0.妹の原点
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実は、学校での妹は静かな方だ。
明るく元気で、よく喋るのが本来の妹の姿なのだが、学校では息を殺してひっそりと生活している。
仲の良い友人曰く「自己防衛」をしているらしい。僕のこともあって、妹は学校において他人との関わり合いを積極的に避けていた。
一度外の世界に行けば、困っている人に笑顔で手を貸す良い子なのに。一緒に下校していると、困った人を手伝ってなかなか家にたどり着かないくらいだ。
去年の1年間は家でも、言葉数が減り、あまり笑顔も見せなくなった。僕のことを心配してくれているのは、よく分かっていた。個性を受け取り、雄英のヒーロー科に合格するまで、何も言えない。本当にもどかしく、長い時間だった。
でも、ヒーローになる、雄英に入る、と決意した妹は、あれからすっかり様子が変わった。笑顔が戻り、マシンガントークも復活した。
妹の友人が、学校でもいつもの泉でいるのだと、嬉しそうに教えてくれた。
さらに驚いたのは、体育祭で妹が恋をした、と言ったことだ。
体育祭から帰ってきた僕は、大興奮の妹に捕まってしまった。話し出すとなかなか止まらない妹は、いつものマシンガントークで、手の怪我について散々怒って心配したあとで、お兄ちゃんかっこよかった!と恥かしさで顔が熱くなるほど褒めちぎってどこそこが良かった、と事細かに話した。感情が忙しそうだったが、私も早く雄英にいきたい!と目を輝かせる妹の話を聞くのは全く苦ではなかった。
「それでね…」
大体話終わったというところで、先ほどまで凄まじい勢いだった妹が急にトーンを落とした。
「どうしたの?」
「あのね、私ね…恋をしたの」
あまりの衝撃に一瞬息をするのを忘れて、咳き込んでしまった。
「お兄ちゃん大丈夫!?」
「だ、大丈夫…!」
息を落ち着けて、深呼吸をする。
本当は全く大丈夫ではない。この前までお兄ちゃんが世界の全て、と言っていた泉がどうしちゃったんだ。
「だっ誰に?まさか、かっちゃん?」
急にそんなことを言い出すのだから、知っている人に違いない、と幼なじみの名前を出すと、泉は顔を真っ赤にして怒りはじめた。
「冗談言わないで!かっちゃんに恋するとか一生ないから!お兄ちゃんに恋する方が可能性あるくらい、ないんだから!」
兄に、というか僕に恋する、なんてことの方がもっとないだろうと思いながら、憤慨する妹を宥めた。
「ごめん、ごめん。…じゃあ、誰なの?」
「…轟さん」
クラスメイトの名前が出てきたことに驚いた。
「轟くん!?どうしてまた…!」
「わかんない」
即答する妹に驚いたが、まだ何か言いたそうにしているので静かに聞くことにした。
「わかんないんだけどね、表彰台に立ったあの人をみたときに、…分かっちゃったの。あ、私、この人を愛したいって」
初めて見る表情だった。柔らかな笑みを浮かべて、泉は表彰台に立つ轟くんを思い出しているようだった。たった14歳の少女の表情ではなかった。
「最初、すごく嫌な人がいるなって思って観てたの。凍てつくような瞳、とっても怖くて…。でもね。轟さん、お兄ちゃんと戦った後から変わったでしょ?かっちゃんとの決勝では、負けちゃったけど…。表彰台に上がったとき、体育祭が始まったときとは、全く違う、憑き物が落ちたような顔してた」
「…そっか…」
妹は少し恥ずかしそうに、にひひと歯を出して笑った。
それからしばらくして、轟くんの好物が蕎麦だと知ると、なんと貯めていたお年玉をごっそり使って蕎麦作り用のボウルや麺棒、包丁など一式を揃えてしまった。
「胃袋を掴むといい!って書いてあったんだよー!」
そう言って、楽しそうに週末は蕎麦作りをしていた。一体いつ蕎麦作りを披露する時が来るのか…。
妹は時折轟くんの話を聞きたがり、僕の話を楽しそうに聞いていた。
「あのね、お兄ちゃん」
「うん」
「泉がもう絶対諦めないって、言ったの覚えてる?」
「もちろん」
「夢だけじゃなくて、全部だからね。全部…どんなことでも絶対諦めない。だから、夢も恋も全力で頑張るの」
恋心はミーハーなものだと思っていたが、どうやら違うらしい。
これは、もう二度と諦めないと決めた妹が愛を貫く話だ。
2021.04.11 加筆修正
-あとがき-読まなくても大丈夫です
原作の緑谷出久が好きなので、オールマイト以外に特別な感情は抱かないよ!っていう感情と、いやでもこれは夢だし!緑谷兄妹は恋人みたいな距離感じゃないと嫌なんじゃ、という感情のせめぎあいの中で書き上げました。自分で解釈違い起こしてる感じです。
夢主の明るく元気な性格が生まれたのは、本人の元からの性質ももちろんありますが、お兄ちゃんに暗い顔をさせないためでもあります。それは兄も分かってます。
書き直そうと決めて、約1年。長かった。
色々な要素をたくさん書き加え、だいぶボリュームアップしました。言葉一つ一つも書いては消しを繰り返し、展開すらも行き来しましたね…。終わりじゃなくて、始まりなのに、終わった気分です。
初めて読む方、ここまで読んでますかね…?泉ちゃんの物語はまだまだ続けますよー。是非楽しんでくださいね!