「ねえねえ、川辺にいるイケメンの画家知ってる？」

「知ってる知ってる！かっこいいよね！」

耳に入ってきた同僚の会話にとても驚いて、思わずそちらを向いてしまった。この辺にいるイケメンな画家といえばジャックくらいしかいない。

その後も彼女らはやれかっこいいだの、やれミステリアスな雰囲気が素敵だなどと盛り上がっている。

面倒なことにならないといいけど、と思いつつ私は帰る前に片付けたいと思っていた仕事に取りかかった。

その仕事が終わる頃には彼女たちも帰ったようで、辺りはとても静かになっていた。

仕事場を後にすると今日もジャックの元へ向かった、のだが……

「こんにちは！お名前はなんと言うんですか？」

「あ、えっと……ジャックといいます」

先程の彼女達がジャックに話しかけているのを見てしまった。

これでは近付きたくても近付けない。早く退いてくれないかな、と思いつつその場を眺めていた。

ジャックの表情は見えないが、彼女達はとても楽しげに話していて盛り上がっているようだ。

なんだかいたたまれない気持ちになって帰ろうかと何度も思ったが、ジャックと話したいという気持ちがそれを押しとどめた。

しばらくは悶々と眺めているだけだったが、ついに心を決め、彼女達を無視してジャックに話しかけようと近寄る。

「こんにちは、ジャック」

「おや、こんにちは、なまえ」

私が挨拶をするとジャックは会話を止めて挨拶を返してくれた。

「なまえ……？」

彼女達は驚いたように私を見た。

「知り合いだったの？まあいいわ、そんなことよりこんな女は放っておいて私達とお茶に行きましょ？」

彼女は上目遣いでジャックに言った。その言葉に傷付いた私は、恐る恐るジャックの反応を伺う。

「こんな女？何を言ってるんです？」

ジャックの顔から笑顔が消えた。

「私の恋人に何か文句ありますか？」

ジャックは立ち上がると私の腰を抱き寄せた。彼の体温を感じるほどの距離に顔がかっと赤くなる。

「な……！恋人だったの……！？」

彼女達の顔からは血の気が失せ、わなわなと震えていた。

「そうですよ。とても可愛いでしょう？」

ジャックは私の手を取り、胸の前へ寄せた。

「そんな女、貴方には勿体ないわよ」

「失礼ですね。私の大切な恋人に文句あるんだったらもう関わらないでください」

ジャックがにっこりと笑うと、彼女達は踵を返して去っていった。