恋人編
名前変更
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「焦凍さん!結婚して下さい!」
朝一番に私よりも先に起きて朝食の支度をしていた焦凍さんに声をかけた。焦凍さんは振り返ることなく、朝食の支度を進めていた。
「もう出来るぞ、顔洗ってこい」
私を口を尖らせた。また話を逸らされた。
「はーい…おはようございますー」
不満げに返事をすると、今度は振り返って優しく笑ってくれた。
「おはよう」
きゅん、と胸が鳴る。
「ぐっ…」
心臓を撃ち抜かれたので、胸に手を当ててときめきを噛み締めた。
「大丈夫か?冷めちまうぞ」
私が焦凍さんの笑顔に攻撃を受けるなんていつものことだ。なのに大丈夫?なんて聞いてくれるあなたが好きです。
「大丈夫です!急いで洗ってきます!」
元気よく答えて洗面台に向かった。顔を洗って身支度を整え、食卓につく。
今朝はトーストに目玉焼き、ベーコン、インスタントのスープ。昨日の残りのサラダ。それから紅茶。しっかり食べて今日も一日仕事を頑張ろう。
焦凍さんは今日は休みなんだけど、仕事がある私のために素敵な朝ごはんを用意してくれた。なんて幸せなんだろう。
見送りまでしてくれる。
靴を履いて行ってきますを言おうと振り返ると、焦凍さんが腕を広げていた。
ぎゅっとしてくれるのだと私は嬉しくなった。
「結婚してください」
抱きついて本日2度目のプロポーズを口にした。
「遅れるぞ」
やっぱり焦凍さんは答えなかった。
「はっ!大変。いってきます!」
ぱっと離れて家を飛び出した。
プロヒーローになってはや8年。街での活動にも慣れてきた。
お付き合いを始めて、一緒に暮らすようになってもう随分長い。
もう次に進んでもいいんじゃないか。そう思った私は「結婚してください!」とプロポーズをした。最初のプロポーズは華麗に流されてしまった。それから何度プロポーズしても毎回冗談だと思うのか、本気にされていないのか、話を逸らすし、真面目に取り合ってくれない。おかげで毎日のプロポーズは日常の一部になってしまった。
でも、めちゃくちゃ愛してくれるのは変わらない。拒絶されるなら仕方ないけど、そうじゃないのなら何度でも言うだけだ。
1か月後。
「ぜんっぜんダメ」
珍しくゆっくり出来ているランチタイムに、ヒーローとしてのビジネスパートナーであり、幼馴染であり、親友の光に愚痴を零した。
「何度プロポーズしても、毎回綺麗に逸らされる。何度もだよ⁉好きを言い続けていたのはわけが違う。轟さんが私のこと大事にしてくてるのは分かってるんだけど…さすがに心折れそう」
「じゃ諦めて、あたしんとこおいで」
「はっきり拒絶されるなら諦めもつくんだけどさあ…」
「無視するな」
「だって光には…」
「あたしは泉が蔑ろにされてることが物凄く腹立たしい」
「ありがと、いつも味方でいてくれて」
光は何やら考え込むように、左手を口元にあてた。
「次轟と休みが一緒なのはいつ?」
「ちょっと待って…」
なんで?と聞いても光が答えないのは知ってる。疑問にすら思わずにスマホのスケジュールを開いた。
「あ、明日だ」
「じゃあ明日の…10時でいいか、迎えに行く」
「え?」
「あたしが何か言ったら、泉は笑顔でイエスって言えよ」
「うん、わかった」
有無を言わなさない態度に私は頷いた。
大丈夫、光は私の悲しむようなことは絶対にしない。何か考えがあっての行動だもん。安心して任せよう。
そう考えていると、光は私の視線に気が付いて何やら楽しそうににやりと笑った。
うーん、大丈夫だと思ってたけど、なんか怖くなってきた。
その日の夜。
私は半分折れそうになっている心をなんとか奮い立たせ、焦凍さんが帰ってくるのを待った。
ガチャっという音がしたので、玄関へ急ぐ。
「おかえりなさい!」
笑顔で出迎えると、焦凍さんはショートの顔付きから、ホッとしていつもの顔に戻った。
焦凍さんにとって私のいる場所が、居心地の良い場所になっていることに嬉しくなるとともに、プロポーズを受けてもらえないことに泣きたくなった。泣きそうになっているのを見られたくなくて、
ぎゅっと抱き着いた。
「しょーとさん」
甘えるように名前を呼んだ。
「うん?」
優しい声が返ってくる。
「大好きです」
「そうか」
これはいつもの返事だ。それでも、このそっけないように思える一言に私への愛がぎゅっと詰まっていることを知ってる。だって嬉しそうに答えるんだよ。ぎゅっと力を込めて強く抱きしめた。
勇気を振り絞って、冗談に聞こえないように言った。
「私と結婚してください」
焦凍さんは何も答えずに私の頭をそっと撫でた。その瞬間悟った。あぁまたダメだった。
「風呂入ってくる。もう遅いから泉は寝ろよ」
焦凍さんは私の顔を見ずに、玄関からすぐのバスルームに入っていってしまった。
「今のが最後ですよ」
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