もしもあのとき
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「…って言うね、夢を見たの!落ちた感覚までは覚えてるんだけど…。」
お兄ちゃんとお昼ごはんを食べた後、私たちは教室に戻ろうと歩いていた。
轟さんと飯田さんはそれぞれ先生に用があって職員室に行ってしまったので、私たちは2人だ。轟さんと飯田さんの前でかっちゃんの意地悪を言うのは、お兄ちゃんが嫌がるだろうと思っていたから丁度よかった。
「空が見えたと思ったら真っ白でね、あれ?って思ったら目が覚めたんだぁ…。叩きつけられるみたいな感覚を味合わなくて良かったよ」
うぅ…と両肘を抱いて身震いをする。教室の前で立ち止まる。
「夢でも絶対痛いもんね。…ってお兄ちゃん?!」
相槌が返ってこない、と隣のお兄ちゃんをみてびっくりした。お兄ちゃんは泣きそうで、怒ってるようで、悲しそうで…絶望したみたいにとても傷ついた顔をしていた。
「どう言う感情なの?その顔」
「…どう言う…って夢だとしても聞いてて生きた心地しなかったんだけど」
お兄ちゃんを元気付けようと、その場で子供がするように飛行機みたいにくるくる回った。
「泉は生きてるよー」
笑いながら言うと、お兄ちゃんはくしゃっと顔を歪めて泣きそうになった。
「えっ!?お兄ちゃんたら、どうしたの⁉泣かないで…!夢なんだよ⁉」
もらい泣きしそうになってお兄ちゃんの両手を取って、自分のほっぺにくっつける。
「ほら!泉触れるよ、おばけじゃないよ」
お兄ちゃんを見上げて、私と同じ色の瞳をじっと見つめた。
「当たり前だろ、泉はお化けなんかじゃない。ここで生きてる」
無理矢理笑ったお兄ちゃんが私の手を払うと、ぎゅっと力を込めて抱きしめた。
「泉が生きててよかった」
お兄ちゃんが安堵したような絞り出すような声で言ったので、私も力一杯抱きしめ返した。
こんなに逞しくなって、カッコいい背中のお兄ちゃんが妹の夢の話を聞いて泣きそうになってる。私はお兄ちゃんを愛おしく思った。
「大丈夫だよ、お兄ちゃん。泉はちゃんとここにいるからね」
「あー…えーっとそこのみど…おふたりさん?」
「はい!」
驚いてお兄ちゃんと同時に返事をする。
抱きしめ合っていた腕を離して、2人そろって気をつけの姿勢になる。
「ここ、教室の前なんだけど?」
お兄ちゃんの後ろから声がして、覗いてみると響香さんがものすごく呆れた顔をして立っていた。
「はっ…!?」
振り返ると、お兄ちゃんのクラスメイトたちが私たちを見ていた。目の前のお兄ちゃんも同じようにびっくりしてた。
私とお兄ちゃんで教室の入り口を塞いでしまっていた。
「いや、忘れてたのかよ‼」
教室の奥から上鳴さんの鋭いツッコミがはいった。
「忘れてました…ハハ…」
お兄ちゃんと同時に言う。
ハモっちゃった、と顔を見合わせるとお兄ちゃんが照れたように笑っていた。良かった、いつものお兄ちゃんだ。
「兄妹仲が良いのは良いことよ」
「2人のパーソナルスペースは狭すぎるけどね!」
「ほんとそれ。見てて恥ずかしいよ」
梅雨さんの言葉に三奈さんがツッコむと、耳郎さんが笑いながら教室に入って行った。
「お兄ちゃんさっき、生きててって言ったけど、泉飛び降りたことすらないよね?夢だよね?泉が忘れちゃってて本当のことだったとかじゃないよね?」
教室に入ろうとするお兄ちゃんの制服の裾を引っ張って小声で聞いた。
「…ないよ、大丈夫」
少し困ったような顔をしながらお兄ちゃんは答えた。
「ほんとに?」
眉間に皺を寄せるとお兄ちゃんは、ふぅとため息をついた。
「本当だよ。安心して」
お兄ちゃんは私の頭を優しく撫でてくれた。
「ふふ」
ちょっと気分が上がって笑いが溢れた。
「なんか元気出たー!午後も頑張ってくるー!またね!」
私はお兄ちゃんに手を振って駆け出した。
2020.12.12