夫婦編
名前変更
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「うらあぁぁぁぁ!!!」
背後から声がして振り返ると、手が鉄の刃となったヴィランが私めがけて走ってきた。
ヴィランが火を噴き終えたタイミング、つまり私が息を吸うのと同時に。しまった!と思った。間に合わない。炎を出せても長く噴き続けられないので、敵にとっては痛くも痒くもない攻撃になってしまう。
「泉!」
少し離れたところから光が個性で飛んできて、私とヴィランの間に滑り込んできた。
「光…!」
光の体にヴィランの鉄の刃が突き刺さった。
「がはッ…!」
光が血を吐いたが、しっかりとヴィランの手を捕まえていた。足元に吐いた血と体から流れた血、光の手から流れた血が水溜りを作っていた。
「捕らえたぞ…」
私は息を深く吸い込んだ。光が刺された怒りで身体中が燃え上がるようだった。
「いけ…泉…!」
「なっ….!?」
光を避けて一直線にヴィランに向かって炎を噴き出した。
「きれいだ」
私が噴き出した青い炎を見て、光がつぶやいた。
「光…!」
炎を噴き終えると、身体がぐらりと揺れた。朦朧とする意識の中、地面に四つん這いになった。
完全にやられたヴィランの個性が解けて、光の体から刃が抜けると同時に患部から血がドバッと出た。光が地面に倒れ込んだ。
「早く…縛り上げろ」
体はもう動きそうにない。重たくなった体を引き摺るようにして、光の元へ移動する。
「そこまで…はむり…」
涙がどんどん溢れてきた。ようやく光の元へ辿り着き、私は光の横になんとか体を起こして座った。
「泣くな…泉を守れて良かった…」
ポーチの中からガーゼやら包帯やらを取り出して、光の傷口を押さえた。出血が…。口に出ていたのだろう。光がそれを聞いて笑った。
「ハハッ…」
笑うと傷口から血が出た。
「泣き虫、治せよ…ヒーロー…」
光は優しく笑った。
「もう黙ってて!!」
私が叫ぶと光が瞼を閉じた。私の意識も徐々に遠のいていった。
私が意識を手放してすぐ、駆けつけたヒーローによってヴィランは無事捕獲。警察に引き渡された。私と光は病院に運ばれ、すぐに回復した私は次の日には退院して自宅に戻った。
事件から2日後、私は病院の中を走っていた。
「院内は走らないでください!ファイアリー!」
追い越したナースさんに怒られたので、立ち止まって早歩きに変えた。
目当ての病室にたどり着くと、私は勢いよく扉を開けた。
「光…!目が覚めたって…」
病室に入ると、光はベッドの上にあぐらをかき、切島さんと談笑していた。
「あ、泉。おはよ」
なんてことのない、怪我なんかしてないけど?みたいなけろっとした顔で、光はいつも私に向けるような笑みを浮かべた。
「おはよ…?光、自分が何したかわかってる?」
私が怒ってるのを察したらしい切島さんがそーっと席を立って、病室の隅っこに移動した。
「光…!」
「光ちゃん!」
丁度かっちゃんとお兄ちゃんと私と一緒に来た焦凍さんも病室に入ってきた。
「てめぇ…自分を…」
かっちゃんが怒るのを私は制して、光に笑いかけた。
「光。正座して?」
「は?」
なんで?と言いたげの光にもう一度力強く言う。
「光…?正座」
光は渋々というようにベッドの上に正座した。
「ちげぇだろ、床に正座しろアホ」
かっちゃんにアホと言われて光はショックを受けたように顔を上げた。床に降りて正座した光の前にお兄ちゃん、私、かっちゃんは並んで腕を組んで立った。
「自分を犠牲にする必要があったの?」
「怪我までして」
「テメェの体をなんだと思ってんだ」
「でも、あたしが身を挺したおかげで、泉は怪我しなかったしヴィランを捕まえられた」
「自分の体に刃を刺して捕まえれば良いや、みたいな自己犠牲は良くないよ⁉」
「は?」
お兄ちゃんの発言は聞き捨てならない。
「…どの口が言ってんの?お兄ちゃん」
「光ちゃんは女の子でしょ、嫁入り前の大事な身体を傷モノにしたら…」
隣のかっちゃんがドン引きしてる気がした。
「はぁー…」
私は額に手を当てて、大きなため息を吐いた。
「嫁入り前の大事な身体傷つけるなって…ヒーローになった時点で無理すぎるんだけど⁉私の身体火傷だらけだよ⁉ねえ、焦凍さん!」
「…そうだな」
光とかっちゃんが舌打ちをした。
「大体お兄ちゃん人のこと言えないからね?私知ってるんだからね」
「な、なにを…?」
私は横に立つお兄ちゃんのシャツを勢いよく捲った。
「これよ、これ!1週間前に光と同じようなことしたでしょ⁉」
お兄ちゃんの逞しい体に巻き付けられた包帯が露わになった。包帯の巻かれた患部を思い切りぐりぐりする。
「痛い!痛いってば…!」
お兄ちゃんが半泣きになって叫んだ。
「お兄ちゃんもそこに座りなさい!」
「てめぇは死ね」
「かっちゃん!!」
かっちゃんはしら~っとそっぽを向いて目を合わせない。
「本当いい加減にして。どんだけ傷つくってくれば気が済むの!?」
「いずくんまで怒られてどうすんだよ。いい加減泉を止めて」
「…僕にも止められないと思う…」
「聞いてるの⁉」
ひそひそ話をする2人を怒った。
「泉、そのくらいにしておいてやれよ。バクゴー妹は起きたばっかだろ」
先ほどから心配そうにしていた焦凍さんが口を開いた。私は焦凍さんをキッと睨んだ。
「焦凍さんは黙ってて!」
口をつぐんだ焦凍さんは切島さんに心配されていたが、ちょっと嬉しそうだった。…普段焦凍さんに怒ることないから、怒られたいって言ってたっけ…。
「泉に怒られた…」
「怒られてニヤニヤしてんな!気色悪りィ!」
「2人ともね私が言いたいことわかってる!?」
光とお兄ちゃんは顔を見合わせた。
「怪我するなってことだろ?」
「心配させるなってことでしょ?」
「そうだけど、違う!…自分を犠牲にしないでって言ってるの」
「…そんなこと言ったらヒーロー出来ないよ」
お兄ちゃんの反論に頷く。
「その通りなんだけど!自分を簡単に差し出さないでほしいってこと。自分が犠牲になれば他人が助かるって考えるのやめてよ。お兄ちゃんと光が傷ついて悲しいし、2人のこと失いたくない。2人に何かあったら私は悲しい。そのことを忘れないでほしい」
ぽろぽろと涙が溢れてきた。
お兄ちゃんと光は罰が悪そうに顔を見合わせてから、立ち上がった。
「ごめん、気をつけるようにする」
「僕もごめん。善処する」
2人は私の手をそれぞれ握ると、謝った。
「善処!?」
「努力する」
「お願いね!」
私は2人の手を払って、床を指した。
「で!…お説教まだ終わってないから、もっかい座って」
その後、私から2人にたっぷりお説教したあと、光はかっちゃんからもしこたま怒られていた。私もお兄ちゃんに1週間前のことをきっちり問い詰めた。
-------
なんとなく補足説明
爆豪妹の個性はかっちゃんとだいたい一緒でかっちゃんほどの火力はありません。
緑谷妹の炎ですが、最大火力は荼毘に劣らないくらいだと思っています。ただし口から噴くので、エンデヴァーほど使い勝手は良くないはず。感情が昂ったときやたくさん動いて体内の炎が燃え上がると青い炎になります。デメリットはオーバーヒートで行動不能になることです。
この間、双様とおしゃべりしていたときに双様がサラッと口にしたネタが、最高に良くてお話にさせてもらいました。
妹たちは本当に良いコンビです。
2021.04.10