ってしばらく飛んでいると急に雨が降りだした。
「嫌な雨だな。なにも起きなきゃいいけど」
それにしてもAAが無事だと仮定してどこにいるかだな。
ミネルバにやられておそらく修理に向かうとして、カガリがいるならオーブに行くか?
なら目指す先はオーブでいいよな。
クリスはとりあえずオーブを目指して飛んでいた。
クリスが海上を飛んでいると突然コックピットに警告音が響いた。
「…ん?戦闘か、一体どこで?」
クリスは戦闘がおこっている場所に向かうと戦闘されている場所では、二機の青いグフが身に覚えのない二機のMSに腕を切り裂かれてコックピットを貫かれ、二機はグフが爆発したのを見届けるとその場を去っていった。
「とりあえずコックピットは無事みたいだけど」
クリスは海に近づいてグフの爆発した場所に来ると、そこに一つの船が近づいてきて船は戦闘機に気づくと通信を入れてきた。
「その戦闘機に乗っているパイロット」
通信から聞こえてくる聞き覚えのある声にクリスはハッとした表情になり、
「まさかキサカさん?」
「その声は…クリス・アルフィードか!?」
クリスは通信の相手がキサカと分かると着艦を頼んだ。
「わかった」
キサカは許可してクリスは戦闘機を船着陸させると船の中に入っていく。
しかし…あの二機はデータで見たことがなかった。
新型か?
乗っていたのはまさかシン?
二機ということはレイか?
船に入る前にクリスはそんな事を考えていた。
「それにしてもグフに乗っていたパイロットが、アスランとメイリンとハイネだったなんて」
クリスは医務室に入って驚きながら三人を見ていた。
アスランも結局抜けたんだな。
だとしたらギルはアスランの問い掛けにちゃんと答えなかったか。
それとも濁したのか一一一
「けどどうしてメイリンとハイネまで」
俺を逃がしてくれた時も二人は協力してくれた。
ならアスランが脱走する時も協力してくれたのか?
ありがとう二人共。
「よかったよアスラン。こうして再び会えたからな。傷だらけだけどな」
クリスは微笑みながらアスランの頭を撫でて医務室を去っていった。
△▼△▼△▼
そしてAAと合流したクリスはすぐにブリッジに向かった。
「おっ…!クリスじゃねぇか!!」
ブリッジにつくとそこにはAAのクルーの他にミゲルがいた。
「よかった無事に帰ってきてくれて」
キラはクリスに近づいて安心したように息を吐く。
キラとしては心配で仕方なかったらしい。
お前だってフリーダムをやられたのに俺の心配しやがって。
「まぁ時間が掛っちまったけど、ただいま」
おかえり、とキラやカガリが返すとクリスは柔らかな笑みを浮かべるとある事に気づいた。
「キラ、ステラ達は?」
クリスの問いにキラ顔を微かに曇らせ答えた。
「彼らならムウさんのところに…」
ムウさん?
待て、ムウ・ラ・フラガはヤキンでAAを庇って戦死したはずだ。
生きていたのか?
キラの言葉にクリスは目を丸くし驚いて固まった。
「ムウさんがいるのか!?」
クリスが安心したように口を開いたがその言葉に皆の表情がどこか曇っていた。
「そういえばクリスには言ってなかったもんね」
キラはクリスを『ムウの所に案内する』と言ってブリッジから出ていくと、クリスもキラを追うようにしてブリッジを出ていった。
「艦長…」
「仕方ないわ。クリス君は知らないもの」
「あっ…クリス!!」
医務室につくとステラが嬉しそうな表情でクリスに抱きついた。
どうやら俺がキラに勝手に送ったデータをキラがパスワードを解除してステラ達用にとある機械を作ってくれたか。
今のステラの様子から成功したようだな。
「ただいま。ステラ」
クリスはステラの頭を優しく撫でながら言うとステラは犬のように擦り寄ってきた。
「クリス・アルフィードだと!?」
するとベットで寝ていた男がクリスに気づいて目を見開く。
そしてクリスもまたその人物を見て驚く。
「本当に生きていたんだなムウさん。」
クリスが苦笑しながら男に言うと、
「なんでお前までムウって言うかな?俺はネオ・ロアノーク…大佐だっつうの!!」
「はっ?」
ネオの言葉にクリスは間抜けな声を出してしまった。
どういうことだ?
どう見てもムウ・ラ・フラガ本人だ。
だが男はネオ・ロアノークと名乗っている。
困惑するクリスはキラの方に視線を向けると、
「クリス、実はムウさんは記憶がないんだ」
「記憶がない…」
キラの説明にクリスは成程な、と呟く。
「俺の事はいいとしてまさかお前が『血濡れた死神』だったなんてな。見た感じただのガキだな」
「血濡れた死神か…………懐かしいな」
「ちょっと前まで敵としか思えなかったけど今はお前には感謝してる。ステラ達を助けてくれたんだろ?」
「まだ助けてはいません。ステラ達の身体を元に戻した時が俺が本当に助けたと思える時ですから」
今はまだ三人共疑似ゆりかごが必要だ。
これを使う事がなくなり普通の人間として生まれ変わった時が本当に助けたと言えるときなのだ。
「それに皆が争わなくていい世界を創るためにもまだ俺達にはやるべき事がありますし」
クリスの言葉にキラは小さく頷いて微笑んでいた。
「それとアウルにスティング、お前達の機体の修理は完璧に終わったか?」
アウルとスティングは勿論!と答えるとどこか楽しげにアウルが口を開いた。
「あとちょっとだけどさ、前よりも性能を上げてもらってんだよね」
アウルはキラキラと目を輝かせながら話すと、アウルの様子にスティングは苦笑しながらクリスに答える。
「俺のカオスも整備は整ってる。後は新武装を考えているが、まぁ…そのうち見せてやるよクリスにもな」
「そっか…楽しみにしているぞ」
そう言い残してクリスはステラの頭を撫でるとキラと共に医務室を去っていった。
「クリス、あの子達と話してた時何か他の事とか考えていなかった?」
アスランが眠っている医務室に向かう途中でキラがそういえばと不思議そうな表情でクリスに尋ねる。
バレないと思っていたがキラにはバレていたか。
今ここにいない彼女の事がどうしても気になって仕方がない。
俺も彼女に同じような気持ちを味あわせてしまったのに。
「どうしたの?」
「いや…なんか寂しくてね」
クリスの言葉にキラは意味がわかって苦笑する。
「ラクスの事だね」
「俺が討たれた時ラクスも見ていただろ?だから…泣かせてしまったなら」
「そうだね。本当は言うつもりはなかったけど、スピリットが爆発した時ラクスはカガリに抱きしめられながら泣いていたんだ。あんな風に泣いているラクスは初めて見たよ。(そして僕はその時何も出来なかった)」
キラの脳裏によぎるあの時の光景。
ラクスはあの時本気で涙を流していた。
クリスの名前を何度も呼びながら。
僕は胸が締め付けられる感覚も味わって何もできなかった自分の無力さに唇を噛んでしまった。
クリスはキラの話しを聞き終えると一度目を閉じて息を吐くと、次の瞬間には真剣な表情を浮かべていた。
「必ず会いに行く」
「……ラクスもきっと同じ想いだよ」
そして二人の想いが一緒なのが僕には羨ましく思う。
ナツメ一一一
キミに会いたいよ。
僕は信じているよ。ナツメは生きているって。
クリスとキラが医務室の前に辿り着くと、
「お前ら三人とも何やってんだ?」
三人とはミゲルとラスティとニコルがドアの前にいてコソコソ話をしていた。
「あぁ…帰ってきてたんですねクリス」
「心配したんだぜ、なかなか帰ってこないし」
ニコルとラスティは笑いながらクリスに言うとクリスは軽く謝罪した。
「ところで皆さんなぜここに?」
キラが三人に聞くと三人はニヤリと笑った。
「そりゃあ……なっ!」
「はい!!」
「面白い事をすんだよ」
三人はアスランにイタズラを実行するためにここいたらしい。
「アスランが驚くだろうな」
アスランのリアクションを想像するクリスは苦笑している。
「そのまま天国にいかなきゃいいがな」
ミゲルは苦笑しながら縁起でもない事を呟く。
「とりあえず…入ろうぜ」
ラスティが声を掛けて医務室のドアを開け五人が医務室に入るとアスランはまだ眠っていた。
「じゃあ…作戦通りな」
ミゲル達は配置についてニヤリと笑っていた。
「本当に子供だな三人とも」
クリスは三人の行動に呆れキラは苦笑していた。
すると一一一
「ウッ…ウッ…!!」
アスランが微かにだが目を開けた。
「アスラン」
「キラ…!!クリス…!!」
アスランは二人の姿を目にして涙を浮かべながらが起き上がろうとした時だった、
「アスラン!無茶はいけませんよ」
「怪我はまだ治っていないだろ」
「そうだぜアスラン。ミゲルの言う通りだ」
三人がアスランに話し掛けて笑っていた。
それにより医務室が静寂に包まれると、
「…そうか…そうか…俺は夢をみてるんだな。じゃなきゃAAにニコル達がいるはずなしきっとそうに違いない」
だからこれは夢なんだなとアスランはハハハと笑ってベットに倒れて再び気絶するように眠ってしまった。
「やりすぎたな…」
「アスランのリアクション日々進化していますね」
「でも楽しかったな」
三人は苦笑しながら医務室を出ていった。
アイツラ本当にイタズラの為だけに医務室に来たんだな。
アスランが気絶したらさっさといなくなりやがった。
「これじゃあしばらくは起きないだろうなアスランは」
「そうだね」
クリスとキラは苦笑しながら椅子に腰かけた。
二人はアスランが目覚めるまで話をしていく。
ヤキンが終わってからのお互いの出来事を。
アスランが倒れてしばらく時間がたったが、
「ウッ…ウッ…」
再びアスランは目を開けて辺りを確認した。
「やっぱり夢だったか…」
アスランは溜め息をついて痛む体をガマンしながら起き上がった。
「夢に思えたか?」
クリスが溜め息をついて言ったがアスランはクリスの言葉を聞き流してキラと話した。
「キラ…お前…生きていたのか…」
アスランはキラのフリーダムがインパルスに貫かれた場面が脳裏に浮かんでいた。
「うん。カガリに助けられたよ。AAもかなりのダメージだったけど…なんとかオーブまでたどり着けた」
キラの言葉にアスランは涙を浮かべつつも笑っていた。
「アスラン、聞きたい事があるんだけど」
クリスの問い掛けにアスランはゆっくり首を傾げる、
「アスランが脱走したのは分かる。だがメイリンやハイネまでついてきたのは何故だ?」
「実は俺が兵士から逃げていたらたまたまメイリンの部屋に入ってしまってな。彼女に甘えて助けてもらったんだ。ハイネはお前が示した答えをみたいからって言って俺についてきてくれたんだ」
やっぱりメイリンもハイネも俺の時と同じようにアスランに協力してくれたんだな。
「……ギルはやっぱりお前にちゃんと答えてはくれなかったんだな」
「……あぁ」
悲しげな表情を浮かべるクリスにアスランは顔を曇らせ頷いた。
ギルはアスランの問にこう答えたらしい。
自分達はロゴスを滅ぼす為に戦っている。
そのロゴスとの戦いでAAやフリーダムが介入してくる可能性が高い。
何せ連合にオーブが与しているから。
そして彼等は不幸だとも。
戦士の資質と力を持ちながらそれを知らないまま時代に翻弄されたキラ・ヤマト。
民衆を言葉で大きく動かす力を持ちながら役割を放棄したラクス・クライン。
たった一人で戦場を終わらせる力と人々を率いる力を持ちながらそれを宝の持ち腐れにしているクリス・アルフィード。
彼等がその力を正しく使っていれば世界に対してどれ程の事が出来たのかと考えると残念だよと。
人は自分を知りできる事をして社会に役立ち満ち足りて生きることが幸せだろ?
全ての人がそうやって幸福に生きる世界なら戦争など起こりはしないと。
「………そっか」
「…クリス」
顔を俯かせて曇らせるクリスにアスランは不安げな表情を浮かべる。
ギルが作ろうとしている世界はそんな世界だったんだな。
人に役割を与えそれだけをやらせる世界。
そこに本人の自由は存在しない。
あるのは与えられた役割をこなすだけの一一一
「………そんな世界僕は嫌だな」
「「キラ」」
三人がしばらく議長の事を話していると、
「大変です!キラさん!クリス!ヘブンズベースが」
医務室に慌ててニコルが入ってきた。
「ニコル!?」
突然現れたニコルにアスランは目を見開いて驚いていたが、
「アスラン、久しぶりですね。そんなことより大変なんです!!」
ニコルはアスランに呼ばれたが、先程イタズラをかましたこともあり気にはしなかった。
「それよりどうしたんだ?ヘブンズベースが大変って」
「どうやらヘブンズベースで戦闘が始まったようなんです!!」
「「!!」」
ニコルの言葉にキラとクリスは驚いた。
「まさか…こんなに早く行動するとはな」
まさかヘブンズベースでの戦いがこんなに早くに始まろうとしていたとは。
「ヘブンズベースは落ちる。ザフトにはミネルバがいるからな」
クリスはそう口を開きアスランを見つめると、アスランは小さく頷いて口を開いた。
「クリスの言う通りだ。ミネルバには新しく配属されたパイロットもいるからな…」
「新しいパイロット?」
「俺もよくは知らないんだ。ジブラルタル基地で議長が言ってたのをたまたま聞いただけで」
このタイミングでミネルバに新しいパイロット。
俺やアスランやハイネの代わりとなると相当実力があるはずだ。
初陣がヘブンズベースならおそらく一一一
「ニコル、トゥルースは全機発進できるようになってる?」
「はい。ですが何故それを?」
ニコルの問いにクリスは真剣な表情で答えた。
「ジブリールがヘブンズベースで捕まるはずがないだろ。そうなるとアイツが来るのはオーブだ」
クリスの言葉にキラやアスランが驚いた。
「それにギルは自分の意に従わない者を放ってはおかないはず。アスランやハイネがいい例だしな。そしてオーブは強力な意志や戦力を持っている…」
クリスの脳裏に一瞬だがナツメの姿がうつった。
姉さん一一一
アナタがミネルバにいるなら必ず戦うことになる。
「オーブを守りで固めるんだ。手遅れにならないうちに…」
止めてみせる。
後悔はしたくないから。
「嫌な雨だな。なにも起きなきゃいいけど」
それにしてもAAが無事だと仮定してどこにいるかだな。
ミネルバにやられておそらく修理に向かうとして、カガリがいるならオーブに行くか?
なら目指す先はオーブでいいよな。
クリスはとりあえずオーブを目指して飛んでいた。
クリスが海上を飛んでいると突然コックピットに警告音が響いた。
「…ん?戦闘か、一体どこで?」
クリスは戦闘がおこっている場所に向かうと戦闘されている場所では、二機の青いグフが身に覚えのない二機のMSに腕を切り裂かれてコックピットを貫かれ、二機はグフが爆発したのを見届けるとその場を去っていった。
「とりあえずコックピットは無事みたいだけど」
クリスは海に近づいてグフの爆発した場所に来ると、そこに一つの船が近づいてきて船は戦闘機に気づくと通信を入れてきた。
「その戦闘機に乗っているパイロット」
通信から聞こえてくる聞き覚えのある声にクリスはハッとした表情になり、
「まさかキサカさん?」
「その声は…クリス・アルフィードか!?」
クリスは通信の相手がキサカと分かると着艦を頼んだ。
「わかった」
キサカは許可してクリスは戦闘機を船着陸させると船の中に入っていく。
しかし…あの二機はデータで見たことがなかった。
新型か?
乗っていたのはまさかシン?
二機ということはレイか?
船に入る前にクリスはそんな事を考えていた。
「それにしてもグフに乗っていたパイロットが、アスランとメイリンとハイネだったなんて」
クリスは医務室に入って驚きながら三人を見ていた。
アスランも結局抜けたんだな。
だとしたらギルはアスランの問い掛けにちゃんと答えなかったか。
それとも濁したのか一一一
「けどどうしてメイリンとハイネまで」
俺を逃がしてくれた時も二人は協力してくれた。
ならアスランが脱走する時も協力してくれたのか?
ありがとう二人共。
「よかったよアスラン。こうして再び会えたからな。傷だらけだけどな」
クリスは微笑みながらアスランの頭を撫でて医務室を去っていった。
△▼△▼△▼
そしてAAと合流したクリスはすぐにブリッジに向かった。
「おっ…!クリスじゃねぇか!!」
ブリッジにつくとそこにはAAのクルーの他にミゲルがいた。
「よかった無事に帰ってきてくれて」
キラはクリスに近づいて安心したように息を吐く。
キラとしては心配で仕方なかったらしい。
お前だってフリーダムをやられたのに俺の心配しやがって。
「まぁ時間が掛っちまったけど、ただいま」
おかえり、とキラやカガリが返すとクリスは柔らかな笑みを浮かべるとある事に気づいた。
「キラ、ステラ達は?」
クリスの問いにキラ顔を微かに曇らせ答えた。
「彼らならムウさんのところに…」
ムウさん?
待て、ムウ・ラ・フラガはヤキンでAAを庇って戦死したはずだ。
生きていたのか?
キラの言葉にクリスは目を丸くし驚いて固まった。
「ムウさんがいるのか!?」
クリスが安心したように口を開いたがその言葉に皆の表情がどこか曇っていた。
「そういえばクリスには言ってなかったもんね」
キラはクリスを『ムウの所に案内する』と言ってブリッジから出ていくと、クリスもキラを追うようにしてブリッジを出ていった。
「艦長…」
「仕方ないわ。クリス君は知らないもの」
「あっ…クリス!!」
医務室につくとステラが嬉しそうな表情でクリスに抱きついた。
どうやら俺がキラに勝手に送ったデータをキラがパスワードを解除してステラ達用にとある機械を作ってくれたか。
今のステラの様子から成功したようだな。
「ただいま。ステラ」
クリスはステラの頭を優しく撫でながら言うとステラは犬のように擦り寄ってきた。
「クリス・アルフィードだと!?」
するとベットで寝ていた男がクリスに気づいて目を見開く。
そしてクリスもまたその人物を見て驚く。
「本当に生きていたんだなムウさん。」
クリスが苦笑しながら男に言うと、
「なんでお前までムウって言うかな?俺はネオ・ロアノーク…大佐だっつうの!!」
「はっ?」
ネオの言葉にクリスは間抜けな声を出してしまった。
どういうことだ?
どう見てもムウ・ラ・フラガ本人だ。
だが男はネオ・ロアノークと名乗っている。
困惑するクリスはキラの方に視線を向けると、
「クリス、実はムウさんは記憶がないんだ」
「記憶がない…」
キラの説明にクリスは成程な、と呟く。
「俺の事はいいとしてまさかお前が『血濡れた死神』だったなんてな。見た感じただのガキだな」
「血濡れた死神か…………懐かしいな」
「ちょっと前まで敵としか思えなかったけど今はお前には感謝してる。ステラ達を助けてくれたんだろ?」
「まだ助けてはいません。ステラ達の身体を元に戻した時が俺が本当に助けたと思える時ですから」
今はまだ三人共疑似ゆりかごが必要だ。
これを使う事がなくなり普通の人間として生まれ変わった時が本当に助けたと言えるときなのだ。
「それに皆が争わなくていい世界を創るためにもまだ俺達にはやるべき事がありますし」
クリスの言葉にキラは小さく頷いて微笑んでいた。
「それとアウルにスティング、お前達の機体の修理は完璧に終わったか?」
アウルとスティングは勿論!と答えるとどこか楽しげにアウルが口を開いた。
「あとちょっとだけどさ、前よりも性能を上げてもらってんだよね」
アウルはキラキラと目を輝かせながら話すと、アウルの様子にスティングは苦笑しながらクリスに答える。
「俺のカオスも整備は整ってる。後は新武装を考えているが、まぁ…そのうち見せてやるよクリスにもな」
「そっか…楽しみにしているぞ」
そう言い残してクリスはステラの頭を撫でるとキラと共に医務室を去っていった。
「クリス、あの子達と話してた時何か他の事とか考えていなかった?」
アスランが眠っている医務室に向かう途中でキラがそういえばと不思議そうな表情でクリスに尋ねる。
バレないと思っていたがキラにはバレていたか。
今ここにいない彼女の事がどうしても気になって仕方がない。
俺も彼女に同じような気持ちを味あわせてしまったのに。
「どうしたの?」
「いや…なんか寂しくてね」
クリスの言葉にキラは意味がわかって苦笑する。
「ラクスの事だね」
「俺が討たれた時ラクスも見ていただろ?だから…泣かせてしまったなら」
「そうだね。本当は言うつもりはなかったけど、スピリットが爆発した時ラクスはカガリに抱きしめられながら泣いていたんだ。あんな風に泣いているラクスは初めて見たよ。(そして僕はその時何も出来なかった)」
キラの脳裏によぎるあの時の光景。
ラクスはあの時本気で涙を流していた。
クリスの名前を何度も呼びながら。
僕は胸が締め付けられる感覚も味わって何もできなかった自分の無力さに唇を噛んでしまった。
クリスはキラの話しを聞き終えると一度目を閉じて息を吐くと、次の瞬間には真剣な表情を浮かべていた。
「必ず会いに行く」
「……ラクスもきっと同じ想いだよ」
そして二人の想いが一緒なのが僕には羨ましく思う。
ナツメ一一一
キミに会いたいよ。
僕は信じているよ。ナツメは生きているって。
クリスとキラが医務室の前に辿り着くと、
「お前ら三人とも何やってんだ?」
三人とはミゲルとラスティとニコルがドアの前にいてコソコソ話をしていた。
「あぁ…帰ってきてたんですねクリス」
「心配したんだぜ、なかなか帰ってこないし」
ニコルとラスティは笑いながらクリスに言うとクリスは軽く謝罪した。
「ところで皆さんなぜここに?」
キラが三人に聞くと三人はニヤリと笑った。
「そりゃあ……なっ!」
「はい!!」
「面白い事をすんだよ」
三人はアスランにイタズラを実行するためにここいたらしい。
「アスランが驚くだろうな」
アスランのリアクションを想像するクリスは苦笑している。
「そのまま天国にいかなきゃいいがな」
ミゲルは苦笑しながら縁起でもない事を呟く。
「とりあえず…入ろうぜ」
ラスティが声を掛けて医務室のドアを開け五人が医務室に入るとアスランはまだ眠っていた。
「じゃあ…作戦通りな」
ミゲル達は配置についてニヤリと笑っていた。
「本当に子供だな三人とも」
クリスは三人の行動に呆れキラは苦笑していた。
すると一一一
「ウッ…ウッ…!!」
アスランが微かにだが目を開けた。
「アスラン」
「キラ…!!クリス…!!」
アスランは二人の姿を目にして涙を浮かべながらが起き上がろうとした時だった、
「アスラン!無茶はいけませんよ」
「怪我はまだ治っていないだろ」
「そうだぜアスラン。ミゲルの言う通りだ」
三人がアスランに話し掛けて笑っていた。
それにより医務室が静寂に包まれると、
「…そうか…そうか…俺は夢をみてるんだな。じゃなきゃAAにニコル達がいるはずなしきっとそうに違いない」
だからこれは夢なんだなとアスランはハハハと笑ってベットに倒れて再び気絶するように眠ってしまった。
「やりすぎたな…」
「アスランのリアクション日々進化していますね」
「でも楽しかったな」
三人は苦笑しながら医務室を出ていった。
アイツラ本当にイタズラの為だけに医務室に来たんだな。
アスランが気絶したらさっさといなくなりやがった。
「これじゃあしばらくは起きないだろうなアスランは」
「そうだね」
クリスとキラは苦笑しながら椅子に腰かけた。
二人はアスランが目覚めるまで話をしていく。
ヤキンが終わってからのお互いの出来事を。
アスランが倒れてしばらく時間がたったが、
「ウッ…ウッ…」
再びアスランは目を開けて辺りを確認した。
「やっぱり夢だったか…」
アスランは溜め息をついて痛む体をガマンしながら起き上がった。
「夢に思えたか?」
クリスが溜め息をついて言ったがアスランはクリスの言葉を聞き流してキラと話した。
「キラ…お前…生きていたのか…」
アスランはキラのフリーダムがインパルスに貫かれた場面が脳裏に浮かんでいた。
「うん。カガリに助けられたよ。AAもかなりのダメージだったけど…なんとかオーブまでたどり着けた」
キラの言葉にアスランは涙を浮かべつつも笑っていた。
「アスラン、聞きたい事があるんだけど」
クリスの問い掛けにアスランはゆっくり首を傾げる、
「アスランが脱走したのは分かる。だがメイリンやハイネまでついてきたのは何故だ?」
「実は俺が兵士から逃げていたらたまたまメイリンの部屋に入ってしまってな。彼女に甘えて助けてもらったんだ。ハイネはお前が示した答えをみたいからって言って俺についてきてくれたんだ」
やっぱりメイリンもハイネも俺の時と同じようにアスランに協力してくれたんだな。
「……ギルはやっぱりお前にちゃんと答えてはくれなかったんだな」
「……あぁ」
悲しげな表情を浮かべるクリスにアスランは顔を曇らせ頷いた。
ギルはアスランの問にこう答えたらしい。
自分達はロゴスを滅ぼす為に戦っている。
そのロゴスとの戦いでAAやフリーダムが介入してくる可能性が高い。
何せ連合にオーブが与しているから。
そして彼等は不幸だとも。
戦士の資質と力を持ちながらそれを知らないまま時代に翻弄されたキラ・ヤマト。
民衆を言葉で大きく動かす力を持ちながら役割を放棄したラクス・クライン。
たった一人で戦場を終わらせる力と人々を率いる力を持ちながらそれを宝の持ち腐れにしているクリス・アルフィード。
彼等がその力を正しく使っていれば世界に対してどれ程の事が出来たのかと考えると残念だよと。
人は自分を知りできる事をして社会に役立ち満ち足りて生きることが幸せだろ?
全ての人がそうやって幸福に生きる世界なら戦争など起こりはしないと。
「………そっか」
「…クリス」
顔を俯かせて曇らせるクリスにアスランは不安げな表情を浮かべる。
ギルが作ろうとしている世界はそんな世界だったんだな。
人に役割を与えそれだけをやらせる世界。
そこに本人の自由は存在しない。
あるのは与えられた役割をこなすだけの一一一
「………そんな世界僕は嫌だな」
「「キラ」」
三人がしばらく議長の事を話していると、
「大変です!キラさん!クリス!ヘブンズベースが」
医務室に慌ててニコルが入ってきた。
「ニコル!?」
突然現れたニコルにアスランは目を見開いて驚いていたが、
「アスラン、久しぶりですね。そんなことより大変なんです!!」
ニコルはアスランに呼ばれたが、先程イタズラをかましたこともあり気にはしなかった。
「それよりどうしたんだ?ヘブンズベースが大変って」
「どうやらヘブンズベースで戦闘が始まったようなんです!!」
「「!!」」
ニコルの言葉にキラとクリスは驚いた。
「まさか…こんなに早く行動するとはな」
まさかヘブンズベースでの戦いがこんなに早くに始まろうとしていたとは。
「ヘブンズベースは落ちる。ザフトにはミネルバがいるからな」
クリスはそう口を開きアスランを見つめると、アスランは小さく頷いて口を開いた。
「クリスの言う通りだ。ミネルバには新しく配属されたパイロットもいるからな…」
「新しいパイロット?」
「俺もよくは知らないんだ。ジブラルタル基地で議長が言ってたのをたまたま聞いただけで」
このタイミングでミネルバに新しいパイロット。
俺やアスランやハイネの代わりとなると相当実力があるはずだ。
初陣がヘブンズベースならおそらく一一一
「ニコル、トゥルースは全機発進できるようになってる?」
「はい。ですが何故それを?」
ニコルの問いにクリスは真剣な表情で答えた。
「ジブリールがヘブンズベースで捕まるはずがないだろ。そうなるとアイツが来るのはオーブだ」
クリスの言葉にキラやアスランが驚いた。
「それにギルは自分の意に従わない者を放ってはおかないはず。アスランやハイネがいい例だしな。そしてオーブは強力な意志や戦力を持っている…」
クリスの脳裏に一瞬だがナツメの姿がうつった。
姉さん一一一
アナタがミネルバにいるなら必ず戦うことになる。
「オーブを守りで固めるんだ。手遅れにならないうちに…」
止めてみせる。
後悔はしたくないから。