L&H 学生編(本編)
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4月のとある平日。
体育の帰り道に、自動販売機の前に佇む轟さんを見つけた。お兄ちゃんも飯田さんもいなくて、轟さん1人だった。
「先行ってて!追いかけるから!」
一緒にいた光に声をかけて、轟さんの元へ走って行く。
「ちょっと…!」
光が驚いた声をあげたので、振り向いてごめんね、と両手を合わせて謝った。
「転ぶよ?」
「だいじょーぶ!」
前を向きながら光に聞こえるように言った。ため息が聞こえたような気がした。
「轟さん!」
急ブレーキをかけて立ち止まって、走ってきた勢いで大好きな人に元気よく声をかけた。
「お」
その瞬間、飲み物が音を立てて、落ちてきた。…轟さんの肩が跳ねたような気がしたんだけど、気のせい…?
「……なんだ、泉か」
轟さんは振り返って私を見てから、たった今出てきた飲み物を取り出した。いちごミルクだった。随分可愛らしいものを買うんだなあ、と見ていた。
「…いちごみ!見るけど…」
轟さんは変わらない表情で、ぽつりと呟いた。
…あれ、もしかして……。ふと先ほどの動作を思い出す。
お、って言ったのは驚いたから?
肩が跳ねたのは、気のせいじゃなかった?
驚かせてしまって、間違えて押してしまった…!?
「あの、轟さん…!」
「これ、好きか?」
謝ろうと呼びけると、轟さんと被ってしまった。轟さんは手にしていた、いちごみるくを私に見えるように差し出した。
「え?はい、好きです!」
轟さんみたいで、と言いかけて飲み込む。危ない。失礼だし、恥ずかしい。
「じゃあ、やる」
「え?」
答える間も無く渡された。反射的に手が出て、受け取ってしまった。
「…俺が飲みたいのは、ほうじ茶だ」
自販機を見ると、ほうじ茶の2つ隣にいちごミルクが並んでいた。
「ほうじ茶…!?もしかして、私、驚かせてしまいましたか!?それで、間違えてしまったんじゃ…」
沈黙。私の目を見たまま、黙っている。
「……いや、押し間違えた」
少しの沈黙のあと、絞り出すように答えた。
私を責めないような言葉を探してくれたんだな、と嬉しくなった。好意を無下にしてはいけないと思い、素直に頂くことにした。
「あ!それなら…!」
手にしていた財布からお金を取り出しながら、轟さんの横に並んだ。お金を自動販売機に入れて、ほうじ茶のボタンを押した。
「はい、どうぞ!」
出てきたほうじ茶を取り出して、轟さんに差し出すと、変わらない表情のまま、ほうじ茶を見つめた。
「丁度、喉渇いてたところなんです!タダで頂く訳にはいかないので、わたしがほうじ茶を買えば、交換したことになるかなぁ…なんて…」
轟さんは少し考えてから、受け取ってくれた。
「…そうだな」
「じゃあ、そろそろ失礼しますね」
「何か用があったんじゃないのか?」
「いえ!轟さんと話したかっただけです」
「そうか」
「いちごミルク、ありがとうございます!それでは!」
お礼を言い、踵を返した。
「泉」
「はい!なんでしょう?」
呼びかけられて、振り返る。
「俺も見かけたら、話しかけていいか?」
驚いた。轟さんがそんなこと言ってくれるなんて!
「泉?」
驚いてぽかんとしてしまった私に、轟さんが首を傾げた。
「もっ、もちろんです!」
笑顔で答えたいところだけど、嬉しくてにやにやした顔になってしまった。いちごミルクを持ったまま、両手で顔半分を隠した。
「あの、轟さん」
「なんだ?」
「好きです!」
「そうか」
轟さんは私の告白に少しも動揺していない。まあ私も好きって言いたいだけで、答えが聞きたいわけじゃないからなぁ、なんて思った。
「それじゃあまた!」
ぎゅっといちごミルクを抱きしめて、スキップで教室まで帰った。
大好きな人からいちごミルクをもらったから、今日はいちごミルク記念日。なんてね。
「ふふ」
その日はつい笑ってしまう私を、光はだらしがないと呆れていた。
2020.12.14 加筆修正