私と百さん
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「…何してんだ。泉と、爆豪の妹だったよな?八百万も」
タイミングが悪いことに、轟さんが廊下の曲がり角から姿を現した。八百万さんは驚いて肩を震わせたが、振り向かなかった。
話しかけられたので、とりあえず挨拶をする。
「こんにちは…!轟さん…!」
「舐めプ野郎が気安く話しかけんじゃねぇ!」
轟さんの方を見ることなく光が吼えた。
「光ったら、またそんな言い方して!失礼だってば!轟さんすみません…!」
「あいつは!舐めプで十分だッ…!」
ふんと鼻を鳴らし、そっぽを向いてしまった。
八百万さんは唇をきゅっと噛んで視線を下に落としていた。
何も言わないでほしい、と訴えるように光の瞳をじっと見つめる。光は呆れたようにため息をついた。
「…どうかしたか?」
轟さんは私たちのそばに来てそう尋ねた。光と引っ張り合いして踏ん張ってる姿を見られるなんて恥ずかしい…。穴があったら入りたい。
「なんでもありません…!光とちょっと、言い合いしてただけなんです…!」
原因を知られなくないので、冷静を装って静かに答える。
「だから関係ないやつは引っ込んでろ。…離して泉」
とっさに光は合わせてくれた。ありがとう光。心の中でお礼を言う。さすが私の大親友。
でも、
「それは、いやだ!」
「緑谷と爆豪呼んでくるか?」
「大っ丈夫です!絶対呼ばないでください!むしろこの事すら言わないでください!」
「あ、あぁ…」
早口に言うと、私の気迫に押されたように轟さんは返事をした。
「ヤオモモ?…え…何これ?どういう状況なの?」
後ろの方で声がした。
なんで!?今このタイミングなの!?誰!?勢いよく振り返ると、今度は個性イヤホンジャックの耳郎さん!
視線を元に戻すと気まずそうな顔の八百万さん。怒った顔の光と引っ張り合いをする私、そして状況を把握してないような轟さん。耳郎さんは困惑した表情で今何が起きているのかを考えているようだった。
「なんでもありませんわ」
いち早く八百万さんが答えるが、耳郎さんは眉をひそめたように見えた。
「なんでもないようには見えないんだけど…」
耳郎さんは私たちを通り過ぎて八百万さんの隣まで行くと、私たちと轟さんを交互に見てから、うーんと頭を抱えた。
「轟は今来たとこ?」
「あぁ」
「この状況が説明できる?」
「いや」
「じゃあ、この子たちはウチがなんとかするから、轟は戻って」
「……わかった。またな、泉」
私たちが目指していた教室の方へ戻っていった。
「私も帰りますわ」
「勝手に帰ってんじゃねぇよ!」
八百万さんの呟きにすかさず光が叫んだ。それを聞いて踵を返そうとした八百万さんの腕を、耳郎さんが掴み取った。耳郎さんは光の声に驚いていたけど、冷静だった。
「待って、帰らないでヤオモモ。あんたたち、緑谷と爆豪の妹だよね?」
八百万さんの顔は険しくなるばかりだ。
「私は、緑谷泉です。この子は、爆豪光です…!」
「勝手に言うな!泉っ…!」
「聞かれたら答えなくちゃダメでしょっ!お兄ちゃんたちがお世話になってる、んだから…!」
「話をしようよ。嫌なら爆豪と緑谷呼んでくるけど」
耳郎さんは私たちを引っ張り合うのを止めるよう言った。
「いえっ…!それは…困ります!…ね、光?話しよ?」
「……」
私が力を緩めると、光も緩めてくれた。私たちは並んで立った。光は渋々言うことを聞いたようなもので、耳郎さんのこともあまり良い目で見ていなかった。
また飛び出しては困るので光の腕に自分の腕を絡ませた。さすがに今度は振り解かない。
「それで?これは何が原因なの?ヤオモモ」
「ヒーローを志す者として、恋にうつつを抜かしているのは浮ついている、と申し上げただけですわ」
また冷たい態度を取られてしまった。
「えっ⁉ヤオモモ、本当にそう言ったの⁉」
耳郎さんは信じられないと言う顔をして、八百万さんを見るが八百万さんは耳郎さんから目線を逸らしたままだ。
「ええ、そうですわ」
「ざっけんな、クソポニテ野郎!何も知らねぇのに好き勝手言ってんじゃねぇつってんだろ!」
飛び出しはしなかったけど、前のめりになって光が噛み付くように怒鳴った。
「こわ…さすが爆豪の妹って感じ…」
「大体な、こいつが舐めプ野郎を好きになったんは、去年の体育祭だ!浮ついてるやつが、雄英に入れるかよ!入試上位だぞ!!」
光は私の代わりに、たくさん言ってくれる。私は光に絡ませた腕に思わず力を込めた。
「…光……」
「だから、何だと言うのですか」
両者が睨み合う。その間に苦笑いを浮かべた耳郎さんが割って入ってきた。
「ちょっとストップ。光も落ち着いて」
「馴れ馴れしく名前で呼ぶな!」
「爆豪と緑谷だとややこしいじゃん」
「私もそう思います。どうぞ名前でお呼びください」
すかさず同意すると耳郎さんは笑った。
「だよね、良かった。…ヤオモモ、この子のいうことは一理あると思うよ。全然知らない子のことを悪く言うのはどうかと思う」
「よくわかってんじゃねーか」
「光はもう少し先輩を敬おう?先輩には敬語使おうよ」
「それもまあその通りだね。ウチはそんなに気にしないけど」
耳郎さんは笑った。
「ウチは泉が、ヤオモモが言うような子だとは思わない」
「どうしてですの?耳郎さんも初対面ですよね?」
「うん、そう。初めて会った。だからよく知らない。…でも、爆豪がさ珍しいこと言ってんのを聞いたんだよ」
「兄ちゃんが?」
光が先に反応した。
「この間、上鳴に向かって妹たちは有能だから、上鳴みたいにボケッとしてる奴は追い抜かれるぞって脅かしてたんだよね。珍しいこと言ってんなーってよく覚えてて…これってあんたたち褒めてるよね?」
「かっちゃんが…!」
「兄ちゃんが…!」
私と光の声が重なった。
「私たちを褒めてくれた!」
今起きていることを忘れてしまうくらい、私たちは嬉しくなって抱き合った。
「有能だって!」
「普段は言ってくれないのに!」
キャーキャーはしゃぐ私たちに耳郎さんが諫めた。
「話が途中だけど、続けていい?」
「すみません!」
私は咄嗟に謝るが、光は黙っただけだった。
「爆豪は適当にそういうこと言う奴じゃないし、緑谷だって妹が頑張り屋さんで優しい子だよって言ってたし。そんな風に評価されてる子だから真面目にヒーロー目指してるんだなって思ったんだ。爆豪も緑谷も1年一緒に学んだ仲間じゃん?あいつらの言葉は十分信用できるものだと思わない?」
「……」
「ヤオモモ」
答えようとしない八百万さんに、耳郎さんが優しく促した。
「…そうですわね…。耳郎さんの言う通りですわ」
観念したのか、八百万さんは耳郎さんの話を受け入れた。
「私の勝手な思い込みで、あなたを悪く言ってごめんなさい」
八百万さんは私の方を向いて頭を下げた。
「頭を上げてください!」
隣で光が勝ち誇ったように、フンと鼻を鳴らした。
八百万さんが頭を上げた。何か言いたいけど、言葉が見つからなくて黙ってしまった。
「あとね、この子が恋してるの年頃っぽくていいと思う。そんな時間ある⁉って思わない訳じゃないけど、ヒーロー志望だけじゃないの、高校生っぽいじゃん?芦戸や葉隠が聞いたら高校生っぽい!ってはしゃいでるよ、きっと」
面白そうに笑う耳郎さんに救われた気がした。
「ありがとうございます…!」
「そんな感謝されるようなことじゃないし、ウチは思ったことを言っただけ」
そのとき予鈴が鳴った。
「お、良いタイミングじゃん?2人とも戻りなよ」
耳郎さんが言うことに素直に従うことにした。
「そうします、ありがとうございました。またの機会にお話しできるのを楽しみにしてます。」
耳郎さんに頭を下げ、八百万さんに向き直った。
「…あの…!八百万さんとも…お話しても良いですか…?」
「よろしいのですか…?失礼なことを言ってしまいましたのに」
「もちろんです。私お兄ちゃんの友だちと仲良くなりたいんです!お兄ちゃんが大好きなので!」
「…あなたのことをきちんと知りたいですわ」
「今度は穏やかに話したいけどね。…いこ、ヤオモモ」
と言って手を振ってくれた。
「私たちも戻ろっか」
「うん」
私たちは手を繋いで教室へ帰ることにした。
「私ね、光のああいうとこ好きだよ」
全部言わなくても光にはすぐ分かるはず。光は立ち止まって私の顔をじっと見つめ、繋いでいる手に少し力を込めた。
「あたしも泉が好きだよ」
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釈明という名の懺悔
ヤオモモを悪者にしてごめんなさい。
私自身ヤオモモのことは大好きです。
初期のツーンとしていたヤオモモのイメージのままで「恋だなんて雄英のヒーロー科に通う者として、浮ついているのではありませんか?」と言うセリフを泉に向かって言い放ったら面白いんじゃないか?というところから生まれた話です。
こんな初対面もあったかもしれない話です。
今のヤオモモは絶対こんなこと言わないけど。
以上あったような、たぶんなかった話でした。
書き上げるに当たって何度も書き直ししました。
まだちょっと納得してない部分もあります。
なので修正をかける可能性があります。
大きく修正をする場合にはお知らせします。
2020.12.05