L&H 学生編(本編)
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週末、日曜日。
お兄ちゃんのクラスメイトのお姉さん方に「女子会するからおいでよ!」と誘われた。ドキドキしながら2-Aの寮に行くと、三奈さんに急かされて共有スペースのソファに座った。
「……私、いてもいいんですか?」
なぜ呼ばれたわからないまま尋ねると、先輩たちは楽しそうに笑った。
「いいんだよ!私ら、泉ちゃんと仲良くしたいもん!」
「そうそう!恋バナ聞きたいしね!」
透さんと三奈さんがニヤニヤ笑う。
「何か進展はあったのかしら?」
梅雨さんがたずねると、興味津々な顔でお姉さんたちが私の顔をじっと見つめた。6人全員が1人を見つめるってなかなか迫力がある。
「…何もありませんよっ!」
「なぁんだ、つまんない!あっ!」
「三奈ちゃんどうしたの?」
「泉の初恋について聞きたい!」
「私も興味ありますわ」
「はつ、こい、ですか…?」
「もしかして轟くんが初恋?」
お茶子さんがなんだか恥ずかしそうに聞いてきたので、私はすっとぼけたふりをして首を傾げた。
「どうでしょうね?」
「では、以前に恋したことがおありで…?」
なんとなく答えずらくて、紅茶を口にする。あぁ百さんの淹れる紅茶は美味しいなあ。
「……」
初恋なんて恥ずかしすぎて言えるわけがないし、そもそもあれは初恋と言えるのだろうか?
「んん?なんかあるね!?」
現実逃避をしていた私に、透さんが鋭く突っ込んできた。
「もしかして、初恋は爆豪?」
響香さんが爆弾を投下したので、お茶が変なところへ入った。咽ながらもティーカップを置くと、響香さんがティッシュを差し出してくれた。
「大丈夫?」
ティッシュを受け取って、口を拭く。
「図星?」
「いえ、さすがにかっちゃんは…兄としてしか見たことないので…」
「幼なじみのお兄さんに恋をするって、ドラマの中では良くある展開だけれど」
「幼なじみのお兄ちゃんに恋…?」
かっちゃんに恋するというところを想像して、身震いする。…ない。絶対ありえない。
「爆豪相手はなくない?」
「そうですよ。大体私のお兄ちゃんには木偶の坊のデク、私の大好きな人には舐めプ野郎。失礼にも程があります!」
「それは確かに…」
「でも、嫌いじゃないんでしょ?」
「そう言うところが嫌いなだけで、かっちゃんは強いですし、とってもかっこいいですから。私の憧れるヒーローの1人です」
「それでも初恋にならないんだ?」
「なりませんね」
きっぱりと言い切る。
そっかー…。とわかりやすく、透さんは肩を落とした。
「じゃあ、泉の初恋って誰なワケ!?」
身体を乗り出して、三奈さんが聞いてくる。
「え?」
え?声がした方を振り返る。
「お兄ちゃん…!?」
だめだよーだめだよー…。
聞いてもだめだし、答えてもだめだよ……!
「そうだっ!ねぇ、緑谷ー!泉の初恋って誰!?知ってる!?」
三奈さんはチャンスとばかりにニヤリと笑うと、お兄ちゃんへ尋ねた。
「なっ……!!」
お兄ちゃんは顔を赤くする。やめて、お兄ちゃん。言っちゃダメだよ?
お兄ちゃんを見つめて首を横に振りまくる。お願い、伝わって……!!
「だ、だだだ誰だろうね…!?あはは…!」
お兄ちゃん………!!!下手くそすぎ……。
梅雨さんはピンときたのか、ケロケロと笑った。可愛いけど、今は和めない!
「うるせぇ」
通りがかりのかっちゃんが悪態をついた。
「ねぇ、爆豪!泉の初恋って誰か知ってる?!」
三奈さんに問われて、私に視線をよこした。目だけでどうか言わないで、と訴えた。……言わないと思うけど。
「知るか」
ほらね。
「かっちゃん…!」
「だよね、知ってた!」
「愛されてんね、泉は」
呆れたように言われて、ちょっと嬉しくなった。
「当たり前だろ、妹なんだから」
「ねー?」
「いやいや、君たち血繋がってないでしょ…」
お兄ちゃんが小さく突っ込む。かっちゃんは気にせずにさっさと外へ行ってしまった。
お兄ちゃんが初恋の相手だなんて、言えるワケないよー…。
お母さんに「兄妹は結婚出来ないのよ」って言われて大号泣したの、覚えてるくらいだもんなあ。恥ずかしい……。
「あ!」
お茶子さんが何かに気がついたように、手をポンと叩いた。
「初恋って、もしかしてデクくん?」
ああー……。お茶子さん……。
「いやいや、それは無いんじゃないの!?」
透さんが「ねえ緑谷」と声をかけるが、お兄ちゃんは挙動不審になっていた。
「ななななんのこと?ぼぼぼぼくは知らないよ!?」
ぜんっぜん、だめ!否定出来てない。私は手で顔を抑えて、はぁ…とため息を吐いた。
「やっぱり、初恋は緑谷ちゃんなのね」
梅雨さんが追い打ちをかけると、百さんはまぁ…!と口に手を当て目を輝かせ、響香さんはまじ?と信じられないような顔をしていた…。
透さんと美奈さんは言うまでもなく、キャーキャーはしゃいでいた。
「……そうですよ……ああっ!恥ずかしい……!!」
足を引き寄せて体育座りをし、足と体の間に顔を埋めた。
「お兄ちゃんはもう向こう行ってよぅ……」
半べそになりながら言うとお兄ちゃんはごめんね、と謝って外へ行った。
「なんかごめんね…」
「泣くくらいなんだから、それほど嫌だったんでしょ」
お姉さんたちがしゅんとしてしまった。
「あ、いえ…。初恋がお兄ちゃんと言うのが恥ずかしすぎるだけで…」
「そうかしら。可愛いわ」
「そうだよ。泉ちゃんにとって、良いお兄ちゃんなんでしょ?」
梅雨さんとお茶子さんがフォローをしてくれる。
「そりゃあ、もう……!優しくて可愛くて最高のお兄ちゃんです」
今はめちゃくちゃかっこいいですけど!と付け足す。
「私の初恋は一瞬で終わりました。お母さんにお兄ちゃんと結婚する!と言ったら、兄妹は結婚出来ないのよと言われたんです。私悲しくてわんわん泣きました」
まぁ可愛らしい、と百さんがぽつりと言った。
「何歳のとき?」
「4歳ぐらいだったと思います。今もその時のことだけは鮮明に覚えています」
「でも泉。今も緑谷に恋してるわけじゃないんでしょ」
「大好きですけど、恋じゃないです」
「仲良すぎて側から見ると恋人かよ、っなるけどね」
「だったら、可愛い思い出として取っておけば良いんじゃないかしら?恥ずかしいなんて勿体無ないと思わない?」
「え?」
「そうですわね。可愛くていいじゃありませんか」
ちょっと目から鱗。変とか言われるかと思ってた。
「変、じゃないんですか…?」
「泉の初恋が緑谷じゃなくても、見てるこっちが恥ずかしい位兄妹でラブラブだしねぇ?」
「泉さんが緑谷さんを大好きなのは周知の事実ですもの」
そっか、変じゃないのか。可愛いって思われるんだ…。
なぁんだ、良かった…!
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本来の夢主は「初恋は?」と聞かれたら、ちょっと照れながら笑って「お兄ちゃんです!」と答える子です。
そうすると初恋の話は何にも膨らまずに一瞬で終わっちゃうんですよね。なので1つの話になるようにお兄ちゃん大好きと公言してて、周りも気にせずイチャイチャしてても、初恋がお兄ちゃんだと言うことに抵抗を持ってもらいました。
これはこれで良し。
ずーっと前に書いたものをようやく消化できて良かったです。
『ラブ&ヒーロー』を書き始めた頃が14巻が発売されたあたりなのですが、最初に書いていたネタでは日曜日によく兄の寮へ遊びに行っていました。インターンが本格化してくる2年生じゃそんな暇はないよなって今では思うんですけど。
手を加えるたびになぜこれを書いたのか?って考えちゃうので、オチなしだけどアップしました。