L&H 学生編(本編)
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とある日曜日の午前中。
「泉来てんのか。……あいつは」
部屋から共有スペースに降りてきた爆豪は、キッチンで鼻歌を歌いながら料理する泉を見つけて切島らに声をかけた。妹を放っておくはずがない幼なじみを探すが、姿が見えなかった。
「緑谷?そういや見てないな?」
「妹ちゃん、今日も超絶ご機嫌で可愛い。あんな可愛い彼女ほしいわ~」
上鳴の何気ない言葉に、爆豪は冷たく睨んだ。
「テメェにはやらねぇ」
「貰えないと言うより、妹ちゃんは轟と緑谷しか見えてねぇだろ…」
瀬呂が冷静に言うが、上鳴は気にせず喋り続けている。
「今日はチキンのデミグラスシチュー作んだってさ!」
「あれのどこが機嫌いいっつんだ」
「どう見たって機嫌いいだろ?鼻歌歌ってるし」
切島が不思議そうに言うと、上鳴が笑いながら言った。
「ちょいちょい音外れてるけどな」
爆豪は面倒くさそうにため息をつきながら、キッチンへ歩いて行った。切島や上鳴たちには苦手な料理を想い人の腹を掴むべく頑張っているのを楽しんでいるようにしか見えない。
「爆豪?」
切島たちは訳がわからず首をひねった。
「泉」
「おはよー!かっちゃん!」
空元気だ。元気なように振舞っているがこれは元気がない。爆豪にはすぐわかった。
「…何かあったんか」
「え、なにもないよー!?どうしたの、かっちゃん」
目が明後日の方向を向き、爆豪を見ていない。
「…嘘つけ、俺が気づかねぇわけないだろ」
「かっちゃんは本当にそういうの、よく気がつくね」
「たりめぇだ」
涙を流した泉の顔にタオルを押し付ける。それを素直に受け取ると泉は涙を拭いた。
「かっちゃんてば、慰め方へたっぴだね~!」
「ハッ。てめぇのクソみたいな歌に比べればましだろ」
「ひどいこと言うなあもう!」
手伝ってくれるのか、手を洗った。流しのすぐ横に置いてあるキャベツに手を触れる。
「そのキャベツ、全部千切りにしてほしいなぁ!コールスローサラダにするの」
じゃがいもの皮むきをしていた泉が楽しそうに言った。
「……お前、千切り出来んのか?」
「そんなの、無理に決まってるじゃない!」
「胸を張って言うことじゃねぇ!!ちっとは練習しろボケ!」
「ボケって言う方がボケなんですぅ!かっちゃんは優しい言い方を練習した方がいいんじゃないですかぁ?」
「うっせぇ!千切りはこうやってやんだよ!!」
何枚かはいだキャベツを丸めると、リズム良く刻んでいく。あまりの手際の良さに泉は小さく拍手する。
「さすが才能マン!今度やってみるね!」
「今やれ!」
「今やったら時間なくなっちゃうよ?」
「てめぇな…!じゃあ1人でどうやるつもりだったんだ!」
「えーと、かっちゃんにやってもらおうかなぁって」
「結局俺じゃねぇか!」
「レシピ見て一度は自分で作ったよ……?でもね、私が切るとキャベツは繋がってるし、どんどん太く…」
「手動かせ!!」
いつの間にかジャガイモの皮を剥く手が止まっていた。慌てて手を動かしして、ピーラーでジャガイモの皮を剥き、芽取りできちんと芽も取っていく。
「あいつら、仲良いよな~」
「兄貴たちの方とは大違い。妹ちゃんの性格によるところ大きいよな」
「つーか、あれで恋愛に発展しねーのかよ…」
「幼なじみっつたら、だいたい美味しい展開なのにな~」
「実はもう秘密の関係だったりするんじゃねぇのか?!」
上鳴と峰田がニヤニヤ笑う。
「うっせーぞ!!てめぇら!!手ぇ空いてんなら、手伝えや!!」
「断じてかっちゃんとは何もありません!かっちゃんはお兄ちゃんですし、私は轟さん一筋です!」
「そうか」
声がして泉は勢いよく振り返った。大好きな人が後ろに立っていたことに驚いて、顔がどんどん熱くなっていく。赤面しながらも、もう一度力強く口に出した。
「そうなんです、私は轟さんが好きなんです」
「今聞いた」
轟はいつものように変わらぬ表情で泉の告白を受け止めた。
「今日は何作ってんだ?」
ドキドキする胸を押さえながら、泉は今日のメニューをゆっくり口に出す。
「…チキンの、デミグラスシチューと」
「コールスローサラダだ!分かったら、とっとと居ねや!」
爆豪が泉の言葉を遮って轟に吠えた。轟はあまり気にすることなく再び尋ねた。
「何か手伝うことはあるか?」
「ねぇよ」
爆豪が食い気味に答えると、轟は少し困った顔をした。
「俺は泉に聞いてるんだが」
轟の言葉に舌打ちをすると、キャベツの千切りを再開した。幼なじみが黙ったことに驚いて、轟と幼なじみ交互に見た。答えない泉に轟は首を傾げた。
「じゃ…じゃあ!たまねぎの皮を剥いて頂けると助かります…!」
「これか?」
隣の台に広げてある新聞紙の上に沢山置いてあった玉ねぎを轟は指差した。
「そうです」
轟は腕まくりをすると、たまねぎの皮をむき始めた。
爆豪、泉、轟で並んで作業をする。泉は「なんだか嬉しいなあ。これでお兄ちゃんもいてくれたら、いいのになぁ」と考えて笑みを浮かべた。
ちらりと隣に立つ幼なじみを盗み見する。黙々とキャベツを千切りにする爆豪の華麗な包丁捌きに見惚れて手が止まってしまった。
「…おい、手ぇ止めてんじゃねえぞ」
泉の手が止まったことにすぐさま気がついた爆豪が静かに言った。
「ハッ!本当だ、止まってた…!」
「どうせ、これでクソデクがいたらとか考えてたんだろ」
「え、なんで分かるの!?」
「お前の考えなんざお見通しだ。クソナードのことしか考えてねえからな」
「…まあ、お兄ちゃん大好きだからその通りなんだけどね。かっちゃんはお兄ちゃんのこと変な呼び方するのやめようね?」
舌打ちをした爆豪に、泉はハッと思い立った。
「大丈夫だよ?かっちゃんのことも大好きだからね?」
「舐めプよりか?」
「それとこれとは話が違うの」
「手ぇ動かせっつってんだろ」
「あ、ごめん」
いつの間にか止まっていた手で再び皮をむき始めるが、泉はすぐに再び口を開いた。
「でね!かっちゃんはね、お兄ちゃんのこと好きな好きと一緒なんだよ」
「クソナードと並べてんじゃねぇ」
「しょうがないじゃない、かっちゃんも私にとってお兄ちゃんなんだから。家族愛なのよ。お兄ちゃんには恋しないでしょ?」
「……オメェ口にガムテ貼んぞ。いい加減口閉じろ。手動かせ」
「無理よ、口閉じてられないの。むずむずしちゃう」
泉はむず痒そうにすると、楽しそうに笑った。
「ただいまー!」
兄の声が玄関から聞こえて、泉はピーラーを手にしたまま振り返った。
「お兄ちゃん!遅いよー」
「レジが混んでて中々進まなくてさ…ってあれ?泉が元気になってる」
緑谷はレジ袋を台の上に置くと、妹を見て少し驚いたように言った。
泉は兄の言葉にびっくりして目を見開いた。
「なんで…」
緑谷は泉の言葉を聞いて不思議そうに首を傾げた。
「僕が気づいてないって思ってたの?」
「だって、お兄ちゃん何にも言わなかったじゃない…」
「いつもは泉から言ってくるのに、今日は何も言わないから触れてほしくないんだろうなって思ってたから、何も言わなかったんだよ」
「そ、うだけど…!気付いてないって思ってたのに…」
「気が付かない訳ないでしょ?僕は君のお兄ちゃんなんだから」
恥ずかしそうに笑う兄に泉は心臓を撃ち抜かれた。隣で爆豪が引いている気がした。
「もうっ…!どれだけ泉を好きにさせれば気が済むの…!?」
「えぇ?僕のせいなの?」
「お兄ちゃん大好き!ぎゅーして!」
手にじゃがいもとピーラーを持ったまま、兄に飛び付こうとすると
「ピーラー置いて!!」
と怒られてしまった。
緑谷は妹をぎゅっと抱きしめてくれた。
その後、緑谷や他のクラスメイトも加わり、みんなで和気藹々とシチューを作り終えましたとさ。ちゃんちゃん。
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こちらも初期に思いついたお話です。ちょっと落ち込んでる夢主にすぐに気がつく幼なじみを書きたかっただけなんだと思います。なにせオチが決まらずにずーっと放置してましたものですから。やっと思い付いた最後はお兄ちゃんに持っていかれてしまいましたねー。雑にお話を終わらせましたが、これはこれで良いのです。
2021.05.23