0.妹の原点
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僕には、1つ下の妹がいる。
元気いっぱいで、思いやりがあって、とっても頑張り屋の可愛い妹。僕の自慢だ。
「お兄ちゃんとヒーローになるの!」
「2人の力を合わせたら、ちょーすごいヒーローだよ!」
幼い頃、そう言って2人で毎日のようにヒーローごっこをしていた。ヴィランに捕われたお母さんを助けに行くヒーローごっこ。お母さんを助け出すと、いつも妹は僕を見て嬉しそうに笑っていた。
僕たち2人の夢は、ヒーローになることだった。
でも、僕が無個性だと分かってから、妹はヒーローになりたいと口にしなくなった。
オールマイトの動画を観ながら、あんなに目を輝かせていたのに、僕が無個性なせいで妹は夢を諦めてしまった。
妹には、僕と違って個性がある。
僕が無個性だと分かって半年近く経った頃、3歳半で個性が発現した。そのとき、妹は丸っこい目から大粒の涙をこれでもかと流しながら、泉に個性はいらない!お兄ちゃんにあげて!と泣き叫んだ。個性のコントロールを上手く出来ずに、炎を噴き出し続けながら。
水をかけて火を消した母は、落ち着いて、と何度も繰り返して泣いていた。
どうしたらいいのか分からず、シャツの裾を握りしめていると、母がごめんねと呟いた。顔を上げると、俯いた母は再びごめんねと掠れた声で口にした。その言葉を、僕は自分に言われているのだと感じた。
妹が無個性じゃなくて良かったと安堵する一方で、ただただ個性の発現が羨ましくて仕方なかった。個性があれば、ヒーローを目指せるのに、泉はいらないと言う。
「お兄ちゃんに個性をあげて」
僕のことが大好きな、幼い妹の拙い言葉だ。純粋に僕のことを想って言ってくれたのだと、わかっている。
だけど、その言葉で世界は平等ではないのだと、はっきりと現実を突きつけられた。
個性の譲渡など、夢のような話は存在しない。
ありがとう、泉は優しいねと妹を抱きしめるのが、4歳の僕に出来る精一杯だった。泣きじゃくる妹の前で、兄がみっともなく泣くわけにはいかなかった。
その後しばらくの間、母は妹に必要なとき以外は口を閉じているように、と言いつけた。上手くコントロール出来ずに、他人を傷つけたり、物を燃やしてしまったりしないように判断してのことだった。
後から知った話だけど、事情を知ったかっちゃんのお母さんはかっちゃんに、泉が困っていたら助けてあげるように、と言い聞かせてくれたらしい。
この言い付けを今でも守っているんじゃないかって、時々思うことがある。
同じように僕も、何かあったら泉を助けてあげてねと言い聞かせられていた。泉にとってのヒーローになってね、と。
妹を助けるヒーローにしてくれたことが嬉しかった。
ずっと泉がヒーローになりたいと思いながら、僕に遠慮して夢を口にしないでいることを僕は知っている。
遠慮なんてする必要などないのに。泉には、夢を諦めて欲しくない。
諦めて欲しくないのに言えずにいるのは、拒絶されたくないからだ。
泉は僕と一緒でなければ、ヒーローになることは意味がないと思っている。事実、妹は兄である僕のことがとても好きなのだ。何度も、泉の世界はお兄ちゃんがいないと成り立たないの!と口にするのを聞いている。正直なところ、そんなに好きでいてもらえるほどの人間ではないと思っているのだが、そう言うと、妹は顔を真っ赤にして怒り始めるに違いない。
今、僕はチャンスをもらった。
いや…チャンスを与えられた。
器を完成させることが出来たら。
個性を受け取ることが出来たら。
雄英に合格することが出来たら。
…どれも、夢を実現するために、成し遂げなければいけないことだけれど。
個性が発現した妹に言えなかったことを、言わなければならない。
そして、妹の手を取りたい。
僕のせいで夢を諦めてしまったあの子に、また夢を追いかけてほしい。僕だけがスタートラインに立っちゃダメなんだ。
僕と一緒にヒーローになりたいと言ってくれた、泉とヒーローを目指したい。
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