もしもあのとき
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お兄ちゃんは僕の教室に来ないで、と言う。はっきりと言わないけど、自分のせいで私が何か言われるのが嫌みたい。
周りの声なんて聞いてるだけ無駄だし、私は気にしないのだけれど、大好きなお兄ちゃんが来ないでと言うのだから私は素直に従うしかない。
それに私が教室に行くことで、お兄ちゃんに何か困ったことが起きてしまったら嫌だ。万が一お兄ちゃんに嫌われたらこの世の終わりだ。
でも、今日はなんだか胸騒ぎがした。胸がざわざわしてずっと落ち着かなくて、お兄ちゃんに会いたくてたまらなかった。
放課後、自分のクラスのHRが終わってすぐ、リュックを背負うとお兄ちゃんが降りてくる階段の前に立った。少し待ってお兄ちゃんが降りてこないので、迷いながらもお兄ちゃんの教室まで行き、お兄ちゃんが出てくるのを待つことにした。
「可哀想に、彼はまだ現実が見えてないのです」
そのとき幼馴染の声がした。またお兄ちゃんに意地悪言ってるんだ。
ムッときてかっちゃんに言い返してやろうかと思ったけど、きっとお兄ちゃんが嫌がるだろうと気持ちをぐっと抑え込んだ。
その後に続く言葉たちも気にしないように心の耳を塞いだ。
「来世は“個性”が宿ると信じて…屋上からのワンチャンダイブ!!」
頭をガンと殴られた気がした。
「お兄ちゃんに自殺しろって言ってるようなもんじゃんか…!信じられない。ごめん、お兄ちゃん。流石に看過出来ない。泉の堪忍袋の緒が切れそう」
怒りで腸が煮えくりかえる。私は一歩を強く踏み出した。
「何よ?」
爆破で威嚇したかっちゃんにお兄ちゃんは何も言わなかった。私はかっちゃんの前に立って、入り口を塞ぐように仁王立ちをした。
「かっちゃん、お兄ちゃんに謝って。それは言ったらだめ」
沸々と湧き上がってくる怒りを押し殺して静かに言った。私は教室から出てこようとしたかっちゃんの前に立ち尽くした。
「は?」
かっちゃんは私が言った言葉の意味を、本気で理解していなかったと思う。
「泉?!」
お兄ちゃんが驚いた声を上げた。でも、そちらには目を向けずにかっちゃんをじっと見つめた。
「謝って」
「はぁ?謝るわけねーだろ、アホか」
「謝るの!」
「むしろコイツが無個性なのにヒーロー目指してすみませんだろ」
かっちゃんと取り巻きの2人が笑った。
「…もういいよ、泉…」
お兄ちゃんのか細い声が聞こえた。
「…許さないよ絶対」
拳をぎゅっと握りしめた。爪が手のひらに食い込んで痛かった。
「許さない、だァ?」
かっちゃんが馬鹿にしたように笑う。
「先公に言いつけんのか?どーせ、お前の大好きなお兄ちゃんは無個性がヒーローになれるわけ無い、って笑われんだけだ。オメーもいい加減現実見ろや」
ぷちんと何かが切れた。
「先生に言いつけるなんてそんな生温いことするわけないでしょ。ちゃんと見ててよ」
そう言ってかっちゃんの横を通り過ぎてお兄ちゃんの前まで行った。
「泉?」
にっこりと笑った私にお兄ちゃんは驚いて私を見つめた。
「お兄ちゃん。…泉ね、お兄ちゃんが大好き!」
状況に似つかない私の笑顔を見て、泣きそうになった。
「し、知ってるよ…?何回も聞いたよ…何で今言うんだよ…」
「だから、かっちゃんの言ったこと許せないんだ」
振り返ってかっちゃんをきつく睨んだ。
「一生消えないものをあげる」
私が何をしようとしているか気がついたらしいお兄ちゃんが震える声で「泉」と呼んだ。
「またね」
最期の顔が泣き顔じゃいやだよね。もう一度きゅっと口角を上げてにっこり笑う。
お兄ちゃんが私を追いかけられないようにお兄ちゃんを力の限り突き飛ばした。
かっちゃんに向かって勝ち誇ったように笑ってやった。
「ざまあみやがれ」
「痛っ…!まっ…て!」
机にぶつかったお兄ちゃんが涙を浮かべて私に手を伸ばした。
素早く駆け出して、窓に足をかけると、ぐっと窓枠を蹴って外へ飛び出した。
自分が何を言ったのか思い知れ。
一生忘れさせない。
一生後悔させてやる。
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→蛇足的にちょっと続きます
泉はお兄ちゃんがこんなことを言われていたなんて知りません。
中学時代、泉はお兄ちゃんに「学校であまり関わらないで」と言われていたからです。
上で泉が言っていたように自分のせいで相手に不都合が起きてほしくないとお互いに思っていたので、泉はお兄ちゃんの言いつけを守っていました。
その反動もあって家ではお兄ちゃんにべったりでしたし、高校入学後は事あるごとにお兄ちゃんの教室に行っていますし、人目も気にせずお兄ちゃんに甘えます。