1round
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地下鉄乗り継いで、自分の家までなんとか戻ってきた。
もうすっかり日も沈んで、見慣れた夜の街だった。
爆心地は、追ってこなかった。
風が吹いて、ふといい匂いがした。
自分の服にアイツの匂いがまだ残ってるんだと気づいた。
安心するような、泣きたくなるような…優しい匂いだった。
「…俺、アイツがいたら弱くなっちまう」
そのまま俺は烏丸さんのところに向かった。
「名前から来るなんて珍しいな。どうした?」
下っ端に声かけたら最初は追い返されそうだったけど、そのうち別のやつが烏丸さんに取り継いだ。案内されてるうちに気づけば目の前に烏丸さんがいた。
「…俺んとこにヒーローがきた」
「へぇ。それで?」
「そのへんの弱小事務所のヒーローじゃなかった。爆心地だ」
烏丸さんの表情が一瞬、明らかに曇った。
だがすぐにいつもの涼しい顔に戻ると俺に言った。
「そうか。お前、なんか喋った?」
「…逃げれそうになかったから、家も家族もないから地下闘技場で試合して金稼いでるとは話した。烏丸さんのことは言ってない」
「そうだろうね。言ってたら何かしら動きがありそうだけど今のところないしね。信じるよ」
烏丸さんは自分の個性である背中のカラスの翼を指先で撫でながら言った。
「…お人好しだったから、家でなんか食わしてって言ったらホントに家にあげてくれた。だから場所も知ってる」
「へぇー!やるね!それから?」
「それから?すぐ帰ったけど…」
「ふーん。…本当に?」
俺の背中で嫌な汗が一筋流れた。
何を聞き出そうとしているんだ?
烏丸さんは立ち上がると俺のそばに来て俺の頬を撫でた。
「爆心地とは寝たのかい?」
「…は、」
んだよそっちかよ。
薄々は気づいてた。
女抱いても面白くないって言ったら烏丸さんちょっと期待してそうだったもんな。
烏丸さんはたぶん俺から求めてくるのを待ってる。わざと気づいてねぇフリしてたけど…。
「何かお前からはいつもしない匂いするな?」
俺の髪をひと束掬って顔を近づけてくる。
「あぁ。風呂も借りて、ベッドも貸してもらった。でも全く手出してこなかったなぁ」
「ふーん」
烏丸さんはまだ疑ってるようだった。
意外にこの人、俺のこと気に入ってんだな。
「…確認してみてもらってもいいっすよ?」
烏丸さんが俺の髪で遊んでいた指先が止まった。
そして何となく、ふと笑ったような気がした。
「嬉しいね。お前から誘ってもらえるなんてな」
そう言うとそばに控えてた部下に何か合図するとそのまま部屋を出て行こうとした。
振り返って俺に言った。
「早く来いよ」
事務所を出ると車に乗せられた。
行き先を聞いても烏丸さんは笑うだけで何も言わない。また味のわかんねぇ料理出されるとこにでもいくのかな?
そんなこと考えてたら爆心地の家で食べたあのスープの味が口の中で広がった気がして、俺がこれからしようとすることへの決心がより固くなった。
車が向かったのはでけぇ建物…たぶんすんげぇお高いホテル。
あ、もうやるき満々なのねぇ。なんて他人事のように思った。これは部屋に入るなりいきなりベッドに行くかなと思ったが。
「何か飲んでな。シャワー浴びてくる」
そう言って烏丸さんはバスルームの方へ消えて行った。
もういきなりチャンス到来だ。
やり終わったら油断したところで盗もうと思ったけど…。
シャワーの音がする。
その音がしてる間にバスルームに続く扉をそっと開けようとした。
「…鍵」
その扉には簡易的なものだか鍵がついてて、俺がハンドルを捻ろうとしたらガチっと小さい音がして動かなかった。
俺は個性を使ってシールドを鍵のような形に作り替えて試してみた。
烏丸さんには、シールドの形が変えられることは言ってない。俺も気付いたのが割と2、3年前と最近だった。
何で…言わなかったんだろうな。
使い方によっちゃ、もうあんな闘技場で戦わなくて済むかも知れなかったのに。
いつか…逃げたいと思っていたのだろうか。いや。
…自分のことなのによくわからない。
その時カチャっと小気味良い音がして鍵が開いた。
シャワーの音がまだしていることを確認してドアの隙間からそっと覗く。
目当てのものを急いで探す。
あった。
洗面台の横。
烏丸さんのスマホ。
まだ続いているシャワーの音が大きくなった気がした。
いや、大きくなったのは俺の心音か。
これを、警察に持っていく。
何かやばいもん絶対出てくるだろう。
烏丸さんはあれ以外に記録を取るような手帳とかPCとか使ってるところを見たことがない。
でも、いやきっと。
警察にいくその前に気付かれて…俺は死ぬだろう。
じゃあなんでそんなことするかっていうと、正直良くわかんねぇ。
ただ、本当はもっと早くに…終わりにしたかったんだと思う。
ずっと。
ずっと。
きっと母親に産むつもりなんてなかったって言われたあの日からずっと。
俺が生きてるって少しでも感じられたのは闘技場で殺されずに生き延びた瞬間と、爆心地の…爆豪の家で普通の人間扱いされた時だけだった。
逃げられないのなら、終わりにしたかった。
最後にこんなことするのは、ちょっと憧れちまったからかもしれない。
本当は俺も、あんたみたいなヒーローになりたかった。
スマホを掴んで走り出した。
こんなものが何の役に立つかなんてわからない。
本当にガキの発想だと思う。
でも、止められなかった。
部屋を飛び出す。
たぶん下には烏丸さんの部下が車を停めていつでも動けるように待機してる。
俺が1人で出てきたら怪しまれるだろう。
ホテルの外に剥き出しになっている非常階段に向かう。勢いよく扉を開ける。
冷たい風がどぅっと流れ込んできて、眼前には煌々と街の明かりが広がって目眩がする。
非常階段は使わない。
足元に見えないシールドの床を作り出して、俺は足元に広がる夜景を絨毯に歩いた。
他人が見たら俺が空中を歩いてるように見えるだろう。
夜景を見ながら空中散歩なんて、呑気なこと考えてる場合じゃなかったから俺は息を切らしながら走った。
今頃烏丸さんが気づいて俺を探してるだろう。
見つかったらすぐ殺される。
早く。
警察か、ヒーローのいるところに。
考え事をしていたら突然突風が吹いた。と、思ったら背中が熱くなった。
すぐに訪れる激痛。
俺は足元のシールドを解除してしまいそうになったのを寸断のところで思いとどまった。
これを解いてしまったら俺は都会のど真ん中に真っ逆様に落ちて即死だ。
「お前が裏切るなんてショックだよ」
倒れ込んだところに上から声が降ってきた。
黒い翼を夜空に溶かしながらその人は俺を見下ろしていた。
「お前の個性、こんなこともできたんだな」
あぁやばい。
何で切られた?
刃物?
烏丸さんの爪か?
あっという間に全身が血で染まっていく。
ダメだ。
動けない。
足元のシールドをコントロールするので精一杯だ。
どう、したら。
「一回だけ犯ってから殺そうかな?」
烏丸さんの指が首に纏わり付いた。
「犯してる間に死んじゃうか」
指に徐々に力が込められる。
何とかその指を解こうと、抵抗する。
すげー力だ。
個性使ってる烏丸さんのパワーにはとても敵わない。
「ぅ…ぐっ」
「どこまで持ち堪えれるかな?気絶したらお前この高さから真っ逆さまだな」
酸欠で視界が霞む。
頭から落ちて自分の体が地面に打ち付けられるとこまで想像した。
結局、俺なんかは何の役にも立たなかった。
俺が死んだ後、その後始末をしなくちゃいけないんだろうな。
世の中に無駄な仕事を増やしただけだった。
爆心地の笑顔が浮かんだ。
俺、何やってんだろ。
…ごめんなさい。
ごめんなさい、ヒーロー。
朦朧とした意識の中、遠くで爆発音がした気がした。
同時に俺のシールドが割れて、重力に従って体が落ちていく感覚だけが脳を支配した。
怖い。
でも、体が動かない。
「名前!!!」
あいつに名前を呼ばれた気がした。
急に体が何かに包まれて、あの優しい匂いがした。…あぁそうだ。この匂い。なんて言うか懐かしい気持ちにさせるんだ。
ついこの前初めて会ったばっかりなのに、懐かしいなんておかしいけど。
あぁ。もう一回、会いたかったな。
なんて最後に思った。
もうすっかり日も沈んで、見慣れた夜の街だった。
爆心地は、追ってこなかった。
風が吹いて、ふといい匂いがした。
自分の服にアイツの匂いがまだ残ってるんだと気づいた。
安心するような、泣きたくなるような…優しい匂いだった。
「…俺、アイツがいたら弱くなっちまう」
そのまま俺は烏丸さんのところに向かった。
「名前から来るなんて珍しいな。どうした?」
下っ端に声かけたら最初は追い返されそうだったけど、そのうち別のやつが烏丸さんに取り継いだ。案内されてるうちに気づけば目の前に烏丸さんがいた。
「…俺んとこにヒーローがきた」
「へぇ。それで?」
「そのへんの弱小事務所のヒーローじゃなかった。爆心地だ」
烏丸さんの表情が一瞬、明らかに曇った。
だがすぐにいつもの涼しい顔に戻ると俺に言った。
「そうか。お前、なんか喋った?」
「…逃げれそうになかったから、家も家族もないから地下闘技場で試合して金稼いでるとは話した。烏丸さんのことは言ってない」
「そうだろうね。言ってたら何かしら動きがありそうだけど今のところないしね。信じるよ」
烏丸さんは自分の個性である背中のカラスの翼を指先で撫でながら言った。
「…お人好しだったから、家でなんか食わしてって言ったらホントに家にあげてくれた。だから場所も知ってる」
「へぇー!やるね!それから?」
「それから?すぐ帰ったけど…」
「ふーん。…本当に?」
俺の背中で嫌な汗が一筋流れた。
何を聞き出そうとしているんだ?
烏丸さんは立ち上がると俺のそばに来て俺の頬を撫でた。
「爆心地とは寝たのかい?」
「…は、」
んだよそっちかよ。
薄々は気づいてた。
女抱いても面白くないって言ったら烏丸さんちょっと期待してそうだったもんな。
烏丸さんはたぶん俺から求めてくるのを待ってる。わざと気づいてねぇフリしてたけど…。
「何かお前からはいつもしない匂いするな?」
俺の髪をひと束掬って顔を近づけてくる。
「あぁ。風呂も借りて、ベッドも貸してもらった。でも全く手出してこなかったなぁ」
「ふーん」
烏丸さんはまだ疑ってるようだった。
意外にこの人、俺のこと気に入ってんだな。
「…確認してみてもらってもいいっすよ?」
烏丸さんが俺の髪で遊んでいた指先が止まった。
そして何となく、ふと笑ったような気がした。
「嬉しいね。お前から誘ってもらえるなんてな」
そう言うとそばに控えてた部下に何か合図するとそのまま部屋を出て行こうとした。
振り返って俺に言った。
「早く来いよ」
事務所を出ると車に乗せられた。
行き先を聞いても烏丸さんは笑うだけで何も言わない。また味のわかんねぇ料理出されるとこにでもいくのかな?
そんなこと考えてたら爆心地の家で食べたあのスープの味が口の中で広がった気がして、俺がこれからしようとすることへの決心がより固くなった。
車が向かったのはでけぇ建物…たぶんすんげぇお高いホテル。
あ、もうやるき満々なのねぇ。なんて他人事のように思った。これは部屋に入るなりいきなりベッドに行くかなと思ったが。
「何か飲んでな。シャワー浴びてくる」
そう言って烏丸さんはバスルームの方へ消えて行った。
もういきなりチャンス到来だ。
やり終わったら油断したところで盗もうと思ったけど…。
シャワーの音がする。
その音がしてる間にバスルームに続く扉をそっと開けようとした。
「…鍵」
その扉には簡易的なものだか鍵がついてて、俺がハンドルを捻ろうとしたらガチっと小さい音がして動かなかった。
俺は個性を使ってシールドを鍵のような形に作り替えて試してみた。
烏丸さんには、シールドの形が変えられることは言ってない。俺も気付いたのが割と2、3年前と最近だった。
何で…言わなかったんだろうな。
使い方によっちゃ、もうあんな闘技場で戦わなくて済むかも知れなかったのに。
いつか…逃げたいと思っていたのだろうか。いや。
…自分のことなのによくわからない。
その時カチャっと小気味良い音がして鍵が開いた。
シャワーの音がまだしていることを確認してドアの隙間からそっと覗く。
目当てのものを急いで探す。
あった。
洗面台の横。
烏丸さんのスマホ。
まだ続いているシャワーの音が大きくなった気がした。
いや、大きくなったのは俺の心音か。
これを、警察に持っていく。
何かやばいもん絶対出てくるだろう。
烏丸さんはあれ以外に記録を取るような手帳とかPCとか使ってるところを見たことがない。
でも、いやきっと。
警察にいくその前に気付かれて…俺は死ぬだろう。
じゃあなんでそんなことするかっていうと、正直良くわかんねぇ。
ただ、本当はもっと早くに…終わりにしたかったんだと思う。
ずっと。
ずっと。
きっと母親に産むつもりなんてなかったって言われたあの日からずっと。
俺が生きてるって少しでも感じられたのは闘技場で殺されずに生き延びた瞬間と、爆心地の…爆豪の家で普通の人間扱いされた時だけだった。
逃げられないのなら、終わりにしたかった。
最後にこんなことするのは、ちょっと憧れちまったからかもしれない。
本当は俺も、あんたみたいなヒーローになりたかった。
スマホを掴んで走り出した。
こんなものが何の役に立つかなんてわからない。
本当にガキの発想だと思う。
でも、止められなかった。
部屋を飛び出す。
たぶん下には烏丸さんの部下が車を停めていつでも動けるように待機してる。
俺が1人で出てきたら怪しまれるだろう。
ホテルの外に剥き出しになっている非常階段に向かう。勢いよく扉を開ける。
冷たい風がどぅっと流れ込んできて、眼前には煌々と街の明かりが広がって目眩がする。
非常階段は使わない。
足元に見えないシールドの床を作り出して、俺は足元に広がる夜景を絨毯に歩いた。
他人が見たら俺が空中を歩いてるように見えるだろう。
夜景を見ながら空中散歩なんて、呑気なこと考えてる場合じゃなかったから俺は息を切らしながら走った。
今頃烏丸さんが気づいて俺を探してるだろう。
見つかったらすぐ殺される。
早く。
警察か、ヒーローのいるところに。
考え事をしていたら突然突風が吹いた。と、思ったら背中が熱くなった。
すぐに訪れる激痛。
俺は足元のシールドを解除してしまいそうになったのを寸断のところで思いとどまった。
これを解いてしまったら俺は都会のど真ん中に真っ逆様に落ちて即死だ。
「お前が裏切るなんてショックだよ」
倒れ込んだところに上から声が降ってきた。
黒い翼を夜空に溶かしながらその人は俺を見下ろしていた。
「お前の個性、こんなこともできたんだな」
あぁやばい。
何で切られた?
刃物?
烏丸さんの爪か?
あっという間に全身が血で染まっていく。
ダメだ。
動けない。
足元のシールドをコントロールするので精一杯だ。
どう、したら。
「一回だけ犯ってから殺そうかな?」
烏丸さんの指が首に纏わり付いた。
「犯してる間に死んじゃうか」
指に徐々に力が込められる。
何とかその指を解こうと、抵抗する。
すげー力だ。
個性使ってる烏丸さんのパワーにはとても敵わない。
「ぅ…ぐっ」
「どこまで持ち堪えれるかな?気絶したらお前この高さから真っ逆さまだな」
酸欠で視界が霞む。
頭から落ちて自分の体が地面に打ち付けられるとこまで想像した。
結局、俺なんかは何の役にも立たなかった。
俺が死んだ後、その後始末をしなくちゃいけないんだろうな。
世の中に無駄な仕事を増やしただけだった。
爆心地の笑顔が浮かんだ。
俺、何やってんだろ。
…ごめんなさい。
ごめんなさい、ヒーロー。
朦朧とした意識の中、遠くで爆発音がした気がした。
同時に俺のシールドが割れて、重力に従って体が落ちていく感覚だけが脳を支配した。
怖い。
でも、体が動かない。
「名前!!!」
あいつに名前を呼ばれた気がした。
急に体が何かに包まれて、あの優しい匂いがした。…あぁそうだ。この匂い。なんて言うか懐かしい気持ちにさせるんだ。
ついこの前初めて会ったばっかりなのに、懐かしいなんておかしいけど。
あぁ。もう一回、会いたかったな。
なんて最後に思った。