1round
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
名前が裏路地に座り込んで、言ったことを思い出していた。
ーーー逃げる?何から?俺にはあんたらのいる普通の世界の方がよっぽど怖いね。
警察署を出てから名前は黙り込んだままだった。
名前は自由になった。
だがそれは、全く未知な世界に1人で放り出された迷子も同然だった。
もちろんあのまま烏丸とかいう敵 のおもちゃにされてていいなんてことは、これっぽっちも思っちゃいねぇ。
だが名前の不安そうな横顔を見ていると、やるせない気持ちだった。
自由になれたことを喜んで欲しかったと…身勝手な想いがある分罪悪感に苛まれていた。
いや、俺はさっき自分で名前に言ったんじゃねぇか。
できねぇなら、できるようにすればいいじゃねぇかと。
そうだ。名前に、真っ当な人生も悪くねえって、思ってもらうのはここからじゃねぇか。
俺はずっと考えていた事を思い切って名前に伝えようと思った。
「おい」
「え?んなに?」
名前が俺を見上げる。
不安そうな顔は年相応で、むしろ幼く見えた。
俺は意を決して口を開く。
「俺のとこに…ずっといてもいいんだぞ」
名前は、嫌がるだろうか?
でも、お前…
あの敵 の…証拠を持ち出そうとしたんだろ?
正しくありてぇって、命かけてもそうしてぇって、思ったんだろ?
そう思ったのも俺がお前に出会って、お前の心の何かに触れちまったせいじゃねぇのか?
それなのにあとは自分で頑張れなんて…無責任すぎるだろ。
名前は驚いた様子で両目を見開いた。
黒い瞳に夕日の色が差し込んで、温かい色味を含んだ。
拒絶しないでくれ。
俺は、お前の力になりてぇ。
名前は少し考えるような仕草をした後、笑った。
切なそうで、だけど確かに人の温度を感じる笑顔だった。
心臓を抉られるような気持ちだった。
…お前、そんな風に笑えんだな。
「…ありがとう。でも、俺やっぱりどっか施設紹介してもらうわ!」
「…なんで」
でも、と否定の単語を耳にした瞬間、胸がざわつく。
「文字もちょっと恥ずかしいけどさ、勉強して…そしたら何か仕事くらいあるっしょ」
本当はそんな楽天的に考えられてねぇくせに。
無理して笑うんじゃねぇ。
「そんなもん俺が全部面倒見てやる」
「…お前ヒーローだろ?俺1人になんか構ってらんねぇよ」
俺のことはもう大丈夫だから。
名前はそう言って俺に背を向けてすぐ歩き出そうとした。
途端に訪れる焦燥感と喪失感。
ーーーー行くな。
俺はその腕を咄嗟に掴んだ。
俺が引き止めることがそんなに予想外だったのか、それとも思ったより腕を強く掴んじまったのか、名前は酷く驚いた顔して振り返った。
俺は一息つくと名前をまっすぐ見た。
「そうだな…俺はヒーローだから、てめぇを施設なりちゃんとした場所に行かせてやるべきなのかもな…」
「…え?」
要領を得ない俺の言葉に、賢い名前も困惑の色を浮かべていた。
そうだ。お前と一緒にいてぇのは、俺の方だ。
俺の我儘だ。
ヒーローとして、お前を救うのはこれからだ。
本心だ。
だがそれ以上に、俺の中で名前個人に対しての特別な感情は大きくなっていた。
「お前をそばに置いておきたいのは、俺がヒーローだからじゃねぇって言ったら…」
そう言ったら、お前は俺を軽蔑するだろうな。
「俺が、1人の男としてお前と一緒にいてぇって言ったら…どうする?」
それでも、今言わなくては後悔すると思った。一緒にいてぇなら尚更言わなくてはならないと思った。
名前がゆっくり目を大きく見開く。
今度はその頬が赤く染まって、それは夕日のせいだけじゃないのをじっと見つめる。
「…本気かよ」
「こんな冗談言うかよ」
掴んだその手は振り払われないままだった。
きっとすぐに振り払われちまうと思っていたのに。
名前は何か言おうと必死に頭の中で何か考えては口を開きかけて、また閉じてと、忙しない様子だった、
黙って俺はその唇の動きをただ見つめるしかできなかった。
「俺さ…っ」
「…ん?」
「俺、お前とは一緒にいちゃダメだと思った」
「おぅ」
ポツポツと話し出す名前の言葉を溢さなぬように拾う。
「俺さ、お前のこと好きみたいなんだ。だから一緒にはいられないって…思った」
「…」
自分の心臓の鼓動がやかましい。
だがそれは明らかに不快な音ではなかった。
「でもさ。お前が同じ気持ちなら…一緒にいていい理由になるよな?」
「他に何がいるんだよ」
名前がまた笑った。
堪らずその頬を撫ぜる。
「お前のこと二度と傷つけさせねぇ。お前が…命かけて正しい事をして、よかったって心の底から思えるようになってもらいてぇんだわ」
お前の笑う顔がもっと見てぇし、そういう顔させられるのは俺がいい。
だから…
「俺の側にいろよ」
名前がゆっくり俺を見上げる。
周りの音が何も聞こえなくなった。時間が止まったような、不思議な沈黙が流れた。
名前がまたゆっくり口を開こうとするのをスローモーションで見ているようだった。
お前から“YES”の言葉が出るまでのこんな僅かな時間が、こんなに焦ったいなんてな。
fin
ーーー逃げる?何から?俺にはあんたらのいる普通の世界の方がよっぽど怖いね。
警察署を出てから名前は黙り込んだままだった。
名前は自由になった。
だがそれは、全く未知な世界に1人で放り出された迷子も同然だった。
もちろんあのまま烏丸とかいう
だが名前の不安そうな横顔を見ていると、やるせない気持ちだった。
自由になれたことを喜んで欲しかったと…身勝手な想いがある分罪悪感に苛まれていた。
いや、俺はさっき自分で名前に言ったんじゃねぇか。
できねぇなら、できるようにすればいいじゃねぇかと。
そうだ。名前に、真っ当な人生も悪くねえって、思ってもらうのはここからじゃねぇか。
俺はずっと考えていた事を思い切って名前に伝えようと思った。
「おい」
「え?んなに?」
名前が俺を見上げる。
不安そうな顔は年相応で、むしろ幼く見えた。
俺は意を決して口を開く。
「俺のとこに…ずっといてもいいんだぞ」
名前は、嫌がるだろうか?
でも、お前…
あの
正しくありてぇって、命かけてもそうしてぇって、思ったんだろ?
そう思ったのも俺がお前に出会って、お前の心の何かに触れちまったせいじゃねぇのか?
それなのにあとは自分で頑張れなんて…無責任すぎるだろ。
名前は驚いた様子で両目を見開いた。
黒い瞳に夕日の色が差し込んで、温かい色味を含んだ。
拒絶しないでくれ。
俺は、お前の力になりてぇ。
名前は少し考えるような仕草をした後、笑った。
切なそうで、だけど確かに人の温度を感じる笑顔だった。
心臓を抉られるような気持ちだった。
…お前、そんな風に笑えんだな。
「…ありがとう。でも、俺やっぱりどっか施設紹介してもらうわ!」
「…なんで」
でも、と否定の単語を耳にした瞬間、胸がざわつく。
「文字もちょっと恥ずかしいけどさ、勉強して…そしたら何か仕事くらいあるっしょ」
本当はそんな楽天的に考えられてねぇくせに。
無理して笑うんじゃねぇ。
「そんなもん俺が全部面倒見てやる」
「…お前ヒーローだろ?俺1人になんか構ってらんねぇよ」
俺のことはもう大丈夫だから。
名前はそう言って俺に背を向けてすぐ歩き出そうとした。
途端に訪れる焦燥感と喪失感。
ーーーー行くな。
俺はその腕を咄嗟に掴んだ。
俺が引き止めることがそんなに予想外だったのか、それとも思ったより腕を強く掴んじまったのか、名前は酷く驚いた顔して振り返った。
俺は一息つくと名前をまっすぐ見た。
「そうだな…俺はヒーローだから、てめぇを施設なりちゃんとした場所に行かせてやるべきなのかもな…」
「…え?」
要領を得ない俺の言葉に、賢い名前も困惑の色を浮かべていた。
そうだ。お前と一緒にいてぇのは、俺の方だ。
俺の我儘だ。
ヒーローとして、お前を救うのはこれからだ。
本心だ。
だがそれ以上に、俺の中で名前個人に対しての特別な感情は大きくなっていた。
「お前をそばに置いておきたいのは、俺がヒーローだからじゃねぇって言ったら…」
そう言ったら、お前は俺を軽蔑するだろうな。
「俺が、1人の男としてお前と一緒にいてぇって言ったら…どうする?」
それでも、今言わなくては後悔すると思った。一緒にいてぇなら尚更言わなくてはならないと思った。
名前がゆっくり目を大きく見開く。
今度はその頬が赤く染まって、それは夕日のせいだけじゃないのをじっと見つめる。
「…本気かよ」
「こんな冗談言うかよ」
掴んだその手は振り払われないままだった。
きっとすぐに振り払われちまうと思っていたのに。
名前は何か言おうと必死に頭の中で何か考えては口を開きかけて、また閉じてと、忙しない様子だった、
黙って俺はその唇の動きをただ見つめるしかできなかった。
「俺さ…っ」
「…ん?」
「俺、お前とは一緒にいちゃダメだと思った」
「おぅ」
ポツポツと話し出す名前の言葉を溢さなぬように拾う。
「俺さ、お前のこと好きみたいなんだ。だから一緒にはいられないって…思った」
「…」
自分の心臓の鼓動がやかましい。
だがそれは明らかに不快な音ではなかった。
「でもさ。お前が同じ気持ちなら…一緒にいていい理由になるよな?」
「他に何がいるんだよ」
名前がまた笑った。
堪らずその頬を撫ぜる。
「お前のこと二度と傷つけさせねぇ。お前が…命かけて正しい事をして、よかったって心の底から思えるようになってもらいてぇんだわ」
お前の笑う顔がもっと見てぇし、そういう顔させられるのは俺がいい。
だから…
「俺の側にいろよ」
名前がゆっくり俺を見上げる。
周りの音が何も聞こえなくなった。時間が止まったような、不思議な沈黙が流れた。
名前がまたゆっくり口を開こうとするのをスローモーションで見ているようだった。
お前から“YES”の言葉が出るまでのこんな僅かな時間が、こんなに焦ったいなんてな。
fin