始まりの物語
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第六話 パナシェ
「ただいまー」
カランカランとお店の扉を行儀悪く足でこじ開ける
だって両手が大きな紙袋で塞がっているのだから仕方がない
お店のカウンターにはため息をついて、大げさに肩を竦めたアリスがまな板を手に取っていた
「あんた、お使いもまともにできないのか?」
「お使いは毎回完遂してるでしょ!ちょっと、お土産が多いだけで…」
「宵さんは皆さんに愛されているんですよ」
「まだここにきて七日だろ」
「まあまあ」
「お前が言うな」
アリスにデコピンされた。痛い
ただ、買い出しに出たらちょーっと話がはずんじゃって、ちょーっと色々お土産貰っちゃって、ちょーっとアリスにそれをお料理してもらっておいしく頂いているだけなのに。解せぬ
私のこの店で最初に与えられた仕事は買い出し
たぶん、近所の地理や人に慣れるためのアリスの配慮じゃないかなと思っている。たぶんだけど
おかげでガーデンの近くのお店はそれなりに覚えてきたし、近所の人にも馴染んできた気がする
ちなみに、町並みは中世ヨーロッパ風の建物が軒を連ねていて、生活水準は中世よりはずいぶん高い印象だ(ヨーロッパの建築様式とかわかんない…)
町の人たちは気さくで気のいい人たちが多く、ちょっと歩けば
「あ、宵!今日もお使い?」
「お使いじゃなくて、買い出し!ちゃんとお仕事なんだから」
「ごめんごめん。そうだ!お詫びにこれ持っていきなよ!アリスに料理してもらいな」
「え、いいの?アリスは嫌そうな顔しそうだけど」
「いいのいいの、アリスは世話焼くのが趣味なんだ。これをあげたら好きなだけ構えるだろ?」
「とか言って、あとでガーデンに来てご相伴にあずかりたいだけなんじゃない?」
「ばれたか」
「そういうことなら素直にもらっとく。ありがと!」
「はーい!後で行くからねー!」
といった風に果物やら花やら野菜やら総菜やらを渡されて、帰るころには両手がいっぱいになる
美味しいものや綺麗なものが多くてついついもらっちゃうんだよね
「それにしても、今日は一段と多いですね」
「ああ、今日からウェイターするって言ったらこれもこれもってなって…」
「で、袋がはちきれんほどもらってきたと」
「だってー、せっかくの好意を無碍にするなんてできないじゃん」
「はいはい、そうですねー」
嫌そうにしながらも、アリスはいつも美味しいご飯を作ってくれる
きっと彼が言っていた「世話を焼くのが趣味」というのは本当なんだろうなと思う
嫌そうにするのは照れ隠しかな?絶対言わないけど。作ってくれなくなりそうだし
「そろそろ店開けるから準備してこい」
「えー!ご飯は?」
アリスは返事をせず、包丁を取り出した
素直じゃない
「ありがと。着替えてくる」
といってもエプロンつけるだけだけど
――――――
―――
今日からウェイター、とはいっても今やっているのはもっぱら片づけとお皿洗いがほぼだった
というのも、この店は常連さんが客層の大半を占めているので好き勝手なオーダーをする人が多い。うちでとれた香草使って何か作ってくれだったり、お土産と称して大量のジャガイモを持ってきてみんなに何か作ってあげてだったり、アリスの気分で適当に作ってだったり
メニュー表もあるにはあるけれどもほとんど機能しているとは言えない
なので注文を取るのも、会計をするのも一癖も二癖もあって私には少々手に余るのでいったんソフィーの様子を片づけをしながら見学するということになったのだ
が、正直できる気がしない…
お客さんの持ってきたものの値段がイマイチわからないので会計の差し引きが難しいし、メニューにない料理だとなおさら価格設定を瞬時に行うのは至難の業だった
ソフィーに聞いてみても、適当でいいんですよなんて言うけれど、双方納得の値段を導き出すって絶対適当じゃ無理でしょ…
これからはもうちょっと買い出しまじめにやろう
「おい、宵」
食器を下げたテーブルを拭いていると、アリスに呼ばれた
ちょいちょいと手招きをされるのでカウンターのそばによる
「どうしたの、アリス」
「これをあのテーブルの客に渡してきてくれ」
渡されたのは二枚のコルクのコースター
特に模様のないシンプルなデザインだ
「わかったけど…なんで?」
「渡したらわかる」
「そう…?」
見たところ、そのお客さんはまだ何も注文していないようでテーブルには何も置かれていない
なんでコースターがいるんだろう、と思いながらも言われたとおりにそのテーブルに向かった
「お二人をからかう気ですか?」
「いや、宵をからかってるんだ」
「でも、元気づけようともしてますよね?」
「なんでそっちはわかるんだよ」
「だって、宵さんが来てからアリスさん楽しそうですよ」
「…」
「世話焼きですね」
「…うるさい」
アリスはソフィーの頭をポンポンと優しく叩いた
――――――
―――
席についていたのは子供だった
一人は学ランを着込んだ中学生くらいの男の子。すらっとした細見の体格でぐっと不機嫌そうに眉間にしわを寄せている
もう一人は小学生くらいの子供だった。容姿は中性的でぱっと見…いや、よく見ても性別が判別できない
ゴスロリっぽいようなパンクファッションぽいような。東京とかではまま見かけそうな格好をしているが、この世界観にいささかミスマッチなその服装は浮世離れして見えた
「ウェイターさん?注文してもいい?」
小学生っぽい子供は屈託のない笑顔を向けてきた
派手な格好で少々怖いが笑顔はとても人懐っこい
「あ、えっと。すみません、私まだ注文とれなくて」
「大丈夫、メニューのここからここまで持ってきてくれたらいいよ」
メニューを開いて一番上から一番下までを指さす
そんな注文の仕方初めて見た
「そんなに食べるんですか?」
「この子がいっぱい食べるの。ねー?」
男の子に同意を求めるが彼はふいっとそっぽを向いてしまう
話し方は幼さが感じられるのに雰囲気が子供っぽくない。彼に対してもまるで子供に対して話しかけているようだ
「注文、お願いできる?」
「わかりました。あ、それとこのコースター、店主からです」
雰囲気にのまれて忘れかけていたコースターを渡す
すると子供はパチパチと目をしばたかせてからへーと一言つぶやいてにやりと笑った
「なるほど、一杯おごってくれるんだ。じゃあ、この子にコーラと僕にはパナシェを持ってきてくれる?」
「コーラとパナシェですね。かしこまりました」
二人に一礼して席を離れる
僕って言ってたから男の子なのかな?…本当にどっちともつかない容姿だ。もう一度姿を見てみるがやはりどちらかわからなかった
あれ?そういえば、パナシェってなんだろ?
「注文とれたか?」
カウンターから出てきたアリスに頭をポンポンされる
「え?あ…もしかしてああいう注文するってわかってて私に行かせたの?」
「簡単だっただろ?」
「そりゃまあ…」
「飲み物は?」
「コーラとパナシェ」
「ソフィー頼む」
「わかりました」
ソフィーはカウンターに入ると飲み物の準備を始めた
ここのコーラは自家製らしく元の世界で市販されていたものよりずっと香辛料の香りが強くてパンチがある
癖はあるけど、私は結構好きだ
「ねえ、アリス。パナシェってなに?」
「ビールとレモネードを使った混ぜ合わせるって意味のカクテルだ」
「へー、ビールとレモネード…え?ビール?」
「ん?ビールだ」
「ビールってお酒だよね?」
「まあ、そうだな」
「あーー!!?注文してたの子供だったのにアルコールの注文受け付けちゃった!!」
急いで戻って注文を取り消さないとと戻ろうとするがアリスにぐっと腕をつかまれる
「ちょっと何するの!子供にアルコールは出せないでしょ!?」
「大丈夫だ、あいつは見た目が子供なだけでずっと年食ってるよ」
「えー、アリス言い方ひどくない?」
さっきの子供が席を立っていたのか、すぐ近くでぶーたれてアリスの肘をつんつんとつついている
本当は小突きたいのだろうが身長が足らないのだろう
「ひどくない。ったく、出会って秒でからかうんじゃねぇよ」
「そういう意図でしょ?」
「…よくお分かりで」
「え、二人とも知り合い?」
「そうそう、知り合い。君、名前は?」
「東雲宵です」
「堅苦しいのは苦手だから気楽に話してよ。僕はオズワルド、オズって呼んでね!さっき一緒にいた子はアルファ。これからよろしくね、同居人さん」
にっこりと笑いながら差し出された手を反射的に握って握手を交わす
小さい手だ。柔らかい、子供の手だった
アリスは年食ってるって言ってたけど、お酒が飲める子供っていったい何歳なんだ…?
っていうか、ん?同居人?
言葉に引っかかってアリスに視線を流す
「ああ、言ってなかったか。こいつらもガーデンに住んでるんだ」
「…聞いてませんけどー!!」
より賑やかになる異世界生活はゆっくりと時を刻んでゆく
カチリと響かせる時計の針の音がやけに大きく、耳に残ったような気がした