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鼻につく香水の匂い。
生ぬるい人肌の体温がまとわりつく。
「ねぇ名前くん。この後私のお店一緒にきてよ」
「何言ってんの。俺未成年だよ?」
女は俺の肩にそっと手を置いてくる。
「もっとお金払うからさ、今度は私の家で会おうよ?」
そのまま俺の首元に擦り寄って唇を寄せてきた。
それをやんわり引き剥がすように女の肩を優しく押し返す。
「だーめ。俺家には行かない主義って言ってんでしょ。…ごめんもう行くわ。これから試合だから」
女は非難の声をあげるが、無視してベッドの下に散らばった服を次々に身につけていった。
「今日は行けないけど次の試合絶対行くからねぇ」
鼻にかかるような話し方の女に、返事の代わりに適当に笑いかけてやる。
これでまた次も俺に金を払って、わざわざ抱いてくれと頼むんだから不思議なもんだ。
俺は金を払ってまで誰かと同じ布団で眠りたいなど考えたこともない。
墨を溶かしたような夜の街を1人で歩いた。
俺には酷く落ち着く瞬間だった。
次の対戦相手はただ何も考えずに勝てばいいと烏丸さんに言われている。演技も気にしなくていいしある意味1番気が楽な試合だ。
いざとなったら個性も使っていい。
それはたぶん…演技とか気にしてる余裕もないくらい強い相手なんだろう。
観客は俺じゃない方にかなり賭けている。
それを俺がどんでん返しで買っちまえば烏丸さんに大金が入るってこと。
そして、実際試合が始まってみてかなり焦った。
多分相手も気づかれにくい個性を何かしら使ってきていた。トリガーはわからないが決められた時間内だけパワーを増強できるような個性だろう。
馬鹿な観客にもバレない程度に個性を使いながら、受ける攻撃を最小限にするので精一杯だ。
前烏丸さんに顔に傷をあまりつけるなと言われたから顔を思わず庇う。
その間に腹部に蹴りが派手に入った。
あ、肋骨2、3本いったか?
クソ野郎。
無様に闘技場の隅まで体が吹っ飛んだ。
容赦なく対戦相手は俺との間合いを詰めて迫ってくる。
仕方ないので足元に一つシールドを作った。
見えないそれに躓いた相手が姿勢を崩したところで膝蹴りを入れてやった。
同時に相手は時間切れがきたようで、個性を使い果たした男を後は俺が適当に打ちのめすだけだった。
観客の嬉々とした声援が大きくなった。
何が、楽しい。
何が、痛い。
軋む体で攻撃を続ける。
早く。
早く倒れてくれ。
最後ハイキックが相手の顎に決まって試合は終了。
今日も勝った。
誰が?
勝ったのか?
買ったのか?
誰が?誰を?
俺の目の前に広がる景色はどんどん黒く塗りつぶされていった。
「お前死にてぇのか」
「…」
試合が終わって痛む体で家に帰ろうとした。
家って言っても烏丸さんの持ち物の、ほとんど廃屋のビルの一画。
今日は結構しんどい試合だったから、もう少しで家に着くというところで体力が切れた。裏路地でしゃがんで休んでから帰ろうと思った時だった。
しゃがみ込んだ俺の頭の上に誰かが何か置いてきた。そして同時に声が降ってきた。
その声で誰かわかってうんざり。
ただ顔を上げたらペットボトルの水が差し出されててちょっと喜んじまった。
「なにおっさん。まだ何か用?」
「おっさんだあぁ?!…ってめぇやっぱ死にてぇみたいだな」
俺はおっさん…いや、別に全然おっさんじゃないんだけどさ。20歳くらいだろ?
爆心地の怒鳴り声が思った以上に体に響いたのでもらった水を大人しく飲むだけで何も答えなかった。
「…あんな闘い方続けてっといつか死ぬぞ」
爆心地が静かに俺の横に腰掛けた。
何で?ほんとに何しにきたんだこの人??
「今の場所から逃げてぇと思わねぇのか」
俺から逃げたいと弱音を吐かせて烏丸さんの居所を聞き出したいのだろうか?
あいにくその手にはのらない。
俺は別にイヤイヤ烏丸さんのいうことを聞いてるわけじゃない。
「逃げる?何から?俺にはあんたらのいる普通の世界の方がよっぽど怖いね」
「…なんでだよ」
爆心地は俺の言ったことが心底わからないと言った顔でこちらを見た。
そうだ。
その顔だ。
理解されない。
俺たちみたいな道を踏み外した奴らのことなんて。
わかってる。
俺たちが間違ってて、あんたらは正しい。
だけど正しくあろうとする者には、その資格が必要なんだ。
「俺戸籍もないから学校なんて一回も行ったことがない。幼稚園児が読むような絵本だって碌に読めない。金勘定だって曖昧」
「…」
「母親はいたけど物心ついてすぐ“産むつもりなんてなかった”って言われた。じゃ産まなきゃよかったじゃねぇかって言い返したら“産むつもりなかったのに勝手にお腹の中で大きくなってきちゃったんだ”って」
母は今思えば何か精神疾患でも患っていたんだろう。著しく生活能力が乏しくて、男をあっちこっちで作っては依存して生活していた。
そのうち俺は個性が発覚してからはその男達のサンドバッグ。別に痛くねぇから大丈夫だろって。確かにシールドに守られてるから痛くはなかった。
そのうち母は薬やって中毒で死んだ。
そうして烏丸さんが俺の前に現れた。
俺の母は烏丸さんから借金して薬を売人から買っていたらしい。俺が烏丸さんのために働いて金を返すなら衣食住は保障してくれるって言われてあっさり承諾した。
まぁ実際食べるのにも着るものにも困らなくなった。
言われた通りファイトすれば借金返済分差し引いた分、わずかだけど金がもらえる。
烏丸さんに言われた女と寝ればまたちょっと小遣いがもらえる。
戦い方を教えてもらったからアングラなこんな世界でも生き延びれた。
こんな世界でしか生きれない。
俺は、あんたらのいる世界じゃ生きられない。
「っつーわけで、逃げないも何も俺が望んでここにいるわけ。わかった?ヒーロー?」
烏丸さんのことはかなりぼかして身の上を話した。
ってか俺なんでこんな語っちゃってんの?
段々恥ずかしくなってきた。
最後の方とか何か弱音吐いてるみてぇでキショい。
「爆豪勝己だ」
「…はぁ?」
爆心地は俺の話聞いてなかったんかってくらい謎のタイミングで名乗り出した。
スルーかよ。
「名前だ。お前もあんだろ?」
「…名前」
すると爆心地がいきなり俺の前に回り込んで、背を向けてしゃがみ込んだ。
何がしたいのかわからなくてしばらくその逞しい背中を眺めた。
「おら」
「…何?」
「送ってってやる。ガキは早く家帰れ」
どうやら背中に乗せてくれるらしい。
ってそうじゃねぇだろ。
「馬鹿なの?俺何の罪になるかわかんねぇけど犯罪者じゃねぇの?ヒーローがそんなやつに手ェ貸したなんて言われたら」
「うっせぇなぁ。早くしろ」
「…」
正直今日はもう歩けそうになかった。
肋骨は折れてなかったもののかなり痛む。
「…んじゃ、よろしく」
「おぅ」
俺はその鍛え抜かれた背中に覆い被さった。
広いな、なんて呑気なこと考えた。
爆心地が俺の膝裏に腕を回して落ちないように支えてから立ち上がった。
「いててっ!お前の背筋が脇腹に当たって痛え!」
「だーってろ。落とすぞ」
そのまま俺を軽々と背負ったコイツは何も言わずに歩き出した。
物言いが物騒なのに反して、俺に振動を与えないようにするためか、やたらすり足でゆっくり歩いてる。
俺は、覚えている限りでは人に背負ってもらったのが初めてだったことに気づいた。
人の体温が温かいと思ったのは、生まれて初めてだった。
生ぬるい人肌の体温がまとわりつく。
「ねぇ名前くん。この後私のお店一緒にきてよ」
「何言ってんの。俺未成年だよ?」
女は俺の肩にそっと手を置いてくる。
「もっとお金払うからさ、今度は私の家で会おうよ?」
そのまま俺の首元に擦り寄って唇を寄せてきた。
それをやんわり引き剥がすように女の肩を優しく押し返す。
「だーめ。俺家には行かない主義って言ってんでしょ。…ごめんもう行くわ。これから試合だから」
女は非難の声をあげるが、無視してベッドの下に散らばった服を次々に身につけていった。
「今日は行けないけど次の試合絶対行くからねぇ」
鼻にかかるような話し方の女に、返事の代わりに適当に笑いかけてやる。
これでまた次も俺に金を払って、わざわざ抱いてくれと頼むんだから不思議なもんだ。
俺は金を払ってまで誰かと同じ布団で眠りたいなど考えたこともない。
墨を溶かしたような夜の街を1人で歩いた。
俺には酷く落ち着く瞬間だった。
次の対戦相手はただ何も考えずに勝てばいいと烏丸さんに言われている。演技も気にしなくていいしある意味1番気が楽な試合だ。
いざとなったら個性も使っていい。
それはたぶん…演技とか気にしてる余裕もないくらい強い相手なんだろう。
観客は俺じゃない方にかなり賭けている。
それを俺がどんでん返しで買っちまえば烏丸さんに大金が入るってこと。
そして、実際試合が始まってみてかなり焦った。
多分相手も気づかれにくい個性を何かしら使ってきていた。トリガーはわからないが決められた時間内だけパワーを増強できるような個性だろう。
馬鹿な観客にもバレない程度に個性を使いながら、受ける攻撃を最小限にするので精一杯だ。
前烏丸さんに顔に傷をあまりつけるなと言われたから顔を思わず庇う。
その間に腹部に蹴りが派手に入った。
あ、肋骨2、3本いったか?
クソ野郎。
無様に闘技場の隅まで体が吹っ飛んだ。
容赦なく対戦相手は俺との間合いを詰めて迫ってくる。
仕方ないので足元に一つシールドを作った。
見えないそれに躓いた相手が姿勢を崩したところで膝蹴りを入れてやった。
同時に相手は時間切れがきたようで、個性を使い果たした男を後は俺が適当に打ちのめすだけだった。
観客の嬉々とした声援が大きくなった。
何が、楽しい。
何が、痛い。
軋む体で攻撃を続ける。
早く。
早く倒れてくれ。
最後ハイキックが相手の顎に決まって試合は終了。
今日も勝った。
誰が?
勝ったのか?
買ったのか?
誰が?誰を?
俺の目の前に広がる景色はどんどん黒く塗りつぶされていった。
「お前死にてぇのか」
「…」
試合が終わって痛む体で家に帰ろうとした。
家って言っても烏丸さんの持ち物の、ほとんど廃屋のビルの一画。
今日は結構しんどい試合だったから、もう少しで家に着くというところで体力が切れた。裏路地でしゃがんで休んでから帰ろうと思った時だった。
しゃがみ込んだ俺の頭の上に誰かが何か置いてきた。そして同時に声が降ってきた。
その声で誰かわかってうんざり。
ただ顔を上げたらペットボトルの水が差し出されててちょっと喜んじまった。
「なにおっさん。まだ何か用?」
「おっさんだあぁ?!…ってめぇやっぱ死にてぇみたいだな」
俺はおっさん…いや、別に全然おっさんじゃないんだけどさ。20歳くらいだろ?
爆心地の怒鳴り声が思った以上に体に響いたのでもらった水を大人しく飲むだけで何も答えなかった。
「…あんな闘い方続けてっといつか死ぬぞ」
爆心地が静かに俺の横に腰掛けた。
何で?ほんとに何しにきたんだこの人??
「今の場所から逃げてぇと思わねぇのか」
俺から逃げたいと弱音を吐かせて烏丸さんの居所を聞き出したいのだろうか?
あいにくその手にはのらない。
俺は別にイヤイヤ烏丸さんのいうことを聞いてるわけじゃない。
「逃げる?何から?俺にはあんたらのいる普通の世界の方がよっぽど怖いね」
「…なんでだよ」
爆心地は俺の言ったことが心底わからないと言った顔でこちらを見た。
そうだ。
その顔だ。
理解されない。
俺たちみたいな道を踏み外した奴らのことなんて。
わかってる。
俺たちが間違ってて、あんたらは正しい。
だけど正しくあろうとする者には、その資格が必要なんだ。
「俺戸籍もないから学校なんて一回も行ったことがない。幼稚園児が読むような絵本だって碌に読めない。金勘定だって曖昧」
「…」
「母親はいたけど物心ついてすぐ“産むつもりなんてなかった”って言われた。じゃ産まなきゃよかったじゃねぇかって言い返したら“産むつもりなかったのに勝手にお腹の中で大きくなってきちゃったんだ”って」
母は今思えば何か精神疾患でも患っていたんだろう。著しく生活能力が乏しくて、男をあっちこっちで作っては依存して生活していた。
そのうち俺は個性が発覚してからはその男達のサンドバッグ。別に痛くねぇから大丈夫だろって。確かにシールドに守られてるから痛くはなかった。
そのうち母は薬やって中毒で死んだ。
そうして烏丸さんが俺の前に現れた。
俺の母は烏丸さんから借金して薬を売人から買っていたらしい。俺が烏丸さんのために働いて金を返すなら衣食住は保障してくれるって言われてあっさり承諾した。
まぁ実際食べるのにも着るものにも困らなくなった。
言われた通りファイトすれば借金返済分差し引いた分、わずかだけど金がもらえる。
烏丸さんに言われた女と寝ればまたちょっと小遣いがもらえる。
戦い方を教えてもらったからアングラなこんな世界でも生き延びれた。
こんな世界でしか生きれない。
俺は、あんたらのいる世界じゃ生きられない。
「っつーわけで、逃げないも何も俺が望んでここにいるわけ。わかった?ヒーロー?」
烏丸さんのことはかなりぼかして身の上を話した。
ってか俺なんでこんな語っちゃってんの?
段々恥ずかしくなってきた。
最後の方とか何か弱音吐いてるみてぇでキショい。
「爆豪勝己だ」
「…はぁ?」
爆心地は俺の話聞いてなかったんかってくらい謎のタイミングで名乗り出した。
スルーかよ。
「名前だ。お前もあんだろ?」
「…名前」
すると爆心地がいきなり俺の前に回り込んで、背を向けてしゃがみ込んだ。
何がしたいのかわからなくてしばらくその逞しい背中を眺めた。
「おら」
「…何?」
「送ってってやる。ガキは早く家帰れ」
どうやら背中に乗せてくれるらしい。
ってそうじゃねぇだろ。
「馬鹿なの?俺何の罪になるかわかんねぇけど犯罪者じゃねぇの?ヒーローがそんなやつに手ェ貸したなんて言われたら」
「うっせぇなぁ。早くしろ」
「…」
正直今日はもう歩けそうになかった。
肋骨は折れてなかったもののかなり痛む。
「…んじゃ、よろしく」
「おぅ」
俺はその鍛え抜かれた背中に覆い被さった。
広いな、なんて呑気なこと考えた。
爆心地が俺の膝裏に腕を回して落ちないように支えてから立ち上がった。
「いててっ!お前の背筋が脇腹に当たって痛え!」
「だーってろ。落とすぞ」
そのまま俺を軽々と背負ったコイツは何も言わずに歩き出した。
物言いが物騒なのに反して、俺に振動を与えないようにするためか、やたらすり足でゆっくり歩いてる。
俺は、覚えている限りでは人に背負ってもらったのが初めてだったことに気づいた。
人の体温が温かいと思ったのは、生まれて初めてだった。