始まりの物語
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第四話 時計の音
「…は?」
これが精いっぱい喉から絞り出して、やっと出た声だった
殺風景な部屋、見慣れない暖炉、小さな本棚、簡素なクローゼット、古びたテーブル、三脚の椅子、質素なベッド、そしてガスランタン
それだけしかないこの部屋で、彼はここは異世界だ、お前のいた世界ではないという
ガタっと、わざと大きな音を立てて立ち上がってやった
彼は可哀想な子を見るように依然苦々しげな表情のまま。それに見て見ぬふりをして、白一色のシンプルなカーテンを思いっきり、乱暴にあけた
眩しい朝日に目を焼かれながら、懸命に目を見張る
コンクリートも、電信柱も、信号も、見慣れたものは目に入って来やしなかった
装飾の多い外壁に、レンガで舗装された大通り、行き交う人は携帯なんか触っている人は一人もいない。新聞か日傘、もしくは手ぶらでカバンを持ち歩いている人も少ないようだった
私の知らない日常風景が流れていた
ああ、本当に知らないところに来てしまったんだ
カチリ
時計の針が進む音がする
今まで当たり前にあった日常は、ある日あっさりと背中を向けて
非日常が日常に塗り変わっていく
きっと誰でも一度は夢に見たであろう、異世界の風景
でも、もう少し前触れってものがあっても良かったのではないだろうか、なんて思う
――――――
―――
「コンコン」
ノックの音ではない、さっきの女の子の声だ
アリスさんは腕を組んだまま、立ち上がる様子はない
開けに行ったほうがいいのだろうか、と一瞬悩んで、結局扉を開けに行った
アリスさんと二人きりは気まずくてしょうがない
「ありがとうございます!手がふさがっていたので助かりました」
少女は三人分の茶器とお菓子ののった大きめのトレイをもって入ってきた
彼女はテーブルにトレイを置くとテキパキとお茶の支度をしてしまい、さあどうぞと言わんばかりに席に促されてしまったので、流れるように座ってしまった
スッと紅茶のカップを目の前に差し出されたので軽くお辞儀をして一口、口に含む
あ、おいしい
紅茶の種類なんて全く知らないが、今まで飲んだ中で一番香りが優しくて、飲みやすかった
胃がほっこりして、少しだけ気分が穏やかになってきた
「さて、アリスさん」
と少女はきりだした
「自己紹介とかはできましたか?」
「…」
「少しはお話しできましたか?」
「…いや…」
「もう!せっかくお二人にしたのに!」
「はぁ…俺は口が上手くない。お前が色々話せばいいだろう」
少女はむっと頬を膨らませ、彼のおでこをピンっとはじいた
「彼女を助けたのはアリスさんです!あなたが、助けたんです!一度助けたのなら、その責任を負わねばなりません!」
「それはお前の持論だろ」
「そうです!」
フンス、と彼女は胸を張って腕を組んだ
見事などや顔である
「なので、アリスさんがお話しして、アリスさんが満足いくまで手を尽くしてください」
はぁ…と彼は深い深い溜息を吐いて頭をかいた
「俺はあまり話すのが得意じゃない。さっきも気を悪くするような言い方をしていたなら謝る。すまない」
「え、あ…いえ…」
別に彼が悪いなどと思ってはいなかったので、面食らう
まあ、確かにちょっと心の中で八つ当たりなどはしてしまったが、それは身に起こった現実(かはまだ定かではない)が身に余ったからで、誰のせいでもないことはちゃんとわかっているつもりだ
「私こそ、すみません。かなり態度が悪かったと思います」
アリスさんは、今度は安心したようにふーっと息を吐く
「気にしてない。急に神隠しだ異世界だといわれて、すぐ受け入れられる奴は少ないからな」
「ありがとうございます」
「…」
少女は笑顔でアリスさんに圧力を与えながら、会話を促した
「あー…で、自己紹介だな、わかってる。俺はアリス、この店ガーデンの店主だ。でこっちが」
「ウェイターのソフィアです。ソフィーとお呼びください!」
「私は東雲宵。高校生です」
「あまり堅苦しいのは得意じゃない。話しやすいように話してくれ」
と、言われても…ソフィーさんはずいぶん丁寧な口調で話しているのにいいのだろうか。と彼女に視線を送るとにっこりと微笑み返される
「私のこれは癖のようなものなのでお気になさらないでください。敬称もとくにいりませんよ」
「なら遠慮なくそうさせてもらうね」
「ああ。で、話を一つ前に戻そう。あんたがなぜこの世界に来てしまったのか」
ごくり、と生唾を飲み込む
ようやく本題に戻ってきた