突然両親が亡くなり、親戚に財産を盗られてしまったので日々の生活に行き詰まってしまった。私には稼げるような特技もないし、この時代私みたいな女が普通に働いて稼げる金額なんてたかが知れてる。そんな訳で私は体を売るしかないと思った。

切り裂きジャックの噂もあるし、正直不安しか無かったが飢えて死ぬにしろ殺されるにしろ死ぬのなら変わらないか、と半ば自暴自棄だった。


初めての日、私は客引きをするために道に立っていた。とは言っても勝手が分からない……そもそも、こんな美人でもなくスタイルもいい訳では無い私を選ぶ人なんているのだろうか。初めてだと高く買われるという話を聞いたが────

「お嬢さん、良ければ一夜を共に過ごしませんか？」

「は、はい」

色々考えている時に突然声をかけられた。

顔を上げてみるとそこには人好きのする笑みを浮かべた紳士がいた。とても整った顔をしていて少し見とれてしまいそうだ。この人なら怖そうではない……


彼に連れられてしばらく歩き、彼の家に着いた。優しそうな彼の様子に少し安心していたが、部屋に入るとやっぱり怖くなってしまった。その様子を悟られたのか、彼は嫌なら帰っていい、と言ってきたのだ。まさかそんなことを言われるなんて思ってもみなくてとても驚いた。しかし、ここで帰ってしまうとお金が貰えないので困る。焦った私は慌てて否定をした。

「それは駄目です！」

突然大声を出したので驚かれたようだったので咄嗟に謝罪をし、事情を軽く説明した。

「それなら……私の元で働きませんか？衣食住は保証します。あと大した額では無いですが自由に使えるお金も渡せますよ」

「働くって例えば……？」

「主には家事や雑用ですかね。あと私には画家の同居人が居まして。彼がもしかしたらモデルになってくれと頼むかもしれません」

このまま娼婦として働くよりはずっといい条件だ。彼が悪人である可能性もあるが、どうせ元々何もしなければ死ぬ身だ。どちらにせよ関係ない。既にこの時点で引き受ける気満々だったが、1つ気になることがあったので確認した。

「……あの、では夜の方は……？」

「それは貴女次第で大丈夫ですよ」

これは引き受けるしかない。

「よろしくお願いします」

「こちらこそ。私はジャックと言います。お名前をお聞きしても？」

「なまえです」

とりあえず、当面の生活は何とかなりそうで安心した。