目覚めと混迷

「まだ目を覚まさないのか?」

「はい…まだ眠ったままです」

「このまま目を覚まさなかったりして?」


白い部屋に白いベッドに眠るクリスの周りに三人の男が立ちながら話をしている。


「まぁ生きてんだから、大丈夫だろうな」


一人の青年が眠るクリスの頭を優しく撫でているとクリスの目がゆっくり開いて目を覚ました。


「…グッ!」

「「「クリス!!」」」


クリスは痛む身体をなんとか動かして自分を呼ぶ声の方を向いて目を見開いて驚いた。


何故ならそこにいたのは一一一


「ニコル…ミゲル…ラスティ」


クリスはあまりの衝撃的光景に身体を動かすがやはり痛むのか身体中に痛みが走り苦痛の声が口から出てしまう。


「…ッ!」


「駄目ですよクリス!!アナタは大怪我をしていたんですから」


身体を起こすクリスの身体をニコルが優しく受け止めると、クリスはまだ信じられないのか目を丸くしている。


「お前ら…あの時…死んだはず」

ラスティは地球軍のMSを強奪する時に撃たれて、ミゲルとニコルはキラの乗るストライクに撃墜されて死んだはずだ。

それなのにどうして?


「勝手に殺すな!」


ミゲルはクリスの頬を軽く引っ張って怒鳴り始める。


「ミゲルもニコルも機体が爆破したはずだ。脱出なんて出来なかっただろ?」

「それが不思議なんだよな。俺もニコルもラスティも目を覚ましたら病院にいたんだよ」

「誰かが助けたってこと?」


「そういうことだ。とりあえず今は怪我を治すことに専念しろ」


ラスティはクリスの髪をワシャワシャと撫でると部屋から去っていき、


「僕も仕事が残っているので、また来ます」

「しっかり眠ってろよ」


ニコルとミゲルもまたやるべき事があるようで部屋から去っていくと、クリスはベッドに身体を沈めて白い天井を見上げる。

あの三人が生きていたなんてな。

誰が助けたか分からないが、俺もまた死ねなかったようだ。


「姉さんもまだまだ甘いな」


身体が動かないが俺の脳裏によぎるのはミネルバのクルーやキラ達。

そして一一一


「…………ラクス」


きっと彼女はAAでスピリットが撃墜したのを目にしたはずだ。

もしかしたら俺はまた彼女を悲しませたかもしれない。

ごめんなラクス一一一






クリスが謎の場所に来て数日がおそらく過ぎていた。


「怪我も治ってきたんじゃないの?」


「三人のお陰だ。礼を言う」


「礼はいらねぇよ」


ラスティはクリスの手を取るとクルリと進路を変えた。


「ラスティ?」


「来いよ、ミゲルとニコルが待ってるぜ」


クリスはラスティに引っ張られてある場所に連れていかれた。


「おっ…!やっときたか?」

「遅いですよラスティ」


「すまんすまん…!道に迷っちまって」


クリスはラスティに連れてこられた場所にやってきて、そこの場所の明かりが着くとクリスの目の前には一機のMSが佇んでいた。


「スピリット?いや、スピリットに似ている?」

「正確にはお前が乗ってたスピリットのデータを元に俺達で新しく創ったんだよ」


「……そうなのか」


クリスは目の前に佇むMSを真剣な表情で見つめていた。


「クリス、今のお前には力がないだろ?」

「なにかをしたくても力が無ければいけません」

「ミゲル、ニコル」


クリスは三人に頭を下げて礼を言うと微かに笑みを浮かべて機体を見つめた。


「クリスの怪我はもう少しで治ります。ですから後は僕達の機体を早く完成させないと」

「ニコル達も戦うのか?」

「あぁ、お前にだけ無理はさせねぇよ。俺達もこの戦いを止めるために戦う」

「ありがとう」

「元クルーゼ隊集結だな!」


四人は拳をぶつけて笑い合う。

かつての仲間の再会はクリスに嬉しさと驚愕を与えたのであった。








クリス達が新たに動き出した頃、オーブ軍を味方にしている地球軍とミネルバが再びぶつかり合う。

その戦いにもまたAAの二度目の介入があり両陣営のみ分けとなる結果になってしまった。


ミネルバはインパルスを除いて全MSの大破にハイネとルナマリアが重症。

地球軍はアビスを失ってオーブ軍の旗艦タケミカヅチはシンのインパルスによって撃墜。


そして…フリーダムによって機体を大破したセイバーのパイロットのアスランは自室で頭を抱えていた


『これは仕方のない事だって!全てオーブとカガリのせいだってそう言って君は撃つのか!!カガリが今守ろうとしているものを!!』


キラに言われた言葉。

本当に自分は正しかったのか?


アスランは悲痛な表情を浮かべ拳を握り締めるその力に全く力は入っていなかった。


「なんで…またこんなことに…」


クリスも死んでしまった。

また俺は仲間を失ってしまった。

アスランの脳裏によぎるかつての仲間達。


「………バカ野郎」


アスランの瞳から流れる一筋の涙。

今のアスランにその涙を止める方法は存在しなかった。






そして…AAの方ではタケミカヅチと共に命をおとしたトダカ一佐の遺言をアマギがカガリに伝えていた


「今日、無念に散った者たちの為にも。それがトダカ一佐の最後の言葉でした」


トダカの遺言にキラやAAのクルーはその偉大さを想像できた。


「幾たびもご命令を背いて戦い、艦や多くの兵を失いました事は誠にお詫びのしようもございません!!」


アマギを始めとするオーブの軍人達がカガリに頭を下げた。


「ですが…どうか!!トダカ一佐と我らの苦渋をおわかり下さいますのならこの後は我らもAAと共にどうか!!」


アマギの言葉にカガリは駆け寄り手をとって逆に頭を下げた。


「アマギ一尉…そんな…私の方こそ…すまぬ!!…すまない……っ!!」


アマギは逆にカガリに詫びられて驚いた。


「カガリ様…!!」

「私が愚かだったばかりに…!非力だったばかりに!オーブの大事な心ある者達を…!!」


心ある者一一一

それは無念に散った者達一一一

命をかけてオーブの理念を守ろうとした者達一一一


カガリは涙を流して泣き崩れそうになったがアマギがそんなカガリを支えた。


「私は……私は…!!」

「いえっ…カガリ様!!いえ……っ!!」


アマギもオーブ軍人もカガリと同じように涙を流していると、少し離れた場所にいたキラはカガリに近づいてオーブ軍人を見渡した。


「今僕達に分かっているのは、このままじゃダメだって言う事だけです」

「キラ・ヤマト…」

「でも何をどうしたら良いのかは、僕達には分からない。おそらくザフトを討ってもダメだし、地球軍を討ってもダメだ。そんな事はもう散々やってきたんですから…」


キラの脳裏によぎるのは先の大戦の核とジェネシス

そして…クリスの死一一一


「僕達も戦い続けるから、本当はダメなのかもしれない。僕達はたぶんみんな、きっとプラントも地球も幸せに暮らせる世界を欲しいだけなんです…だから…あの…」


キラは戸惑って先が言えなくなったが、


「だから…あの皆さんもそう思うなら…僕達と…」


「もちろんです…キラ様」


キラが言い終える前にアマギが答えると同時にアマギとオーブ軍人はキラに敬礼をすると、キラはそういうのに慣れていなく慌てているとそれを見てマリューが苦笑していた。





話も終わりキラがブリッジから出ようとした瞬間に、ミリアリアがブリッジにやって来た。


「キラ!ちょうどよかった!!」


「どうしたのミリアリア?」


息をきらしてブリッジにきたミリアリアにキラは首を傾げていると、



「あの男の子が目を覚ましたのよ!!」


「本当に!よかった」


ミリアリアはキラの手を引っ張って医務室に向かった。






「調子はどう?」


キラは椅子に腰かけて少年に話し掛ける。


「大丈夫。それよりアンタは?」


「僕はキラ・ヤマト…キミは?」


「僕はアウル………アウル・ニーダ」


「ミリアリアから聞いたよ。キミはクリスの事を知ってるみたいだけどどこかで会ったのかい?」


キラの言葉にアウルの脳裏にはスピリットが貫かれた場面がよぎった。


「クリスは!アイツはここにいるのか!?無事なのか!?」

「…クリスは…」


キラは拳を握り締め顔を伏せて答える事が出来なかった。

アウル同様にキラもまたスピリットが貫かれ爆破した光景が脳裏に浮かび、悲しげに俯くキラに気づいたのかミリアリアが変わるように椅子に座ると、


「キラ、この子は私に任せて。アナタはちょっと休みなさいよ」


ミリアリアの言葉にキラは小さく頷いて医務室を出ていった。


「クリス、キミは本当に…」


キラは未だに信じられなかった。

自分達の目の前でスピリットが貫かれた時時が止まった。

スピリットが貫かれた時僕は何が起こったのか理解できなかった。

あの時ラクスがクリスの名を叫んだ時に僕は我に返って、スピリットが撃墜した場所に向かったけどそこに残っていたのはスピリットの残骸とクリスの被っていたヘルメットだけだった。

AAに戻った時泣いていたラクスをカガリが抱きしめていた時僕は何も出来なかった。

僕は言葉すらかけてあげられなかった。


「………クリス」


キラは思い切り壁を殴りつける。

その衝撃で拳から血が流れていたが今は痛みが感じられなかった。


『これも運命だから…』


クリスが最後に言った言葉一一一

キミは運命だから死を受け入れたの?

もしそうなら僕はキミを絶対に許せない。

キミがとった行動は誰もが悲しむ行動なのにどうしてキミは分からなかったの?


「ナツメ、僕はやっぱり弱いままだ。アナタがいないと僕は………」


キラもまた瞳に涙を浮かべる。

かつてのヤキンで愛した人を失った。

そして今回は大切な仲間を一一一

僕はあの時から何も変わっていなかったんだ。






「僕、アンタをどっかで見たことあるんだよな?」


アウルはミリアリアを見つめながら口を開く。


「一度だけ会ったでしょ?ディオキアで」


ミリアリアの言葉にアウルは思い出して悲しい表情を浮かべる。


「僕は…生きててよかったのかな?」


「どうしたのいきなり?そんなこと言って」


「クリスがいないのに僕なんかが生きて」


アウルは泣いてはいないがその表情は今にも泣きそうな表情だった。

クリスは自分達を救うと言ってくれた。

だから僕達はその言葉を信じてみたくなった。

ナツメと戦ったのもクリスを信じようと決めたからだ。

それなのに一一一


「……アウル」


ミリアリアはアウルの手をギュッと握って柔らかな笑みを浮かべながら再び口を開く。


「そんな弱気な事を言っちゃ駄目よ。逆に生きてた事に感謝しなきゃ」

「アンタって変な奴だな」


アウルはミリアリアの行動に苦笑していると、


「それよりあなたって他に仲間が二人いたわよね」

「スティングは、まだあそこにいると思う…」

「じゃあ…ステラって子は?」

「…ステラ…?」

「えぇ、どうしたの?」


ふとアウルはようやく思い出したのだ。

出撃前に忘れていた大事な事を。


「……ッ!そうか…!ようやく思い出した。あそこにアイツがいなかったから…」

「…アウル?」

「ステラ、この前から行方不明で僕やスティングの記憶から………消されたんだ」

「仲間の記憶を消してしまうなんて…ひどい!!

「お偉いさんは何とも思ってないんだよ。俺達は結局駒にしかすぎないからね」


諦めたように話すアウルの言葉にミリアリアは怒りと驚愕を感じていた。


「アウルはそれでよかったの?」

「…分からない」


ミリアリアは悲しそうな表情で話すアウルを見てクリスが彼らを救いたいと思っていた事に納得した。


「辛いかもしれない。けど今はゆっくり休みなさい」

「…うん」


アウルはそう言って目を閉じたると、ミリアリアはそれを確認して一度頭を優しく撫でてブリッジに向かった。
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