分かたれし道

「やっぱり簡単には行かせてくれないな」


銃を片手に持って壁に隠れながらクリスは前方を見ていた。

クリスは気づいているが、相手はまだクリスに気づいていないようだが、


「おいっ!!いたか!?」


「いやっ…!こっちにはいない!!」


「議長の命令だ!!クリスを必ず見つけるんだ!」


前方には一一一
ハイネ・シン・レイや兵士達がいる。


「どうする…」


クリスはどうするか考える。

あの三人を無効化してさらに兵士達から逃げて格納庫まで行くとなるとかなり難しい。

だがこのままここにいれば遅かれ早かれ見つかるだろう。

もう悩んでる暇はないか、とクリスが覚悟を決めた時だった、


「クリス!良かった!まだ捕まってなかったのね」

「…ッ!メイリン?」


クリスの背後から息を切らしたメイリンがいて一瞬肩を揺らすがすぐに冷静な表情になる。


「大変よクリス。多分クルーの誰かが司令部にクリスが生きていたことを報告したみたいで、すぐに司令部からクリスを捕らえろって命令がきたみたいなの」

「やっぱり俺を捕らえるために動いたか」


ギルからしたら嬉しい誤算だろ。

戦死していたと思っていた俺が生きていたのだ。

しかも俺はミネルバの艦内にいる。

捕える事など造作もないはずだ。

クリスは頭を抱えて悩んでいたが今は時間がない。

そうなるとできる事は一つしかない。


「メイリン、すまない!」


クリスはメイリンの腕を軽く固めて耳元で囁いた。



「おいっ!!見つけたぞ!!」

「くそっ…!!」


兵士達がクリスに銃を構えながら道を塞ぐと、その声が聞こえたかのように他の兵士達もこちらに来ていた。


「クリス…」


メイリンが心配そうにクリスを見上げている。


「メイリン、いまから俺が言うことに従ってくれ」

「うん…」


クリスはメイリンの耳元で何かをコソッと呟くがその隙に兵士達が一歩歩き出した瞬間、


「動くな!!」

「「「!!!」」」


クリスはメイリンの頭に銃を押し付けて兵士達を止めた。


「動くな…!もし動いたら彼女の命はない…っ!!」

「クリス!!」

「こんなことをしていいと思っているのか!?」

「お願いクリス!メイリンを離して」

「シン…レイ…ルナマリア」


クリスは三人の姿を見て真剣な顔付きになり口を開いた。


「お前達が退いてくれたらメイリンは離してやる」


クリスはそう告げて微かに笑みを浮かべながらメイリンを人質にしてその場を去っていった。






「すまないなメイリン…」


格納庫に向かう途中クリスは不意にメイリンに言うと、


「私思うんだ。クリスが今やっていることって多分間違っていないって。クリスは意味があってこんな事をしているって」

「メイリン…」


本当にすまないメイリン。

こんな事に巻き込んでしまって。

そしてありがとう。






クリスはメイリンを人質にしたまま格納庫に来ると、身に覚えのある男が銃を肩に置いた状況で戦闘機に寄りかかっている事に気づいて足を止めた。


「……ハイネ」

「ここまでだなクリス」


クリスの目の前にいるハイネはゆっくりと銃を構えて真剣な表情を浮かべていた。


「一つだけ聞かせてもらうぜクリス。お前は答えを見つけたのか?」

「あぁ。俺の行くべき道はアイツらと一緒にこの世界を救うことだ。そしてザフトではそれができない」

「………そっか」


クリスの言葉にハイネは笑みを浮かべたまま銃をおろすと、


「お前らクリスに銃を向けるな。その銃をおろしてやれ」

「ハイネ…」

「一度だけだ。一度だけお前を見逃してやる。だから早く行け」

「だが!そんな事したらハイネ………お前はっ!!」


ギルが許すはずがない。

下手すれば裏切り者を逃がしたとして重刑。

銃殺される可能性だってある。

それなのにハイネ一一一


「早く行け!!俺の覚悟を無駄にすんな!」


クリスは驚いたが小さく頷いて戦闘機のコックピットに向かった。


「ありがとうなメイリン。また違う場所で会える事を祈るよ」

「クリスも気を付けて」


クリスはコックピットに乗り込み一度だけハイネやメイリンに視線を向けると、ハイネもメイリンも最後の別れとも思わせないような笑顔を浮かべていた敬礼していた。

そしてクリスもそれに返すように敬礼すると、戦闘機を発進させてミネルバから去っていった。

「ばいばい………ミネルバ」




決別を果たした一一一


もう迷う事はない。


俺はアイツらと行く道を選ぶ。


全てを救うために。
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