L&H 学生編(本編)
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「焦凍、好きな子できた?」
並んで身体を洗いながら、何か話をしなくちゃと思った夏雄はそんな問いかけをした。問いかけてから去年も風呂場で同じような質問をしたな、と思った。
「……」
てっきり去年同様に「いない」と言うのかと思った。答えずに思案する弟に夏雄は少し言葉を変えてもう一度尋ねた。
「…気になる子でも出来たの?」
「…そう言うわけじゃ…いや、そうなのかも…?よく分かんないけど」
身体を洗いながら口籠もる。
「どんな子?」
「友達の…緑谷の妹なんだけど…。初対面でいきなり好きですって言われて」
ぽつりぽつりと話し始めた轟は、そのときのことを思い出したのか口元に笑みを浮かべた。
「初対面で告白‼度胸ある~」
「そうなの?」
「告白って勇気いるもんだよ」
「そうだったんだ…」
「それで?」
弟の口から気になる子の話が聞けるなんて思っても見なかった夏雄は、急かすように続きを促した。
轟は身体を流して湯船に入った。夏雄も慌てて身体を流して、弟の隣に腰を下ろした。
「…泉はよく教室に来るんだ。それで話したり、緑谷と一緒にお昼食べたり…。学校内で話しかけられることもあるんだけど」
泉ちゃんって言うのか。覚えておこうと夏雄は思った。
「結構ぐいぐいくる子なんだ?」
「ぐいぐい…押しが強いってこと?」
「かな」
「そうじゃないと思う」
「え?」
「教室に来るのも昼も緑谷と一緒にいたいからだって言ってた。泉と緑谷はすげぇ仲良いんだ」
夏雄は自分たちとは違って、と勝手に脳内で付け足してしまった。
「お兄ちゃん子ってやつか」
「多分。泉はいつも笑ってて元気があってとにかく前向きで、クラスにもそういうやつはいるけど、なんか違うんだ」
よく喋るなぁ、と夏雄は思った。
「どんなこと話すの?」
「授業のこととか、個性のこととか、緑谷の話とか…。泉が喋ってるのをいつも聞いてる」
「焦凍は何か話さないの?」
「…特には…?泉の話聞いてんのが面白い。最後には好きですって言って帰るんだ」
「え⁉」
「毎回言うからなんでだって聞いたら、好きって言いたいから言うんだって言ってた」
「そんなに焦凍が好きなんだ」
「みたいだな」
どこか他人事のように轟は頷いた。
「でも、緑谷にもいつも言ってるから、同じじゃないのか?って聞いたら全然違うって言ってた」
「すごい子だね。っていうかなんかいいな!そんなに想われてるって」
付き合ってすらいない、好きな人に好きだと伝えることは勇気のいることだろう。
「焦凍は?どう思ってるんだ?」
「一緒にいると楽しいけど…。泉の言うような好きとかよく分かんないから」
未知の体験をしているんだな、というのが率直な感想。いや、でもたぶん焦凍はその子のことが好きなんだろうな。まだ自分の気持ちを理解してないんだ。…余計なことを言わないように気をつけよう。
「そっか」
轟は照れたように笑った。
「なんかいいな、こういうの」
「こういうのって?」
「…夏兄とこんなふうに話が出来て嬉しい」
「えっ⁉」
「泉と緑谷がいつも楽しそうに話してるの羨ましかったんだ」
「…そっか」
弟の言葉に切ない気持ちになったが、同時に嬉しくもあった。もっと兄弟らしく…は今更だが、弟の話をたくさん聞いてあげたいと思った。
「もっと話聞かせてよ」
轟は嬉しそうに口を開いた。
「じゃあ…あ。泉は蕎麦を作れるんだ。なかなかうまい」
「え⁉そば⁉実家は蕎麦屋なの!?」
「違う。胃袋を掴むんだって言ってた」
「あ、なんだ。そういうこと…」
好きな人の胃袋を掴むために蕎麦を打つなんて、ずいぶん変わってる。興味が沸いてきた。
「そのうち会わせてよ」
夏雄がそう言うと、轟ははにかみながら頷いた。
「夏ー?焦凍ー?いつまで入ってるの?」
なかなかお風呂から上がってこない弟たちを心配して、姉の冬美が風呂場の扉を叩いた。しばらく待つが返事がない。嫌な予感がした。
「…2人とも!入るよ!?」
バッと勢い良く戸を開けると、弟たちが湯船に浸かったままのぼせていた。
「わー⁉2人とも大丈夫⁉」
「…ごめん、姉ちゃん」
脱衣場で寝転がりながら、夏雄は謝罪の言葉を口にした。
「本当だよ!びっくりしたんだから!」
湯船でのぼせていた2人に水をかけ、湯船から這い上がってもらった。脱衣場で冷たい水を飲ませた後、冬美は2人の弟を叱りつけた。
「俺が長話しただけだから、夏兄を怒らないで。姉さん」
「いや、もっと話聞かせてって言ったの俺だし。ごめん焦凍」
「何の話してたの⁉」
怒っている姉の問いかけに、夏雄は弟の反応を窺った。「焦凍の気になってる女の子の話」とは言い出しにくい。
「友達の…緑谷の妹の話」
「緑谷くんって前にうちに来た?妹さんいたんだ」
「泉って言うんだけど…」
話し始めた轟の顔は優しく、冬美はまさかと思い夏雄を見る。夏雄は頷くが、人差し指を口元に当てて何も言うなとジェスチャーをした。
「とにかくね!話すならご飯食べながらとか、お茶飲みながらとかにしてよ。お風呂で長話はもうやめて!」
「ごめんなさい」
2人の弟はしゅんとしながら謝った。
新学期
「轟さーん!お兄ちゃーん!」
元気な声に2人が振り返ると、泉が手を振りながら走ってきた。
「轟さん、あけましておめでとうございます!今年もよろしくお願いします」
丁寧に挨拶をしてから、泉は楽しそうに笑った。
「実家どうでした⁉私、お母さんにうるさいって怒られちゃいました!」
「すごかったんだよ…。泉ったらずーっと喋りっぱなしで、お母さんが呆れて泉のお喋りはどうしたら止まるの、なんて言ってさ」
「だって久しぶりにお母さんに会ったんだもん。たくさん話したいじゃない!…轟さんもそう思いますよね⁉」
「…そうだな…。俺も…姉さんと兄さんと話をしたんだ。お前たちみたいに他愛のない話をたくさんして楽しかった」
轟の言葉に泉は自分のことのように嬉しくなった。にこにこ笑っていると
「泉のおかげだ、ありがとな」
と轟が嬉しそうに言うので、急に自分が出てきたことに泉は驚いて顔を赤くした。
「そ、そんな…‼私何もしてないですけど…⁉」
「泉の話をしたんだ」
「えぇっ⁉何の話したんですか⁉」
「…色んな話。2人とも会ってみたいって言ってた」
もちろん何年か後にお会いするんですが、それはまた別のお話で…。
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雄英白書祝だったかな。夏雄くんと轟くんでお風呂に入ってる話から思い浮かんだ話。
2021.04.01