1.妹が入学する話
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よく晴れた4月のこと。入学初日、少し早めに登校してお兄ちゃんの教室へと向かう。前日の入寮は片付け終わったのが夜だったから、会いに行く時間がなかった。
『明日の朝、会いに行くね』とメールをすると、お兄ちゃんは『待ってるね』と返事をくれた。
早くお兄ちゃんに会いたくて、歩みが早くなる。お兄ちゃんに会えるのが嬉しくて、胸が弾んだ。
お兄ちゃんは教室の前でキョロキョロしながら待っていてくれた。
「お兄ちゃーん!!」
私が廊下の端っこから叫ぶと、お兄ちゃんが気付いて手を振ってくれた。
私は走り出すと、ありったけの力で兄である緑谷出久に体当たりをするかのように、飛びついた。兄はびっくりした表情でおっとっと……と少しよろけながらも、しっかりと私を抱きとめてくれた。
「泉。いきなり飛びついてきたら危ないよ」
「お兄ちゃんは私くらい簡単に受け止められるでしょ?」
「泉は軽いから」
「お兄ちゃんが筋肉ムキムキだからだよ~」
ぎゅっと力を込めて抱きしめると、お兄ちゃんも同じようにしてくれた。お兄ちゃんだ。夢で何度も見た。たった3ヶ月ぶりのお兄ちゃん。現実にお兄ちゃんがいる。嬉しくてしょうがない。
「また筋肉ついた?かっこいい」
お兄ちゃんから離れて、にこっと笑う。お兄ちゃんは照れながら「そうでもないよ」と謙遜した。私の制服姿を頭から足先まで眺めると感慨深そうに声を振るわせた。
「本当に雄英に入ったんだね…!」
「えっ…信じてなかったの…?」
わざとショックを受けたように言うと、お兄ちゃんは焦って否定する
「信じてたに決まってる!泉が頑張ってるとこだって見てたじゃないか」
「お兄ちゃんと肩を並べられるような…背中を預けられるような、そんなヒーローになるよ!」
「一緒にヒーロー目指して頑張ろうね」
「うん!」
「…入学おめでとう。泉!」
お兄ちゃんらしい優しい笑顔で、私の入学を祝福してくれた。私はそれが本当に嬉しくて、涙が出そうになる。でも。ぐっと涙を堪えて笑い返した。
「うん!ありがとう、お兄ちゃん!」
「…緑谷?」
「あ、轟くん。おはよう!」
「はよ。早くに出て行ったから何かと思った」
「妹と会う約束してたんだ」
「妹いたのか」
轟⁉轟ってあの…!
私は慌てて振り返る。恋焦がれて止まなかった人が、目の前にいる緊張に身体中が熱くなっていくのを感じた。本物だ…!本物の轟さんがいる!
「そっか、話したことなかったね。紹介するね、妹の…」
「緑谷泉です!轟さん!」
お兄ちゃんの言葉を遮って名前を言う。轟さんは驚いた顔をしていた。
「好きです!」
「泉⁉…と、轟くん!泉はね、多分去年の体育祭のことを、言いたかったんだと思うよ⁉ね⁉そうだよね⁉泉…!!」
後ろでお兄ちゃんが大慌てで言い訳をしていた。
「そうです。去年の体育祭のときのことです」
未だきょとんとしている轟さんに、私は力を込めて言う。
「そのときに轟さんを好きになりました。一目惚れに近いと思います。…私はヒーローになりたくて雄英に来たので、この気持ちは一旦置いておきます。でも、私は轟さんと純粋に仲良くなりたいです。ヒーロー志望としても憧れですから!」
轟さんの目を見て、きちんと伝える。ひと息に喋ったけど、伝わったのかな?少し不安になったとき、轟さんが右手を差し出した。
「…そうか。じゃあ、よろしくな」
あまり変わらない表情に戸惑いつつも、手を握り返して握手する。
「ありがとうございます。私、がんばりますから!」
「…おう」
一瞬何を?という顔をするが、手を離しながら応えてくれた。お兄ちゃんも安心したかのように、胸を撫で下ろしていた。
「あ!」
轟さんの後ろから歩いてきた幼なじみの姿を見つけて、思わず大きな声を出した。幼なじみは私を見てすぐに驚いたように目を見開いた。
「かっちゃーーん!!」
私はお兄ちゃんにしたように、かっちゃん目がけて走り出す。
「…轟くん…?」
泉がかっちゃんを見つけて駆け出した。泉の大きな声に驚いたのか、びっくり顔の彼に声をかける。
「妹がごめんね?あの子、元気良すぎて…」
「お前も大概だけど、お前の妹もすげぇな」
「あはは…。もし迷惑だったら、言ってね」
泉の元気の良さ、思い切りの良さには度々驚かされる。
「でも、とってもいい子なんだ。仲良くしてくれると嬉しいな」
1年前、自分が雄英に入学してくれたときに、泣きながら大喜びしてくれた姿を思い出す。
「仲良いんだな」
彼は優しそうに笑みを浮かべた。
「うん。僕の自慢の妹なんだ!」
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