家族編
名前変更
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「あれ?お兄ちゃん…」
呼びかけてすぐに違和感を感じた。お兄ちゃんぽい後ろ姿なのに、なんか違う。
振り返った男の子に、眉を寄せた。
「じゃないね?誰?」
男の子はびっくりして目を見開いていた。
「マッ…!?」
咄嗟に口をついて出てしまったらしく、男の子は両手で口を覆った。その仕草を見て、悪い人じゃなさそうと思った。
「ま?」
ま、ってなんだろう。首を傾げた。
「間違えただけ。えーっと、轟泉さん、だよね?」
「とど!?わ、私は緑谷泉だよ…!」
今度は私がびっくりする番だった。なんで片想いの相手の名字で呼ばれたんだろう。慌てて正しい名前を言うと、男の子はまた失敗したと顔を顰めた。
「あーそっか。間違えた。しまった、まだ緑谷だ。制服着てるもんな…どんな間違いしてんだよ…」
ぶつぶつ呟いている少年は、兄にそっくりだった。お兄ちゃんをこよなく愛している私が間違えそうになるなんておかしい。
深緑のもしゃもしゃヘア。くりっとした瞳。ほおのそばかす。違うのは、透き通るようなブルーの瞳くらいだ。ブルーの瞳?似てるような気がするけど、気のせいかな。
一瞬トガヒミコ?とも思ったけど、その人に変身する能力だから、違う。お兄ちゃんは私と同じ緑色の目をしている。
疑ってしまったが、兄と似ているせいなのか、不思議と嫌な感じはしなかった。むしろ、なんというか家族のような…。まあ私の知り合いにお兄ちゃんにそっくりな人はいないけど。
「瞳、とても綺麗だね。私好き」
少年は私の言葉に驚いて、目を見開いた。
「同じこと言ってる…」
「え、誰と?」
「それよりも、ちょっと歩こうよ」
「待って、名前は?」
少年はひみつ、と笑って、手を引いて歩き出した。握られた手は知らない子なのに、しっくりときていた。
残念、と口に出して笑うと、振り返った少年が不思議そうな顔をしていた。
「知らないやつに手を引かれてるのに、緊張感ないんだね」
「だって、君のこと知ってる気がするんだもん。君は私を知ってるんだよね?」
「うん、よく知ってるよ。だって、僕はあなたに会いにきたんだから」
少年の優しそうな笑みは、誰かに似ている気がした。
「泉?」
低い声に母の名前を呼ばれて、振り返った。高校生の母はぱっと顔を輝かせて、僕の手を振り払った。
「轟さん!」
嬉しそうに駆け寄った先には、高校生の父がいた。
「こんにちは!」
父が好きなことを隠しきれていない。…いや、隠してないって言ってたな。
「うわ、思ったより…」
小さい、と言おうとして低めの声に遮られた。
「誰だこいつ」
警戒心丸出しじゃん。母の前に一歩出て、後ろに隠すと、僕をきつく睨んだ。…こわ…。
「分かんないんです」
「分からない?なんでそんな奴といるんだ」
「名前は教えてくれなかったんですけど、お兄ちゃんに似てませんか?」
「たしかに似てるな…」
よく言われます。というか、あなたによく言われます。苦笑いをすると、母が何かに気がついたように、父と僕を見比べ始めた。
「あれっ?」
父の正面へ行って、じっと見つめた。父は気にすることなく、不思議そうに母の顔を見ていた。熱心に見つめる母が可愛いのか、父は口元に笑みを浮かべた。母は違うことに夢中で気がつかない。
それから、振り返って僕を見ると何かを確信して、力強く頷いた。
「轟さん!さっき似てるなって思ったんですけど、この子の瞳、轟さんの左目と同じです。とっても素敵なブルーなんです」
母は嬉しそうに、にこにこ笑いながらもう一度父の方を振り返った。
当たり前だ、僕のこの瞳は父譲りなんだから。
「それで、結局お前は誰なんだ。緑谷、じゃねぇよな…?」
「まあ、出久さんではないね」
「え!?お兄ちゃんのことも知ってるの!?やっぱり名前教えてよ!」
母の瞳がより一層輝いた。そうだ、母のブラコンぶりは昔の方が凄かったと父が言っていた。
「ごめん、名前は教えられないんだ。でも、ヒントなら教えてあげられるから、考えてみて」
「ヒント!?」
母の目がキラキラと輝いたことが、面白くて笑ってしまった。父は面白くなさそうだ。
「僕の個性。2つあるんだけどね…」
そう言って僕は両手を前に出した。ふわっと小さな炎を出した。父の表情が変わる。自分の左手で火傷の跡に触れた。
「こっちは父親に。もう一つは」
手をおろして、口から息ではなく炎を噴き出した。
「母親に貰ったんだ。あとね」
少し恥ずかしくなって、頰をかいた。
「僕の瞳、綺麗って言ってくれたでしょ?これ、父親と同じなんだけど、母がいつも綺麗ねって言ってくれるんだ」
母がハッとして口を押さえた。うん、そう。さっきも言ってくれたよね。
「最後に最大のヒントね。僕は母の兄に超似てるんだ」
そう言って笑うと、2人して目を見開いていた。2人の驚いた顔を見れて、満足。
「じゃあ、また未来で会おうね」
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謎シチュエーションでしたが、楽しかった…。高校生のほおくんが、高校生の両親と対面して欲しかっただけのお話です。
成長したほむらは、伯父である出久にそっくり。背格好までよく似ているので、エンデヴァーをはじめ、色んな人に間違えて呼びかけられます。母である夢主もしょっちゅう間違えてますが、父である轟は1度も間違えたことがありません。「間違えるか?全然ちげぇだろ」とのことです。夢主には不思議で不思議でたまりません。
冒頭の「マッ…!?」は幼い頃に呼んでいたママが驚いた拍子に口から飛び出しました。
2020.08.12
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