L&H 学生編(本編)
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「あ!轟さん!」
十字路を走り抜けた後に、横から歩いてきたのは想い人だったことに気がついて、前を走っていたクラスメイトに向かって叫んだ。
「みんなー!ちょっとタイムー!」
急ブレーキをかけて止まろうとするも、勢い余って前のめりになってしまった。
「わっ!?」
「泉!」
前転すれば良いと思って手を出すが、床がつるつるしていたため滑ってしまった。私は勢いよくうつ伏せに倒れ込んでしまった。おでこまで地面に打ちつけた。痛い。
「痛い!」
顔を上げて叫んだ。よりによって何故今転んでしまうのか!ヒーロー科たる者これしきで転んでどうする!うー悔しい!などと考えながら身体を起こして座り込んだ。
「大丈夫か?」
心配して近寄ってくれたであろう轟さんは、私と目線を合わせるためか屈んでくれていた。優しい人だなあと思っていると、轟さんが右手を差し出したので、私は手と顔を交互に見比べた。
「手」
これは手をかせという意味だろうか…?そう躊躇していると、轟さんは反射的に伸ばした私の手をつかんだ。心臓が飛び出そうになっている間に、強い力で助け起こされた。
「おでこ赤いな」
床に打ちつけたおでこを見つめて轟さんはいつもの表情で言った。恥ずかしいよりも、轟さんが私の手を掴んでいることに意識が行ってしまう。男の人の手だ。お兄ちゃんやかっちゃんと違う、好きな人の手。
「好きです」
「そうか」
顔の火照りを感じていると、轟さんはいつものように答えて手を離した。
「怪我はないか?」
「大丈夫です!轟さんに手を貸してもらったことにびっくりして、どきどきしてます」
早口で告げると轟さんはまた、そうかと答えた。
「何してたんだ?」
「鬼ごっこしてました!今私が鬼なんです」
「楽しそうだな」
「個性使用禁止なんですけど、楽しいんです。追いかけてる途中で轟さんを見つけて…」
話していると、背中にクラスメイトの声が聞こえてきた。
「泉ー?まだー?」
「早くしろー緑谷」
「呼んでるぞ?」
轟さんは振り返って私を呼ぶクラスメイトたちに視線を送った。
「今行くー!」
クラスメイトに向かって叫んでから、私は閃いた。
「あ!そうだ、轟さんもやりませんか!?」
「鬼ごっこを?」
「はい!」
「いや俺は…」
「何してんの?泉。…って轟先輩じゃん…!」
クラスメイトがこっちに歩いてくると、轟さんを見てぎょっとした顔をした。
「お話してるの!今ね、轟さんも鬼ごっこやりませんかって誘ってたとこなんだよー」
「えぇ!?」
驚くクラスメイトに、轟さんは首を振った。
「わりぃけど、先生のとこ行かなきゃなんねぇから無理だ」
「そうなんですか!それは、引き止めちゃってすみません」
「大丈夫、気にするな。おでこあとでちゃんと冷やしておけよ」
「はーい!ではまた!」
クラスメイトと共に歩き出してから、思い出して振り返った。
「轟さーん!」
歩き出していた轟さんは立ち止まって私の方を見て、首をかしげた。
「今度やりましょうね!鬼ごっこ!」
腕を高く上げてぶんぶん振った。
「考えとく」
轟さんは控えめに腕を上げると、手を振ってくれた。
「知り合いなんだね」
クラスメイトの言葉に思わず笑みが溢れた。
「うん、そうなの!でね、私の好きな人なんだよー!」
2021.2.6
ものすごくちなみになんですが、夢主が爆豪妹を誘ったら無言で「あたしがやるとでも?」と言う顔をされました。いつものことなので気にしませんが。やらないのは分かっていても、夢主は爆豪妹に必ず声をかけるのです。彼女たちは時々2人きりで静かに昼休みを過ごしています。中学生の頃はほとんど2人で過ごしていたくらい仲が良いのです。