私と百さん
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今でこそ仲良くさせてもらっているが、百さんとは初対面に一悶着あった。
光と一緒にお兄ちゃんの教室へ向かう途中での出来事だった。
前から歩いてきた人が足を止めて、私たちを見ていた。
私はすぐにお兄ちゃんのクラスメイトの八百万さんだ!と気がついて、ぱっと笑顔を作った。「挨拶しよ」と並んで歩いていた光に言うと、嫌そうな顔をされた。いつものことなので、当然無視をする。
「はじめまして!こんにちは!」
小走りで八百万さんの前まで行って、いつものように元気よく挨拶をした。
「緑谷さんの妹さんですね?はじめまして」
少し睨みつけるような冷ややかな目をしていたので、緊張して声が上手く出なかった。
「は、はい!緑谷泉です。個性創造の八百万百さんですよね。いつも兄がお世話になっています!」
「…轟さんに恋をしていると聞きましたが、本当ですか?」
冷たい物言いに驚いた。お兄ちゃんから聞いていた雰囲気とは全く違う。
「え?はい…。そうです、が…」
戸惑いながら返事をすると、思ってもみなかった言葉を投げかけられた。
「恋だなんて雄英のヒーロー科に通う者として、浮ついているのではありませんか」
言葉を発することができなかった。隣に立っていた光が八百万さんの胸ぐらを掴まんとする勢いで飛び出したので、咄嗟に両手で腕を掴むのが精一杯だった。
「はぁ⁉なんだとテメェ!」
光は力を込めて握り拳を作っていた。
「もういっぺん言ってみろや。ふざけたこと抜かしてんじゃねぇぞ!」
光がキツく睨んで、噛み付くように言った。
「本当のことでしてよ」
ツンとして言う八百万さんもまた光を睨み返していた。
「…光。先輩にそんな態度は失礼だよ」
そう言った私に八百万さんは冷ややかな視線を向けた。涙がこぼれ落ちたが、光の腕を掴んでいるため拭えなかった。
「浮ついてるように見えて気を悪くさせてしまったのでしたら、すみません。ですが、ヒーローになる為にいつだって全力を尽くしています。…それに、私が勝手に好きでいるだけです。誰にも迷惑をかけることはしません」
八百万さんの目をしっかりと見て、ゆっくりと言葉を選んで言った。少し挑戦的な物言いになってないだろうか。生意気だと思われてないだろうか。
「失礼します。……帰ろ光」
お兄ちゃんに会いに行くのを諦めることにし、光の腕を引っ張って踵を返した。すぐに光が私の手を弾いた。
「光?」
驚いて振り返ると、光は八百万さんを正面から睨むのを止めようとしなかった。握り拳は堅く握られたままだったけど、殴りかかろうとはしていなかった。
「お前は泉の何を知ってんだ?創るしか能がねぇやつが、勝手なこと言ってんじゃねぇぞ」
「では、あなたは私の何を知っていて、創るしか能がないなどと言えるのですか?」
「体育祭。あんた随分早々にやられたなぁ?手も足も出ねぇ。創るしか能がねぇだろ」
「……」
八百万さんの顔が少し歪んだ。
そんなことない。お兄ちゃんは八百万さんの凄いところ沢山聞かせてくれたよ。でも、今はそんなこと言っても火に油を注ぐだけなのは分かってる。
「光ってば。もういいから」
「まだあたしの話は終わってない」
光は振り返らない。
「なぁ、図星なんだろ?」
「すみません、八百万さん。光が失礼なことを言って…光行こうよ」
光の腕をもう一度取り、引っ張った。また弾かれる。少し痛くて弾かれた手を反対の手でさすった。
振り向いた光は私が手をさするのに気づいたようだけど、それについては何も言わなかった。
「ここに来るまでに泉がどれだけ苦しい思いをしたのか、どれだけ努力をしているかを知らない奴に、恋してるってだけで泉を悪く言われて、あたしが黙っていられると思う?…ポニテ女が泉に謝るまで帰らない」
こんなにも私の味方でいてくれる光に、感謝の気持ちでいっぱいになって泣きそうになった。でも、もっと悪い状態になる前にここを立ち去りたい。勝負しろ、とか言い出したらもう止める術がない。
かっちゃんを呼ぶとか術は無いわけじゃないんけど、八百万さん的にも誰も呼ばれたくないだろう。
諦めずまた腕を取ると、今度は光と私の引っ張り合いになった。私たちは綱引きをしているかのような格好になった。光に向き合い、後ろに倒れ込むように力を込めた。
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