夫婦編
名前変更
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その日、大規模災害が起きた。
私たちヒーローは1人残らず駆り出された。パトロールをしていた私はすぐに対応に追われ、全貌が見えないまま活動を続けた。街中めちゃくちゃで建物は倒壊し、出火している場所もあった。
火事があれば消火しやすいレベルまで炎を吸いとった。倒壊した瓦礫の下から逃げ遅れた人をたくさん助けだした。
「もう大丈夫ですよ!お怪我はありませんか?」
何度繰り返しただろう。今も笑えているだろうか。口角をきゅっとあげて、私というヒーローを見て安心してもらえるように笑え。
助け出した人のほっとして安心した顔を見る度に、自分がちゃんとヒーローであるのだと安堵した。
「手を貸してください」
私は差し出された手を両手で包み込む。
「冷たいですね。私の手温かいから、少しでも温まってくださいね」
「ファイアリー!こっち手伝える⁉」
少し先でイヤホンジャックさんが私を呼んだ。
「はい!」
救助した人を救急隊員に預けて私は駆け出した。イヤホンジャックさんの前には炎上する家があった。
「2階に取り残されてる人がいる。炎吸い取って!」
私は返事をするよりも先に炎を吸い取るが、思ったよりも火の気が強いらしい。吸い取るのやめて、イヤホンジャックさんに向かって叫んだ。
「2階のどこですか⁉」
「正面から見て右手前の部屋!どうすんの?!」
「私行きます!」
炎に対して私は普通の人よりもずっと耐性がある。少しの間なら大丈夫。
ゴーグルとマスクを装着して、炎で燃え上がる家の中をなんとか進んでいく。
イヤホンジャックさんの言っていた部屋に着くと、女性が倒れていた。駆け寄って声をかけても意識はなかったが、口元に手を翳すと息はあった。そのことに安心しつつ、女性をなんとか背負った。抱えると噴いた火の巻き添えになってしまうからだ。
「ちょっと熱いですけど我慢してくださいね」
マスクを下げて、窓に向かって走りだす。窓ガラスを体当たりで割って、外へ飛び出した。炎を地面に向かって噴いて落下速度を調整しながら着地した。
「ファイアリー!こっち!」
イヤホンジャックさんが呼んでくれたのだろう、救急隊員がすぐに女性を連れて行ってくれた。
少し煙を吸い込んでしまったらしく、咳が出た。
「大丈夫⁉」
イヤホンジャックさんが背中をさすろうとしてくれたが、右手で制した。
「大丈夫、です。今熱いので触らない方がいいです」
「みたいだね…」
差し出した手が熱かったらしく、イヤホンジャックさんが手を振った。
深呼吸をして息を整える。
「プルスウルトラ…!」
私は目の前で燃え上がる炎を吸い取り始めた。近くにいたヒーローたちも消火を手伝ってくれたので、しばらくして無事鎮火することが出来た。
「やっと落ち着いた…」
額から流れる汗を腕で拭い取った。
「お疲れ」
「火事は無さそうなので、避難所の手伝いに行ってきます」
「体大丈夫?」
「少し休めば大丈夫ですよ!」
「ショートに会った?」
「会ってるわけないじゃないですかー!」
笑って言うとイヤホンジャックさんも笑った。
「そりゃそーか。ヒーローだもんね」
少し休んでから、避難所に着くと沢山の人が身を寄せ合っていた。気合を入れて、笑顔を作る。
「遅くなりました、ファイアリーです!何すれば良いですか?」
面識のあるヒーローに声をかけた。
「あぁ、ファイアリー。無事だったんだな。良かった」
「お互いに無事で何よりです」
「とりあえず水や食事を配ってくれ」
「はい!」
私は段ボールを抱えて歩き出した。
「まだ食事をもらってない方ー!」
「すみません、頂けますか…?」
「もちろんです!」
「ありがとうございます…」
お姉さんは弱々しい声でお礼を言うので、私は明るく声を出した。
「私たちヒーローがいます。一緒に頑張りましょうね!」
「…ファイアリーの笑顔を見ると、元気が湧いてくる。ありがとう」
元気が出る、と沢山の人に言ってもらった。ありがとう。私も笑うのちょっと辛いけど、そう言ってもらえると嬉しいです。
「旦那さんと連絡取れた?」
次の日、炊き出しを配っていると年配の方が話しかけてきた。自分で言うのも恥ずかしいけど、私とショートさんが夫婦なのは有名な話だ。
私は泣きそうになって、隠すように首を振って口角を上げた。
「まだなんです」
「そう…ごめんなさいね」
「ショートさんもどこかでヒーローしてると思います。それが私たちの役目ですから。…おばあちゃんも心細いと思いますけど、しっかり食べてくださいね。何かあったらいつでも話聞きます。私を呼んでください。必ず駆けつけます」
おばあちゃんは涙ぐみながら「ありがとう」と繰り返し言いながらご飯を持って歩いて行った。
「ファイアリー!ちょっと手伝ってー」
「はい!」
炊き出しを配り終えたところに声をかけられ、外へ行くと大量の物資が積まれていた。
「さっき隣町から届いたんだ。自宅に残ってる人もいるだろうから、様子見がてら食事を届けに行くんだけど、一緒に行ってもらえるかい?」
「もちろんです!一緒に自慢の笑顔も届けますね!」
ミニバンの中に詰め込めるだけの食事とお水を積み込んで、役所の人と一緒に車に乗った。
「泉…!」
扉を閉める前に聞こえてきた声に耳を疑った。私を名前で呼ぶ人は限られている。お兄ちゃん?お母さん?それとも…。
「ごめんなさい、ちょっと待ってください!」
一言断って、外に飛び出して周りを見回した。声の主を見つけることが出来なかった。気のせいか…。会いたくなって幻聴が聞こえてきたんだ。涙が出そうになった。
「泉!」
もう一度呼ばれて振り返る。
「焦凍さん…!」
ヒーロースーツはぼろぼろでところどころ破けている。泥汚れを顔につけた愛しい人を見つけた。
一目散に駆け寄って力強く抱きしめ合った。
「お前がここにいるって聞いて、隣町から物資を届けにきたんだ」
「お疲れ様です。無事で、良かった…!」
「泉も無事で良かった…」
しばらくして私たちはそっと離れた。視界が歪んで涙が溢れてしまった。その涙を焦凍さんが拭ってくれたので、私はぐっと堪えた。
焦凍さんは疲れてるけど、元気そうだった。土汚れがついていて、せっかくの綺麗な顔が台無しだったけど、
「それでこそヒーローですもんね」
私はポケットからハンカチを取り出して、汚れを拭き取る。
「ありがとな」
ハンカチをしまって、手をぎゅっと握った。焦凍さんは微笑み、私も笑った。
「頑張ってきます。だからどうか…ショートさんも無理せずに頑張って下さい」
「ファイアリー、お前は無茶するな」
「ヒーローネームで呼んでおいて無茶するなはないですよ!」
「だけどお前は無茶ばかりする」
「心配してくれてありがとうございます。でも、頑張れって言って欲しいです」
「…今は言ってやるけど、無茶したら後で怒るからな」
「お説教楽しみにしてます」
「楽しみにするな…頑張れ」
私たちはぱっと手を離して、来た道を戻った。振り返って見送りはしなくていい。
私たちは人々の平和を守るヒーローだ。
「良かったのか?旦那だろ。もう少し話してくるか?」
一部始終を見ていたのか、役所の人は戻ってきた私に言った。
「大丈夫です。十分なくらい話しましたよ。ヒーローとして職務を全うします」
私は笑顔を作ってみせた。
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仕事中に災害とかでしばらくお互いの安否も分からないまま仕事をしていた2人が、再会してもすぐにヒーローとしての責務を全うすべく来た道を戻っていく。
という話でした。
2021.04.25