恋人編
名前変更
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「今日は寒いですねぇ…」
喋ると息が白くなった。まだ暗い通りを2人で並んで歩いていた。
今日は2人とも早番で出かける時間が同じなので、私はとっても幸せな気持ちでいる。だって、轟さんと並んで歩けるから!人通りがないのをいいことに私は轟さんにくっついて歩いていた。
「泉でもそんなこと言うんだな」
轟さんも白い息を吐きながら言った。
「なっ…!私のことなんだとお思いですか⁉」
「カイロ…?」
冗談もたまには言った方が良いと常々進言しているけど…。
「カイロ…!残念ながらカイロは彼女ではいられないですね…」
「悪かった」
「冗談ですよ」
そう言うと轟さんはほっとした顔になった。
「人間ですから、個性の都合上体に熱を溜めやすくていつでもぽっかぽかでも、寒さは感じますよ。とはいえ、普通の人よりは薄着ですが」
首にはマフラーを巻き、手袋をしているが、これは体の熱を冷やさないためだ。
「…こんな寒い日に生まれたんですね」
「あぁ」
「轟さん、手を繋いでもいいでしょうか」
隣を向いてそう尋ねると轟さんは首を傾げた。繋ぎたいなら好きに繋げばいいのに、と言いたげな顔だ。
「寒くなっちゃうんですけど…素手がいいんです」
私は左の手袋を外して、ひらひらさせた。
「なら、左に来い。こっちのがあったけぇから」
轟さんは左の手袋を外した。その優しさにきゅんとしつつ、左の手袋をはめ直した。反対側に回って、右の手袋を取って轟さんの左手を握った。
「あったかい」
「あったけぇ」
思わず出た言葉が一緒だったので、2人で顔を見合わせてはにかんだ。
「好きです」
轟さんのはにかみにきゅんとして、告げるといつもの調子で「そうか」と言った。でも、手だけはぎゅっと握り返してくれた。
「お誕生日おめでとうございます」
私の誕生日じゃないけど、嬉しくなって声が弾んだ。
「…ありがとな」
轟さんは嬉しそうに答えた。
「ぐっ…」
「どうした⁉」
私が左手で胸を押さえて苦しみ出したので、轟さんは心配して顔を覗き込んできた。
「すみません、大丈夫です。幸せ噛み締めてるだけです」
「いつも通りだな、良かった」
いつも通りなんて言いながら、私がときめきで胸を締め付けられてる時にいつも「どうした⁉」って心配してくれる。
こんなことが轟さんの日常になっていて嬉しかった。
「じゃあ、そろそろ」
駅が近づいてきたので、手を離さなければならない。名残惜しく思ってなかなか手を離せないでいると、
「泉、今日も頑張れよ」
と轟さんが言ってくれた。背筋がぴんと伸びる。
「はい!今日も市民の安全のため、頑張ってきます!」
私は手を離して、だっと駆け出した。
「行ってきます!帰ったらお祝いしましょうね!」
振り返って大きく手を振ると、轟さんも小さく振り返してくれた。
それだけで、私は今日も頑張れる。
2021.1.13