始まりの物語
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第八話 火の玉
無事、ウェイター一日目を終え、一息ついて就寝したのだけれど…
体は疲れているのに頭はさえちゃってる現象に見舞われて眠れぬ夜を過ごしていた
元の世界だったらスマホで暇をつぶすこともできたんだけど、現実問題そうもいかない。無情にも明日も仕事である
アリスのお店は昼は喫茶店、夜は居酒屋といった形態で開いているので営業時間はそれなりに長い
もちろん、お客さんがまばらな時間もあるし、そういう時はご飯を食べたりソフィーが入れてくれた紅茶を飲んだり、アリスの作ってくれたお菓子を食べたりしてまどろんだりはしているけれど、基本は体力仕事だ
出来たら夜は眠っておきたいんだけど…どうにも眠れない
ホットミルクでも飲んだら、胃がほっこりして眠くなるだろうか…
ベッドからそっと降りて、キッチンへと向かうことにした
月明かりに照らされたキッチンは、いつもの賑やかな雰囲気とは打って変わって少ししっとりしている
物が多くてごちゃごちゃしているのに、妙に片付いたキッチンとリビングは一続きになっていて、窓辺からは庭の緑がよく見える
そういえば、今私が使わせてもらっている部屋は私が最初に目覚めたあの部屋だ
一応客間らしいのだがあまりに殺風景で落ち着かないのでカーテンだけ色のあるやつに変えてもらった
今月の終わりごろにもろもろ天引きした給料を払ってくれるらしいので部屋の装飾を今からどうしようか考えている
どれくらい住むかはわからないけれど、部屋は自分が好む様相が一番いいに決まってるのでお金に糸目はつけないつもりだ
本当はためておいたほうがいいんだろうけど、所詮はしがない高校生。お金に関する計画性など求めてはいけないと思います
冷蔵庫から牛乳を取り出し、小鍋に注いでコンロにかける
ちなみにこれらの家電製品(っていうのか?)はすべて魔石と呼ばれる石を動力源に動いているらしい
そのおかげで元の世界と文化レベルはほとんど変わらないらしく、生活に苦を感じることは少ない。魔法様様だ
ただ、スマホみたいな端末はないので時間つぶしは本を読む、お菓子を食べる、誰かとお喋りするなどなどでその点は少々不便ともいえる
けど、気さくな人も多くお喋りには事欠かないし、アリスがお菓子を作ってくれるし、本もソフィーが色々と貸してくれるので正直異世界に飛ばされたにしては結構贅沢な生活をしていると思う
沸騰直前で火を止めて、先にマグカップにはちみつをスプーン一杯分垂らしておいて、牛乳を注ぐ
するとはちみつがキレイに溶けて美味しいはちみつ入りホットミルクが出来上がる
温めた牛乳は胃腸を温めてくれて、温まった内臓がゆっくりと温度を下げることによって自然と眠くなっていくっていうのを前にテレビか何かで見た気がする。詳しくは忘れたけど
ま、これでしばらく経てば眠たくなってくるでしょうと、大きな窓のそばで月を眺めながらこっくりとしたミルクを口に含んだ
と、庭のガゼボのあたりからすんすんと鼻をすするような、すすり泣くような声が聞こえてきた
まさか、幽霊…?
この世界でも幽霊っているのかな。…魔法があるんだから幽霊や妖精や精霊がいてもなんら不思議ではないけれど…怖い。けど気になる
誰か呼びに行こうかとも考えたけれど、時間も遅いし…でも、気になるし…一時悩んで、よし、好奇心に任せようと結論付けてそーっと掃き出し窓を開けて外に出た
足音を立てないようにガゼボに近づくと、中で青白い光がボーっと二つ浮かんでいるのが目に入った
ひ、火の玉ーー!!?
いやいやいや、日本の墓地じゃないんだから火の玉なんてあるわけない
確か炎って酸素供給量によって色が変わるっていうし、あれは完全燃焼した炎なわけで、決して浮いてるわけじゃっ
と思って炎の下を見ても何もない。二つの青白い炎がゆらゆらと浮いている。いーーー!!怖い!!
…ん?そういえば声はガゼボから聞こえた
と、はたと気づいてよく見ると、火の玉の間に膝を抱えた学ランの少年が座っていた
あれは、もしかしてアルファ君?
少年は涙を拭うために一瞬顔をあげた。黒髪の学ラン少年。あれは間違いなくアルファ君だ
…男の子が泣いてるところに無粋に声をかけるのは果たしていいんだろうか…きっと知られたくないからわざわざ部屋から出て庭で泣いているんだろうし…
ふと、眼前が明るくなる
なんだ?と思って見やる
火の玉が目の前でゆらゆらと揺らめいている
私は、目を見開いて叫んだ
「火の玉ーー!!?」
「だれ」
「あ、えっと…東雲宵です…」
不本意ながら、ばれてしまいました
彼はごしごしと袖で荒っぽく目をこする
「そんなに擦ったら目ぇ痛くなるよ」
「いいよ、そんなの。こんな時間に何してんの、居候」
む、口の悪い少年だ
「ちょっと眠れなくて。…アルファ君は…って聞いていいのかな?」
「アルファでいい。僕は…大したことないよ」
そうは言うが、彼の眼にはいまだ大粒の涙がたまっている
「そっか…。頭痛くなっちゃうといけないからお水持ってくるよ。待ってて」
「…わかった」
口は悪いが意外と聞き分けがいい。根は素直なのかもしれない
――――――
―――
「はい、どーぞ」
水の入ったコップを腰掛けに置きながら、彼の隣に座る
「ありがと」
こくこくと彼は水を一気に飲み干した
そういえば、さっきの火の玉がいない
「ね、アルファ。さっきここに火の玉がいたと思うんだけど…」
自分でも何聞いてるのかわけわかんないわ、これ
「火の玉…それ、僕から出てたやつだ。気持ちが昂ると勝手に出るんだよ」
「人間は火の玉は出せなかったと記憶してるんだけど」
「僕アヤカシだから。人間じゃない」
「え、そうなの?」
学ランを着ているから、この世界の人ではないのかもしれないとは思っていたが、まさか人間でもないとは思わなかった
「これでしょ?」
アルファはさっきの火の玉を手のひらから出してくれた
青白い光は不気味だが正体がわかってしまうとあまり怖くない
そっと触れてみるが熱を感じなかった
「へー。熱くないんだね」
「あんた…変な奴だね」
「アヤカシに言われたくはないかな」
顔を見合わせて、ふっと二人して噴出した
一瞬の沈黙からか、視線が合ったからか、お互いに相手を皮肉っていたからか、何が面白かったのかは正直分からない
これが箸が転んでもおかしい年頃というやつなのか
いや、アヤカシのアルファもその年頃なのかは判然としないけれど
ひとしきり笑い倒して息をするのも苦しくなったころ、勢いに任せてつい「アルファはなんでここで泣いてたの?」と口走った
あ、まずった
と思ったころにはもう遅く、彼はきゅっと表情を引き結んで、そのまま体育座りに戻って膝に顔を埋めてしまった
「ちょっと…懐かしい顔を見ちゃってさ。感情が高ぶっちゃったんだ」
「懐かしい顔って…」
「…アリスは、僕がそれで気が立ってるってわかってて、わざといら立つ言い方したんだ。我慢させないために」
「さっき、部屋に行く前の、あれ?」
オズを部屋に片付けとけとか言ってたあれか
「そう。あいつお節介なんだ。なのに、自分のことはすぐ棚に上げる。自分の願いも希望も、いつも後回しにして、人のために動くんだ。そのくせすげー皮肉屋でからかい癖があるから、話してるとイライラする。あいつ見てると、いつもイライラするんだ」
「ふはっ!あんたってアリスのこと大好きなんだね」
「はぁ?なんでそうなるんだよ」
アルファは顔をあげると意外なものを見るように目を丸くした
「今日さ、アルファがアリスに突っかかってるの見て、もしかして嫌いなのかなって気になってたんだ。でも、心配してただけなんだね」
ぐしぐしとアルファは頭をかく
「そんなんじゃ…ない。ただ、癪に障るんだ」
「かわいいね、アルファ」
ツンとほっぺたをつついてやると、ぷーっと頬を膨らませて固くした
反抗の仕方がまるで子供みたいだ
「うるせぇ。もう寝ろよ」
「そうする。アルファも寝なよ?」
「アヤカシに就寝を促すなんて、やっぱ変な奴」
彼はべーと舌を出してガゼボから飛びだしていった
あれは、もしかして照れ隠しなのだろうか
だとしたら、あまりに的外れすぎる。さっき収まった笑いがまたぶり返したように口から洩れた