リッパー短編集
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迫る失血死、少しずつ薄くなる呼吸。
地面は冷たく、また私から流れ出る血は熱いけれどすぐに冷えていく。体を寒さに震わせる余裕もなく、ただ肺に酸素を送り込む音を響かせて、私は目を閉じた。既に暗号機は解読済み、ゲートだって恐らく空いている。紅い目を爛々と光らせた狩の主に一発で仕留められてしまった私が出来ることは他の3人の無事と生還、ゲームの勝利を祈ること。あとは反省。もう少し体力をつけた方がいいかもしれない。チェイスは苦手だけれども、そんなことも言っていられないのだから。
地面に染み込む血の色も、とうの昔に見慣れてしまった。
痛い、とは、まだ感じている。
まだ。
いつか、感じなくなるのだろうか。
失血死へと、また歩みを進める。気が遠くなる。
閉じた瞼が、震える。
「____すみません、待たせてしまいました」
柔らかい朝露に濡れた咲きかけの薔薇のような声に反応する前に抱き上げられ、失血死への歩みを止める。瞼を薄く開いて見せれば、そこにあった紅はもう消え去っていた。
いいえ、待っていないわ。
そう言おうとして口をつぐむ。つぐまなかったとしても今こんな状態の私が何かを言うだなんてこと出来るはずも無いのだが。
姫抱きのまま、教会に彼の足音だけが小さく木霊する。
かつん、ぽた、かつん、かつん、かつん、ぽた、ぽた…
低いヒールがよく磨かれた床を傷つける音、私の傷口から血が滴る音。それらは特に和音を奏でることもなくただ音としてそこにある。響く。依然私は黙ったまま、彼の腕に抱かれている。
「あぁ、私の愛しい小さな命」
私が傷つけた、小さな命。
今日は悲鳴を上げませんでしたね。
うるさくしないのはいい子だと褒めて差し上げればよろしいのでしょうか。
それとも私にあなたの可愛らしい悲鳴を聴かせないのは酷い仕打ちだと怒ればいいのでしょうか。
……あぁ、どれにしても愛しい私の人形。
詩を読むように彼は言う。
「……キスを、しても?」
………………私が拒否できる立場になんていないのを、あなたは知っているくせに。
紳士的にあらねばならないだなんて適当なことを言って、自分の行為を非難出来ないものとする。
合意なら、何を外野が言ったって仕方がないのだから。
小さく顎を引いて肯定。
声にしない。
私が拒否しないことも、あなたはちゃんとわかっている。
そっと、神へのささげもののように床に降ろされて、また私は彼のものとは違う冷たさを知る。
神へのささげもののようにと言ったって、実際は彼への贄なのだけれど。
あぁ今日もまた、刃先が触れあう音がする。
しゃりしゃりと、それはまるで楽器の様で。
気を失う直前に思う。
あなたは気づいているのだろうか。
私の気持ちに、感情に。
あなたの『愛』を受け止める時に、私が浮かべる表情に。
あぁ、私だって。
私だってあなたを愛している。
あなた以外に奪われるものですか。
焼ける様な痛みも、あなたからのものなら微かに幸福を感じてしまえる。
とうの昔に狂っている。
だからこそ、愛してしまえる。
異形を、異常を、愛してしまえる。
あぁ、あなたは気づいているかしら。
愛しているわ、ジャック・ザ・リッパー。
私の愛しの殺人鬼。
ひらりと舞う紅い薔薇の花弁が、私の血溜まりに静かに落ちた。
私は唇で弧を描く。
暗転。
目が覚めて少ししたら、愛を返しにあなたの元へ。
紅茶でも飲んで、愛を囁こう。
いつか気がついて、ジャック・ザ・リッパー。
あなたの、私の、愛の歪さに。
気がついて、それでも、愛してね。
地面は冷たく、また私から流れ出る血は熱いけれどすぐに冷えていく。体を寒さに震わせる余裕もなく、ただ肺に酸素を送り込む音を響かせて、私は目を閉じた。既に暗号機は解読済み、ゲートだって恐らく空いている。紅い目を爛々と光らせた狩の主に一発で仕留められてしまった私が出来ることは他の3人の無事と生還、ゲームの勝利を祈ること。あとは反省。もう少し体力をつけた方がいいかもしれない。チェイスは苦手だけれども、そんなことも言っていられないのだから。
地面に染み込む血の色も、とうの昔に見慣れてしまった。
痛い、とは、まだ感じている。
まだ。
いつか、感じなくなるのだろうか。
失血死へと、また歩みを進める。気が遠くなる。
閉じた瞼が、震える。
「____すみません、待たせてしまいました」
柔らかい朝露に濡れた咲きかけの薔薇のような声に反応する前に抱き上げられ、失血死への歩みを止める。瞼を薄く開いて見せれば、そこにあった紅はもう消え去っていた。
いいえ、待っていないわ。
そう言おうとして口をつぐむ。つぐまなかったとしても今こんな状態の私が何かを言うだなんてこと出来るはずも無いのだが。
姫抱きのまま、教会に彼の足音だけが小さく木霊する。
かつん、ぽた、かつん、かつん、かつん、ぽた、ぽた…
低いヒールがよく磨かれた床を傷つける音、私の傷口から血が滴る音。それらは特に和音を奏でることもなくただ音としてそこにある。響く。依然私は黙ったまま、彼の腕に抱かれている。
「あぁ、私の愛しい小さな命」
私が傷つけた、小さな命。
今日は悲鳴を上げませんでしたね。
うるさくしないのはいい子だと褒めて差し上げればよろしいのでしょうか。
それとも私にあなたの可愛らしい悲鳴を聴かせないのは酷い仕打ちだと怒ればいいのでしょうか。
……あぁ、どれにしても愛しい私の人形。
詩を読むように彼は言う。
「……キスを、しても?」
………………私が拒否できる立場になんていないのを、あなたは知っているくせに。
紳士的にあらねばならないだなんて適当なことを言って、自分の行為を非難出来ないものとする。
合意なら、何を外野が言ったって仕方がないのだから。
小さく顎を引いて肯定。
声にしない。
私が拒否しないことも、あなたはちゃんとわかっている。
そっと、神へのささげもののように床に降ろされて、また私は彼のものとは違う冷たさを知る。
神へのささげもののようにと言ったって、実際は彼への贄なのだけれど。
あぁ今日もまた、刃先が触れあう音がする。
しゃりしゃりと、それはまるで楽器の様で。
気を失う直前に思う。
あなたは気づいているのだろうか。
私の気持ちに、感情に。
あなたの『愛』を受け止める時に、私が浮かべる表情に。
あぁ、私だって。
私だってあなたを愛している。
あなた以外に奪われるものですか。
焼ける様な痛みも、あなたからのものなら微かに幸福を感じてしまえる。
とうの昔に狂っている。
だからこそ、愛してしまえる。
異形を、異常を、愛してしまえる。
あぁ、あなたは気づいているかしら。
愛しているわ、ジャック・ザ・リッパー。
私の愛しの殺人鬼。
ひらりと舞う紅い薔薇の花弁が、私の血溜まりに静かに落ちた。
私は唇で弧を描く。
暗転。
目が覚めて少ししたら、愛を返しにあなたの元へ。
紅茶でも飲んで、愛を囁こう。
いつか気がついて、ジャック・ザ・リッパー。
あなたの、私の、愛の歪さに。
気がついて、それでも、愛してね。
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