L&H 学生編(本編)
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本格的に寒くなり始めた頃、学校内が妙にそわそわし始めた。なんだか雰囲気が違うななんて、のんびり思っていたら、ある日気がついた。
「そっか、もう卒業だからか」
たまたま目をやった外では、女の子が轟さんと一緒にいた。制服の肩のボタンで普通科の人だとわかる。
「なんかあった?」
立ち止まった私に光が抱きついてくる。
「告白かなぁ?」
「ん?」
窓の外を覗き込んだ光があぁ、と納得の声を出した。
「だろうね」
一生懸命だ。ただまっすぐに自分の気持ちを伝えようとしている。
その思いは私と変わらない。
「私さぁ…」
「うん」
「最近ね、ちょっと自惚れていいんじゃないかなって思うんだ」
「今更?」
「知ってたの?!」
あたしが知らないとでも?と言いたげな顔で私が観ていた。
「いつから?」
「泉より前」
「なんでそんな曖昧な言い方するの〜…」
光は何も言わない。
「どう思う?」
「どうって?」
「轟さん。気がついてると思う?」
「泉はどう思ってんの」
「絶対気がついてないと思う」
光は何も答えずに歩き出してしまった。
「光!?私の質問の答えは?」
「早くいこうよ」
曖昧に笑いながら光は歩き続ける。そのあと、轟さんのことを聞いても何も答えてくれなかった。
その日からしばらくして、また轟さんを見かけた。少し近づいてから、この間告白をしていたかもしれない人と一緒にいることに気がつく。
轟さんはいつも通りだ。あまり表情の読めない顔で、話を聞いている。さすがに会話の邪魔をしたくないけど、私の行きたい方はそっちなんだよなぁ。
ふいに轟さんが顔を上げた。私に気がついてすぐ表情が緩んだ。
好きだ。
仕方ない行くか、と軽く会釈をしてすれ違おうとした瞬間、手首を掴まれた。
「会釈だけなのか?」
振り返ると、眉を下げてた轟さんと目が合った。
好きだ。
口から出てしまいそうになるのを、必死に押しとどめた。
言葉と息を飲み込んだとき、喉が変な音を出した気がした。
「…こん、にちは…?」
絞り出すように挨拶をする。
「…言い方が悪かった。しばらく会えてねぇだろ。終わったら、話したいから一緒にいてくれ」
その台詞、あなたを好きな人の前で言ったらダメなやつだと思います。あなたには興味ないって言ってるようなもんだと思うのですが。
答えを聞くこともなく私の手を離さないままに、轟さんは振り返った。私もそっとその視線を追った。
案の定、びっくりした顔で私を見ていた。
そうですよね、びっくりしますよね。私も今とってもびっくりしてます。後で話しましょう、と言いたいけど、藪蛇になりそうで何も言えない。
「話の途中に悪りぃな、続けてくれ」
絶対続けられないと思いますよ…。
腕を少し揺すぶっても、轟さんは手首を握ったまま離してはくれない。痛くないようにそっと掴んでいた。
「あー…」
轟さんに促されるも困った様子で目を泳がせているうちに、私と目が合ってしまった。
「…緑谷くんの妹さん?」
「そうです」
困惑してるみたいだけど、敵意はなさそうだった。すぐに視線が轟さんに掴まれた手首まで下がった。
まだ知られたくない。しかも他人から言われたことで知ってほしくない。
どうかお願いします。何も言わないで。緊張で身を固くしながら、念じ続ける。
「呼び止めたのにごめん。用事思い出したから行くね。それじゃ」
絶対何か思っただろうに、何も言わなかった。なんて良い人…!
くるりと背を向けた、名前を知らないライバルに声をかけたかった。
でも、きっと私に声をかけられるのは嫌だろうな。
「ここ、どうしたんだ」
轟さんの手が私の包帯の巻かれた首元に触れた。昨日インターン中に自分の炎で火傷をしてしまった。驚いて、言葉を発せなくなってしまった。
手首を離そうともしないで反対の手で、轟さんは私に触れている。
「泉?」
どうしてそういうことするんだろう。私はあなたを好きなんですよ。
2023.07.28