朝目を開けて見慣れない天井が目に入り一瞬ここはどこだったかと考えたが、すぐに昨日のことを思い出した。今の時間は分からないが、寝すぎてしまったかもしれない。何か用事があったらいけないと思い、素早く身支度を整えて与えられた自室を出た。

「おはようございます」

椅子に座ってコーヒーを飲んでいるジャックの姿が見えたので挨拶をすると、彼は振り向いた。昨日見たジャックと同じ顔なのだが、何処か雰囲気が違う。なんというか、雰囲気が柔らかいのだ。

「おはよう。話は聞いたよ」

ぽかんとしている私の様子を見て、彼は曖昧に微笑んだ。

「私の話は聞いたかい？」

「画家をしている同居人がいるとだけ……ところで、ジャックさんは？」

「……またあいつ私の名を名乗ったのか……」

私がそう尋ねると、彼はぶつぶつと小さな声で呟いた。

「……？お2人は双子なんですか？」

「いいや。二重人格って知ってるかい？」

つい最近読んだ本が二重人格の人が主人公だったような気がする。

「ジギルとハイドみたいな感じですか？」

「ああ、そうだよ。私はそれなんだ」

昨日の彼と今日の彼は明らかに雰囲気が違うし嘘をついているようには見えない。二重人格の人なんて本当にいるのか。本の中だけだと思っていた。

「そうなんですね」

「あんまり驚かないんだね」

「まあ、世の中には私の知らないことは山ほどあるので」

私がそういうと彼は面白い人だね、と言って可笑しそうに笑った。

「ところで、料理はできるかい？」

「いえ、あんまり……」

メイドのような仕事なのに料理もできないなんて言ったら追い出されるかもしれない。口に出した後にそう思い、急に不安になった。

「ああ、大丈夫だよ。一緒に練習していけばいい。じゃあ、取り敢えず料理は私がするから毎朝コーヒーをいれて欲しいな。掃除と洗濯は交代でしよう」

「分かりました」

住まわせてもらってる身でそんなことでいいのだろうか、と少し思った。

「あと、時々絵のモデルになって欲しいな」

「勿論です！」

「ありがとう」

そう言って整った顔で微笑む彼はとてもかっこいい。

「あの、貴方は何とお呼びすれば……？」

「ああ、ジャックでいいよ」

「わかりました。改めてよろしくお願いします」

「よろしく」

こうして私の新しい暮らしが始まった。