お礼画面

今日もおばあちゃんの家に行くために森の中を通るいつもの道を歩いていた。

ふと森の方に目を向けると綺麗な花が咲いているのを見つけた。

とても美しかったのでおばあちゃんに見せたいと思った。

小さい頃はお母さんによく「道を外れたら怖い切り裂き魔がいるから森に入っては駄目よ」と言われていたが、それはきっと私に寄り道をさせないための嘘だったのだろう。

今はもう成長したし大丈夫。

そう思った私は道を逸れてそちらへ駆け寄り、しゃがんで花を摘み始めた。



1つ花を摘んだところで目の前に誰かの影が落ちた。

誰だろう、と思った私が顔を上げて立ち上がるとその影の主は私に話しかけてきた。

「こんにちは、お嬢さん」

「こ、こんにち……ひっ……!」

挨拶をしようとして彼の左手に大きな刃が付いていているのを見つけてしまった私は言葉を詰まらせる。

お母さんの言っていたことは嘘じゃ無かったんだ。

今更後悔しても遅い。

私は慌てて逃げようとくるりと向きを変えた。

しかし、彼は後ろを向いた私を抱きしめるような形で素早く拘束する。

「ああ、逃げないでくださいよ、お嬢さん」

「ごめんなさいッ……」

つい謝罪の言葉を口にしてしまったが早く逃げなければと思い暴れて拘束から抜け出そうとする。

「腹に穴を開けられたくなかったら大人しくしておいた方が懸命ですよ」

無防備な脇腹を刃で擽られながらそう囁かれ、私は抵抗する気がすっかり失せてしまった。

「ふふ、いい子です。安心してください。貴女が何もしなければ私は貴女を傷付けたりはしません」


大人しくなった私に満足したかのように刃の付いていない方の手で私を撫でながら彼はそう言った。

「さあ、行きましょうか」

「ど、どこへ……?」

「私の家ですよ」

「え……?」

度重なる恐怖と驚きで腰を抜かして座り込みそうになったが彼にそれを支えられる。

「歩けませんか?大丈夫です、私が運んで差し上げます」

そう言うと彼は私を横抱きにした。

「ずっと、ずっと貴女が欲しかった……これでようやく私のものに……」

ずっと、とはどういうことなのだろうか。そう思ったが恍惚とした様子の彼に返す言葉も見つからない。

「ああ、そういえばまだ名乗っていませんでしたね。失礼しました。私の名はジャック。世間では切り裂き魔、とも言われています」

私の顔を覗き込みながらそう言い、森の奥へと進んで行くジャックに私はどうすることも出来なかった。

「これから2人きりで幸せに暮らしましょうね」

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