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赤の教会。
ここではかつて
未完了の結婚式が行われた。
教会の木の下では
新婦が言えなかった
誓いの言葉が見つかるそうだ。
∴*∴*∴*∴*∴*∴*∴*∴*∴*∴*∴*∴*∴*∴*∴*
「っ、は、はぁっ、はっ」
走れ、走れ。足を止めるな。止めてしまえば僕は__!
鳴り止まない心音、伝う汗、そして、むせかえるような、
血の匂い。
「イソップくん!!」
「っ、イライ、さっ、」
逃げて、言うより前に僕に刃が振り下ろされる。
散る鮮血、裂けた服。傷口が炙られた様に熱い。声にならない悲鳴は喉の奥で潰れた。
「あらあら、ごめんなさいね?まだ日も浅くて、加減がわからないのよ」
そういいながら僕を見下ろす“血の女王”、マリーは心底…そう、心底楽しそうに笑い、こう続けた。
「そんな顔しないで頂戴な、別に悪いことをしたわけじゃあるまいし…ハンターはサバイバーを狩る。当然の行為でしょう?」
「そう、ですね…」
痛み、というよりも全身を焼き焦がすような暑さに耐えようと歯を食いしばる。イライさんは逃げられただろうか。暗号機は残り2つ。ここで僕が死ねば、残り2人。トレイシーさんはもう荘園に戻された。なまえさんがどこで解読を進めているかはチャットで確認済み…せめて、2人だけでも…
「貴方、納棺師というのでしたわね」
血の女王の声で色々と思案していたのが中断され、現実に意識が引き戻される。一向に椅子に座らせようとしない彼女を不信に思うも、どうせ逃げられやしないので言葉を返そうと口を開く。出来る事なら話したくないが、残った2人への時間稼ぎにもなるし、どうせ一定時間が経たないと死ぬことすら許されないのだ、この狂ったゲームは。
「、ええ…」
「死者を蘇生する能力…それを使えば、私のこの首飾りも消えるのかしら?」
女王が自身の首をするりと撫でる。首飾り…それは、あの縫い目のことを指しているのだろう。どうやら、首を一度落としてしまったらしい。神話生物やら元人間の蜥蜴やらなんやらが跋扈し、そのうえ毎日のように彼らとゲームをしているのだ、今更恐怖も驚きも何もない。
「さ、あ…確か、に、納棺した、ときに、その“首飾り”を…態と、化粧で施さ、なければ、蘇生、したときには…なくなって、いる、んじゃ、ない、でしょう、か…」
「今度、ぜひやってもらいたいものね」
「…それは、出来ないでしょう」
自分でも驚いてしまうぐらい、きっぱりと僕は言い切った。
「………どうしてかしら?」
そろそろ“終わる”からか、不思議と体は軽かった。
答えを無言のまま促す女王に、僕は言う。
「もう貴方を、誰も殺せないから」
そしてそのまま、意識が遠のく。
残り暗号機台数が、1になった。
どうか、逃げられますように。
失血死する僕を見下ろしたまま「そうね」と呟いた血の女王の瞳は、こちらを向いていても、見ているものは全く別物のようだったと、後で僕は日記に記す。
∴*∴*∴*∴*∴*∴*∴*∴*∴*∴*∴*∴*∴*∴*∴*
「イソップ君………」
失血死のアイコンが、最後に彼が放ったチャットが、残酷にも現状を浮き彫りにする。
残り暗号機台数、1。
ドクン、と心臓が脈打った。
逃げなければ。先にいった2人の為にも。
見つかるのを承知で窓枠を乗り越え、チェイスの準備をする。
「頼むよ、相棒」
ホゥ、と小さく答えた彼女としっかりと目を合わせて、強くなる心音にぎゅうと服を握りしめた。
「頼むよ、なまえ……」
残り1個。つくタイミングによっては、最善にも最悪にもなりうるそれを彼女なら、きっとやってくれる。
そんな僕の期待は、あっけなく散ることになる。
「やっと捕まえた!あの梟、なかなかに厄介なのね!」
「どうして……」
「あぁ、ここまで時間をかけすぎてしまったかしら?でもいまさら言っても遅いわよね…この占い師さんで最後なんだし」
最後。
その言葉に最悪の想像をしてしまう。
そんなわけない、馬鹿なことを考えるな……!
椅子がギチリと軋んだ気がした。
『解読に集中して!』
そう何度もチャットを送るも、一向に終わる気配がない。
まさか、本当に………
∴*∴*∴*∴*∴*∴*∴*∴*∴*∴*∴*∴*∴*∴*∴*
夢の景色のように、美しい眺めだった。
「さぁ可愛い子猫ちゃん?私のお手伝いをしてくださるかしら?」
「中央協会に…1人、墓場に…1人、あ、1人、こちらに…来てます…マリー様…!」
「よく出来ました!さ、貴女も解読していらっしゃい、また後で会いましょう?…血の女王の名に相応しい格好で」
微笑みながら言われて、私は多幸感で死んでしまいそうになる。
最初の頃は罪悪感が心を支配して、何事もなかったかのように「仕方ない仕方ない、次は頑張ろう!」と声をかけてくれる仲間たちに今すぐにでも懺悔を始めてしまいそうだった。でも今や彼女の微笑みを見たいが為に自分だけにその微笑みを向けてくれるように、自分だけに見せてくれるのが嬉しくて嬉しくてたまらなくて私は彼女に傅く。仲間の優しさを利用して、自分を満たす。
それがどうしようもなく、快感で。
無言のまま、イライが荘園に戻される。
それを見届けた私は暗号機の残り1%を打ち込んで、凡そ教会には似合わないサイレンの音を鳴り響かせた。
祭壇の神が何を思って私を見ているかだなんてことは、私にはどうでもいい情報だった。
心臓が高鳴る。
彼女が教会に足を踏み入れる。
仲間たちの血でより鮮やかに染め上げられた深紅のドレスが血の気のない顔によく映えて、それがまた、どうしようもなく美しかった。
「随分と待たせてしまったわ…ごめんなさいね、なまえ」
「いえ…私はマリー様の為ならいくらでも待ちます!あぁ…今日も綺麗ですね、マリー様…!」
「ありがとう。でも…まだ満足していないの……ねぇなまえ、貴女の血液でより美しく染め上げたいのだけれど、いいかしら?」
「勿論です…!」
そっと自分から近づいて、私は微笑む。彼女のように美しく微笑みたいものだ。振り上げられた刃に体を切り裂かれながら、私はまた多幸感に溺れる。
痛みなんて感じない、既に彼女を染めていた血液を上書きするようにドレスは私の鮮血に濡れた。倒れこみ、祭壇に体重を預ける私に再度彼女は微笑んで、金糸雀のような美しい声で言うのだ。
「ありがとうなまえ…今までで一番素晴らしいドレスになったわ!私を一番慕ってくれる貴女の“色”に染まったドレス…きっと何物にも代えがたい…あぁ、なんて素敵なのかしら!」
嬉しそうに囀る彼女に見下ろされながら、私はこの時間の終わりを嘆く。あと少しで、私は荘園に戻される。完全敗北。そんな戦績よりも、私には彼女に貢献できたという事実の方が大切なのだけれど。
「あぁでも、あんまりこんなことをしていると他の皆様方に怪しまれてしまうわね…次は、普通のゲームをいたしましょう?あの占い師さんも怪しんでいたようですし」
「はい、マリー様…!」
あぁ、もう時間切れ。
恍惚そのものの顔で答える私に、マリー様は無邪気な笑みを見せて、死に逝く私にこう言うのだ。
「また貴女の血で私を染め上げて頂戴ね?楽しみにしているわ!」
ええ勿論、私も楽しみにしています…
私の美しい女王様!
落ちる思考の中ただそれだけを呟いて、私の意識は完全に途絶えた。
∴*∴*∴*∴*∴*∴*∴*∴*∴*∴*∴*∴*∴*∴*∴*
赤の教会。
ここで行われるゲームは、
時に全員の失血死で幕を閉じる。
教会の祭壇の前、
新郎新婦が誓いの言葉を紡ぐそこでは
美しい華の様な血痕が残されているそうだ。
仲間を裏切った
罪人の鮮血で染められたドレスこそ、
血の女王の名に相応しい。
ここではかつて
未完了の結婚式が行われた。
教会の木の下では
新婦が言えなかった
誓いの言葉が見つかるそうだ。
∴*∴*∴*∴*∴*∴*∴*∴*∴*∴*∴*∴*∴*∴*∴*
「っ、は、はぁっ、はっ」
走れ、走れ。足を止めるな。止めてしまえば僕は__!
鳴り止まない心音、伝う汗、そして、むせかえるような、
血の匂い。
「イソップくん!!」
「っ、イライ、さっ、」
逃げて、言うより前に僕に刃が振り下ろされる。
散る鮮血、裂けた服。傷口が炙られた様に熱い。声にならない悲鳴は喉の奥で潰れた。
「あらあら、ごめんなさいね?まだ日も浅くて、加減がわからないのよ」
そういいながら僕を見下ろす“血の女王”、マリーは心底…そう、心底楽しそうに笑い、こう続けた。
「そんな顔しないで頂戴な、別に悪いことをしたわけじゃあるまいし…ハンターはサバイバーを狩る。当然の行為でしょう?」
「そう、ですね…」
痛み、というよりも全身を焼き焦がすような暑さに耐えようと歯を食いしばる。イライさんは逃げられただろうか。暗号機は残り2つ。ここで僕が死ねば、残り2人。トレイシーさんはもう荘園に戻された。なまえさんがどこで解読を進めているかはチャットで確認済み…せめて、2人だけでも…
「貴方、納棺師というのでしたわね」
血の女王の声で色々と思案していたのが中断され、現実に意識が引き戻される。一向に椅子に座らせようとしない彼女を不信に思うも、どうせ逃げられやしないので言葉を返そうと口を開く。出来る事なら話したくないが、残った2人への時間稼ぎにもなるし、どうせ一定時間が経たないと死ぬことすら許されないのだ、この狂ったゲームは。
「、ええ…」
「死者を蘇生する能力…それを使えば、私のこの首飾りも消えるのかしら?」
女王が自身の首をするりと撫でる。首飾り…それは、あの縫い目のことを指しているのだろう。どうやら、首を一度落としてしまったらしい。神話生物やら元人間の蜥蜴やらなんやらが跋扈し、そのうえ毎日のように彼らとゲームをしているのだ、今更恐怖も驚きも何もない。
「さ、あ…確か、に、納棺した、ときに、その“首飾り”を…態と、化粧で施さ、なければ、蘇生、したときには…なくなって、いる、んじゃ、ない、でしょう、か…」
「今度、ぜひやってもらいたいものね」
「…それは、出来ないでしょう」
自分でも驚いてしまうぐらい、きっぱりと僕は言い切った。
「………どうしてかしら?」
そろそろ“終わる”からか、不思議と体は軽かった。
答えを無言のまま促す女王に、僕は言う。
「もう貴方を、誰も殺せないから」
そしてそのまま、意識が遠のく。
残り暗号機台数が、1になった。
どうか、逃げられますように。
失血死する僕を見下ろしたまま「そうね」と呟いた血の女王の瞳は、こちらを向いていても、見ているものは全く別物のようだったと、後で僕は日記に記す。
∴*∴*∴*∴*∴*∴*∴*∴*∴*∴*∴*∴*∴*∴*∴*
「イソップ君………」
失血死のアイコンが、最後に彼が放ったチャットが、残酷にも現状を浮き彫りにする。
残り暗号機台数、1。
ドクン、と心臓が脈打った。
逃げなければ。先にいった2人の為にも。
見つかるのを承知で窓枠を乗り越え、チェイスの準備をする。
「頼むよ、相棒」
ホゥ、と小さく答えた彼女としっかりと目を合わせて、強くなる心音にぎゅうと服を握りしめた。
「頼むよ、なまえ……」
残り1個。つくタイミングによっては、最善にも最悪にもなりうるそれを彼女なら、きっとやってくれる。
そんな僕の期待は、あっけなく散ることになる。
「やっと捕まえた!あの梟、なかなかに厄介なのね!」
「どうして……」
「あぁ、ここまで時間をかけすぎてしまったかしら?でもいまさら言っても遅いわよね…この占い師さんで最後なんだし」
最後。
その言葉に最悪の想像をしてしまう。
そんなわけない、馬鹿なことを考えるな……!
椅子がギチリと軋んだ気がした。
『解読に集中して!』
そう何度もチャットを送るも、一向に終わる気配がない。
まさか、本当に………
∴*∴*∴*∴*∴*∴*∴*∴*∴*∴*∴*∴*∴*∴*∴*
夢の景色のように、美しい眺めだった。
「さぁ可愛い子猫ちゃん?私のお手伝いをしてくださるかしら?」
「中央協会に…1人、墓場に…1人、あ、1人、こちらに…来てます…マリー様…!」
「よく出来ました!さ、貴女も解読していらっしゃい、また後で会いましょう?…血の女王の名に相応しい格好で」
微笑みながら言われて、私は多幸感で死んでしまいそうになる。
最初の頃は罪悪感が心を支配して、何事もなかったかのように「仕方ない仕方ない、次は頑張ろう!」と声をかけてくれる仲間たちに今すぐにでも懺悔を始めてしまいそうだった。でも今や彼女の微笑みを見たいが為に自分だけにその微笑みを向けてくれるように、自分だけに見せてくれるのが嬉しくて嬉しくてたまらなくて私は彼女に傅く。仲間の優しさを利用して、自分を満たす。
それがどうしようもなく、快感で。
無言のまま、イライが荘園に戻される。
それを見届けた私は暗号機の残り1%を打ち込んで、凡そ教会には似合わないサイレンの音を鳴り響かせた。
祭壇の神が何を思って私を見ているかだなんてことは、私にはどうでもいい情報だった。
心臓が高鳴る。
彼女が教会に足を踏み入れる。
仲間たちの血でより鮮やかに染め上げられた深紅のドレスが血の気のない顔によく映えて、それがまた、どうしようもなく美しかった。
「随分と待たせてしまったわ…ごめんなさいね、なまえ」
「いえ…私はマリー様の為ならいくらでも待ちます!あぁ…今日も綺麗ですね、マリー様…!」
「ありがとう。でも…まだ満足していないの……ねぇなまえ、貴女の血液でより美しく染め上げたいのだけれど、いいかしら?」
「勿論です…!」
そっと自分から近づいて、私は微笑む。彼女のように美しく微笑みたいものだ。振り上げられた刃に体を切り裂かれながら、私はまた多幸感に溺れる。
痛みなんて感じない、既に彼女を染めていた血液を上書きするようにドレスは私の鮮血に濡れた。倒れこみ、祭壇に体重を預ける私に再度彼女は微笑んで、金糸雀のような美しい声で言うのだ。
「ありがとうなまえ…今までで一番素晴らしいドレスになったわ!私を一番慕ってくれる貴女の“色”に染まったドレス…きっと何物にも代えがたい…あぁ、なんて素敵なのかしら!」
嬉しそうに囀る彼女に見下ろされながら、私はこの時間の終わりを嘆く。あと少しで、私は荘園に戻される。完全敗北。そんな戦績よりも、私には彼女に貢献できたという事実の方が大切なのだけれど。
「あぁでも、あんまりこんなことをしていると他の皆様方に怪しまれてしまうわね…次は、普通のゲームをいたしましょう?あの占い師さんも怪しんでいたようですし」
「はい、マリー様…!」
あぁ、もう時間切れ。
恍惚そのものの顔で答える私に、マリー様は無邪気な笑みを見せて、死に逝く私にこう言うのだ。
「また貴女の血で私を染め上げて頂戴ね?楽しみにしているわ!」
ええ勿論、私も楽しみにしています…
私の美しい女王様!
落ちる思考の中ただそれだけを呟いて、私の意識は完全に途絶えた。
∴*∴*∴*∴*∴*∴*∴*∴*∴*∴*∴*∴*∴*∴*∴*
赤の教会。
ここで行われるゲームは、
時に全員の失血死で幕を閉じる。
教会の祭壇の前、
新郎新婦が誓いの言葉を紡ぐそこでは
美しい華の様な血痕が残されているそうだ。
仲間を裏切った
罪人の鮮血で染められたドレスこそ、
血の女王の名に相応しい。
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