L&H 学生編(本編)
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11月が来た。寒くなってきた。体温の高い私でも、半袖ではない気がすると思う時期だ。今日は雨が降っている。最近は綺麗な秋晴れが多かったせいか、余計にがっかりしてしまう。それでなくても、気持ちが沈みがちだというのに。
この間、お昼休みに話した後から、轟さんとはしばらく会ってない。夢に向かって毎日忙しく頑張っているのに、ふとしたときに思い出してしまう。
轟さんは私のことをどう思っているんだろう。
最初は「クラスメイトの妹」だったと思う。1年くらいずっと。
バレンタインを境にほんのちょっと心が近づいた気がした。校内で呼びかけられることもあったし、私から声もかけたし、よく会話を楽しんだ。
夏になる前に急に轟さんが変わった。私が告白すると、苦しそうな表情を見せた。毎回必ず。何回目かで変だなって気がついたけど、轟さん本人はそのことに気がついていなかった。
そして、この間。秋になる頃。私を「眩しいと思っていただけなんだ」と晴れやかに
笑った。
苦しそうな表情をする以外は、自惚れてしまいたくなるような態度だった。ホワイトデーのお返しもくれたし、一緒に月を見ようとしてくれたし、いちごミルクをくれたし、励ましてもくれた。悩みの種本人に励まされるという不思議な図だったけど。
ほんのちょっと、少しだけ、私をみてくれたのかもしれないと思ったのに。好きになってくれたのかもしれない、と思ったのに。
あまりにも考え事に没頭していたせいで、前から歩いてきた人に私は全く気が付かなかった。
「泉」
前から呼びかけられた。驚いて顔を上げるが、すでに相手が誰なのかは分かった。
「…轟さん」
何かいいことがあったのか、ほんの少しいつもよりも柔らかな表情を浮かべていて、戸惑った。どうしよう。どんな顔をすれば良いのかわからない。
話しかけられてこんな言葉が出てこなかったことなどない。いつだって話したいことがいっぱいあったのに。
「…こんにちは」
たっぷり時間をかけて、なんとか声を出すことができた。我ながらぎこちない。
「どうした?」
いつもと様子が違う私に、轟さんは眉を下げた。心配されている。
「また、元気ねぇな」
泣きたくなる。
やっぱりどうしていいのか、分からない。
「泉が元気ねぇと、調子が狂う」
ほんのちょっとしか会わない私のせいで、調子が狂うなんてそんなことあるわけないじゃないですか。
「最近…」
何か言わなきゃ。轟さんのせいで元気がないなんて、そんなこと言えない。
「最近、インターンが忙しくて」
苦し紛れに答える。笑え、私。困ったようにでもいいから。
ちょっと疲れちゃって、と付け加える。インターンが忙しくて疲れているのは本当のことで、嘘は言っていない。
「疲れてるだけか」
轟さんは心配が杞憂だったのか、ふわりと笑った。
「好きです」
意識するより先に口から出てしまった。やってしまった、と今更ながら口を押さえる。
「そうか」
優しそうな笑みを浮かべたまま、轟さんはいつもと同じ返事をした。
今日は苦しそうにしないから、驚いた。
「インターンはどうなんだ」
きょとんとしてしまった私に、轟さんは話を続けた。慌てて口を開く。
「それが…前まで行ってたインターン先がバタバタしてて行くことができなくなっちゃったんです。それじゃ申し訳ないからって、新しいインターン先を用意してくれたんですけど、全然事務所の雰囲気が変わっちゃって…」
「雰囲気?」
「元々私は災害救助をメインに活動したかったんです。でも、今の事務所は敵犯罪対応がメインなので…」
「そんなに変わるものなのか」
「私もびっくりしちゃって。ヒーロー同士はとても仲が良くて、それで話をつけてくれたんですけど…」
「でも、良い勉強になるだろ?」
「そうなんです!だから、余計に張り切っちゃって、ちょっと空回りというか…」
「頑張れよ」
その一言で全身の力が抜けた。私、いつも通りでいいんだ。はい!と自然と笑顔になれた。
ふと轟さんの後ろから梅雨さんが顔を出した。
「こんにちは、泉ちゃん」
ケロケロ、と梅雨さんが楽しそうに笑った。
「梅雨さん!」
「轟ちゃん、職員室に行かなくちゃいけないんだけど、忘れちゃった?」
梅雨さんは手に抱えていた日誌を掲げてみせた。
「え!」
驚く私とは対照的に、轟さんはそうだった、と言わんばかりに目を瞬いた。
「悪い、忘れてた」
「そうだと思ったわ。そろそろ行きましょう」
梅雨さんの言葉に頷いて、私に向き直る。何かを待つように、私をじっと見ていた。
「どうかしましたか…?」
私が首を傾げると、轟さんも同じように首を傾げた。なんで轟さんが首を傾げてるの?
「いや、なんか…」
轟さんは眉を寄せ、考えるような仕草を見せた。でも、すぐに首を振って、引き留めて悪かったなと言って、梅雨さんと歩いて行ってしまった。
2022.12.22