L&H 学生編(本編)
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「泉ちゃん、遊ばない!?」
食堂を出てすぐに、後ろから声をかけられた。振り向くと、何人ものクラスメイトたちが一緒にいた。急にどうして?首を傾げる。
隣に並ぶ幼なじみをみると、面倒くさそうに眉間に皺を寄せていた。
「…行ってきたら」
面倒臭そうな顔をしているくせに、ため息混じりに呟いて、軽く肘で押してきた。
「光は」
信じられない、と言う顔を向けられた。そうだよね、知ってる。ふと気がついて、片手で顔に触れた。
「もしかして…私。顔に出てる?」
この間轟さんと話してから、もう何が何だか分かんなくなった。好きと伝えたら顔を歪めるようになって、轟さんを俺なんかって言うから怒ったら、泉が眩しいとか言い出すし、なのに笑顔にしたいっていちごミルク持ってくるし…。
何か変わり始めたのかもって思ったのに、変わったのかすらわからない状態になってしまった。
最近は気を抜くと、すぐに轟さんのことばかり考えてしまっていた。どうせすぐに光にはバレるだろうけど、頑張って笑っていたつもりだ。
「かなり」
尋ねられたクラスメイトたちは頷きながら、声を揃えた。光は何も言わなかったけど、バレてることは分かってる。気がつかないわけがない。
「…だよね〜…」
がっくり肩を落とす。分かってたけど、隠し事が下手に自分にうんざりする。
「…余計なお世話かもしれないけど…。私たちみんな、泉ちゃんが元気ないとさみしいよ」
「爆豪といるのが気が楽だろうけどさ」
「当たり前」
男子の言葉に光が口を挟む。
「光ちゃんだって最近心配そうに泉ちゃんのこと見てたじゃない」
「ちゃん付けすんな、ゾッとする」
そう言いながら、光はそっぽを向いてしまった。気難しそうに眉間に皺を寄せている。そんな顔をしても、私にはお見通しだぞ!急に嬉しくなって、口元がニヤけた。
「照れてる〜」
光の頬を突くと、やめてと手を払われた。いつもと逆で楽しい。
「何があったのかは聞かないけど、気分が晴れるかもしれないし、遊ぼ!」
クラスメイトが持っていたバレーボールを掲げた。
「…ありがと!遊ぶ!」
光の手を引っ張った。
「本当は光も行くんだよね?私の様子を観察するつもりでしょ?私にはお見通しなんだよ」
だから?と言う顔をしながらも、光は大人しく引っ張られて歩き始めた。
「見るだけだから」
「分かってるよぅ!」
朗らかに返事をすると、光が笑った気がした。
「いっくよ〜」
中庭に移動した私たちは、2チームに分かれて、なんとなく真ん中のラインを決めてバレーボールを始めた。私に引っ張られてきた光は、少し離れたところで壁にもたれかかって欠伸をしていた。
「泉ちゃん!」
「はーい!」
高く上がったボールを見ながら、後ろへ後ずさる。もう少しでボールが来る、というときに何かに躓いたのか体が後ろへ倒れた。とにかくまずは打ち返す!手を伸ばしてボールにより近いところへ…。
「ふんっ!」
気合いでボールを強く上げると、後ろへ倒れる身体に意識を持っていった。ボールを弾いたままの手を後ろに反らせて地面に手をついた。その勢いのまま、足を高く蹴り上げる。着地後、ぱっと両手を上げた。
上手く着地が出来た!と感じた瞬間、遠くで小さな拍手が聞こえた。光だ。
クラスメイトたちからはどよめきが聞こえた。
楽しくなって、アハッ!と笑いが出た。
「楽しい!」
久しぶりに楽しい!と感じた。
てーん、てんてんてん…とボールが転がった音が聞こえて、地面を見ると同じチームのクラスメイトの目の前にボールが落ちていた。
「あっ!?なんで落としちゃうの!?」
「あまりにも綺麗なバク転してて…」
「しかも、めちゃくちゃ良い笑顔すぎて」
呆然とするクラスメイトたちに、えーなんでーと口を尖らせた。
「良かった」
そのうちの1人が顔を綻ばせた。
「泉ちゃん、元気が出たみたい」
つられて私も口角が上がった。何も言わないだけが心配じゃないんだな。光やお兄ちゃんはいつも静かに心配をしてくれるけど、言葉にしてくれる友達がいて嬉しい。
「うん!ありがとう!」
雄英にきて、みんなと出会えて本当に良かった。
それから、もう少しの間私たちは遊んで、チャイムが鳴る前に教室に戻った。
遊ぶ私たちをずっと眺めていた光は、歩きながらそっと頭を撫でてくれた。
「光」
「うん」
「いつもありがとう」
「どういたしまして」
「光」
「うん」
「大好きだよ」
クラスメイトたちが近くにいるせいか、不機嫌そうな表情で光は歩いていた。実際には不機嫌じゃないって私は知っているけど。
隣を歩く私に顔を向けると、にやりと笑った。
「あたしも」
数秒見つめあって、2人で同時に吹き出した。真面目くさった顔で見つめ合うなんておっかしい…!
「ねぇ!後ろでイチャイチャしないでよ」
クラスメイトたちも呆れながら、笑っていた。
「にしても、元気ないのに、絶対演習でミスんねぇのすごいな…」
「だって、恋も夢も頑張りますって宣言したんだもん。恋で悩んでるからって夢を疎かにしたら、ダメでしょ?」
「え。じゃあ、悩んでたのは恋の方?」
「そうだよ?夢は順調。バッチリ!最高のパートナーもいるし」
ね、と隣の光を見ると、当然と口にする。
「あたしがいれば、泉は最強だし、泉がいれば、あたしは最強」
2人揃ってなくても、強いだろ…と男子がぼそっと呟いたのには触れないでおいた。
2022.12.13