始まりの物語

C.E.73―ーー

プラント・アーモリーワンで一人の男がMSの近くで佇んでいた。


「クリス~!」


クリスと呼ばれた男は呼ばれた方を振り返った。

「どうした、ルナマリア?」

「いやっ…!その…話がしたかっただけよいけなかった?」

「構わないよ…何を話したいんだ?」

クリスは柔らかな笑みを浮かべて答えると、ルナマリアは安心したような表情になって口を開いた。


「ついに…ミネルバが発進するのね」


「そうだな。忙しかったし休暇くらいはほしいよな…」


「そうよね…」


ルナマリアは苦笑しながら呟くと視線を目の前にある機体に向けた。

「これがクリスの機体なのよね?」


「あぁそうだ…。スピリット、前大戦でボロボロだったけ議長に修理してもらったんだ」


クリスの瞳はどこか懐かしむようにスピリットに向けられていた。


「クリスはやっぱり昔の仲間とか気になるの?」


ルナマリアの複雑そうな表情にクリスは溜め息を吐いて答えた。


「今の俺はザフトなんだ。お前達を守る方が大事だからな気にしてないさ」


「そうよね!じゃあ…私は持ち場に戻るわね!(よかった!)」


満面の笑みでルナマリアはクリスに一礼するとどこかに去っていった。



「スピリット…(ラクス、俺はお前との約束を破ってしまったな)」


クリスは悲しげな表情でにスピリットに乗り込みOSを書き換えていた。


すると…突然アーモリーワン中に警報が鳴った。


「警報、何かあったのか?」


クリスは突然の警報に驚いている。

その時一一一


『クリス!今すぐ出撃してちょうだい!!』


ミネルバの艦長でもあるタリアから通信が入ってきた。


「タリアさん、何があったんですか?」


『艦長よ!!そんな事より開発していた機体が何者かに強奪されたわ…!すぐに止めてちょうだい!!』


「分かりました。出来るだけ破壊しないようにします」


クリスはスピリットを起動させると強奪されたガンダムを止めに向かった。



△▼△▼△▼

一方…ザクに乗っていたアスランは二機のガンダムに苦戦していた。


アスランはガイアと交戦していたがカオスに後ろをとられ腕を切り裂かれた。


「くそっ…!」


カオスが再びザクに突撃し、ビームサーベルを振り抜こうとしたが、突如後方から衝撃を受けて体勢が崩れてしまう。


「なっ…なんだ!?」


カオスのパイロットであるスティングがモニター越しに見上げると、空から四機の部品が合体して一機のMSが降りてきた。


「なんで…こんなこと…また…戦争がしたいのか!!あんた達は!!」


そのMSからは…一人の少年の哀しき声がコックピットから放たれた。









「アビス・ガイア・カオス補足完了」


クリスもその場に着いてインパルスの近くに降り立つ。


「この機体はクリスか!?」


「シン!大丈夫か!?」


「大丈夫だ。それより…」

シンの視線の先には三機のガンダムの姿が…


「シンはカオスを頼む。俺はガイアをなんとかするから…」


「分かった…!気を付けろよクリス!」


「シンもな」



スピリットはロングサーベルを抜くとガイアの方に向かった。


「この戦い方正規軍より上手いな。乗っているのは、コーディネータじゃないなら一体誰が…」


クリスはガイアに乗っているパイロットが気になって通信を入れた。


「それに乗っているパイロット、何の目的でその機体を強奪したんだ……」


「頼まれたの」

「この声は…女の子」


クリスは通信の声が女の子と気付いて攻撃を止める。


「頼まれたって……誰にだ?」


「…ネオ。お父さんみたいな暖かい人…」


「その機体をネオって人に渡すと君はどうなるの?」


「褒めてもらえる。ステラ嬉しい…」


クリスその言葉を聞くとガイアに背を向けた。


「帰りな。ネオって人の所に」


「いいの?」


「君は…戦ってはいけない。今は好きな人の所に行きな」


スピリットが去ろうとした瞬間、


「名前…」


「えっ…」


「あなたの…名前…教えて…」


「クリスだよ。ステラ…」


「クリス、また会えるよね?」


「君が俺を忘れないなら。きっと会えるよ…」



ステラは通信を切り飛び去っていくとステラが去ったあとクリスは一一一


あの子はきっとエクステンデットだな。だとしたら記憶は消される。おそらく俺の事は忘れるだろうな。


「シンの奴大丈夫か?」


カオスと戦闘しているシンが気になりクリスはシンの所に向かった。



「シン!もうすぐレイやルナマリアが来ると思うから、一人でやれるな!?」


「えぇ!クリス、本気で言ってるのか?」


まさかの事態にシンは驚いて固まってしまう。


「お前ならやれる。いつもシュミレーションで俺と戦っていたんだぞ」

「クリス…」


クリスにやれば出来ると言われシンは嬉しそうに笑みを浮かべ何かを思い付いてクリスに言った。


「じゃあ…後で何か奢ってくれよな」

その言葉にクリスは頷くとその場から去る前に向かってきたアビスの片手を切り裂いて離れていった。


「この作戦…やられた側からしたら大ダメージだな」


昔は奪う側だったが、奪われる側ではダメージなのだと実感したクリスは負傷していたザクに通信を入れた。


「そのザクに乗っているパイロット…」


突如のクリスの声にザクのパイロットであるアスランとカガリが驚いた。


「その声は…クリスか!?」


「アスランにカガリ何でお前らが!」


クリスは二人の姿を見て目を丸くする。

そういえばオーブの代表と護衛が数名アーモリーワンに来るってギルが前に話してたっけ。


「それはコッチのセリフだ!今までどこにいたんだ!!」


カガリの怒声にクリスは視線をそらして口を開いた。


「話ならミネルバについてするから、今は俺についてきてくれ」


クリスは一機のザクをミネルバに引っ張っていった。

こんな所で再会するなんてな。

ザクを引っ張りながらクリスの表情はどこか苦しげに歪んでいた。

△▼△▼△▼

ミネルバに着いたクリスはスピリットから降りた。


「クリス!大丈夫だった!?」


「大丈夫だから安心しろ。それより何故出撃していない?」


「ちょっと…故障しちゃってブースターが爆発しちゃったのよ」


困ったようにルナマリアが言うとクリスは呆れつつも柔らかな笑みで口を開く。


「まぁ…運がなかったって事だよ」


そんなやり取りをしているとザクからアスランとカガリが降りてきた。


「何ですか…あの人達は!?」


ルナマリアは警戒した表情で銃を片手に二人に向かっていく。

それを見たクリスはすぐにルアマリアを落ち着かせ ると、


「落ち着けルナマリア。彼女はオーブの代表で彼は護衛の人だよ…」


「オーブの…アスハ…」


「代表は怪我もしているみたいだから医務室に案内してやれ…」


クリスはルナマリアに頼むと二人の元に歩いた。


「あの子が案内するから俺はこれで…」

去ろうとしたクリスだったがアスランが腕をガシッと掴んで止めた。


「…クリス」


アスランのどこか真剣な表情にクリスはどこか仕方ないかと、呟くと小さくだが頷いた。


「…分かった」


「すまない。けどこうでもしないとお前が逃げると思ってな…」


「逃げねぇよ。ここにはアスランだけじゃない。カガリもいるからな」

こうしてクリスも一緒に医務室に向かうのだが医務室に向かう途中カガリが『アスラン!!』と言ってしまいルナマリアがアスランを怪訝な表情で見つめる事になる。



医務室に着いてクリスは壁に寄りかかる。



「クリス、話があるんだけど」


「どうした?」

壁に寄りかかっていたクリスにルナマリアが近付いてきた。


「オーブの代表が言ったアスランってクリスと同じ前大戦の…」


「違うぞ。あの護衛の人は…アレックスさんだ」


「本当?」


「あぁ本当だ…」


納得してないルナマリアだったが何かを閃いてクリスに近付いた。

「じゃあ信じる代わりに条件!」


「条件?」


「私の機体のOSを手伝ってよね!」


「分かった。手伝ってやるから、ルナマリアは艦長に報告してきてくれ」


「…分かったわ!」


ルナマリアは艦長に報告をするため通信を入れていた。

クリスはそれを見届けて二人の所に向かった。

「なに怒ってんだよ?」


「怒っていないさ。ただ心配していたんだよ…」

アスランの言葉にクリスは…『悪かった』と呟いて視線をカガリに向けた。

「クリス…!ラクスに会ったら絶対に謝れよ!ラクスはクリスが帰ってこなかったから…ずっと…ずっと…誰よりも辛かったんだぞ!」

カガリの声が震えている事に気付いたクリスは拳を握り締めた。


「…分かってる」


クリスはそれだけ口にしてルナマリアの元に向かった。

ルナマリアはクリスに気付いて通信を切った。


「クリス!報告終わったわよ!」


「ご苦労様。俺は先に格納庫に行くから、ルナマリアは彼らを議長の所に案内してやってくれ」


「分かった。クリス!約束は守ってよね!」


そう言ってルナマリアは二人を連れて医務室を出ていった。










その頃…ガンダム強奪犯のボギーワンではブリッジで新たな作戦を立てていた。


「ポイントBまでの時間は?」


『二時間程です』


「まだ…追撃があると?」



「分からんね、分からんからそう考えて予定通りの進路をとる予測は常に悪い方にしておくものだろ?」


「…それで?彼らの最適化は?」


「おおむね問題はないようだ皆気持ちよさ気に眠っているよ。ただ…一つ問題があってステラの記憶からどうしても消せないものがあるんだ…」


「何かある度に揺り籠に戻さねばならぬパイロットなど本気でラボは…」


「仕方ないさ。それに今回はその記憶は残そうと思う」


「ほぅ…何故ですか?」


「ステラが呟いていた名前ってのがな…クリスと言ってるんだ」


「クリス…確か聞いたことがありますな。確か先の戦で圧倒的な力を持ちザフトや地球軍に『血濡れた死神』と呼ばれていた…」


「ああ…確証はないけどな。だけどこれは逆に楽しくなりそうだと思わないか?」


「そうかもしれませんが本気で使えるのでしょうか?」

不安気なイアンと違ってネオは楽観的で笑っていた。

「それでも前よりはだいぶマシだろ?こっちの仕事をちゃんと理解してやってくれてるんだから。それに今はまだ何もかもが試作段階だしな。船もMSもパイロットも……世界もな」


「ええ、分かっています」


「やがて全てが本当に始まる日が来る……我らの名のもとにね」





△▼△▼△▼

その頃…ミネルバの格納庫では議長とカガリが真剣な話をしていた。


ミネルバクルーやクリスは二人の話を黙って聞いている。


「そもそも何故必要なのだそんなものが今さら!!」


(カガリ…辛いんだろうな。またこんな事になったんだから)


「我々は誓ったはずだ!もう悲劇は繰り返さない!互いに歩む道を選ぶと!」


その時…クリスは隣にいたシンの様子がおかしいことに気付いた。


「シン?」


「しかし…姫」


「さすが綺麗ごとはアスハの御家芸だな!!」


突然シンの言葉が議長の言葉を遮り格納庫に響き渡った。


「「!!」」


『シン!!』


シンは振り返って殺意を含めた目付きでカガリを睨んでいる。


ピーピーピー


その時…格納庫に警報音が鳴った。


「敵艦捕捉!!距離8000!!コンディション・レッド発令!!パイロットは搭乗機にて待機せよ!!」


レイはシンの胸倉を掴んだがシンは強引に振り払って格納庫を出ていった。


「シン!!申し訳ありません議長…!この処分はのちほど必ず!!」

さすがのレイも動揺しながら自分の機体に向かっていくとクリスはそれを見届けて議長の所に向かった。


「議長…ブリッジに行きましょう」


「あぁ…そうしよう」


慌ただしくなった格納庫で議長が微かに笑みを浮かべてクリスを見ていた。


(カガリ…)


ブリッジに向かう途中でアスランが心配したのかカガリの手を優しく握っていたがカガリの表情はどこか影が見えていた。






△▼△▼△▼

ブリッジに入るとクルー達は四人の姿に驚いて固まった。

「議長!クリス!」


「よろしいかな?艦長」


議長の言葉に若干怒っている艦長だが、


「えぇ…構いません(心臓に悪いわね全く)」


素直に言ったが心の中では本音を言っていた。


「メイリン…ボギーワンまでの距離は?」


クリスはメイリンの真横まで移動して聞くと、


「待ってて………ボギーワンまでの距離は6500」

至近距離ともいえるクリスの距離にメイリンはドキドキしながらも答えて、クリスはゆっくり定位置に戻っていった。


「クリス、いざとなったら分かっているね」


議長は真剣な表情でクリスを見つめながら言うとクリスは小さく頷いて答える。


「分かってます。状況しだいでは俺も行きます」



そして…シンとルナマリアが出撃した。


議長は笑みを浮かべてモニターを見ながらゆっくり口を開いた。


「ボギーワンか。本当の名前はなんと言うんだろうね? あの船は…」


突然の言葉に皆の視線が議長に向けられた。


アスランは首を傾げてわけが分からないような顔をしている。


「名は…その存在を示すものだ……ならばその名が偽りだとしたら…それが偽りだとしたら、その存在も偽りになるのかな?」


議長の視線はアスランに向けられている。


「アレックス君…いや、アスラン・ザラ君」


(ギル……何のつもりだ?)


この時…クリスの視線はどこか探るようにデュランダルを見つめられていた。

ブリッジを静寂な空気が支配している。


「いやっ…議長それは」


カガリがすぐに反論するが…


「ご心配には及びませんよ代表…別に私は彼を咎めるつもりはありません…ただ私はどうせ話すなら本当の君と話したいのだよ。アスラン君」


クリスは議長の言葉を聞きながらも今の状況をモニターで見ていた。


(おかしい…何故動かない…まさか!!)


「デコイだ!!」


クリスよりも先にアスランが言うとその言葉に皆が驚いた。


すると次の瞬間…ボギーワンがLOSTされた。


「メイリン…ボギーワンはどこにいる!?」


クリスの言葉にメイリンが慌てて口を開いた。


「ボギーワン…後方より接近!距離は500!」


クリスはすぐに立ち上がると議長に視線を向けて、


「議長!俺が今からスピリットで発進してミネルバを援護します」


「そうか…頼んだよクリス」


クリスがブリッジを出る直前、アスランと視線が合い二人は小さく頷き合う。その光景を見ていたデュランダルはどこか面白そうに笑みを浮かべ、カガリはクリスを信じてると見つめクリスは急いで格納庫に向かった。





△▼△▼△▼

「エーブス!スピリットは出れるか!?」


クリスの問い掛けに整備士のエーブスは頷いた。


「まだ100%の実力は使えないが…行けるぞ!!」


クリスはすぐにコックピットに入りOSを起動させた。


「レイ…!発進後はMAを任せるぞ。残りは俺に任せろ」


レイは頷いて先に発進した。


「さぁて…行くか!!
クリス・アルフィード、スピリット出る!」


クリスは激突している宇宙に出撃した。






「ミネルバには大切な仲間達がいるんだやらせない」


スピリットはミネルバに接近しているMSの方に向かっと、敵MSはライフルを発射させスピリットを撃ち抜こうとするが、スピリットにはまるで通用しないのか軽々と避けている。


「甘いな…!射撃はこうやるんだよ」


クリスはスピリットに装備されている翼のようなアムフォルタスを放つと、アムフォルタスは敵に当たらなかったが周りの岩が消えていった。


そして岩が消えたことでビームライフルは真っ直ぐ敵MSの頭部を貫いて破壊した。


「あれが…血濡れた死神の力か」


レイと交戦していたMAのパイロットがそれを見て小さく呟いてた。


クリスはさらにもう一機のMSに近付きサーベルを投げたると、投げられたサーベルはそのまま敵MSのコックピットギリギリを貫いて爆破しなかったが、

「……」

クリスはビームライフルを構えてコックピットを狙って放った。


(クリス、お前のその戦い方はラクスが嫌う戦い方なんだぞ)


コックピットを貫かれた敵MSを見つめながらアスランは苦痛の表情を浮かべていた。


「ミネルバはまだ脱出できてないのか?」


クリスの周りにいた敵MSは全て粉々に破壊させており、クリスはなかなか脱出しないミネルバを見ながら溜め息を吐いていた。


すると次の瞬間、ミネルバが火器を使って埋もれた隕石から脱出してさらにタンホイザーを放ち敵の母艦に深手を負わせた。


敵はそのダメージもあったのか信号弾を放ちこの戦闘はようやく終了したようだ。




△▼△▼△▼

「クリス…」


ミネルバに戻るとクリスの目の前に元気のないルナマリアがやって来た。


「どうしたルナマリア?」


クリスは優しく頭を撫でながら言うと、


「…ッ!やっぱり何でもない!」


ルナマリアは急いで格納庫から出ていった。


(どうして…涙なんか)

格納庫を出た瞬間、ルナマリアの瞳から涙が流れていた事に気付きクリスはルナマリアを追い掛けようとしたが、


「今は…一人にした方がいい」

レイに止められクリスは追うことをやめた。

どうやら先の戦闘で戦死した者達がいたようで、同じ戦場にいたのに何も出来なかったとシンが拳を握り締めクリスに伝えたのである。





△▼△▼△▼

クリスはシャワーを浴びて少しだけ休むと赤服に着替えと休憩室に向かった。









「へぇ~丁度貴方の話をしているところでしたアスラン・ザラ。まさかと言うか、やっぱりというか、伝説のエースにこんな所で会えるなんて光栄です」


クリスの目の前では、少しだけ目を赤くさせたルナマリアがアスランに皮肉を言っていた。


「そんなんじゃないさ。今はアレックスだ。それに伝説ならクリスだってそうだろ?」


アスランの声はどこか震えていて生気をあまり感じられなかった。


「クリスは今もMSに乗っていますが、貴方はもうMSには乗らないんですか?」


ルナマリアの言葉にアスランはキッと睨んでいる。




「行こうぜルナ。オーブにいる奴なんかには何も分からないんだから」


シンはそう言い残すと休憩室を出ていった。


「でも…艦の危機は救ってくださってありがとうございました」


最後まで皮肉を言ったルナマリアも休憩室を出ていった。


休憩室を出ていったシン達はクリスに気付かなかったようで、クリスは皆が去ったのを見届けて休憩室に入りソファーに座った。


「クリスか…」


どこか落ち着いたようなアスランがゆっくり口を開いた。


「アスラン、議長に何か言われたのか?」


「いや…ただ昔の事を思い出していたんだよ…」


「ミゲルやニコルやラスティやエリスが死んだときの事をか?」

悲しげに語るクリスにアスランの瞳が一瞬揺れた。


「アスラン、最後に決めるのは自分の心だからな」

「えっ…どういう意味だ?」


首を傾げて聞き返すアスランにクリスは、


「ザフトに復隊するか悩んでんだろ?」

「……ッ!?」


アスランの悩みをすぐに見抜いてクリスが言うとアスランは驚いた表情になった。


「なっ…気付いていたのか!?」


「当たり前だろ。俺もアスランも守りたいものがあるんだから(だからこそ…俺はここにいるんだ)」

クリス
の言葉にアスランはハッと我に返った。


「俺は…どうしたら」


「わからない。でもアスランが決める事も一つの道だと思うから…」


クリスの言葉にアスランはただ拳を握り締める事しか出来なかったようだ。



そして…この時誰もが気付かない内に大変な事がおこっていた。






△▼△▼△▼

クリスが部屋で眠っていると誰かが部屋に入ってきた。


「クリス!クリスってばぁ!」


クリスが目を覚ますと目の前にはルナマリアがいた。


「あっ…やっと起きたわね!」


クリスは寝惚けているようで目を擦っていた。


「どうした?部屋に入ってきて…(目は赤くないようだが…)」


ルナマリアは思い出したように口を開いて本来の目的をクリスに言った。







「ユニウスセブンが…動いている?」


「うん…衝突場所は地球らしいのよ」


クリスはゆっくり立ち上がりルナマリアと共に部屋を出ていった。


その途中でアスランと会って、変な誤解をされたが額に銃を突きつけると土下座して謝ってきた。







「大体の原因は分かった」


「でも…本当におかしいわよね…一体何がユニウスセブンを地球衝突まで…」


「隕石のせいだとか…あるいは…」


「アスランも俺と同じ考んがえだろ?」


「えっ!」


アスランは頷いて真相ともいえる答えを言った。


「誰かの意志だな」


「そうだろうな。確に…コーディネータとナチュラルは先の大戦より和解しているかもしれない。
だが……今回の事件の犯人はおそらく血のバレンタイの被害者だ」


「何故そうだと?」


「核の攻撃でユニウスセブンは破壊されたんだぞ。
そして…その事が引き金で前の大戦になってしまった。なら今度はこのユニウスセブンをきっかけに戦争をおこそうとしているのかもしれないだろ?」

クリスの考察にルナマリアは…『確かに』と小さく呟いた。


「状況判断が優れている所は変わらないな」


「はいはい…」

「それで…私達はユニウスセブンをどうすれば…」


『砕くしかないな』


「えっ…砕くんですか!?」


「多分それしか残されていない」


「軌道はずらせないからな。だとしたらもう砕くしか方法はない…」


「破片も残してはいけない。完全に破壊しないといけないな」


クリスは深く溜め息をついてしまう。





「そうだクリス、後で話したい事が…」


その時だった…


「よくそんな事が言えるな!!」


「なぁアスラン…」


クリスは嫌な汗が出てきながらアスランに聞いた。


「どうした?」


「カガリはどうした?」


「部屋で眠ってるんじゃないのか?」


「でも…あの声は代表だと思いますけど」


アスランも同じように嫌な汗をかいて急いで声のする方に向かった。


クリスとルナマリアも後に続いて向かった。










「一体どうしたんだ?」


「あっクリス、実はヨウランが…
『しょうがないって…綺麗なゴタゴタもなくなって案外楽かも』って言っちゃって」

メイリンの言葉にクリスは頭を抱えてしまった。


「それでカガリがキレたのか…」


ヨウランの一言にキレたカガリ。


今度こそ平和の道を目指していた者には許せないのだろう。


「仕方がないだと!案外楽だと!これがどんな事態なのかどれだけの人間が死ぬ事になるか本当に考えて言っているのか……お前達は!?」


カガリの怒りの一言にヨウランは謝るがカガリは謝罪では気が済まなかった。

「やはりそういう考えなのか…お前達ザフトは!!」


さすがにまずいと思ったクリスは、


「カガリ落ち着け…」


カガリの前に立ち落ち着かせようと肩を掴んだ。

しかし、頭に血が昇ったカガリは手を振り払ってクリスを見上げて口を開いた。


「クリス!お前はこんな事になってるのにまだザフトにいるつもりなのか!?」


「カガリ!!」


アスランの声に我に返ったのか、カガリは言い過ぎたと申し訳無さそうにクリスを見つめていたが、クリスは何も言わずどこか悲しげにカガリを見つめるだけで休憩室に重たい空気が流れるが、


「別に本気で言った訳じゃないさ…ヨウランも」


「なに!!」


シンの言葉に再び頭に血が昇ったカガリがムキになって振り返った。


「その位の事も解らないのかよあんたは?」


シンの言葉にクリスも振り向いた。


「シン?」


本気でなくとも言ってはならない事なのにシンの一言にカガリはカッとなった。


「なんだとお前っ!!」


「いい加減にしろ…カガリ!!」


カガリが言い返す前にアスランが引き止めた。


「君はオーブが大分嫌いなようだが何故だ?
昔はオーブにいたらしいがくだらない理由で関係ない代表にまで突っ掛かると只ではおかないぞ」


アスランはシンを睨み付けながら言うと、シンは殺気を込めてアスランとカガリに言い返した。


「くだらない…くだらないなんて言わせるか!!」


シンは怒鳴りクリスの横に並ぶと今にも爆発しそうな感情を吐き出す。


「俺の家族は…アスハに…アスハに殺されたんだ!!」


「えっ…!」


「国を信じて…あんた達の理想を信じて…最後の最後にオノゴロで殺された!!」


シンは涙目でカガリを睨み付けている。


「だから俺はあんた達を信じない!!オーブなんて国も信じない!!そんなあんた達の綺麗事も信じない!!」


シンの言葉にカガリは驚いたまま後退りする。


「この国の正義を貫くってあんた達だってあの時自分達のその言葉で誰が死ぬ事になるのかちゃんと考えたのかよ!?」


シンの一つ一つの言葉にカガリの心が悲痛に変わった。


「シン…それ以上は…」


クリスはシンの腕を掴んで真剣な表情で止めようとしたがシンは聞く耳持たずで、


「何も分かってないようなヤツが…分かったようなこと言わないで欲しいね!!」


シンはクリス腕を乱暴に振り払って出ていった。



「カガリ…アスラン…部屋に戻るぞ」


クリスは二人を引き連れて休憩室を出ていった。





△▼△▼△▼

「ごめんな二人とも。アイツは自分の事で頭がいっぱいなんだ。だからあんな事言わないと自分を保てないんだ」


「分かってる。昔の俺達二人の面影に似ているからな?」


「カガリも気にするなよ。辛いだろうけど」


クリスはカガリの座っているベットの横に座った。


「でも…お父様が決めた事を…あんな風に」


「悲しいのは分かる。俺も苦しかったかカガリの気持ちは痛いほど伝わった…」


クリスはそう言ってカガリの頭を優しく撫でる。


「カガリ…お前なら分かってるはずだろ」


カガリはクリスの言葉に涙を流した。


「クリス…」


カガリはクリスの胸に抱きついておもいっきり泣いた。


(辛かったんだろ。ウズミさんがやったことをあんな風に否定的に言われたんだから)



[泣いているカガリの頭を優しく撫でながら心に呟いていた。






「泣き疲れたんだな…」


クリスは寝ているカガリを見ながらアスランに言った。



「なぁクリス、今から一緒に来てくれないか?」


「艦長のところにだろ?」


「気付いてたのか…」


「アスランの事だ…ユニウスセブンの粉砕作業を手伝いたいって頼みに行くつもりだろ?」


アスランは久々にクリスの勘の鋭さが懐かしかったのか笑っていた。



「何笑ってんだ!!行くぞ」


クリスは慌てて出たため顔をおもいっきりドアにぶつけてしまった。

お前は本当に変わらないなクリス。

だからこそ俺は安心してここにいられる。






△▼△▼△▼

ブリッジに着いたアスランとクリスはタリアに相談をした。


「艦長、実は相談があるんですがよろしいですか?」


「ええ?構わないけど…」


クリスはアスランに視線を変えるとアスランは小さく頷いて口を開く。


「無理を承知でお願いがあります。私にMSをお貸しできませんか?」


アスランの発言に議長以外のメンバーが驚いて固まっている。

すぐに我に返ったタリアが呆れたように口を開いた。

「確に無理な話ね。民間人である貴方にそんな事出来るわけないわ」


やはり普通に考えるとそうだが、


「俺からもお願いします。彼にMSを貸してくれませんか?」


クリスはタリアに頭を下げて頼み込む。


「仕方ないわね。アナタの頼みなら断れないわ。アナタはフェイスですからね」


クリスのフェイス権限でアスランはMS借りる事が出来て、二人はブリッジをあとにするとすぐに格納庫に向かった。





パイロットスーツに着替えた二人はすぐに搭乗機で待機すると、クリスとアスランは周りに聞こえないように通信を入れている。


「アスラン、俺に話があったんじゃないのか?」


クリスの言葉にアスランは思い出して口を開いた。


「あぁ…実はラクスの話なんだが…」


クリスはラクスという名前が聞こえ顔を歪めながら一度視線をそらしたが再びアスランに視線を戻した。


「ラクスがどうかしたのか?」


「ヤキンの戦いでお前が戻らなかったから部屋でずっと泣いてたらしいんだ。お前が死んだんじゃないかって思ってな…」


クリスはアスランの言葉に黙るしかなかった。


「数ヵ月たってなんとか笑ってはいるがやっぱりお前といるときの笑顔にまで回復できてないんだ」


アスランの言葉にクリスは顔をゆっくり上げた。


「アスラン、俺は会っていいのかなラクスに」


クリスの声は少しだけ震えている。


アスランもクリスが言いたいことが分かっているため顔を歪めている。



「不安なら会ってやれよ。会ってラクスと話したらいいじゃないか」

クリスは、『そうだな』と言ってアスランとの通信を切ると、タイミングよくメイリンから通信が入った。

「発進中止!ユニウスセブンにてジュール隊がUNKOWNと交戦中!!さらに…後方からボギーワンも確認!!」


「ジュール隊って…イザークじゃん」


「クリス、お前はどう考える?」


アスランの質問にクリスはハッキリ答えた。


「多分…二組は関係ないと思う」


「どうしてだ?」


「前にも言ったけど、今回の犯人はユニウスセブンを破砕させないのが目的なはずだ。もしボギーワンと繋がってるのならこんな手のかかる事はしないはずだ。地球軍ならなおさらな」


「じゃあ…UNKOWNは…」


「分からない。実際に行ってみないと」


クリスとアスランが話していると二人の発進する番がやってきた。



「ジュール隊ならイザークにディアッカがいるから何か掴めるかもしれない」


「そうだな…!アスラン・ザラ、出る」


「クリス・アルフィード、スピリット出る!」


アスランとクリスは漆黒の宇宙へと飛び出した。







「さぁて…始めるか」


クリス達はユニウスセブンの近くにまで来ていた。


「あの三機!!今日こそ!!」


「目的は破砕作業だぞ!!」

動きがバラバラなメンバーに[#dn=1#]は呆れて指示を出した。


「皆も分かってると思うが俺達は、ユニウスセブンの破砕作業が重要だ。もし邪魔をされたら交戦も仕方がない」


「クリス分かってるじゃない!!」


[#dn=1#]の命令でシンとルナマリアはアビスとガイア撃退に向かった。


「アスラン!!レイ!!俺達は破砕作業に行くぞ!!」


二人は頷きクリスについていった。


(こんな事はもう嫌なのにな…)




「あの子には後で通信を入れるかな」


クリスは周りにいたジンをビームライフルで次々と落としていた。


「次はあそこか」


クリスは直ぐにガイアの方へ向かった。








その頃ルナマリアはステラが乗っているガイアと交戦していた。


「えぇ~い!!」


ルナマリアの乗る機体はガイアと相性が悪く攻撃がなかなか当たらなかった。


「はぁぁぁ!!」



ルナマリアに一瞬の隙ができてしまいガイアが突っ込んできた。


(やられる!!)


ルナマリアは目を閉じて衝撃を待っていたが、


(…あれ?)


なかなか衝撃がこないので目を開けると、


「セーフ」


スピリットがガイアのビームブレイドをシールドで受け止めていた。


「クリス!?」


「ルナマリア!ガイアは任せてお前は破砕作業を!」


ルナマリアはクリスの命令に従いすぐに破砕作業に向かった。


「ありがとう、クリス!」

粉砕作業に向かう前にルナマリアはクリスにそう通信をするのであった。

「さぁて…頼むぞ」


クリスは一か八かの賭けでガイアに通信をした。

「ステラ、俺だよ!クリスだ、覚えているか?」


クリスの問いにステラは、


「うん!!覚えてる。クリス、優しい!」


クリスは正直驚いていた。
エクステンデットである彼女がよく自分の事を覚えていたことを…


「ステラ、キミはネオになんて言われてここに来たんだ」


「ネオが…落としちゃ…いけないって」

クリスは少しずつだが今回の一件が繋がっていく事に気付いた。



「じゃあステラは俺の手伝いをしてくれないか?」


「お手伝い…?」


「そうだ。もしもこれが落ちたら地球に住んでいる人達が沢山死んじゃうんだ」


クリスの言葉にステラは、


「死ぬの!!…死んじゃうの!!」


クリスの賭けとは『ブロックワード』だった。

エクステェンデットなら必ずあるはずの言葉が。

胸の中が罪悪感に埋め尽くされていながらも[#dn=1#]は再び口を開いた。


「たけどステラ。キミが手伝いをしてくれたら地球の人達は助かるんだよ…」


「分かった。ステラ!クリスのお手伝いをする!」


「いいのか?ネオって人に怒られるぞ」


「いいの。ネオもクリスに会ったら手伝いなさいって言ってくれてた」


「わかった。じゃあ行くよステラ!!」


クリスとステラは手を組みジン撃退に向かった。






「ステラ…右だ!」


クリスの指示通りにステラはビームライフルを発射させると、ビームライフルは見事に敵MSのコックピットに命中し、クリスはさらにビームライフルでガイアに迫る敵に向けて発射していた。


クリスとステラは背中を合わしているように敵MSと戦っている。


『これで…終わり!!』


そして…二人の周りにいた敵は全て全滅した。


「ありがとうステラ。キミのお陰で助かったよ」

「ステラ偉い?」


「あぁ。ステラは偉いよ」


クリスの言葉はステラにとって心を癒してくれる魔法のようだった。


「ステラ、もう船に戻りな。高度が限界だよ」


「うん。クリス、また会える?」


「会えるよ。絶対に」


ステラは笑顔で船に戻っていった。


「残りはアスランの所か」


クリスは次にアスランがいる場所に向かった。







△▼△▼△▼

「アスラン大丈夫か!?」


クリスがアスランの機体に近付くと左右には懐かしの二人がいた。


「その声はクリスか!?貴様!ラクス・クラインファン「久しぶりだな。イザーク」…おいっ!貴様ーー!!」

嫌な予感がしたクリスはイザークの声を遮って通信を入れると、遮られた事によりイザークが怒りの表情でクリスを見ていた。


「おいおい…俺を忘れるなよ!」


「ディアッカ!?そういえばミリアリアとはどうなった?」


クリスの問いにディアッカは、


「遠距離って難しいよな…」


テンションが低いという事ですぐに真相を掴んだクリスは、


「ディアッカ、また春はくるさ」


胸に突き刺さる一言を捧げた。


「約束破ってザフトに戻ったお前がそれを言うか!?」


「破ったの確かだがフラれた覚えはない。それに……」

クリスが言い終えようとした時だった、コックピット内に警報音が響いてそちらを見ると、


「うぉぉぉ!!」


ジンを操縦する敵が四人に向かってビームライフルを放っていた。


「イザーク!アスラン!」

三人はそれぞれの敵に向かいクリスはサーベルを抜いて敵に近付いた。


「アスランとイザークは支援を頼む。敵は俺が破壊する」


「いちいち命令するな!!」


イザークは文句をいいながらも敵を追い込んでいくとと、クリスはすかさず背後に現れてサーベルで敵を切り裂いた。


「がっ!!」


コックピットを切り裂かれた敵のパイロットはそのまま爆発していく。



「あいつら!!」


すると次は、後方からアビスが攻撃してきたがクリス達には当たらなかった。


「イザーク!」


「うるさい!今は俺が隊長だ!命令するな民間人がぁぁぁ!!」


アビスはザクのビームアックスを避けたが後ろから現れたアスランのザクのトマホークによって足を切られた。


「なに!?」


「アウル!!」


カオスがすぐに救助に向かうが、


「行かせるか!」


スピリットのアムフォルタスに道を阻まれた。


「…悪いけど戦ってきた場数が違うんだよ」


スピリットのビームライフルがカオスの頭部を撃ち抜いた。

そして一一一


「帰還信号か…」


スピリットの画面には帰還信号の文字が写っていた。


「ミネルバが降下しながら破砕するだと!?」


「限界コードだからな。またなイザーク」

未だユニウスセブンで佇んでいるスピリットを見つめながらイザークは、


「貴様の事だから言いたくないが死ぬなよ……クリス」


「当たり前だろ。血濡れた死神は只では死なないって」

クリスとイザークは元仲間だったからこれ以上の会話を不要だった。



「アスランのやつまだ頑張ってるな」


ユニウスセブンで作業しているアスランに溜め息を吐きながらもクリスはそこに向かっていく。



「アスラン帰還信号が出てるだろ?」


「分かっている。だがミネルバの主砲だけではあてにはならないこれだけでも」


「相変わらずだな」



クリスもやれやれと思いつつ作業を手伝い始めた。



「何してるんですか二人とも!?帰還信号が出たでしょう」


すると…後ろからシンもやって来た。


「まだ完全には砕いていないからな。最後までやらなきゃいけないだろ」


シンは納得しなかったが、クリスの言葉を渋々聞いて手伝いをした。


その時一一一


「これ以上はやらせん!!」


三機のMSが攻撃してきた。


「我が娘のこの墓標!!落として焼かねば世界は変わらぬ!」


「えっ…娘?」


「何を!!」


ジンのリーダー格の男が言ってきた。

「何故気付かぬか!!我等コーディネータにとって!!パトリック・ザラのとった道こそが…唯一正しきものと!!」


その言葉を聞いたアスランは驚き隙が出来てしまいジンのリーダー格の男は、その隙をついてザクの腕を切り裂いて、さらにシンは向かってきたジンの自爆にあい吹き飛ばされてしまう。


「……被害者面とはな」


クリスは向かってきたジンを一瞬にして切り裂いた。


「二人共今すぐミネルバに戻れ」


クリスの言葉に二人は驚いて目を見開く。


「何を言っている!」


「一人では危険だ!」


「いいから戻れ…!」


この時アスランはすぐにクリスの今の状態に気付くと同時にこの時は大人しく従った方がよかったなと思い出していた。

「帰還するぞ」


「でも…クリスが!」


「クリスなら大丈夫だ」


シンとアスランは機体のブースターを最大限まで出してミネルバに戻った。



「今更貴様一人で何ができる」


赤く燃え上がるユニウスセブンを見ながら男は笑っていたがクリスもまた鼻で笑って男に答えた。


「大した被害者だ。いや役者と言った方がいいか?」


「………っ!?」


「自分が悲劇の主人公だと思ったか?」


「何っ!?」


「この計画に必ず黒幕がいるんだろ?」


今のクリスは仲間の前では笑ったりするクリスではなく敵には容赦しない方のクリスである。


「なんのことだか知らんが貴様には関係ない。なぜなら貴様はここで消えるのだからな!!」


サトーが向かってきた瞬間、一瞬時が止まったようだった。



「消えろ…」


クリスは一瞬にして機体をバラバラにすると視線を落ちていくユニウスセブンに向けてゆっくり何かを耐えるように口を開いた。


「ここから始まるのか。また新たな戦いが。憎しみが生まれまた命が散るというのに」


いつの間にかクリス声はいつものクリスの声に戻っていた。


そして一一一ユニウスセブンは地球に落ちた。


この落下は戦争を始める引金となった。


ここに…再び悲しみと辛き戦争が始まった。


1/1ページ
スキ