リッパー短編集
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「よし…!」
気合を入れなおして、解読を始める。
マップは赤の教会で、私がいるのはお墓が乱立、っていうのもおかしい言い方だけれども、沢山ある比較的ゲートに近い場所。
「ファーチェは引きたくないな…」
正直チェイスは苦手だ。そもそも追いかけるのが性に合わない。どちらかと言えば追い回すほうが得意なのだけれど、貧弱な体では無理だ。そもそも今は逃げる側なのだから追い回すなんてこと、できっこないのだが。
アイコンの表示が切り替わる音を聞いて、誰かが負傷してしまったことを知る。どうやらエマのようだ。いつものように椅子を壊しているところを奇襲されてしまったのだろうか…
「え?」
ゴーン、と間もなく鐘の音が響き渡る。
『ハンターが近くにいる!』
私の記憶が正しければ、エマはそこそこチェイスが得意だったはず。なのに、なぜこの短時間で?
「あれ…?なんで、座らせないんだろ…椅子がないのかな?」
思わず顔を上げて赤いシルエットを探すと、ハンターはリッパー…あのシルエットならテンタクルのだれかだろう…らしいということしかわからなかったが、兎に角行ってみるしかない。解読を終わらせ、シルエットが見えた方向へと走る。
「あ!なまえ!」
「おや、お仲間がいらっしゃったようですよ、エマさん」
「なに、やってるの?」
目の前に広がる光景に思わずあきれ返ったような声が出る。
「いやぁ、実は薔薇の杖を手に入れまして…試してみたかったんですよ。だからエマさんにお願いしたんですよ、一番近くにいらっしゃったもので」
そう、私の目の前で、
銀のテンタクルが、エマにお姫様抱っこをしていたのだった。
ちくり、と胸の何処かを刺される感覚。
「あー!エマいいなぁ!ボクも抱っこしてよ!」
「じゃあ俺もしてもらおうかな」
「トレイシーさんはまだいいとしてなんでナワーブ君みたいな野郎なんか抱かないといけないんですか」
「まだってなに⁉」
「俺もそう言われたら遠慮したくなってきた」
「なまえは?抱っこしてもらわなくていいの?」
「俺みたいな野郎じゃないからやってもらえるぞ」
「わ、たしは、いいや、ごめんね」
解読進めとくっ、そう言って踵を返し、走り出す。
呼び止めようとする声も聞かずに、ここから一番遠い暗号機まで、何かが零れ落ちてしまいそうなのを必死に食い止めながら。
胸が痛んで、どうにかなってしまいそうだった。
見たくなかった。彼が他の人とあんなに近くにいるのを。
身勝手な嫉妬だってわかっている。
「でも…」
あんな些細なことなのに、胸が痛んでどうしようもなかった。
それさえも無視をして解読を始める。通電したら脇目も降らずにゲートから出て、自室に引きこもって居よう。
いままで、こんな気持ちになったことなんて数え切れないほどあったのだから、いつも通り時間を置けば笑って流せるようになるだろう。こんな苦しさなんて、所詮は一時の感情なのだから。
自分に言い聞かせるようにそう考えていたら、調整を失敗してしまった。火花が散り、痛みに顔をしかめる。
普段はしない初歩的なミスに、心が動揺したのだろうか。
「あ…」
気がついたら、泣いていた。
そして、心音がし始める。
来ないで、と思う間もなく彼は現れた。
「ここにいたんですか」
「…私に構わなくていいから、みんなの所に行って来たら」
「それが皆さんにこっぴどく叱られましてね…恋人を放って他の女を抱くとは何事だ、と…自分だって抱かれたくせに…ってなんで泣いてるんですか⁉」
慌てたように銀のテンタクルはあたふたとした後、私をそうっと抱きしめた。
「服…濡れちゃうよ」
「いいですよ、貴女の涙なら」
「…そう」
そのままで、どのくらい時間が立ったのか。
通電を知らせるブザーの音で我に返る。
胸はまだ微かに傷んでいて、思わず銀のテンタクルを見上げてしまう。
「いきましょうか」
「え、あ、きゃあっ」
殴られることなくそっと抱えられ、ゲートへと運ばれる。
「仮初めにすぎませんが…」
バージンロードをわざと通ってゲートへと向かう彼の顔を見ることができない。
「もう…それ、持ってこないでね」
「ええ、もう充分です」
皆が呼んでいる。
ゲートを通る前に振り返って微笑んでみた。
またあとで。口の動きだけでそれを伝えてから、彼の表情をうかがうことなく、走り出す。
胸はもう、痛くなかった。
気合を入れなおして、解読を始める。
マップは赤の教会で、私がいるのはお墓が乱立、っていうのもおかしい言い方だけれども、沢山ある比較的ゲートに近い場所。
「ファーチェは引きたくないな…」
正直チェイスは苦手だ。そもそも追いかけるのが性に合わない。どちらかと言えば追い回すほうが得意なのだけれど、貧弱な体では無理だ。そもそも今は逃げる側なのだから追い回すなんてこと、できっこないのだが。
アイコンの表示が切り替わる音を聞いて、誰かが負傷してしまったことを知る。どうやらエマのようだ。いつものように椅子を壊しているところを奇襲されてしまったのだろうか…
「え?」
ゴーン、と間もなく鐘の音が響き渡る。
『ハンターが近くにいる!』
私の記憶が正しければ、エマはそこそこチェイスが得意だったはず。なのに、なぜこの短時間で?
「あれ…?なんで、座らせないんだろ…椅子がないのかな?」
思わず顔を上げて赤いシルエットを探すと、ハンターはリッパー…あのシルエットならテンタクルのだれかだろう…らしいということしかわからなかったが、兎に角行ってみるしかない。解読を終わらせ、シルエットが見えた方向へと走る。
「あ!なまえ!」
「おや、お仲間がいらっしゃったようですよ、エマさん」
「なに、やってるの?」
目の前に広がる光景に思わずあきれ返ったような声が出る。
「いやぁ、実は薔薇の杖を手に入れまして…試してみたかったんですよ。だからエマさんにお願いしたんですよ、一番近くにいらっしゃったもので」
そう、私の目の前で、
銀のテンタクルが、エマにお姫様抱っこをしていたのだった。
ちくり、と胸の何処かを刺される感覚。
「あー!エマいいなぁ!ボクも抱っこしてよ!」
「じゃあ俺もしてもらおうかな」
「トレイシーさんはまだいいとしてなんでナワーブ君みたいな野郎なんか抱かないといけないんですか」
「まだってなに⁉」
「俺もそう言われたら遠慮したくなってきた」
「なまえは?抱っこしてもらわなくていいの?」
「俺みたいな野郎じゃないからやってもらえるぞ」
「わ、たしは、いいや、ごめんね」
解読進めとくっ、そう言って踵を返し、走り出す。
呼び止めようとする声も聞かずに、ここから一番遠い暗号機まで、何かが零れ落ちてしまいそうなのを必死に食い止めながら。
胸が痛んで、どうにかなってしまいそうだった。
見たくなかった。彼が他の人とあんなに近くにいるのを。
身勝手な嫉妬だってわかっている。
「でも…」
あんな些細なことなのに、胸が痛んでどうしようもなかった。
それさえも無視をして解読を始める。通電したら脇目も降らずにゲートから出て、自室に引きこもって居よう。
いままで、こんな気持ちになったことなんて数え切れないほどあったのだから、いつも通り時間を置けば笑って流せるようになるだろう。こんな苦しさなんて、所詮は一時の感情なのだから。
自分に言い聞かせるようにそう考えていたら、調整を失敗してしまった。火花が散り、痛みに顔をしかめる。
普段はしない初歩的なミスに、心が動揺したのだろうか。
「あ…」
気がついたら、泣いていた。
そして、心音がし始める。
来ないで、と思う間もなく彼は現れた。
「ここにいたんですか」
「…私に構わなくていいから、みんなの所に行って来たら」
「それが皆さんにこっぴどく叱られましてね…恋人を放って他の女を抱くとは何事だ、と…自分だって抱かれたくせに…ってなんで泣いてるんですか⁉」
慌てたように銀のテンタクルはあたふたとした後、私をそうっと抱きしめた。
「服…濡れちゃうよ」
「いいですよ、貴女の涙なら」
「…そう」
そのままで、どのくらい時間が立ったのか。
通電を知らせるブザーの音で我に返る。
胸はまだ微かに傷んでいて、思わず銀のテンタクルを見上げてしまう。
「いきましょうか」
「え、あ、きゃあっ」
殴られることなくそっと抱えられ、ゲートへと運ばれる。
「仮初めにすぎませんが…」
バージンロードをわざと通ってゲートへと向かう彼の顔を見ることができない。
「もう…それ、持ってこないでね」
「ええ、もう充分です」
皆が呼んでいる。
ゲートを通る前に振り返って微笑んでみた。
またあとで。口の動きだけでそれを伝えてから、彼の表情をうかがうことなく、走り出す。
胸はもう、痛くなかった。