家族編
名前変更
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「…ん…あれ…お兄ちゃん…」
お兄ちゃんの声が聞こえて目を開けた。眩しいと思ったら影が射した。お兄ちゃんが心配そうに私の顔を覗き込んでいた。
「ごめん。起こしちゃったね」
「…大丈夫。うたた寝しちゃっただけ…」
そう言ってソファから立ち上がるが、足元がふらついた。お兄ちゃんが私の腕を掴んで支えてくれた。
「ベッド行って寝た方がいいよ!フラフラしてるじゃないか」
「寝起きだからだもん。それより、焦凍さん送ってくれてありがとうね」
「玄関で寝ちゃったんだけど…」
「…泉…?」
眠そうな顔をした焦凍さんが千鳥足でリビングに入ってきた。
「焦凍さん。おかえりなさい」
お兄ちゃんの手を払って、焦凍さんに駆け寄った。フラつく焦凍さんを受け止めようと腕を伸ばす前に、力強く抱きしめられてしまった。
「泉、俺を嫌わないでくれ。お願いだ…!」
泣きそうな声で弱々しく言う焦凍さんを、きつく締められた腕の中でなんとか腕を上げて優しく抱きしめた。
「何言ってるんですか。どんなことがあっても、嫌いになりませんよ。私はあなたを一生かけて愛し続けるって決めてるんですから……って!お兄ちゃん!ちょっと助けて…焦凍さん寝てる!」
私の言葉は届いたのか届いていないのか、焦凍さんは眠ってしまっていた。全体重が私の肩にのしかかる。
お兄ちゃんはすぐさま焦凍さんを担ぎ上げると、寝室に連れて行ってくれた。
「…目が覚めちゃった。お兄ちゃん、お茶飲む?」
焦凍さんを布団に寝かせて、リビングに戻ってきたお兄ちゃんに声をかけた。
「あ、うん。じゃあお願い」
「焦凍さん随分酔っていたみたいだったけど、何かあったの?あんなに呑むなんて珍しい…」
台所へ行き、お茶の準備をしながらお兄ちゃんに問いかけた。
「泉が最近寝ているばかりだってすごく心配してたんだよ」
リビングのソファに座ったお兄ちゃんが僕も心配だよと言った。
「本当に眠いだけなんだけど…。心配症だなぁ」
確かにここのところ自分でもびっくりするくらい、眠くて眠くて仕方がない。
「…それでさ、芦戸さんと蛙吹さんがもしかしたらって教えてくれたんだけど…」
中々その先を言わないお兄ちゃんに首を傾げた。お茶をローテーブルに置いて隣に腰をかけた。
「お兄ちゃん?」
お兄ちゃんは緊張してるか、息をふーと長く吐いた。何を言われるのかとどきどきしながら待つ。
「…泉、妊娠してない…?」
言葉を上手く飲み込めずに固まってしまった。何を言えば良いのか分からなかった。
「実はお母さんも気にしてて、僕にもしかしたらって言ってきたんだ。その話を聞いて轟くん呑みすぎちゃって…」
「赤、ちゃん…」
自然とお腹に手を当てていた。私と焦凍さんの子ども…?生理が前に来たのいつだっけ…?最近忙しかったせいか忘れていた。
「お母さんも芦戸さんも、よく寝てるのは妊娠してるからじゃないかって」
ふと思い当たる。
「それじゃ焦凍さんなんであんなこと言ったの…?俺を嫌わないでくれ、なんてどうして妊娠した妻に言うの?まさか子供が欲しくなくてそんなこと言ったの?堕ろせって意味なの…?」
悪い方へ悪い方へ考えが行ってしまう。自分で言いながらどんどん涙が溢れてきた。
「違うよ、轟くんはそんなことを言ったりしない。…大丈夫。泣かないで泉」
お兄ちゃんは優しく抱きしめて、頭を撫でてくれた。昔からこうやって兄に抱きしめてもらえると安心した。
だけど、今は焦凍さんに大丈夫って言って抱きしめてほしいと思った。
「轟くん自身の問題なんだよ。僕が言うことじゃないから、ちゃんと泉が轟くんと話すんだよ。明日は仕事なんだっけ?休めそう?」
「うん、そうする。…今日の夜誰がいたっけな…」
机の上に置いていた携帯を手にして、シフト表を開いた。今の時間なら事務所で仮眠取ってるかな。
「…よし…!大事な妹のため、街の平和のため、僕がひと肌脱ぐよ!」
「うーん」
シフト表を眺めながら、誰にお願いすべきかと考えて空返事になった。
「明日というか今日休みだから、君の代わりに仕事してくる」
その言葉に驚いて、顔を上げた。お兄ちゃんはもう決めた!という顔をしていた。
「えっ…えぇっ⁉ちょ、っとまって?」
「泉はきちんと轟くんと話し合って、病院にも行っておいで」
「そうするけど…!私の代わりに仕事しなくていいんだよ⁉」
「チームアップだと思えば良いよ。それとも僕じゃ不満?」
「不満なんて!思うわけない!」
「でしょ。連絡は僕からしておくから、泉はもう寝た方がいいよ」
「やっ…!それはさすがに私がする…!」
事務所のみんながびっくりしちゃうよ…!私は慌てて事務所に電話をかけた。事情を話していると、お兄ちゃんが「電話を貸して」と手を出した。私は諦めて「すみません、ちょっと電話代わります」と携帯をお兄ちゃんに渡した。
電話口でデクなんて名乗るもんだから電話口から驚いた声が聞こえたけど、お兄ちゃんは有無を言わさない様子で話すと電話を切ってしまった。
「そろそろ帰るね」
「…明日よろしくね…?」
玄関で靴を履いたお兄ちゃんに言うと、お兄ちゃんはにこっと笑った。
「任せて」
それから、何も言わずにぎゅっと優しく抱き締めてくれて頭を撫でてくれた。
「大丈夫だよ」と言ってくれているかのようだった。
「連絡してね」
「うん、一番に連絡するよ」
お兄ちゃんが出て行ってすぐ玄関の鍵をかけると、欠伸が出た。
焦凍さんの眠る部屋にそっと入って、布団の横に座った。眉間に皺を寄せて眠っていた。…あーあ、辛そうな顔。せっかくの綺麗な顔が台無し。私は焦凍さんの頬にそっと撫でた。
「好きです」
眠気を感じて、隣の自分の部屋のベッドに潜り込んだ。
.